おいしい店とのつきあい方。
七冊目

041  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その6
焼肉屋も水を味方につける。

オーダーバイキングの焼肉屋さん。
たくさんおかわりして、好きなもので
お腹いっぱいになって帰ってほしいという気持ちで作る。
けれどその一方で、あまりたくさんおかわりされると
原価が上がった儲からなくなる。
「お客様のシアワセ」と「お店の都合」の間で、
悩んだ末に得る教訓。

「水分を味方につけよう!」

どんな水分が焼肉という料理の周りにあるのか‥‥?
数年前に「塩焼肉」というブームが来たことがありました。
ドライエージングすると肉は旨くなる‥‥、
というブームと手に手をとって
好奇心の強いお客様の気持ちを鷲掴んだ。
たしかに正しく熟成をさせた牛肉は旨い。
肉の旨味を素直にたのしもうと思えば
「塩」だけ、あるいは少々の胡椒で味わうのが
いいといえばいい。

でもそれじゃぁ、焼肉じゃなくて
ステーキを食べればいいんじゃないの‥‥。
だって、焼肉のおいしさは肉の脂と
タレが焦げて風味が整うものだからという意見もあった。
あったけれども、塩で味わう焼肉の店は増えたし、
繁盛したものでした。
ブームというものは往々にして
正論で片付かぬなにか不思議な熱狂を
よりどころとする‥‥、という典型。


そのブームの中でもオーダーバイキングの焼肉屋さんに
「塩」を売り物にした店はほとんど出なかった。
どこもが頑なに「タレ」にこだわりメニューを作る。
塩では個性が出せないけれど、
タレなら「この店ならでは」を
提案することができるというのも理由のひとつ。

ただもうひとつ、タレでなくてはいけない理由。
それは「タレは水分」だからというコト。
「味方につけたい水分」です。

まず肉にタレを揉み込んでおきます。
それを焼いてタレにくぐらせ食べると、
例えば100gの肉が110gくらいになる。
つまりタレをつけて焼く焼肉を
1割ほどの水を一緒に食べる焼肉でもある訳で、
小さなことではあるけれどこれもひとつのコストダウン。
しかも香ばしく焦げたタレはご飯をおいしくしてくれる。
お肉以外のモノが自然にお腹の中を膨らす。

最近、しゃぶしゃぶの
オーダーバイキングの店が増えています。
焼肉店からしゃぶしゃぶの店に転業する店も多い。
中には、焼肉だけじゃなく
しゃぶしゃぶも選べるオーダーバイキングの店が
できたりもしています。
しゃぶしゃぶはコストダウンにすぐれているから。
だって、焼くと自分の水分を吐き出す肉も
しゃぶしゃぶの鍋の中では水気をすって膨らんでいく。
それをひたして食べるタレも、
焼肉のタレとは比べ物にならないほどにみずみずしくて、
一説によるとしゃぶしゃぶが含む水分は
全重量の3割近くにまでなるという。
焼肉店からしゃぶしゃぶのお店に鞍替えしたくなる
気持ちもわかろうもの。
そのタレパワー以上にありがたい味方が実はもうひとつ。

オーダーバイキングのお店のほとんどは
「飲み放題」に力を入れます。


値段を気にせずアルコールやソフトドリンクが飲み放題。
焼肉をおいしく食べるためにと
薦められるとたのんでしまう。
一旦たのむと、払う金額の分だけとりかえそうと
沢山飲んでしまうのが人の性というもので、
気づけばお腹がタプンタプンなんてこともある。
特にお腹を膨らますのが「泡」。
生ビール。
ハイボール。
ソーダドリンクにシャンパン、
あるいはスパークリングワイン。
焼肉のお供にはうれしいですよね。
脂でペトペトしてしまった口や喉をスッキリさせて、
次の一枚をおいしくしてくれる‥‥、
だからありがたい存在なのだけれど、
過ぎるとお腹が膨れてしまう。
悩ましいことこの上ない組み合わせ。

オーダーバイキングではないけれど
ローストビーフがメインのバフェ‥‥、
つまり食べ放題のレストランが好きで頻繁に行く。
ちょうど誕生日月に行ったとき、
お店の人からうれしいオファー。
いつもお越しいただいているので、
お誕生日のお祝いにスパークリングワインを1本、
サービスさせていただきますがよろしければ‥‥、と。

それはうれしいともらったのはいいけれど、
お腹が膨れて、いつもように
ロースビーフまみれになることができなかった。
贅沢でたのしい食事にはなったけれど、
ローストビーフを沢山食べたいという
本来の目的を達成するにはありがた迷惑だったよね‥‥、
ってちょっと切ないバースデーディナーになっちゃった。

さて、そんなオーダーバイキング。
お店の人のお客様に喜んでもらいたいという
「サービス精神」と、でも儲けなくちゃいけないという
「工夫」がせめぎあうなやましき場所で、
ステキなお客様としてふるまうにはどうすればいいのか。

来週からのテーマです。

2018-08-16-THU

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『おいしい店とのつきあい方』

とっておきの店の常連になって
メニューにはない味を楽しむ。
これぞ、コドモには教えたくない
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そんなおいしい店との素敵な関係を
つくる秘密を、こっそり、
でも、丁寧にお教えします。
くわしくはこちらのページからどうぞ。

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