おいしい店とのつきあい方。

006 コロナ時代の飲食店。その3
食べることで応援する。

今、飲食店の売上高って2ヶ月前と比べて
どのくらいまで下がっているんだろう‥‥、
ってちょっと考えてみました。
東京の都心でほとんどのお店が休業しはじめているから
おそらくかつての
1割程度の売上しかないのじゃないかなぁ‥‥。
郊外のレストランはかつての2割程度の売上。
テイクアウトが好調といわれる
ファストフードのような店でも
テイクアウトの売上で店内飲食の
売上分を取り返すことができることはなく、
半減以下という状況。
地方の飲食店でも良くて4割。
日本全体で考えると3割以下まで
下がってしまったと考えるのが
相当じゃないかと思うのです。

日本の飲食業の売上高は年間で大体24兆円。
その3割とすれば7兆円ちょっと。
それって1970年代の飲食業の売上とほぼ同じ。
つまり今の飲食業は
50年前に逆戻りしてしまったということになる。

50年前といえば外食産業が本格的に日本ではじまった頃。
マクドナルドが日本に上陸したばかりで、
すかいらーくやロイヤルホストのようなチェーンストアも
今のように日本全国にあったわけじゃない。

そして今。
そういうチェーンストアのほとんどが
動きを止めてしまっていて、
営業しているのは個人経営の店が中心。
つまり50年前の飲食業とほとんど同じという状態。
50年にわたる業界の努力が
一瞬にして吹っ飛んでしまったと考えると、
その衝撃の大きさをひしひしと感じてしまう。
大変な状況で、飲食店の人たちは途方に暮れて
何をすれば答えが出せない状態です。

そういうボクもお店の人たちに対して
どういうアドバイスをすればいいのか、
にわかに思いつかない状態。
お店を応援するのが仕事だったのに、
コンサルタントとして答えが出せないというのが
とてもつらくてなやましい。
そんなときには、
お客様としてお店を応援するのが一番。
ありがたいことにボクが住んでいる
四谷三丁目という町は、
もともとチェーンストアが少ない町。
荒木町という東京でも有数の、
小さいながらも個性的な個人営業の飲食店が
建ち並ぶエリアもあって、
今でも多くの店が営業している。
なじみの店もあって、
この時期に苦労しているお店の人たちを
元気づける気持ちででかけてる。

先日、お寿司屋さんに行ってみました。
数年前に出来たばかりの人気の店で、
いつもは夕方開店、日をまたいで深夜まで営業している。
赤坂や青山、六本木から至近ということもあって
夜遅くまで働くシェフが
仕事終わりに旨いものをつまみにくる店が多かった町。
この店もそういう店の1つだったんだけれど、
さすがに今は早仕舞い。
代わりに昼からずっと通しで営業をしている。

カウンターに座って
「貝をひと通りにぎっていただけますか」
‥‥、とお願いしました。
貝が好きということもあるのだけれど、
貝は鮮度が命。
しかもそれを剥き身で仕入れるのか、
殻ごと仕入れるのか。
殻ごと仕入れたとしても、
それをいつ剥くのかということを見れば
その店の姿勢を知ることができるから、
上等な寿司屋さんでは
そのように食事をはじめることが多いのだけど、
その日、お店の人が申し訳無さそうな顔をする。
そして、「つぶ貝とホタテしかご用意がないんですよ」と。
カウンターの前のショーケースを見ると、
貝だけでなくほとんどネタがない状態。
河岸に魚がないんですか‥‥、と聞くと、
売上の見込みが立たないから
仕入れることができないんですと。

なるほどそれは大変な状況。
ならばあるだけのネタを
ひと通り握ってもらいましょう‥‥、
と、結局14貫ほど握ってもらって〆としました。
一貫、小さめ。
だからお腹いっぱいになることはなく、
まぁ、最近運動不足だからこれでいいかとお店を出る。
そしてぶらぶら、人通りの少ない町を歩いていたら
お店の前でぼんやり通りを見ているおじさんと目があった。
前からちょっと気になっていたスポーツバーのご主人で、
袖振り合うも他生の縁とばかりにお店に入った。
いい店でした。
キリッと冷えたビールも旨いし、
作ってもらったおつまみ料理もおいしくて、
あぁ、いい店だなぁと良き縁を感じた。
なにより、そのひと晩で2軒のお店に
お金を落とすことができたということに
いつも以上の満足を得た。

一軒でお腹いっぱいに仕損なかったからの良縁。
たのしい出来事。
この時期しばらく、
こうした「はしご」を心がけようと思ったりした。
新しくはじまった「虫養いのたのしみ」という
本来のテーマにゆっくり戻っていきましょうかと、
また来週のおたのしみ。

2020-04-23-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN