おいしい店とのつきあい方。

004 コロナ時代の飲食店。その1
サービスをしないサービス。

腹いっぱい売り尽くす商売。
それはいろんな人のいろんな利用動機を貪り食うこと。
それに比べて、お腹いっぱいにならないでいい、
と思ってする商売はやさしい商売‥‥、と、
そういう話を「おいしいものをちょっとだけ。」の章で
続けようと思っていました。

ただ、今の時期。
他に考えておかなくちゃいけないことがありそうで、
ちょっと脇道です。

新型コロナウイルスのせいで
お店の売上は良くて2割、
ひどいところでは7割、8割と減ってしまった。
ファストフードはテイクアウトやデリバリーで
減った売上を取り戻すことが、なんとかできている。
大手外食チェーンの中では、
負け組と言われていたケンタッキーフライドチキンが、
テイクアウトの急増で息を吹き返しているとも言われる。
それほど飲食店という密閉空間に
長時間、閉じ込められることに
抵抗を感じる人が多いのでしょう。

ラーメン店はそれほど客数が減っていないという。
それも小規模のカウンターだけの店。
カウンターなら眼の前に人が座ることがなく、
仕切りがなくともプライベートな空間のように感じる。
しかも早く提供されて、
食べたらさっさとお店を出ていくことが
できるからいいと感じる人が多くいるのでしょう。
券売機があって先払いであれば、
注文をしたりお金の授受の際に
お店の人と接触するリスクが減る。

そういえば、先日、外食の際、会計の際に
小さなトレイにお金を乗せることを求められ、
お釣りもトレイにのせてどうぞと差し出す店に出会って、
そこまで警戒するようになっているんだなぁ‥‥、
と思った。

予約をしないといけなかった
人気の高級レストランは
一番大変な存在なのかもしれません。
高級なレストランはテーブルは大きく、通路も広い。
隣の人が気になるようなことがない
ゆったりとした設えだから、
密度を気にすることはないから、
ラーメン店なんかよりずっと安全だろうと
冷静になれば思える。
けれど長時間、ひとつ空間に閉じ込められている、
ということが問題。
なにより密度の高いサービスは、
頻度の高い濃厚接触と思われてしまう。
大変です。
飲食店の人たちが一生懸命
「サービスを良くしてさしあげよう」
と努力し続けてきたことが、
みんな仇になってしまう今の状態。

地方のお店はまだ影響が少ないようで、
それでも日に日に、お客様が減ってくる。
やってみて効果のあった工夫を教えてくれませんか‥‥、
といろんなお店で働く人に聞いてみた。
たくさん戻ってきたなかに、こんな答えがありました。

地方の小さな町にある日本料理のお店でのこと。
座敷の個室がいくつかあって、
普通は会席料理を召し上がられるお客様専用で、
予約でなくては使えない席。
予約なんてほとんど入らなくなっちゃったから、
お店の前に
「お座敷個室を貸し切りでお使いいただけます」
と大きく看板を出してみた。
するとこれが案外人気で、
ほぼすべての個室がいつも埋まるようになった。

その席をお使いのお客様に多いご要望が
「お弁当のような
一度で提供が終わるような料理がいいのですけれど」
というもの。
値段は高くてもいい。
せっかくの外食だから贅沢はしたい。
でもせっかくの貸切空間に
何度もお店の人に入られては安心できない。
‥‥、というコトなんでしょうネ。
それで松花堂の弁当箱に料理を盛り込みお届けすると、
座敷の入り口に置いておいてください、
あとは私たちで配膳しますからとまでおっしゃる。

それならと、お座敷の出入り口近くに
配膳用の小さなテーブルを置いて、
そこに料理を置くことにした。
お湯やお水の入ったポットに人数分の湯呑やグラス。
おしぼりやお箸のようなものも
全部あらかじめテーブルの上に並べて置くように。
そしたら「親切で気が利いていますよね」って
評判が良くなった。

「サービスしないことがサービスになるなんて、
私たちは一体これからどうがんばればいいのか
わからなくなっちゃって、
ちょっとさみしくなりました‥‥」

はてさてこれからしばらくの間、
ボクたちはどのように飲食店と
付き合えばいいのでしょうか。
来週も続いて考えましょう。

2020-04-09-THU

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