おいしい店とのつきあい方。
七冊目

063 食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その28
走ることと、飲食業の共通点。

冬のこの時期。
週末にテレビをつけると必ずのように
どこかでマラソンや駅伝の大会が行われていて、
その中継が放映される。
昔、ジムで運動をすることを
日課にしていたときには走った。
有酸素運動こそが安全な大食を保証するもの‥‥、
とそれでエアロビクスやランニングを一生懸命。
とはいえ、外を走るようなことはほとんどなくて
もっぱらトレッドミルの上をひとり黙々と走るばかり。


実は走ることは大嫌いでした。
単調で同じことの繰り返し。
それでも走るということをはじめたのは、
走らないと食べることが出来ないからという義務感から。
思う存分食べるために走ったのです。
トレッドミルのコントロールパネルの数字を
こころの糧にして、
ただただひたすら。
走法の工夫なんかしませんでした。
だって、走ることなんて誰にでもできることで、
そこに特別の何かがあるとは思っていなかったから。

ところがあるとき、トレーナーのひとりが
「こうすればもっと楽に走れるようになる」
というようなアドバイスをしてくれた。
たしかにそのように走ると、体の負担が軽くなり
いつもよりも長く、そして速く走れるようになる。
なにより鏡に映る走り姿がキレイに見える。

走るということは数多いスポーツの中でも
ほぼ唯一、特別教わることがなくとも誰にでもできること。
それはあまりに日常的すぎて、
あれはスポーツじゃないよとうそぶく人もいるほどで、
けれど走り方を教わると走り方が途端に変わる。
「ただ走る」ということと
「スポーツとして走る」ということは
似ているようでまるで違ったコトだということを
そのとき学んだ。

それと同時に、走るということは
「飲食店で働くこと」に似ているな‥‥、
と思いもしました。

料理を作ることは誰にでもできる。
食卓を快適に整えたり、
できた料理をテーブルに運ぶことも誰にでもできることで、
そういう意味で「おかぁさん」と
「飲食店ではたらく人」の差は小さい。
だから飲食店で働くことなんて誰にでもできることなんだ。
飲食店なんて特別何かを学ばなくても、
やる気があれば誰にでもできる商売なんだ‥‥、
と、ほら、やる気があれば
誰でも走れるっていうのと似てる。

けれど走ることと同じように、
不特定多数の人たちをよろばせるために
一度にいくつもの料理を作る方法だとか、
いつも同じ状態でお客様をもてなすやり方を教わらないと、
商売として継続することはむつかしい。

やっぱり走ることと飲食店で働くことは
似ていると思いながら、
駅伝やマラソンをみると、羨ましいなぁ‥‥、
と思うことがある。
走る彼らを応援する人が、コースの沿道に鈴なりになって
旗を振っているのです。
「がんばって」と声をかけ、
笑顔で元気に手をふってくれる。

ちょうどこの原稿を書いているときに
箱根大学駅伝の中継がテレビで流れていたのだけれど、
苦しそうに正面を向いて必死に走る選手たちに、
果たしてあの声援は届いているんだろうか‥‥、と思った。
それで走ることが大好きで、
フルマラソンの大会に何度もでてきた友人に
応援されているコトが走っててわかるの?
励みになるの? と聞いてみた。

「わかるよ‥‥、
あぁ、走っててよかったって元気もでるよ」
と答えはとても簡単だった。

つらい坂道も応援があればがんばれるし、
自分ひとりで走っているんじゃないんだという
気持ちが励みにもなる。
走りやすいコースならいい成績がでるかというと
そうでもなくて、
いい応援をしてくれるコースのほうが
案外、成績がよくなるもんだ‥‥、って。

走るということに似ている、飲食店で働くという行為。
ならば「応援してくれる人」が入れば
もっとたのしく仕事ができるにちがいないのに‥‥、
って思った。

応援って一体どういうことなんだろう‥‥、
ということを来週考えてみようと思う。
簡単だけどむつかしい。
むつかしいけど簡単なこと。

2019-01-17-THU

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