おいしい店とのつきあい方。

001 外食産業で働くということ。その1
ある切ない経験から。

外食産業は人手不足に悩んでいます。
どのくらい悩んでいるのか‥‥、というと、
業種業態、地域、お店や会社の大小問わず
日本中のありとあらゆる飲食店が巻き込まれてる。

かつては、飲食店の人手不足は競争の激しい都会だけで、
地方都市はまだ大丈夫だとか、
募集しても人がこないのは人気のない店や
ブラック企業って言われる会社のお店だけ。

‥‥、とそんなことを言われていたけど、
今では高級店であろうが、人気の店であろうが
人が思うように集まらない。

例えば、スターバックスなんて5年ほど前までは
外食産業の中でも人気のブランド。
飲食店の店頭で当たり前のように置かれていた
求人募集のチラシや看板は、
スターバックスには無縁の存在。
そう言われていたのに、ここ数年、
スターバックスの店頭にもひっそりではあるけれど
求人募集の告知が置かれるようになった。
業界丸ごと人手不足に悩まされてるというのが現状。

特に厳しいのはファストフードのチェーンストア。
セルフサービスのお店です。
スゴい勢いでお店を増やした。
人手不足が叫ばれて、チェーンストアも大変なのに
いまだに店を増やしてる。
増やせる理由がいくつかあります。
資金力がある。
店作りに対するノウハウが蓄積されているから
少ない資金で出店できる。
それにも増して、普通の飲食店が
二の足を踏むような場所へも出店することができるという、
ファストフード独特の事情が
その出店に拍車をかけているのです。

飲食店はフロアが2つ以上に別れることを嫌います。
例えば1階にキッチンがあって、
2階に客席を作るとしましょう。
料理を1階から2階に運ぶのに人手がかかる。
1階にも2階にも従業員を置かなきゃいけない上に、
互いのフロアの行き来が気軽にできないから、
暇なときでも人手を節約することがむつかしい。
人手がかかるばかりか、
出来たての料理を提供することがむつかしかったり、
お客様への気配りが行き届かなくなるから、
お客様の満足の水準が必ず下がる。

だから、いい立地なんだけどワンフロアーでは小さすぎ、
といってフロアが2つに分かれる店では出店できない‥‥、
というそういう場所でもファストフードなら出店できる。

だって、お客様がサービスします。

先払いですから、目の届かないところに
お客様がいても気にはならない。
そもそもテイクアウトが前提の業態ですから、
作って売った料理がどこで食べられようと、
我関せずというのが前提。
だから調理を作る場所と客席が離れていようが、
フロアが違ったところにあろうが
さして問題にならないのがファストフードの特徴なのです。

それでお店が増えていく。
そんなお店の一つで先日、
あぁ、飲食店の人手不足は
ここまで深刻になっちゃったんだ‥‥、
としんみりしてしまう出来事に遭遇しました。

山手線のとある駅からちょっと歩いたところにある店。
日本全国に支店をもつ、ハンバーガーのチェーン店です。

お店に入ってびっくりしました。
入り口入ってすぐのところにあるカウンター。
「いらっしゃいませ」
と出迎えられるはずのところに誰も立っていないのです。

キッチンの中で料理を作っているのかなぁ‥‥、
と思って待つも気配がまるでない。
しょうがないから「すいません」と
大きな声を出したのだけど、
うんともすんとも答えがなくて、途方にくれる。

1人で営業しているんでしょうね。
いわゆる、ワンオペというやつです。
大変だなぁ‥‥、とそれにしても、
レジ前をこれだけ長く空っぽにして心配のない
日本の治安に感心しながら、待つこと3分。

2階からおじさんの怒鳴り声が聞こえてきます。
「もう来ないからな」
と捨て台詞と一緒にかなり立腹した表情のおじさんが
階段を降りて店からでていく。

おじさんのあとを追うように階段を降りてきて、
深々と頭を下げるスタッフ。

なるほど、クレーム処理でカウンターの前を
あけざるをえない状況だったのでしょう‥‥、
色の浅黒い外国人スタッフが
悲しそうな顔をして立っていました。

そして彼。
大急ぎでカウンターに入ってボクの注文をとる姿勢。
言葉遣いが至極丁寧でしっかりしているところに
なんだか切なくなったのです。

外食産業に関係のある仕事をしているボクにとって、
さまざまな示唆にとんだ経験で、
そのとき感じたこともあわせてブログに投稿しました。
するとこんなコメントをちょうだいしたのです。

外食は底辺産業。
だから働きたいと思う人がいないのは
当然じゃないですか? ‥‥、と。

あぁ、そんなふうに飲食店、
外食産業のことを思っている人がいるんだなぁと
思い知らされて、その日一日、
何をする気もおきないくらい落ち込んだ。

そのコメントを書いた人は、
底辺にいる人たちに料理を作らせ、
底辺にいる人たちにサービスさせに
飲食店に行っていたんだろうか?

底辺にいる人たちだから
自分の言いなりにしていいんだと思って
クレームをつけるんだろうか‥‥、
と哀しいコトばかり思ってしまって、
一晩、眠れぬ夜を過ごした。

飲食店とはどういう仕事なのか。
外食産業とはどういう産業なのか。
ちょっと考えてみようかなぁ‥‥、と思ったのです。
また来週。

2017-10-26-THU