災害が起こったとき、
私たちはどんな選択を迫られるのでしょうか。
ほぼ日乗組員9人で、
防災研究者の廣井悠先生等が開発した
「KUG(帰宅困難者支援施設運営ゲーム)」に取り組み、
災害時の行動を具体的に想像してみました。
帰宅困難者による混乱を生まないため、できるだけ
社内に人を滞留させることを第一に考えましたが、
いざ引き留めようとするとさまざまな難しさが明らかに。
強制力のある結論を出すものではないので、
ひとつの例として、乗組員たちの決断を
追っていただけたらうれしいです。
それでは、ゲームスタート!


大都市防災研究者、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメント㈱が共同開発した、
帰宅困難者を受け入れ・滞留させる施設のための
図上訓練キットです。
架空の事業所のBCP要員(緊急事態発生時に、
事業継続を担うために指定された職員)として、
起こったトラブルへの対応を決めていきます。
今回は「都市で日中に地震が起こった」
という設定で取り組みました。
また、ファシリテーターとして、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメントの宮田桜子さんに
進行いただきました。

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【第7回】  発災から4日目の08:00~振り返り

地震発生から4日目に入りました
(今回のKUGでは、
3日目のシミュレーションは省略いたしました)。
これからの生活や仕事について方針を考えます。
最後は、このたびのKUGを振り返りました。

イベント⑬〈発災から4日目の08:00〉
朝になりました。
自治体が一斉帰宅抑制を要請している
「3日間」は過ぎました。
きょうは、暖かく穏やかな1日となる見込みです。
非被災地からの応援が続々と到着し、
代替移動手段が確保されました。
地元自治体から、代替手段を用いて帰宅できるので、
企業内滞留の要請を解除する旨の発表がありました。
今後の対策本部の活動方針を確認したら、
ゲームは終了です。


 
かのう
この事業所がほぼ日だった場合、災害のあいだ、
サイト上での発信はどうなるのでしょうか。
あやや
地震発生直後からいままで、
毎日なにかしらの発信はしていると思う。
本人から帰宅の希望があった人は帰宅OKとして、
事業継続のために残ったほうがいい人を
決めておきたいね。
やまと
「誰が残るか」を、
帰宅抑制要請が解除される前に
決めておいたらスムーズですね。
あとは、自宅のある地域より
会社のほうが安全な人や、
家に帰ったらひとりになってしまって不安な人は、
残りたいかもしれない。
宮田さん
社内に残る場合の注意点です。
発災から60時間以上経っているので、
非常用発電機はもう使えなくなっています。
つまり、このビルは完全に電気が通っていません。
のなか
それなら、なるべく全員帰ったほうがいいですね。
備蓄品にも限りがあるし‥‥。
あやや
基本的には帰宅として、
残りたい人や、ほぼ日としての情報発信のために
残って仕事をするべき人は残る、
という方針になるね。
のなか
たとえば、どんな仕事を担当する人が
残るでしょうか。
あやや
なるべくオンラインではなく、
会社で方針決定をして
すぐに動かなければいけない、役員などかな。
サイトの更新など、最低限、
ほぼ日としてやらなければならないことを
決めておいて、
その担当者に残ってもらえるといいよね。
どうしても残れない場合も、
できるだけ早く連絡がつくようにして。
方針
基本的には帰宅。
どうしても欠かせない仕事がある人のみ、
社内に残るか、
すぐに会社に来られるところにいてもらう。

 
ゆーないと
よかったぁ~。
とはいえ、全員一気に帰ったら危ないよね。
やすな
歩ける距離に家がある人は
歩いて帰ってもらうとして、
家が遠い人からバスなどに乗せていくのがいいかな。
しもー
「誰から、どういう順番で帰していくか」を、
もっと早い段階で決めておけば、
すぐ帰れたかも。
いしざわ
滞留要請期間は過ぎているから、
もう一斉に帰っても
大きな問題は起こらないフェーズかもしれない。
ここは、細かく帰る順番を決めるより、
「帰った先での行動方針」を
みんなで共有してから帰るのがいいんじゃないかな。
やすな
なるほど。
「自宅に着いたら会社に連絡する」などですね。
いしざわ
うんうん。
あと、一般社員の対応方針と、
我々BCP要員の対応方針は、
それぞれ考える必要があると思う。
ネット状況がわからないから、
どれくらい在宅で勤務できるか不明なうちは、
社内に残って事業を継続する人がいるべきだね。
ゆーないと
大規模火災が起こった
みなみもり市の木造住宅密集地付近に
自宅がある人は、帰っても家が燃えてしまっている
可能性がありますよね。
その場合は、社内に残る選択も
できたほうがいいから、
何人かは残る前提で考えよう。
宮田さん
社内に残る場合の注意点です。
発災から60時間以上経っているので、
非常用発電機はもう使えなくなっています。
つまり、このビルは完全に電気が通っていません。
いしざわ
そうか‥‥。
だとしたら、自宅が被災している人は、
地元の自治体の避難所に
移ってもらったほうがいいか。
BCP要員だけ、事業の継続のために残ろう。
やすな
電気が止まっているなかで、
会社に留まって事業を継続するのは
負担が大きいのではないでしょうか。
いしざわ
それもそうだね。
BCP要員のなかでローテーションを組んで、
交代しながら事業を続けていこう。
方針
帰宅後の行動方針を固めてから一斉に帰る。
BCP要員は、事業継続のため交代で社内に残る。

 
宮田さん
みなさん、おつかれさまでした。
振り返りの前に、一点、質問させてください。
今回発生した災害について、
外出中の社長に報告した人はいますか? 
一同
あ‥‥(ざわざわ‥‥)。
ゆーないと
一度もしてないね。
あやや
こっちのチームも、一度もしてない。
宮田さん
KUGは、起こったイベントに対応していく
受け身型のゲームなので、
「イベントのなかで示されていない対応」が
漏れてしまいがちなんです。
こまめにマニュアルを参照して、
発災後の基本的な流れを確認
してみてくださいね。
一同
はい! 
宮田さん
では、振り返りに入っていきましょう。
①対応が難しかったイベント
②KUG内のイベントにはなかったが、
災害時、ほぼ日で発生しそうなイベントや課題
③今後、必要な対策トップ3
この3つのテーマに沿って、
今回のKUGを振り返ってみてください。

①対応が難しかったイベント
1.命に関わる問題(持病、感染症発症など)
2.衛生関係(トイレ問題、下水逆流)
3.インフラ(電源の確保)



持病がある方は、
同じ病気を持つ人々の互助会に入っておくと、
災害時のマニュアルや対応方針を
知ることができるので、ぜひ活用してください。

②KUG内のイベントにはなかったが、
災害時、ほぼ日で発生しそうなイベントや課題
・社会に向けてなにを発信するかの判断を迫られる。

③今後、必要な対策
・「家族や家が心配だから帰りたい」
という訴えに対し、
情に流されそうになっても、
みんなが方針を知っていれば
引き止めることができるので、
事前に帰宅方針を決めて社内に周知する。
・社員の健康面のリスクをヒアリングして
把握しておき、持病がある社員には、
薬を数日分多く持っておくことなどを
呼びかけておく。
・毎日発信をしなければならないので、
停電したとしても電源がもつようにする。

①対応が難しかったイベント
1.トイレ問題
2.遠方の家族と連絡がとれない

②KUG内のイベントにはなかったが、
災害時、ほぼ日で発生しそうなイベントや課題
・建物が古いので使えなくなるかもしれない。
・イベントのお客さまやTOBICHI(店舗)
のお客さまをどのように受け入れるか、
対応を考える必要がある。

③今後、必要な対策
・トイレ問題対策。
水のうや、災害用簡易トイレを備える。
・充電、蓄電のため、モバイルバッテリーや
ソーラーバッテリーを準備しておく。
・医療機関や避難場所について、
自分たちのいる場所のローカルな情報を知っておく。
それらの情報をまとめた防災ハンドブックをつくり、
社内に共有する。
・災害時の連絡手段を、家庭内で話し合っておく。

ゆーないと
なにもかも、足りなかったよね。
いしざわ
物資も、判断の基準も足りなかった。
本当に災害が起こったときに、
不公平な判断をしてしまわないよう、
基準は早めに決めておこう。
やすな
基準は、あらかじめ少し厳しく決めておいたほうが、
実際の災害時に融通がききますね。
しもー
決めたことは、避難訓練のときだけじゃなくて、
なにもない日に周知したほうが
みんなの記憶に残りそう。
かとう
糖尿病の薬が切れてしまった人への対応など、
命に関係する判断が、やっぱり、
いちばん難しかったです。
本当の災害時にトラブルにならないよう、
どんな判断基準で動くのか、
社内に周知することが必要ですね。
あやや
「そのうちやればいい」と思ってしまいそうだけど、
あした災害が起こる可能性もあるから、
できるだけ早く周知したいです。
やまと
家族の安否がわかるかわからないかで、
行動が大きく変わってくるから、
自分の安否確認の手段を
把握しておくことも大事だね。
とくに、子どもはスマホを
持っていない場合もあるから、
保育園や学校に災害時の安否確認方法を、
事前に聞いておく必要があるなと思ったよ。
のなか
会社や自宅近くの医療機関の情報を
どう入手するかについても、
事前に知っておくのと知らないのとで、
安心感がまったく違いますね。
あやや
それから、
命に関わることや衛生問題に対応したうえで、
会社の継続についても考えないといけない。
災害時は「限られた電気を使ってなにを発信するか」
の選択を迫られるから、
ほぼ日がメディアとしてのあり方を
問われるときでもあるんだね。
最後に、廣井先生から講評をいただきました。
廣井先生
今回は「地震が起きたあと会社に留まってください」
とお願いしてからゲームを始めましたが、
実際に留まるにはいろいろな困難があると
実感していただけたと思います。
「あれをやっておけばよかったな」という声が
多く出たとおり、
災害が起こってからできることは少ないです。
事前に災害を想像して対策しておくことが、
いちばん効果的なんです。
とくに大都市は、帰宅困難者問題のような困難が
起こりうる場所だと認識して、
対策を練ってくださいね。
それから、最後に「誰を帰し、誰を残すか」
という議論があったように、
帰宅困難者問題対応と事業継続を両立させることも
重要なポイントになります。
一度帰れたとしても、その後の出勤はどうするのか。
後発地震が起きて、本格的に交通が全面途絶して、
誰も会社に出勤できなくなるかもしれません。
そうなったら、多くの会社で
事業を続けることが難しくなり、
国全体に経済的な損失が生まれるかもしれません。
「帰宅困難者問題対策だけ」を考えるのではなく、
企業として、どのように事業を継続しながら
災害に対応するかを考えていただければと思います。
廣井先生
きょうのKUGでは、
いわゆる「基本問題」を解きました。
受験でいうと、ベーシックな模試を
一回受けただけの状態です。
災害はあらゆる条件で起こるものなので、
「すごく暑いとき」「もっと甚大な被害が出たとき」
「埼玉県と千葉県だけ鉄道が復旧したとき」など‥‥
さまざまなパターンを想定して
取り組んでみてください。
帰宅困難者問題は、言ってしまえば
「すぐに帰れない」というだけの問題です。
大規模災害時には建物倒壊や市街地火災など
もっと深刻な問題もいっぱい起きている可能性がある。
なので、「帰宅困難者問題程度」で、
社員が危ない目に遭わないよう、
企業として危機に陥らないよう、KUGを利用して
自助と共助で備えていただけたらうれしいです。
みなさん、長時間おつかれさまでした! 
一同
ありがとうございました! 

(終わります。お読みいただき、ありがとうございました)

2025-08-24-SUN

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