おいしい店とのつきあい方。

031 破壊と創造。その9
宣戦布告を入念に。

ところで、宣戦布告をともなわない戦いのことを
どう呼ぶんだろう。
調べてみました。
いろんな解釈、いろんな答えがあるなかで
ボクが一番気に入ったのが
「宣戦布告に失敗した戦いは紛争である」という答え。

そう言えばボクも
いろんなところで紛争を起こしたなぁ‥‥。
小さなものから、戦争級の紛争までいろんないざこざ。
すべてにおいて宣戦布告の不備からはじまる
いざこざでした。
宣戦布告をしなかった。
宣戦布告が伝わらなかった。
あるいは、宣戦布告の内容が正しくなかった。

レストランの言葉にかえれば予約をし忘れた。
日にちや時間を間違えた。
そんな軽いいざこざは数しれず。
とあるいざこざをきっかけに、
お店の名前を聞くのも嫌になっちゃうような
大紛争に発展したりしたこともある。

戦いを正々堂々とはじめるために、
正しいタイミングで正しい宣戦布告をすることが
大切なんだろうと思うのですネ。

これからお店に行こうと決意する。
その決意は入念な準備を促します。
そのお店がどんな店かと情報を収集したり、
今までの自分の経験、
思い出をもとにシミュレーションをしたりする。
お店に合わせた装いを選ぶ。
この前、行ったときに食べた
あの料理にしようかなぁ‥‥。
あるいはウェブ上で人気の、
あんな料理を食べてみようか。
サービスがいいので有名らしいから、
どんなステキなもてなしを
受けることができるんだろうか‥‥、
と店に向かう道すがら、
気持ちの準備がどんどん整う。

その状態で「予約をしないで」
お店に到着したとしましょう。

宣戦布告抜きの急襲です。
そのままズケズケお店に入る。
お店の人に自分の来店を告げず、
案内もされぬままテーブルにつく。
でも自分が来たことをお店の人は気づかない。
テーブルの上も整っていなくて、
なんだ気の利かない店だなぁ‥‥、
とイライラしてくる。
お店の人がやっと気づいて近づいてくる。
あぁ、やっとか‥‥、と思うも
「お客様、そちらの席はご遠慮いただけませんか」と言う。
空いているのに、なんて生意気な店員だ。
わかった、二度とくるもんか‥‥、と店を出る。

おそらく10分もかからずこういう事態に陥ります。
紛争です。

外食をするにあたって必ず予約をしなくちゃいけない、
とは思いません。
ファストフードやファミリーレストラン。
食堂やそば、うどん屋さんのような気軽なお店は
予約をしないでふらりと行けることが
魅力のひとつでもある。
そしてそういう店には、
お客様であるボクたちも準備をほとんどせずに行きます。
ファミリーレストランが
徐々に日本全国に広がり始めた1970年代には、
ファミリーレストランに行くのに
よそ行きに着替えて行く‥‥、
なんてことが当たり前だったりしたけど、
今はそんなことはありません。

お客様が、心の準備も含めて、
さまざまな準備をして向かうお店。
だからお店側にも、
それ以上の準備の猶予をあげるべき。
それでなくては不意打ち、
つまり「フェアプレイ」ではなくなってしまう。

‥‥、とそう思うのです。

いやいや。
入り口のところで丁寧になればいいんじゃないか。
「予約はしてはいないのですが、
もし空席があればご案内いただけませんか‥‥」と、
そう告げれば失礼に当たらないのではないか。
そういう意見もあります。
なぜならお店という場所は、
いかなるときにいかなるお客様がやってきても
必要な料理とサービスをもって
もてなすことができるように
準備されていなくてはならない場所でもある、
‥‥、ということなんですネ。

けれど約束した時間にあわせて
お店のドアを開けると同時に、
支配人が目の前に立ち出迎えてくれ、
案内されたテーブルは準備万端。
ナイフフォークやワイングラスがキレイに並び、
お店の人たち全員から
「ようこそ、お待ち申し上げておりました、サカキ様」
と、匿名でなく実名で出迎えられる、
そんなステキを味わうためには、
やはり宣戦布告を入念に。
お店の人たちに戦いの準備をする余裕を
十分持ってもらえるようにと配慮すべきなのでしょう。

何しろ、レストランにおける戦いとは、
世界でもっとも優雅でスリルに満ちた戦いなのです。
たのしまなくてはもったいない。

2020-10-29-THU

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