おいしい店とのつきあい方。

041 破壊と創造。その19
ホテルで密談。

悪巧みするのに適した落ち着いたテーブルの話が、
料亭という日本が誇る業態の今につながって
2020年の連載を終えました。
そういえば、菅首相。
会食をしながら情報収集するのがスタイルで、
それが理由で随分批判されました。
オモシロイなぁ‥‥、と思ったのが、
彼は料亭を使わないのですネ。
おそらく料亭につきまとう密談だとか密室政治とかの
マイナスのイメージを嫌ってのことなんでしょうか。
代わりに好んで使われているのが
ホテルのレストランでした。

実はホテルという場所は、
密談をするに際して
料亭とは違った使い勝手のあるよい場所なんです。
料亭におけるプライバシーは
徹底的に情報をクローズすることで守られる。
予約した人しか入れない。
中を伺い見ることは外部からは絶対にできず、
目立たぬ裏口から出入りすれば
そこにいなかったことに出来もする。
誰もが透明人間になることができるのが
料亭という場所の特徴です。

一方ホテルにおけるプライバシーの守り方は
「木を隠すなら森に隠す」というやり方。

ホテルの中には客室だけでなく
さまざまな機能があります。
レストランがある。
宴会場がありバーがある。
喫茶室があったり、
当然、清潔なトイレもあって、
いろんな人が集まり行き交う。
だからもし見つかっても、
ホテルにいたということが
すなわちレストランで密談していた‥‥、
ということにはならないのです。
出口もいろんなところにあるし、
車寄せに待たせておいた車に乗って
ひと目に触れることなく退散することもできようもの。
トイレを借りていただけだから‥‥、
と、とぼけることもできるでしょうし、
いろんな意味でホテルは便利なのです。

ただ最近の宿泊特化と言われるホテル。
外資系の高級ホテルに多いのですけど、
小さなロビーにフロント、そしてレストラン。
宴会場はなく、ときにロビーにトイレすらなく、
そこにいるということは宿泊客かレストランで
食事をしたかのどちらか。
いわゆる「パブリックスペース」と呼ばれる場所を
ほとんど持たない、逃げ場のないホテルって、
宿屋であってホテルと呼べない代物かもなぁ‥‥、
って思ったりします。

さて気分一新。

悪巧みでなく
「お客様をもてなすのに適した落ち着いたテーブル」は
どんなテーブルなんだろう。

場所、ロケーションとして
実はホテルはおもてなしの場としてすぐれている。
街のランドマークになっているから
聞けばかならずたどり着く。
わからなければタクシーに乗れば確実だし、
早く着いてもロビーでのんびり時間を待てる。
ホテルの料理は万人向けを狙っているから、
パッとしないネ‥‥、とグルメの人はよく言うけれど、
お客様をもてなすということは、お食事会とは違うのです。

重要なのは「サービス」。
それも通り一遍のサービスでなく、もてなす側、
つまり「ホスト」の気持ちを受け取って、
ホストの代わりにゲストをもてなしてくれる
スタッフのいるお店がおもてなしに適したお店。
ただそういうスタッフのもてなしパワーを
思う存分享受できるテーブルとなると、
これがなかなかむつかしい。

どんなテーブルにも、
どんな部屋にも上座と下座が存在します。
そしてたいてい上座はお店の人の立ち位置の正面にある。
個室ならば入り口の反対側。
広間に置かれたテーブルならば
壁を背中に通路を眺める位置にある。
言葉を変えると、もてなす立場のホストは
サービススタッフに背中を向けた椅子が定位置。
これはちょっと困りごと。
さぁ、どうしましょう‥‥、
来週一緒に考えましょう。

2021-01-07-THU

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