2024年、神奈川県のＹさん宅の水槽で、
国内２例目となる珍しい
「モトスマリモ」が発見されました。
このまりも、日本の自然界では見つかっておらず、
なぜか民家の水槽にだけ出現するという
謎だらけのまりもだったのです。
多摩川でひろった１個の石。
妻からの一言。まりもを見つめるエビ。
いくつもの偶然がＹさんのもとで重なり、
歴史的な大発見へとつながっていきます。
さらに物語の糸をたぐっていくと、
すべてのはじまりは約70年前、
ある少年の自由研究にたどり着き‥‥。
ニュースでは報じられなかった
まりも発見に至るまでのエピソードの数々、
Ｙさんのご自宅でたっぷりうかがいます！
- Ｙさん
- モトスマリモは藻の一種なので、
お日さまをよく当てると
光合成によって体中に酸素の粒をまとうんです。
そうするとその酸素の浮力で、
ぷかーって上に浮いてきます。
- ──
- 自然に浮いてくるんですか？
- Ｙさん
- はい、それがまたかわいいんです。
- 辻
- 浮かんだまりもに、
ときどきエビが玉乗りしますよ（笑）。
- ──
- えぇー（笑）。
- Ｙさん
- LEDライトだと浮いてこないのですが、
太陽をちゃんと当てると浮いてくるんです。
お日さまが大好きなんでしょうね。
- ──
- まりもって見てるだけで癒やされますね。
- Ｙさん
- かわいいですよね。
じつは実家に同じ水槽をつくって、
何粒かそこでも育てているんです。
近所の方も興味があるみたいで、
みんなまりもを見るのが好きみたいです。
- ──
- 人を惹きつけるものがありますよね。
- Ｙさん
- 案外、みなさん興味を持たれるんですよね。
知り合いの人からも
「新聞にまりもが出てたわよ」って、
わざわざ教えてもらうこともあります。
そうそう、これは当時の新聞なんですけど。
- ──
- この写真、Ｙさんの水槽ですね。
- Ｙさん
- はい、うちの水槽です。
辻さんも写真付きで載っています。
- 辻
- 川崎で発見されたということで、
やっぱりマスコミの対応がちがうんですよ。
- ──
- そうなんですか？
- 辻
- 甲府で見つかったときは、
ローカルニュース止まりだったのですが、
川崎だと首都圏ニュースになるんです。
首都圏ニュースはイコール全国ニュース。
拡散力がぜんぜんちがいます。
- Ｙさん
- テレビにもたくさん取りあげてもらいました。
- 辻
- 実際、甲府で見つかったときは、
われわれとしては１例目だったので、
もっと大きなニュースになると思っていたんです。
ところが、そのときは甲府局止まり。
首都圏はラジオでニュースになったくらいでした。
- ──
- 発見された場所で扱いがちがうんですね。
- 辻
- 今回は全国ニュースになったおかげで、
まりもの情報をたくさん集めることができました。
それまで「２」しかなかった事例が、
いきなり「40」に増えましたから。
- ──
- つまり、まりもは全国にいた。
- 辻
- いたことはいたんです。
いなかったものが突然出てきたわけじゃない。
すべては人間の認識の話です。
- ──
- まりもの研究が一気に進んだのは、
ニュースが広まったおかげでもあるんですね。
- Ｙさん
- とくにNHKの影響力はすごかったです。
妻が奈良の実家に帰っているときも、
ご近所の方と「家の水槽にまりもが‥‥」って話したら、
「それ、ニュースで見たわよ」と言われたそうです。
- Ｙさん（妻）
- ニュースになった翌日には、
もうご近所さんには伝わっていました。
- ──
- これだけニュースになると、
ご近所の方から「１個ちょうだい」と
言われたりしないですか？
- Ｙさん
- 不思議なことに１回もないんです。
みんな面倒だと思ってるのかも（笑）。
- ──
- さきほどの辻さんの話だと、
自然に戻すのはダメだけど、
人にあげるのは問題ないんですよね？
- 辻
- 禁止ではありません。
一応、売りに出されていないか、
ときどきチェックしていたりはしますけど。
- ──
- あ、いまはそういうケースも‥‥。
- 辻
- 何年か前ですけど、
遺伝子を組み換えたメダカが、
研究室から流出したという話があったんです。
そういうのが原因で生態系が壊れてしまっても、
もう後戻りできないですからね。
- ──
- ネットがあれば個人売買できますしね‥‥。
- 辻
- メリットとデメリット、両方ですよね。
今回のまりもに関しては、
ネットでニュースが拡散されたおかげで
全国からこれだけ情報が集まったともいえます。
これこそいまの時代の
シチズンサイエンスだなと感じました。
私の言ってることも、
たった半年でガラッと変わりましたから（笑）。
- ──
- そんなに大きな変化だったんですね。
- 辻
- まあ、拡散力がある分、
そのあとのメディア対応も大変にはなりますが。
- Ｙさん
- じつは辻さんとの最初の打ち合わせで、
「これはとても大事なことなんで」と言われたのが、
メディア対応の話だったんです。
- ──
- メディア対応？
- Ｙさん
- 辻さんこれまでの経験から、
反響の大きさがわかっていたんでしょうね。
「まりもはニュースになるし、
テレビ取材もたくさん来るでしょう」と。
なのでいちばんはじめに、
メディア対応の方針を決めたんです。
- 辻
- そうでした、そうでした。
- Ｙさん
- 私は「科博さんに一任します」とだけお伝えして、
取材対応とかNHKのこととか、
すべて科博さんにお願いさせてもらったんです。
なので、最初からずっと平穏なままで。
- 辻
- どのニュースを見ても、
「川崎の民家」としか出ていませんから（笑）。
- Ｙさん
- あの仕切りを最初にやっていただけたのは、
ほんとうにありがたかったです。
ものすごく助かりました。
- ──
- ということは、
Ｙさんが取材を受けられたりというのは‥‥。
- Ｙさん
- じつは一度もないんです。
すべて科博さんにおまかせして、
個人への取材はすべてお断りしていました。
- 辻
- 名前を伏せて受けた取材も、
オンライン取材も一度もないですね。
- Ｙさん
- やってないですね。
なので、これまでの話をするのは、
ほんとうにきょうがはじめてなんです。
- ──
- わっ、そうだったんですね。
それはそれは、お声がけいただき光栄です。
- Ｙさん
- 私もこうやって話ができてうれしいです。
- ──
- ‥‥それにしてもなんでまた、
ほぼ日に連絡をくださったんですか？
- Ｙさん
- こういう話、ほぼ日さんなら
おもしろがってくれると思ったので（笑）。
2025-08-30-SAT
