100歳まで元気に生きられるなら、
100歳まで働いていたいと思っていました。
わたしの周りの働いている先輩たちが、
かっこよかったからです。
でも益田由美さんに出会って、
その考えは揺らいでいます。
定年後の充実した日々も、
自分次第でたぐりよせられるようです。
日々たのしそうな益田さんにお話を伺いました。
担当は、ほぼ日の下尾(しもー)です。

>益田由美さんプロフィール

益田由美(ますだ ゆみ)

1955年2月11日生まれ。1981年から15年も続いた国民的人気番組「なるほど!ザ・ワールド」のリポーターとして6年半、世界を飛び回り、その体を張ったリポートで人気を博した。民放の女性アナウンサーとして定年まで勤め上げるのは非常に珍しく、フジテレビでは女性アナウンサーの定年退職者第一号。約40年にわたって現場にこだわり続けた。現在、経験と知識を活かして様々な分野で活躍中。

HP:https://www.firstagent.jp/masuda-yumi/
Instagram:https://www.instagram.com/yumi__masuda/

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第4回 見ようとしないと見えないもの

──
あらゆるロケをされてきたと思いますが、
日本全国すべて行かれたんですか?
益田
47都道府県、全部行ってます。
『リバーウォッチング』に関して言うと、
延べ230河川。同じ川にも行っていますけど。
パリのセーヌ川にも行ったんですよ。
──
川つながりで海外まで!?
益田
カナダにもサケを取材に行ったし、
ニュージーランドの川にも行きました。
──
すごいですね。
益田さんのように、自分の道を獲得しながら、
仕事をたのしむには、どうしたらいいんでしょうか。
益田
なんでしょうね、
たのしむっていうふうに考えないで、
自然にやっていたら、たのしいっていうのかな。
たのしむために何かするってことじゃなくて、
今やってることが、気がついたら、
すごくたのしいっていう感じなのかなあ。
本当にありがたいことに、
大好きな人たちに囲まれて仕事をしているんだ
ということに、ハッと気がつくような感じ。
例えば『リバーウォッチング』を始めて、
すぐのときに、岩手県の和賀川に行ったんです。
その日は、ものすごくいい天気でしたが、
前日はちょっと雨が降っていたんです。
現地の方に案内していただきながら、
上流を目指して歩いていたら、
その方が「由美さん、あのクモの巣を見て」って。
クモの巣なんて、小っちゃいころから
たくさん見てるし、何を言ってるのかなと思ったら、
前日の雨粒が、きれいにかかったクモの巣に残っていて、
それが逆光から見たら、
キラキラ光って、まるでクリスタルみたいで、
なんて美しいんだろうって、
しばらく見とれてしまいました。

──
わあ〜。
益田
そして、そのあとチョロチョロと流れ落ちる
滝の裏側に入って行くとき、
太陽の光で足元に丸い虹が出たんです。
歩くたびに、その虹が私についてくるわけ。
もうキャッキャキャッキャ言っちゃって。
滝のしぶきと、太陽の角度だったんでしょうね。
そんなの生まれて初めてで。
まん丸の虹がついてくるってすごいでしょ。
それに裏から見た滝も、逆光で
水の一粒一粒の飛び散り方が、
またとってもきれいだったんです。
──
なんだか、夢のような光景ですね。
益田
この人は、なんて美しいものを
私にたくさん見せてくれるんだろう
と思ったんですが、
もしかしたらこれは、見ようと思ったら
今までも見ることの出来た
何気ない光景のひとコマだったのではと。
私は見ようとしていなかったから、
見逃していただけなのかもしれないということに、
そのとき、ハッと気がつきました。
今でも、その方は恩人だと思って感謝しています。
それからは自分から積極的に見ようとするので、
あっちから飛び込んでくるようになって、
ロケがもっとたのしくなりました。
そして今までは、魚を見つけても、
ただ魚が泳いでいるなという感じでしたが、
なんの魚か、知りたくなって。
イワナ、ヤマメ、アマゴ、カマツカ、オイカワ、
ボウズハゼ、シマドジョウ、ホトケドジョウ、
カジカ、アユカケみたいな感じで、
見分けられるようになりました。
──
魚についても勉強されたんですか?
益田
学校の勉強と違って、
自分が知りたいと思ったことは覚えるものなんですね。
魚や鳥など、今まで知らなかったものを知り、
そして識別できるというのは、本当にたのしいです。
いろいろなことに対する興味が深まったし、
発見して興奮して感動することの繰り返し。
それは日常でも、
いくらでもあることで見ようとすれば見える、
見ようとしなければ全く見えない。
会社でも閉まっているブラインドを指でちょっと広げて、
外の夕日を私だけ、よく見ていました。
夕日が都会のビルを照らしてめちゃくちゃきれいなんです。
どうしてみんな見ないんだろうって。
きっと周りからは
変なおばさんだと思われていたでしょうが、
すっごく得した気分で
「こんな光景を見られて最高だな」って思っていました。

──
そうやって日々のしあわせに気づけることは、
人生を豊かにしてくれる気がします。
益田
私、ロケでお世話になった方々に
年賀状を書き続けていたんです。
1000人を超える方々に出していました。
その中でも思い出深い話ですが、
1995年に富山県の黒部川の
とある小学校に取材に行きました。
先生が課外授業で
フライフィッシングの教室をやっていて、
そこに中学生だったヒロシくんが来ていました。
その先生にも毎年、年賀状を出し続けていて、
2006年に先生から返ってきたのが左上の年賀状です。

益田
『リバーウォッチング』が終わったときに、
ディレクターが
「由美さんしかしてこなかったことだから、
この年賀状をたよりに、
先生とヒロシくんに会いに行こうよ。」
と言ってくれて、
新たに『なるほど!ザ・ニッポン』
という番組をつくったんです。
私は今のふたりについては
知らされず現地に着きました。
「◯◯先生いらっしゃいますか?」というと、
「◯◯教頭ですか?」と言われてびっくりしたり、
子どもだったヒロシくんが車を運転してきて驚いたり。
そのヒロシくんから「先生になりました」と言われて、
本当に感動したことを覚えています。
長く番組をやっていたからこそ、できたご縁でした。
「あのとき中学生だったヒロシくんが、
社会人になる年齢になりました。
川は同じように流れています。」
というようなナレーションで番組が始まった気がします。
──
そのナレーションだけで、涙が出そうです。
お仕事の話をたっぷり聞かせていただきましたが、
プライベートについてもお伺いしたいです。
ご結婚されたのが39歳のとき?
ちょうど企画が通って、
バリバリ働いていた時期なんですね。
益田
私、本当に非常識な会社員なんですが、
長いこと地方に住んでいるんです。
日本中に出張ばかりしていて、
会社には事務処理やナレーション録りくらいしか、
行かなかったので出来たことでした。
──
前例はあったんですか?
益田
なかったです。
ダメ元で、人事に聞いてみたら、
会社の規約には、特に書いていないからとOKが出て。
ちょっと都心から離れた自然豊かなところで、
毎日が『晴れたらイイねッ!』みたいな感じです。
最近、歳をとったからか、
自然豊かなところで暮らしていることで、
不便もあるけれども、
すごく感謝の気持ちでいっぱいなんです。
例えば季節の変わり目、
春先に山が、ちょっとピンク色になったときは
「ああ、春もみじの季節だなあ。美しいなあ」。
ゴールデンウィークぐらいに、
わあっと若い葉っぱが日に日に、ひらいてくると、
山からブワーッとパワーをもらう感じがするし。
その度に「ああ、すばらしいなあ、ありがたいな。」
と思います。
──
心のゆとりを得るために行かれたんですか?
益田
いいえ。住みたいところが、そこだっただけ。
「なんかゆとりがあっていい生活かも」というのは、
あとから気がつきました。
──
基本的に益田さんは行動が先なんですね。
益田
そうそうそうそう、
ですから、失敗することが、すごく多いんです。
でも自分が判断して決断しているので、
人のせいにできないし、結局は納得できる。
だから無駄なことはひとつもなかったです。

──
いろんな企画を思いついて形にすることは
もともと好きだったんですか。
益田
いや、初めて企画を出そうと思ったのは、
仕事が来なくなったことが理由です。
さっきちょっとスルーしちゃったんですが、
復帰してしばらくして番組に呼ばれなくなったのは、
私が言ったことに、カチンときた偉い人がいて、
「益田を使うな」となったんだそうです。
──
えー!?
益田
そういう時代だったんです。
今では信じられないことですよね。
ただ、あのまま番組を続けていたら、
待っているだけのアナウンサーだったかもしれないです。
そういう状況だったからこそ、
自分が「今どうすればいいか」を考えられたと思います。
仕事が来ないんだったら、
ダメ元で企画を出してみようと。
志高く始めたわけではなかったです。
──
自分の道を切り開くために企画を出した?
益田
宝くじだって買わないと当たらないから、
企画書も出さないと絶対通らないですものね。
そう考えると、あのとき
企画書を書いてみようと思ったわけですから、
あの人のおかげかもしれないですね。
自分で番組を作れるようになったからこそ、
アナウンサーのまま定年を迎えられたと思っています。

(つづきます)

2025-08-14-THU

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  • ヘアメイク:真知子(エムドルフィン)
    写真=武井義明(ほぼ日)