おいしい店とのつきあい方。
七冊目

116 飲食店の新たな姿。その34
同じテーブルの注文はすべて同時に?

家で、家族の朝ご飯。
その配膳はこんな具合です。

献立は卵焼きに鮭の塩焼き。
お漬物にご飯に味噌汁。
さて、それをどのように台所から食卓に運ぶでしょう?
食卓を囲む家族は
「パパ・ママ・ボク・妹」の4人とします。

卵焼きは出来上がったけど
鮭はもうしばらくグリラーの中で焼かなきゃいけない。
でももうみんな食堂に集まっていて、
パパは新聞を読んでる。
みんなお腹が空いているから
鮭が焼き上がるのを待ちながら
そろそろ食事をはじめましょう‥‥、と
まずは卵焼きが運ばれる。
お盆にのせて食卓までやってきたら
一人一人の前にお皿がおかれて、
お盆は味噌汁をとりに台所まで戻っていく。
食堂の一角におかれた炊飯器から、
炊き立てのご飯を茶碗に装い、
大きな鉢にたっぷりの漬物。
取り皿に醤油を注いで、いただきますと食事のスタート。
そうこうするうちに台所の方から、
こげるような匂いがしてきて、
ママが慌てふためいて立ち上がり、
皮が黒々焦げて仕上がった鮭をもって戻ってくる。

料理は食卓の上で整う。
これが一般的な家庭での配膳のなされ方。
料理を運ぶ順番も、料理が運ばれてくる場所も、
運んでくる人も自由で、柔軟。
料理が一度に揃わなくても問題がない配膳方法。
ただ、このやり方だと
提供すべき料理がみんな出たかどうかが確認しずらい。
このときも、ママが鮭が焦げる匂いに
気がついたからよかったものの、
食べ終わってから、あら、
料理を出すのを忘れちゃってた‥‥、
なんてことが起こって当然。

提供し忘れやオーダーミス、
あるいは作り損じの料理を提供してしまうことが
許されない飲食店では、
どこか一ヶ所で完成状態を確認することが必要となる。
そのために
「お膳にのせて確認し、お膳のまま提供する」
のが便利だったのですね。

ただ問題があって、すべての料理を同じタイミングで
作り終えなくちゃいけないという、
とても高度な調理工程を管理、
統括する能力が必要になる。
すべての料理が完成するに要する時間を計算し、
時間通りの調理を徹底するようにしても、
調理場の一ヶ所に仕事が集中してしまうことがある。
例えば刺身と天ぷらを一度にたのしむことができる定食が、
天ぷらだけが出来上がらないことで、
ずっとスタンバイの場所に放置される。
刺身はどんどん乾いていって、
出来立てを提供できないことでお客様を失望させる‥‥、
なんてことがおうおうにして起こるのです。

居酒屋は一般的なレストランに比べて
営業効率がよいといわれます。
理由のひとつは、
お酒が人件費を使わず売上を作ってくれるから。
けれどそれよりも大きいのが、
お膳で料理を出す必要がないからなんですね。
複数の料理を同時に出来上がるように気配りすることも、
仕組み作りすることも必要ない。
しかも余程のことがない限り、
料理を提供する順番を気にすることもないから、
厨房の働きがとても単純。
ただただひたすら料理を作り続ければよい‥‥、
ということになる。

同じテーブルの注文は
すべて同時に提供しなくてはならない、
という、日本で生まれたファミリーレストランが
勝手に作ったルール。
それが「サービスの水準」「従業員の教育の水準」を図る
指標のようになってしまったことと、
作業を簡単にしてやろうという業界の都合が作り出した、
お膳で運んでお膳に乗せたままに料理をのせるという習慣。
それがそろそろ見直されなくちゃいけない時代に
なっているんだ‥‥、というコトなのです。

食事の後片付けの話は、
8番目の食器の片付けのところで
再び、詳しく説明いたしましょう。
来週からは中間サービス。
今や絶滅寸前の仕事です。

2020-01-23-THU

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