おいしい店とのつきあい方。

002 おいしいものをちょっとだけ。その2
マクドナルドは「小腹」のため?

マクドナルドのハンバーガー。
今、どのくらいの数の商品があるんだろう‥‥、
と思って公式ウェブサイトを調べてみました。
定番商品として用意されているものだけでも18種類。
朝食メニューに季節メニュー。
夜から注文できるメニューなんかも含めると
40種類を越えた商品が用意されてて、
フレンチフライやチキンナゲットといったサイド商品、
飲み物やデザートメニューなんかも含めると
その数はちょっとしたレストランに匹敵してる。

びっくりしました。
日本に彼らがはじめてやってきたとき、
1971年に今の銀座三越の1階にお店を出したときには、
ハンバーガーにチーズバーガー、
フィレオフィッシュにビッグマック、
マックフライにマックシェイク、
それからソーダドリンク程度。
アップルパイはあったのかなぁ‥‥、
10商品ちょっとしかなかったのです。

客席がなくて立って食べる。
あるいは歩行者天国のときに車道に置かれた
パラソルと椅子に座って食べる。
どちらにしても屋外で‥‥、ということが
当時の日本では珍しく、
ちょっとしたファッションになったものです。
今で言えばタピオカミルクティーに
若い女性が行列を作るのと同じような
現象だったと言えるかもしれない。
それでみんなかっこいいと思って並び、食べ、
熱狂したのだけれど、
当時のハンバーガーは1個80円。
当時、うどん1杯の平均的な値段が100円でしたから、
それに比べても高かった。
しかもうどんなら100円で1食分がすむところ、
ハンバーガーのお供の飲み物やフレンチフライを
一緒にたのむとあっという間に200円近くまで
値段はあがって、それはすなわち
天ぷらうどん1杯分の値段を越えていってしまう。

アメリカからやってきたものだから、
しかもパテはオールビーフだから、
高くてもしょうがないか‥‥、と納得することも出来た。
それでどんどんお店は増えていった。
けれど正直、マクドナルドじゃ
お腹いっぱいにならないよなぁってずっと思ってた。
ボクが10代のときですから
飲食店を選ぶ基準はお腹いっぱいにしてくれるかどうか。
なによりアメリカ人がこんな分量で
お腹いっぱいにすることができてるんだろうかと、
すごく不思議でしょうがなかった。
だからアメリカにはじめて行くことになったとき、
目的のひとつにしたのが
「果たしてアメリカ人はマクドナルドで
お腹を満たすことができるのか」
を調べるというコトだった。

マクドナルドのハンバーガーのパテの重量は50g弱。
ハンバーガ一個の重さは110gほど。
うどんひと玉は200g弱で、
汁まで含めると400g近くがお腹の中に収まる。
それでもお腹いっぱいには物足りなかった
肥満体の少年にとって、
マクドナルドは極めて大きな謎‥‥、であったのです。

アメリカに行って外食産業の歴史に詳しい人に
マクドナルドの謎に関して質問をする。
答えは驚くべきものでした。

なんでシンイチロウはマクドナルドに
「お腹いっぱい」を求めるんだ‥‥?

そう逆質問。

そもそもマクドナルドはドライブインとしてスタートした。
車で移動をすることを日常としている営業マンは、
時間を無駄にすることなく
小腹を満たすための食事をさがしてる。
彼らに便利な場所で、駐車場を多くとって
小さな屋台のような店としてスタートしたのが
マクドナルド。

「考えてみなさいネ。
お腹いっぱいになりすぎたら、
眠たくなって安全運転に支障をきたすじゃないですか」

と、その人は言う。

それに運転しながら食事ができればなお便利。
マクドナルドのハンバーガーは
片手で食べることを前提に作り出されたサイズと重さ。
パテ以外にピクルス、チーズくらいしか具材はなくて、
こぼして指や膝を汚してしまうことがない。
むしゃむしゃ食べて気づけがお腹の中におさまり、
小腹は満ちる。
けれど絶対に満腹にすることはない。

「ハンバーガーを片付けたら
あとはしばらくフレンチフライで
運転のリズムをとりもどせばいいんだから、
マクドナルドは究極の
ドライビングミールなんじゃないか?」

それにくらべてビッグマックの面倒くさいこと。
バンズもパテも大きくて両手で持たなきゃいけないし、
挟んだレタスがバラバラ落ちる。
運転しながらあんなものを食べたら
車の中も手も膝も悲劇的な状況になる。
なんであんなのをマクドナルドは
作っちゃったんだろう‥‥、と、
ドライバーの立場になれば思ってしまう。

じゃぁ、なんで、マクドナルドは
ビッグマックを売ったんだろう。
答えは来週といたしましょう。

2020-03-26-THU

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