意外なHERO!
サノ
サノは、びっくりしいである。

「びっくりしい」とは、
とにかくびっくりしやすく、
びっくりの挙動が大きい人間である。

最近いちばん情けない気持ちになったのは、
自転車置場で自転車に乗ろうとしたとき、
もう十数年の付き合いになるはずの
腕の小さなほくろを「虫」と勘違いし、
『トムとジェリー』の飛び上がり方で
飛び上がり自転車を倒したときだった。

「びっくりしい」もひとりではないと知ったのは、
これまたびっくりしいな乗組員である、
ゆーないとさんとびっくりし合った日のことである。
サノが入社して間もないころ、
サノの後ろをそーっと通ろうとしたゆーないとさんに
びっくりしてトムジェリを発動してしまったサノに、
これまたとんでもなくびっくりしたゆーないとさんが、
びっくりしすぎて床にへたり込んでいた。
サノはびっくりすると、基本「上」に飛び上がる。
ゆーないとさんはびっくりすると、「下」に行く。
いろんな意味でびっくりしいの世界の広さを
教えてくれたゆーないとさんは、
サノのびっくりしいのお師匠である。

さて、一見情けなくも見える、我々「びっくりしい」。
じつは普段の姿からはおよそ想像もつかないであろう、
マジでかっこいい一面を持っている。
サンプルはゆーないとさんとサノのふたりだけだが、
サノはそう仮説を持っている。

びっくりしいは、「ピンチにはびっくりしない」のである。

生活のたのしみ展2025で、
サノは「ほぼ日のおちつけ」のお店を担当していた。
運営をするなかでたびたび問題が発生し、
エリアの責任者であるゆーないとさんに、
何度も相談をしに行っていた。
「びっくりしい」なイメージのあるゆーないとさんだが、
このときは一切動揺する様子がなかった。
「ああ、そうだよねえ」と言ってゆったり思考を巡らせ、
「じゃあ、こうしてみる?」とアイデアを出す。
ゆーないとさんのアイデアで問題は次々解決していき、
ピンチがチャンスにひっくり返り、
課題だらけだったお店が、たちまち盛り上がっていく。

このモーレツにかっこいいギャップを見たとき、
「うわあ、俺もこうなりたい」と思ったのと同時に、
「あれ、そういえば‥‥」と思ったのだ。

小学5年生のとき。少年野球の帰り道、
チームメイトとふたり自転車を走らせていると、
通りかかった民家の2階の窓が突然吹き飛んで割れ、
中から轟々と火が噴き出してきた。
いわゆるバックドラフトである。
サノは通路に自転車を止めるよう友達に促すと、
自分とは反対側の道に行き大人を呼んでくるように伝えた。
二手に分かれ「119」に連絡できる大人を探しにいったのだ。
その後無事大人を見つけ、
消防車が駆けつけたのを見届けて、ぼくは友人と帰った。
翌日学校の全校集会で、校長先生が
「火災を通報した背番号7番と15番の少年」の話を
していたが、ぼくらは面倒くさくて名乗り出なかった。
あの日のサノは、マジでかっこよかったのである。

また6年生のとき、
高学年が低学年を大公園に連れていく二学年遠足で、
3年生の男の子が迷子になったことがあった。
先生たちが広場に生徒全員を集合させたとき、
サノは広場から見える浅い水路の向こう側で
まさにいま倒れ込もうとしている男の子を見つけると、
(腹痛でトイレを探していたそうだ)
広場を飛び出し水路を飛び越え男の子のもとに駆けつけた。
少年に肩を貸し広場まで戻るあの日のサノは、
さすがにトム・クルーズであった。

めぼしい武勇伝が小学生時代ばかりで猛烈に恥ずかしいが、
一応妻もサノのトム・クルーズとしての一面を知っている。
サンフランシスコの空港でチケットをなくしたときや、
ニューヨークのイエローキャブドライバーに
「fxxkin' Japanese!」と叫ばれているとき、
なぜか車両に自分たちしかいないブルックリン行きの
地下鉄が車庫のような場所に入ってしまったとき‥‥
普段は皿洗い中に話しかけただけでトムジェリと化す男が、
腹が立つほど真顔で、
「だいじょうぶ、いったん落ち着こう」と言ってくるのだ。
大人時代の武勇伝がアメリカにいるときの話ばかりで、
ますますトム・クルーズな気分になってきた。

世のびっくりしいのみなさん、いかがだろうか。
ご自身の中に、トム・クルーズはいないだろうか。
どうにもできない自分の恥ずかしい個性のなかに、
意外な「HERO」が隠れてやしないだろうか。
「なんでこんなかなあ」と思うような自分の個性が時折、
素敵な出来事の「前フリ」になっていないだろうか。
こうして考えてみると、情けない自分の個性にもなんだか
ちょっと、居場所を与えてやれそうな気もしてくる。

ということで、いつの日かゆーないとさんのように、
トム・クルーズ(サノ)がほぼ日のピンチを救う瞬間も、
やってくるかもしれない‥‥と思いながら、
今日もサノは、びっくりしいで生きていこうと思う。
そして俺は知っている。
こういうことを書いてしまうと、たいていそうはならない。
ほぼ日のサノは、絶対にテンパって終わりである。
今日の一枚
サノにとってびっくりしいの師匠であり、ヒーローである、ゆーないとさんのYouTube番組『馬に逢いましょう』。いつか時代劇で馬に乗る夢のため、奮闘中です。2歳の娘が好きな番組のひとつです。

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