おいしい店とのつきあい方。

029 破壊と創造。その7
年を重ねてわかること。

最近、新しいお店が少なくなったよなぁ‥‥、
と思うことがあります。
新しいお店に関心を持っていないから
少なくなったように感じるのかというと、
そういうわけではないのです。

そもそも新しい飲食店が無制限に増えていくのか‥‥、
というと決してそんなことはない。
新しくできるお店もある一方で、
廃業、閉店してしまう店もあります。
ただたしかに1970年代からはじまった
「外食産業の時代」において、
店は年々、増え続けました。
けれど増えたお店のほとんどはチェーン店。
チェーン店の急成長の煽りをうけて、
なくなってしまったお店は数しれず。
例えば喫茶店なんてこの20年間で半減です。

だから、最近、新しいお店に気づかなくって‥‥、とか、
最近、新しいお店に行ってないなぁ‥‥、とか、
あまり悲しく思わないようにするのがまず第一歩。
そして発想を転換します。

「よい飲食店は常に新しい」んだ‥‥、と。

飲食店は人が働き作り上げるもの。
提供される料理も。
おもてなしやサービスも。
お店を満たす空気や雰囲気にしても、
すべて、そこで働く人がいてこそ。
つまり人が変わればお店も変わる。
人があたらしくなれば
お店もあたらしく生まれ変わるということになる。
よく人の細胞は2年半から3年で入れ替わってしまうから、
細胞という観点から見ると
ボクも3年前のボクとはまるで別の人間ということができる。
それとおんなじ。

しかも飲食店は時代の空気を吸う生き物です。
時代が変わるとそれにあわせて自らも変わっていく。
でないと生き残ることができないわけだから、
同じ店でも10年前と今では
まるで違ったお店になっている可能性は十分にある。

よく変わったお店もある。
その一方で好ましくない変わり方をした店もあるから、
それを見極めることは大変。
けれどそう考えれば、世の中には無尽蔵に
新しいお店が存在することになっちゃうのです。

最近、かつて行ってあまり好きと感じなかったお店に
思い切って行ってみて、
「案外、いい店じゃない」って感じることが多くなりました。
思い返してみれば、ボクは若いくせに背伸びして
大人仕様のお店を選んで行くことが多かった。
そんなボクも60歳。
立派に大人です。
例えば先日。
若い頃、料理はとびきりおいしかった記憶があって、
けれどお店の雰囲気が重苦しくて、
接客も冷たく感じたお店に思い切って行ってみたところ、
お店の印象がまるで違ってびっくりしました。

冷たいと感じたお店の人は、
お客様のプライバシーを阻害しない
適度な距離を保ったサービスだったんだ‥‥、とまず気づく。
この店にはじめてきたときのボクくらいの年齢の
男女のカップルが居心地悪そうに座ってて、
お店の人とのやりとりもトンチンカンだったりして、
見ていて気の毒になったりもしました。
なるほどこの店は、「昔のボク」でなく
「今のボク」が居心地良いよう出来ているんだ。
そう思って今の自分に素直にのんびりくつろぎ、食べれば、
やはり料理の味はピカイチで、
これから長い付き合いになるんだろうなぁ‥‥、
と魅力、実力を再認識したのでした。

しかも今の時期。
コロナウイルスのせいで
飲食店はどこもお客様不足に悩んでる。
かつて予約がとれないのが当たり前だったお店も、
今ではすんなり入れたりする。
お店のサービス、対応も
今までとまるで違ったものになっていることもあります。
異常事態、緊急事態とビクビクするより、
これもチャンスと思って外食するのも
決して悪いことではないと思います。

さておいしい戦いの火蓋を切っておとすとき。
かつて侵攻を試みた店。
にもかかわらずほうほうの体で逃げて帰って、
その後、自発的に忘れることを選んだお店にもう一度。
一矢報いる戦いをまずどのようにはじめましょうか。

来週です。

2020-10-15-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN