おいしい店とのつきあい方。

027 破壊と創造。その5
喧嘩のような食事のあとで。

喧嘩と戦争。
違いはどこにあるんだろう‥‥、と考えました。
規模の大小。
個人のすること、国家のすること。
違いはいろいろと思いつく。
けれど戦争にあって喧嘩にないものは
「計画性」ではないかと思うのです。
なにかのきっかけで感情が爆発し、
それをきっかけにはじまるのが喧嘩。
後先考えないで、ただただ相手を負かしてやろうと
無我夢中になる行為で、
ときにその武器が拳だったり言葉だったり。
戦略なんてまるでなく、いきあたりばったりの行動だから、
没頭している最中に、一体なんで喧嘩になったのか
わからなくなってしまうこともある。
殴り合ったり言い合ったりして、気持ちが晴れれば
「今日はこんなところで勘弁してやるぜ」って
捨て台詞と一緒に、喧嘩の幕はあっさりひきます。

そういえば、喧嘩のような食事をしてしまうことがある。
お腹がすいてすいてしょうがない。
土地勘のない場所。
チェーンストアがあるような場所でもなく、
看板をたよりに店を選ぶことになる。
とにかく腹ペコ。
定食屋ならなんとかなるか‥‥、と、
店に入ってかつ丼を大盛りでたのむ。
なんの前知識もなく、だから当然、
何気なく言った大盛りとはどういう大盛りかも知らず
たのんだ大盛りかつ丼が洗面器ほどの大きさで、
丼に蓋も出来ないくらいの
どっさりご飯と頭(あたま=かつ煮)。
こりゃ、確実に卵5個は使ってるネ‥‥、と思えるサイズ。

むくむくと征服欲が頭をもたげる。
食べきってやろうじゃないの‥‥、と、
ひたすらもりもり食べていく。
おいしいか、まずいかなんて考える余裕もなく、
どうやったら完食できるだろう‥‥、と思いながら
食べ続ける。
あれっ。
ボクはただお腹が空いていただけで、
大食いチャレンジをしにきたわけじゃないのになぁ‥‥、
と我に返って大笑い。

喧嘩は勝っても負けても後味が悪いことが多い。
喧嘩みたいな食事を終えると、
なにか空虚な気持ちになってしまうことが多かったりする。
だからなるべく避けたいのが喧嘩です。

戦争は用意周到に執り行われる。
そこには5つのプロセスがある‥‥、と言われます。

危機。
準戦。
戦時。
終戦。
戦後。

で5つ。

さまざまな理由が積み重なって、
そろそろ戦争が起きるかもしれないぞ‥‥、と
危機的な状況がまず出来上がる。
準戦というのは戦争に備えての準備をすること。
情報収集を怠りなくおこなって、
兵器や武器を整え兵士を徴用したりと、
この準備の良し悪しで戦局はおおいに変わる。
そして戦争。
宣戦布告をまず行う。
宣戦布告をせず開戦するのは卑怯な行為。
いまだに日本人は宣戦布告もせず
パールハーバーを不意打ちした卑怯者‥‥、
と多くのアメリカ人は思っている。

戦争とはフェアプレイが前提の喧嘩なんだと
言うこともできるのかもしれません。

相手の資産、財産、創造物を破壊することが
戦争のメインの行為。
けれど同時に刻々と変化していく戦局の情報を収集したり、
交渉したりすることも戦争の大切な要素でもある。
そんな中から、そろそろ手打ちをいたしませんかと、
終戦に向けてのさまざまな努力がはじまる。
終戦宣言の準備です。
戦争においてはどちらか片方が
一方的に得をしたり損をしたりするわけじゃない。
互いが互いの損をなるべく少なくする努力。
そしてどちらもが必ずなんらかの形で
得するようにと交渉をする。

そこから戦後処理がはじまる。
戦争は戦い破壊することが目的でなく、
戦後、よりよい社会やよりよい生活が
一日も早くスタートできるように努力することが目的。
戦後処理の如何が
良い戦争か悪い戦争かを決めるポイント。

あれ? 
この戦争のプロセス。
レストランで食事をするプロセスにとても似ている。
レストランはおいしい戦場。
外食はおいしい戦争。
来週からのテーマとしましょう。また来週。

2020-10-01-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN