
災害が起こったとき、
私たちはどんな選択を迫られるのでしょうか。
ほぼ日乗組員9人で、
防災研究者の廣井悠先生等が開発した
「KUG(帰宅困難者支援施設運営ゲーム)」に取り組み、
災害時の行動を具体的に想像してみました。
帰宅困難者による混乱を生まないため、できるだけ
社内に人を滞留させることを第一に考えましたが、
いざ引き留めようとするとさまざまな難しさが明らかに。
強制力のある結論を出すものではないので、
ひとつの例として、乗組員たちの決断を
追っていただけたらうれしいです。
それでは、ゲームスタート!

大都市防災研究者、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメント㈱が共同開発した、
帰宅困難者を受け入れ・滞留させる施設のための
図上訓練キットです。
架空の事業所のBCP要員(緊急事態発生時に、
事業継続を担うために指定された職員)として、
起こったトラブルへの対応を決めていきます。
今回は「都市で日中に地震が起こった」
という設定で取り組みました。
また、ファシリテーターとして、廣井悠先生と
SOMPOリスクマネジメントの宮田桜子さんに
進行いただきました。
- 地震発生日の翌日の昼になりました。
きょうも、心配な報告が入ってきました。
さらに、災害時とくに深刻な
「トイレ」の問題も‥‥。 
イベント⑪〈発災翌日13:00〉
営業部営業3課の高田さん(社員番号196)より、
寒気がするとの報告です。
高田さんは、昨日体調不良を訴えた
管理部人事総務課の後藤さん(社員番号110)と
仲が良く、発災前日、
一緒に昼食を食べに行ったそうです。
また、営業部営業3課の今井さん(社員番号194)と
技術部技術1課の五十嵐さん(社員番号237)から、
「自宅で介護している親が心配なので帰宅したい」
との要望です。
必要な対応を検討してください。

- やまと
- 次々といろんなことが起こるなぁ。
- あやや
- 高田さんはすぐ病院に行ったほうがいいと思う。
‥‥あ、でも、もし軽度のコロナウイルスに
感染していた場合、
いまは自宅待機が推奨されるんだよね。
それなら、病院に連れて行かずに
社内で隔離したほうがいいかな。
- のなか
- そうか。じゃあ、高田さんも隔離だね。
- あやや
- ちなみに、いまの状態の後藤さんや高田さんが
病院に行って、できることってあるのかな?
- かのう
- 解熱剤や咳止めの薬を処方してもらう
くらいかもしれないですね。
- あやや
- ということは、危険を冒してまで
病院に行く必要はないかもしれないね。
感染症の検査キットと解熱剤、咳止めは、
社内で用意しておくこともできそう。
よし、さっきは後藤さんを
病院に連れて行くことにしたけど、
やっぱり後藤さんも高田さんも
社内で待機してもらうように、話し合ってみよう。
- かのう
- 骨折している松岡さんはどうしますか?
- あやや
- 骨折していて、病院に行けないのは気の毒だよね。
でも、病院の混雑を考えて、いったん待機しようか。 
- やまと
- 「介護中の親が心配」という
今井さんと五十嵐さんについては、
どうしましょう。
- あやや
- 今井さんは家族全員無事なんだね。
ここは、妻にお母さんの介護をお願いして、
今井さんは社内に残ったほうがいいんじゃないかな。
みんなが家族のいる避難所に行くと、
避難所が混んじゃうから。
- やまと
- 避難所の物資も限られていますもんね。
でも、今井さん、
あとで妻に責められないでしょうか。
「あのとき私に任せっきりにしたでしょ」って。
- あやや
- そうだねぇ。
でも、避難所全体のことを考えると、
やっぱり今井さんは行かせないほうがよさそう。
今井さんは今後、
妻に頭が上がらなくなるかもしれないけど‥‥
そうだ、じゃあ、
妻に責められたらこう言ってもらおう。
「僕は止められた」って。
- やまと
- ああ、「僕は帰りたかったんだけど、
会社の人に止められた」と。
そうですね、私たちが嫌われ役を
買って出てあげましょう。
今井さんの家庭円満のために‥‥。
- 方針
- 高田さんは隔離部屋に滞在してもらう。
今井さんと五十嵐さんとも、
なるべく帰らないよう相談する
(今井さんは、妻に
「会社の人に帰宅を止められた」と伝え、
夫婦ゲンカを防ぐ)。
- さくま
- 高田さんは病院に連れて行きましょう。
- しもー
- 今後も高田さんのように
発症する人が出るかもしれないから、
後藤さんと一緒にいた人は、
全員隔離部屋にいてもらう?
- やすな
- うーん、
隔離部屋に入ることで発症する場合もあるかも‥‥。
- しもー
- どの程度、後藤さんと一緒に過ごしたかを
把握したいですね。
- ゆーないと
- 後藤さんが発症した時点で、
「誰と、どのくらい一緒にいたか」を
本人に聞いておけばよかったのか。
- さくま
- 濃厚接触者は早めに確認するべきでしたね。
- ゆーないと
- 「帰りたい」と言っている今井さんと五十嵐さんは、
自宅が損傷してしまって住めない状態なんだ。
家族は避難所にいるのかな。
- やすな
- じゃあ、家に帰ってもあまり意味がないのか‥‥。
社内のほうが確実に食料があって安全だから、
残ってもらったほうがいいね。
- ゆーないと
- でも「自分の安全はどうなってもいいから、
親のいる避難所に行きます」というくらい
心配している場合は、帰らせてあげたい。 
- しもー
- 今井さんも五十嵐さんも、
自宅まで20km以上あるから、
歩くと8時間くらいかかりますね。
いま13:00だから、着くのは21:00くらい。
暗くなっちゃいます。
- やすな
- そうなると、安全の保証は難しいですね。
まずは留まってくれるよう話し合って、
どうしても本人の意志が固かったら帰宅を許可、
という方針にしましょうか。
- 方針
- 高田さんは病院に連れて行く。
今井さん、五十嵐さんはできるだけ
社内に留まってもらうよう相談する。


Aチームは全員社内に留まり、
Bチームは感染症の疑いがある後藤さんと高田さんを
病院に連れて行く選択をしました。
一応、東京都の前提としては、
「帰さない」ことが求められています。
ですが実際、どうしても帰りたいと主張する人を
強制的に帰さないことって、
企業としては労務管理としても難しいことがあります。
会社としては
「どうしても帰りたい、病院に行きたい」
という方には、
「帰ることのリスク」をきちんと伝えて、
水やヘルメットなど、
できるだけのものを渡したうえで
送り出す場合もあると思います。

イベント⑫〈発災翌日15:00〉
隣のビルに入居している
密接な交流関係があるグループ会社の社員30人が
「入居しているビルの非常用発電機が動かなくなり
ビルがロックアウトされたので、避難させてほしい」
と訴え受付まで来ています。
必要な対応を検討してください。
- あやや
- 受け入れましょう。
- かのう
- ビルがロックアウトされたということは、
火災報知器なども動かないから、危険ですもんね。
- あやや
- 隣のビルに残っている備蓄品は、
私たちも運び出す手伝いをして、
こちらのビルに持ってきてもらおう。
30人が行き場を失って、一斉に帰ろうとしたら、
交通が大変なことになるから、
突き返すという選択肢はないですね。
- やまと
- あやさんはこのように、いつも
社会全体のリスクを考えて結論を出しています。
- あやや
- そうなんですよ。
- 方針
- 受け入れる
(備蓄品を一緒に運び出す)。
- ゆーないと
- 受け入れましょう。
- さくま
- 自分たちの会社の外出者が30人くらいなので、
グループ会社のみなさん30人ぶんの
食料などは足りそうです。
でも、できれば、隣のビルに残っている備蓄品は
持ってきてほしいですね。
- 方針
- 受け入れる
(できるだけ備蓄品を持ってきてもらう)。
〈発災翌日16:00〉
低層階共用部のトイレが一斉に溢れ出しました
(外部の下水が逆流しました)。
必要な対応を検討してください。
- あやや
- サイアク!!
耐え難いね、これは。
- やまと
- 汚物を溢れたまま放置しておくと、
感染症の危険があるから、まずは片付けないと。
でも、水が使えないということは、
洗い流すこともできないのか‥‥。
- あやや
- 応急措置として、
これ以上被害が広がらないように、
なにかでトイレを塞ぐ?
となると、土のうなどの事前準備が必要だね。
- 宮田さん
- 土のうを準備しておくのは難しいかもしれませんが、
水のうは比較的用意しやすいですよ。
水害時は、下水が溢れやすいので、
あらかじめ便器に水のうなどを
入れておくことがよくあります。
じつは今回も、逆流する前に便器を塞いでおく
タイミングがありました。
- あやや
- あ! 朝、下水管が詰まったときか‥‥!
あのときに対策しておけばよかったんだ。
- 方針
- 溢れた汚水を片付ける。
あれば、土のうや水のうでトイレを塞ぐ。
- いしざわ
- 上の階に逃げる以外の対応はあるかな‥‥
自分たちの管理の範囲を超えた、
外部からの下水が逆流し出したら、打つ手がないよ。
- ゆーないと
- もう解散だ、解散。
- やすな
- でも、常にみんなが
トイレを使いたいわけではないから、
いったん応急措置をして、
災害用トイレに切り替えればいいのでは。
- いしざわ
- たしかに、溢れたまま
放っておくわけにはいかないしね。
紙や砂、タオルを使って
定期的に汚物の処理をすればいいのかな。 
- やすな
- 土のうや水のうがあれば、
詰めものとして使えそうですね。
- 宮田さん
- 事前に土のうや水のうを用意しておくことは、
水害対策の基本ですが、
地震の際も役立ちますよ。
- いしざわ
- へえーーっ。
- 宮田さん
- ちなみに、きょうの朝8:00に
「下水管が詰まった」という連絡を受けて、
災害用トイレの使用を呼びかけましたね。
このタイミングで、
下水逆流のおそれを想像できたかもしれません。
そして、ポリ袋などで簡易的な水のうを作って
下層階のトイレや排水口を塞いでおけば、
下水が溢れることはなかったかも‥‥
ということになります。
- あんだ
- あー! あのときかぁ。
- さくま
- 災害用トイレに切り替えるだけじゃなくて、
下層階のトイレをしっかり塞ぐことも
必要だったんだね。
- 方針
- 紙や砂、タオルで汚物を片付ける。
あれば、土のうや水のうでトイレを塞ぐ。
(明日に続きます。次回、最終回。最後は、無事に帰れるのでしょうか)
2025-08-23-SAT