おいしい店とのつきあい方。

133 ごきげんな食いしん坊。その27
玉子サンドイッチを20人前。

ちょっと困ったことに巻き込まれてしまいました。
クラブで起こった出来事が理由のコマリゴト。
暗いところに集まって大音量の中、
踊って騒ぐクラブではなく、銀座のクラブ。
キレイなお洋服を召したおねぇさまと
紳士が語らう夜の社交場。
ご接待を仰せつかって来たのです。
20代の後半のコト。
馴染みの店があるでなく、
勝手知らずにどうしようかと困っていたら、
先輩にとあるお店を紹介された。

基本的に誰かの紹介がないと
お店のドアがあかない閉鎖的な街。
それゆえ、みんなが安心して遊べる街でもあるのですけど、
その安心を得るのにいくら? と聞いたら、
ボトルは入っているから座って2万5000円。
どんなに贅沢をしてもその倍以上はかからない。
どうあれ、その場で支払いをすることはなく、
お名刺をお預かりできますか?
そう聞かれるから名刺をわたす。
お勘定書きは後日、住所に送ってくるから
忘れず払えば、次から君の名前で予約がとれる。
何か大きな問題を起こして、店から嫌われなければ‥‥、
の話だけれど。
Good Luck! と笑顔で送り出してくれることと
あいなった。

小さな困りごとはそれであっさり解決し、
豪奢な夜の社交場にて
めでたく接待デビューを果たしたその翌日。
ボクは新たな困りごとを抱え込む。
困った、困ったと
あまりに弱り果てていたからなんでしょう‥‥、
ボクの師匠が何かあったの?と声をかけてくれたのです。

その夜の顛末を説明します。

ボクが接待役を仰せつかって銀座のクラブに行ったこと。
その店に行くのははじめて。
先輩の紹介で準備万端ではあったのだけど、
なんと接待する相手がその店の常連だった。
それはそれで「若いのにいい店を知っているね」と
親しくなれるキッカケになった。
そして接待そのものは大いに盛り上がって、
さて、お開きというときにトラブル。
この店は馴染みの店だから自分が払いたい‥‥、
とお客様がおっしゃった。
さすがにそれは申し訳ないと、
ボクは自分の名刺を席についていた
担当のホステスさんに渡そうとするのだけれど、
彼はどうにもそれを許さず不機嫌になる。
すったもんだの末に、ママを呼んでよ‥‥、と大騒ぎ。
結局、ボクの名刺は宙に浮き
どちらが払うかその場では決着つかず、
うやむやのまま一同解散ということになった。
‥‥、とそれが顛末。

これってどうなるんでしょうか‥‥、
と聞くボクに師匠が答える。

まず、お店側にシンイチロウくんが接待するから‥‥、
と予約をしたということは、
シンイチロウくんが払うということで
お店との間では了解がとれていることになる。
だから他のお客様が自分が払うとおっしゃっても
シンイチロウくんに請求書が来ることに間違いはない。
ただ、シンイチロウくんが
名刺を渡せなかったということは、
シンイチロウくんに送られてくるべき請求書は
行き先をなくす。
行き先しれずの請求書は、
シンイチロウくんをその店に紹介した人に
届けられることになって、
この場合は先輩の彼‥‥、ってことになるよねぇ。
シンイチロウくんが個人的にした接待ではなく
最終的には会社が払う出費だから、
それでめでたしめたしではあるのだけれど‥‥。

シンイチロウくんがそこで接待したという実績が
残らないのはもったいないよねぇ‥‥。

まさにそこ。
そこが悩みどころで、
ボクの名刺があの店にないということは
ボクがこれから予約の電話を入れることが
できないというコト。
頻繁に行くことはないだろうけど、
ここぞというときに名前を知ってもらっていれば
得することは間違いなく、だからどうしようかと困ってた。

名刺をもって改めて挨拶にいってらっしゃい。
予約をせず、女の子を指名せず、
カウンターに座って飲むだけならば
1万円ほどで帰してもらえる。
そのくらいなら将来の出費と思えば安いものでしょう。
カウンターのバーテンさんに
昨日は申し訳ないことになってしまって、
そのお詫びもかたがた参りました‥‥、
と言ってごらんなさい。
ママが出てくる。
昨日は名刺をお渡し損なって申し訳ありませんでした‥‥、
と謝りながら、手土産と一緒に名刺をわたす。
そもそも接待の最後に。
しかもその店の常連のお客様の目の前で名刺を出すとは、
「奢ってください」と言っているようなもの。
すべては自分の責任ですとあやまれば、
気持ちよくその夜の請求書は君のもとへとやってくる。

手土産にはこれを買ってもっていきなさい。
そういって、サラサラと紙に書いて手渡されたのは
銀座の近くにあるレストランの名前。
玉子サンドイッチを20人前と書かれてた。

銀座のクラブへの手土産が
なんで玉子サンドイッチなんだろう。
女性がよろこぶ手土産の代表と言えば
ケーキじゃないか‥‥。
例えば同じ銀座のマキシムドパリのナポレオンパイなんて、
威張りもきいていいじゃないかと思いながらも、
師匠の言葉を信じてレストランの玉子サンドを買っていく。
お店のママはその手土産を見るやニッコリ。
お若いのに勝手知った粋な方ね‥‥、
と名刺を受け取り、数日後、めでたくボクの手元に請求書。
ちなみに、お詫びに行ったときの
ボクのお代はついてなかった。
さて、その玉子サンド。
どんなサンドイッチだったか、また来週のお楽しみ。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
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「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2017-10-12-THU