2024年、神奈川県のYさん宅の水槽で、
国内2例目となる珍しい
「モトスマリモ」が発見されました。
このまりも、日本の自然界では見つかっておらず、
なぜか民家の水槽にだけ出現するという
謎だらけのまりもだったのです。
多摩川でひろった1個の石。
妻からの一言。まりもを見つめるエビ。
いくつもの偶然がYさんのもとで重なり、
歴史的な大発見へとつながっていきます。
さらに物語の糸をたぐっていくと、
すべてのはじまりは約70年前、
ある少年の自由研究にたどり着き‥‥。
ニュースでは報じられなかった
まりも発見に至るまでのエピソードの数々、
Yさんのご自宅でたっぷりうかがいます!

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第6回 まりもに名前を付けるなら。

──
甲府と川崎のモトスマリモは、
ちがう種類の可能性もあるんですよね。
その可能性は高いです。
──
もしちがった場合、
呼び方はどうなるんでしょうか。
変わります。
ただし、Yさんの発見したほうが、
ヨーロッパで見つかっている
「クラブリゲラ」なのかなと思っています。
なので、甲府タイプが新種かもしれません。
──
和名はどうなるんでしょうか。
川崎タイプが「モトスマリモ」ですか?
いえ、甲府が「モトスマリモ」ですね。
最初に向こうに「モトス」と付けましたので。
──
となると、こちらの呼び方は‥‥。
何にしましょうか(笑)。
Yさん
じつは名前に関しては、
最初の打ち合わせでも話に出たんです。
「まだ分類がわからないけど、
愛称だったらつけてもかまいませんよ」と。
──
もしかしたらすでに候補があったりして。
Yさん
じつは妻と話をしていたんです。
「もし新種だとしたら、
名前を付けていいってことになるんじゃない?」って。
妻の名前がマユコなので、
「じゃあ、マユマリモにする?」とか。
──
いいじゃないですか、それ。
Yさん
でも、いざ辻さんから
「名前どうしましょうか?」って聞かれて、
さすがに「マユマリモ」とは言い出せなくて(笑)。
──
あら(笑)。
Yさん
そしたら辻さんのほうから
「例えば、川崎マリモとかどうですか」と
提案してくださったので、
「だったら多摩川で見つけたんで、
川崎多摩マリモにします」と言っちゃいました。
──
奥様としてはちょっと納得いかないですね(笑)。
Yさん(妻)
私、その打ち合わせにいなかったので、
あとで「あれ、どうなったの?」って聞いたら、
「ごめん、さすがに言えなかった‥‥」と(笑)。

Yさん
まあ、地元の名前が入っていたほうが、
みんなにとってはいいかなとは思いますけど。
──
実際は人の名前が入ってもいいんですよね?
もちろんダメなことはないです。
一方で、その種の特徴を名前につけなさい、
という要請もあるにはあります。
それで私から「川崎」を提案したわけですが、
いまとなっては全国で見つかっているので、
「川崎」のままでいいのかどうか‥‥。
──
あぁー。
学名っていうのは、
ずっと使いつづける名前なので、
ある程度種の特徴を表す名前が好ましいです。
なので「川崎」にするかどうかは、
もう一度考えてもいいかもしれませんね。
Yさん
なるほど。
一方で「モトスマリモ」の中の、
この家から生まれた「株」限定のニックネームなら、
好きに付けてもらってかまいません。
メダカでも自分がつくった品種には、
開発者の名前が付いていたりしますから。
──
ニックネームならいいんですね。
結局、人間が関わってるものは、
人間の認識の問題になってくるんですよね。
こういう文化に関わる生きものは、
そこがおもしろいところでもあり、
政治的でややこしいところでもあります。
ともかく愛される生きものって、
みんなそういうところがあるんですよ。
──
まりもは愛されていますもんね。
誰にも着目されないものは、
こんな話にもなりませんから(笑)。
だから「丸い」ってすごいことなんですよ。
それだけで人間に愛される。
──
そもそもの話に戻るのですが、
まりもはどうして丸くなるんですか?
このモトスマリモに関しては、
中心から均等に成長していくんですけど、
真ん中から枝分かれをしていく段階で、
糸状の毛がからみあって丸くなります。
──
糸状の藻類だからって
丸くなるとも限らないわけですよね。
海苔とかは丸くならないと思いますけど。
ならないですね。
ほとんどの種類がならないです。
──
となると、丸くなること自体、
やっぱり珍しいことではあるんですね。
あと、ある程度の大きさで
丸くなるってことも大事なんです。
数ミリとかじゃなくて。
阿寒湖のマリモは30センチくらいありますから。
──
そんなに大きくなるんですか? 
阿寒湖のマリモは、
見た目もぜんぜんちがうんでしょうね。
まったくちがいます。
毛が完全にフェルト状で
表面はビロードの絨毯のようですから。
写真だとこんな感じです。

▲阿寒湖のマリモ(撮影:辻彰洋) ▲阿寒湖のマリモ(撮影:辻彰洋)

▲阿寒湖のマリモ(撮影:辻彰洋) ▲阿寒湖のマリモ(撮影:辻彰洋)

Yさん
ほんとだ、ぜんぜんちがう。
Yさん(妻)
中身がギュッと詰まってますね。
毛がすごく密に生えているんです。
モトスマリモのように
フワフワした糸状ではないです。
阿寒湖のマリモは寒いところにいるので、
育ちが遅い代わりに密度が高くなるんです。
──
おみやげ屋さんで
まりもを見かけることがありますけど、
あれは買っても大丈夫なんでしょうか。
いま売ってるものは大丈夫です。
一部の企業が企業メセナの一環として
人工的に養殖したまりもだと思います。
──
まりもって養殖できるんですか?
ランの仲間もそうですけども、
盗掘を防ぐいちばんいい方法は、
人工的に大量に安くつくり出すことなんです。
阿寒湖のマリモは天然記念物なので、
現在は採集が禁止されています。
そのため違法盗掘をなくすために、
人工的に増やしたものを安く売っていたりします。
──
養殖のまりもは、
どういう種類のものなんでしょうか。
基本は阿寒湖のマリモと同じです。
──
あ、同じ!
遺伝子的な種類は同じになります。
ただし、売っているものは、
自然と丸くなったものではなく、
人工培養したものを人の手で丸めているそうです。
販売されているまりもの中には、
海外から輸入した「天然まりも」もあります。
──
それも買って問題ないんですよね?
はい、大丈夫です。

(つづきます)

2025-08-31-SUN

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