おいしい店とのつきあい方。
七冊目

109 飲食店の新たな姿。その29
ある時代の終わり。

このシリーズをはじめたときには、
これからの飲食店との付き合い方をまとめてみよう‥‥、
という気軽な考えでスタートしました。
けれど、書けば書くほど。
考えれば考えるほど、
気が滅入ってしまって切なくなっちゃう。

飲食店を取り囲む環境も、飲食店そのものも
昔に立ち戻ることが出来ないほどに
変わってしまったんだなぁ‥‥、
としみじみ思ってため息まじりになってしまうのです。


飲食店はサービス業です。
食品製造業でもなければ、食品販売業でもない、
サービス業。
自ら仕入れ、製造し、販売する。
しかも基本的にお客様からの注文を受けて作りはじめる
受注生産。
ある程度であればお客様の好みに合わせて
カスタムメイドしていく‥‥、つまりスミズーラ(*)。
それらすべての仕事が、
ウエイター、ウエイトレスと呼ばれる人たちの
サービスを通しておこなわれる
極めて高度なサービス業。

(*編集部註:スミズーラとは
イタリアの服のオーダー方法。
お店のスタイル・技術にしたがって、
顧客がこまかな希望を伝え、
店と客とがいっしょにつくりあげるスタイル。)

そして飲食店は熾烈な競争にさらされる仕事です。
やる気とアイディア。
ある程度の資金があれば誰にでもできそうな商売で、
次々お店ができる。
参入障壁の低さはそのまま、
手仕舞いしやすいということでもあり、
たくさんできると同時にたくさん潰れる。
新陳代謝が激しい産業でもあって、
だからみんな一生懸命工夫する。

サービス産業における真っ当で自然な工夫は
「付加価値をあげる」ということ。
ひらたくいえば「サービスを良くする」ということです。
ただ寂しいことに、
飲食店がひたすらサービスを良くする努力ができ、
しかもその努力が正しく報われた時代はもう終わった。
おそらく20世紀で
終わってしまったのだろうと思います。

お店の都合とお客様の関心の変化が、
サービスを良くすることが
付加価値をあげる時代を終わらせたのだ‥‥、
ということができると思う。

まず慢性的な人手不足で
お店が働く人の教育に手間をかけることができなくなった。
本来ならば4人いないと
満足のいくサービスができないところに、
3人しか配置できなくなったりする。
少ない人数で、
それでもよいサービスをしようと努力させるから
過重労働だとかブラックだとかと言われて、
働く人から人気をなくす。
ますます働きたいという人が減って、
人手不足が加速する。

お客様の気持ちも変化しました。
よいサービスよりもより安くを好む傾向が強くなり、
濃密なサービスを疎ましいと思う風潮が顕著になった。
当然、サービスに対する対価は下落。
お店の人を悩ませる。

今ではサービスは節約されるもの。
セルフサービスのお店がどんどん増えるし、
こんなところにも券売機? 
ってびっくりするのも日常茶飯事。

節約されがちなサービスは大きく2種類。
一ヶ所は今回のテーマだった「注文をとる」という場面。
そしてもう一ヶ所は「お金を受け取る」ということで、
その両方を一度に処理してしまうのが
「券売機」という仕組み。
そのうち、テーブルの上に置かれたタブレットから注文し、
そのタブレットにクレジットカードをかざせば
決済までもすませてしまえる
「サービス節約マシン」が
当たり前に置かれる時代がくるんでしょう。

ただ果たして節約すべきサービスは
「注文をとる」ことだったのだろうか。
いやそうじゃなかったかもしれないなぁ‥‥、
という話を来週。
誰もが知る。

2019-12-05-THU

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