
100歳まで元気に生きられるなら、
100歳まで働いていたいと思っていました。
わたしの周りの働いている先輩たちが、
かっこよかったからです。
でも益田由美さんに出会って、
その考えは揺らいでいます。
定年後の充実した日々も、
自分次第でたぐりよせられるようです。
日々たのしそうな益田さんにお話を伺いました。
担当は、ほぼ日の下尾(しもー)です。
益田由美(ますだ ゆみ)
1955年2月11日生まれ。1981年から15年も続いた国民的人気番組「なるほど!ザ・ワールド」のリポーターとして6年半、世界を飛び回り、その体を張ったリポートで人気を博した。民放の女性アナウンサーとして定年まで勤め上げるのは非常に珍しく、フジテレビでは女性アナウンサーの定年退職者第一号。約40年にわたって現場にこだわり続けた。現在、経験と知識を活かして様々な分野で活躍中。
HP:https://www.firstagent.jp/masuda-yumi/
Instagram:https://www.instagram.com/yumi__masuda/
- ──
- テレビ局をご退職されてから約10年。
最近では、Instagramも始められて、
たくさんの写真をあげていらっしゃいます。
- 益田
- 手とり足とり教えてもらって、
やっと、できるようになったんです。
なんでも、チャレンジだなと思います。
少しずつですが、
自分がつくった手作りのものをアップしています。 - 母に聞くと、小学校にあがる前から
ミシンを踏んでいたみたいです。
お人形さんの洋服とか。
- ──
- そんなに小さな頃から!
- 益田
- 洋裁から始まって、編み物や籠づくり、
今は帆布で、こんなトートバッグも作っています。
この赤いバッグは還暦を迎える友人たちに
イニシャルのタグを縫いつけてプレゼントしています。
自分は由美なので、これはYのタグ。
- 益田
- 家庭用と、職業用と、ロックミシンの3台を
使い分けて、いろいろなものを作っています。
ロックミシンは、ニット地とか、
カットソーのような伸びる生地を縫うのに適しています。
これは18色編み込んだセーターです。
こういうものも作っています。
- ──
- うわあ、すてきですね。
これ、買ったんじゃなくて、作られているんですね。
今着ているボーダーの服もそうですか?
- 益田
- そうそう。色違いで作っています。
このフードつきジャケットも手作りです。
- 益田
- 陶芸も始めました。
陶芸家のところに習いに行って、
手回しろくろで、手びねりで、つくっています。
自由に回せるので、私には、ちょうどいいです。
これは片口なんですけれども。
- ──
- 習いに行かれてから、どのくらい経ちましたか?
- 益田
- 2年くらいです。
芸術作品は作らずに、
全部日々使えるものを作っています。
自分が作った器で、お料理をいただくと、
すごくうれしいし、お惣菜を買ってきたとしても、
その器に盛ると、見栄えがよい気がします。
食卓に自分の作った器ばかり並んでいると、
ちょっとニンマリしちゃいます。
それもちっちゃな「しあわせ」ね。 - そうそう、デッサンも、始めました。
- ──
- どのくらい描かれているんですか?
- 益田
- 3年くらいかな。
最初にスケッチブックを前にしたときは、
どうしていいかわからなくて。
だって平面に立体を描くんですから。
何度も何度も描いていくうちに、
物って光と影で構成されていて、
それで立体に見えるんだなと気づきました。
自分にとっては、すごくおもしろい発見で、
そこからモチーフを
よ〜く見るようになっていきました。 - 見ようとしないと見えて来ないんですね。
同じ暗いところでも、明るい暗さと暗い暗さと、
その中間があることをわかるようになっていくと、
本当におもしろいなあと思ってね。
- ──
- うまくなるために
必要なことってなんだと思いますか。
- 益田
- 私にとっては、諦めないことですかね。
デッサンは、何度も描いては
練り消しゴムで消し、描いては消す。
説明するのはとてもむずかしいんですが、
思い込みで描くと、
バランスの悪い変な絵になってしまうんです。
それがやっと少しずつわかるようになってきました。
デッサンも、いつも、新しい発見があります。
- ──
- 益田さんのお話を聞いていると
何歳からでも新しいことに
挑戦していいんだなと思えました。
- 益田
- そう思います。
私は陶芸もデッサンも65歳を過ぎてからです。
最近だと韓国語も独学で始めました。
この歳で、BTSと韓国のドラマに、ハマったんですよ。
韓国語がわかったら、
もっとたのしいだろうなあと思って。 - でも全然上達しないし、ドラマを見ても、
本当にわからないんですけど、
たまに字幕じゃなくて
彼らが言っていることがわかると、
すっごくうれしくて。 - 心が折れることも、しょっちゅうあります。
参考書の新しいページを勉強していて、
最後のほうに鉛筆で書きこみがあったんです。
前日に、そのページを勉強して書き込んだようですが、
それを100%覚えていない。
- ──
- 全く!?
- 益田
- ええ。記憶力はびっくりするほど衰えました。
すっごく落ち込みますが、打ちのめされはしません。
1回でダメなら2回、2回でダメなら3回、
3回でダメなら5回、5回でダメなら10回、
同じところを復習しようっていうふうに
思えるようになりました。
自由になる時間は、たっぷりあるので。
- ──
- いいですね。
- 益田
- ですから、復習ばっかりなんです、今。
でも、ついこの間まで、全くわからなかったことが、
ちょっとだけど、わかるようになる、
それだけでも人生が豊かになるような気がするんです。
- ──
- 益田さんの趣味は、
根気がいるものが多いような気がします。
- 益田
- 好きなことには根気があるかもしれないです。
とはいえ、年と共に気力がなくなってるのは確か。
気力と集中力がね。 - 昔は、編み込みのセータ―でも、
昼夜忘れて4〜5日で編んだりしていましたが、
今は全然できなくなりました。
本当はパーッと一気に編んだほうが、
編み目がきれいに揃うんですけど。
それはそれで、いいと思うようになりました。 - 自分の年はちゃんと自覚しようと。
70歳であることは忘れないようにしています。
マイナスに考えないで、自分は70なんだから、
やっぱり40、50の元気なころとは違うから、
それは、きちんと頭に入れて、
いろいろなことをしようと。
- ──
- インドア派かと思いきや、スポーツもしますよね?
- 益田
- スキーも再開したの、68歳から。
もともと、すごくスキーが好きだったのに、
『なるほど!ザ・ワールド』が始まる26歳のときに、
骨折をして番組に迷惑をかけないように、
スキー断ちをしちゃったんです。だから、42年ぶり!
- ──
- 久しぶりでしたが、できましたか?
- 益田
- なんとか、すべれました。
ただやっぱりね、体力は衰えましたね。
友人たちは夕方まですべりますが、
私は午前中だけすべって、
午後はゆっくり温泉に入って、のんびりします。
無理はしません。
- ──
- 歳を重ねたことで、
違うたのしみ方が増えていいですね。
- 益田
- そうはいっても腰痛との付き合いは40年以上で、
数年前には、横断歩道を1回で渡れなかったほど、
ひどかったこともあります。
今は落ち着いているので、
この状態をキープできるように、
日々身体には気をつけています。
筋肉が衰えないようにテニスもやっています。
- ──
- テニスは何歳から始めたんですか。
- 益田
- 大学のころ、ちょっとやっていたんですが、
ずーっとやっていなくて、数年前から始めました。
- ──
- 何にでも挑戦されていますね。
- 益田
- かもしれないですね。
この間も弓を体験できるというので、行ってきたんです。
木の床が、すごく冷たくて持病の腰に悪いので、
続けることは諦めましたが、
ずっとやってみたかったことを
体験できて、たのしかったです。
- ──
- いつも新しいことに
挑戦されている気がするんですけど、
その新しいたのしそうなことは、
どうやってみつけているんですか?
- 益田
- なんかたのしそうだぞと思った瞬間に、
とりあえず、やってみるってことですかね。
ダメだったらやめればいいし。
- ──
- かっこいいです。私は元気だったら、
ずっと死ぬまで働いていたいと思っていたんですが、
定年後も、こんなに日々、好きなことを見つけて、
たのしんで過ごしてる方がいるということは、
すごく新しい指標になりました。
- 益田
- やりたいことをやる、
やりたくないことはやらないっていうのが
ベースにあるかもしれないですね。
- ──
- 同世代で何かに挑戦したいけど、
見つからないという方に伝えたいことはありますか?
- 益田
- 遅いということはないと思うので、
先が長くない分、やりたいことはすぐやる。
思い立ったが吉日で、
「あ、これやってみたいな」と思ったら、
重い腰を上げて踏み出したらどうかなあって。 - だんだんと身体も利かなくなってくるけれども、
やりたいことを思い切ってやってみるっていうのは、
すてきなことだと思います。
- ──
- 最後に、これからどんなふうに生きていきたいですか。
- 益田
- このまんま。
日々たのしみながら生きていきたいです。
(おわります)
2025-08-15-FRI
-
ヘアメイク:真知子(エムドルフィン)
写真=武井義明(ほぼ日)