TBSの『ニュースの森』のメインキャスター、
編集長、ニューヨーク支局長、
「NEWS23 X(クロス)」の
メインキャスターを経て、
現在、BS−TBS『報道1930』の
キャスター編集長をつとめている松原耕二さん。
いつもの仕事とはまた別に、
コラムニストとしての目で、いろんな人を観察したり、
いろんな人生に共振してきたようです。
誰も見ていなくても「ぼくは見ておこう」と、
松原さんが、心の奥の図書館に一冊ずつ集めてきた
さまざまな「人々の生き方」を、
「ほぼ日」に分けてもらうことにしました。

松原耕二さんのプロフィール

松原耕二さんのtwitter

2001年から2006年までのタイトルは
こちらからお読みいただけます。


令和は世代間闘争の時代になるのか。
その3回目です。
きょうは、若者世代に感じた
もうひとつの側面です。



世代間闘争の時代 B

令和は世代間闘争の時代になるのか、
というテーマで、
首都圏の大学生16人に
グループインタビューをしたのだけれど、
その中で、今の若者像が垣間見える声もあった。

たとえば、就職した会社に一生、勤めると思うか、
と尋ねたところ、
○をあげたのは1人だけ、
15人は迷わず、×をあげた。

男子学生が言う。
「ひとつの会社だと、関わる人が限定されてしまうと思う。
自分のいる場所を変える事によって
更に全く違う人との繋がりが出来るなぁと思っているので、
一つの会社にずっといるという事は無いだろうな、と」

女子学生も続く。
「自分の価値観は常にアップデートされていく、
会社も変化し続けるならいいけど、
なかなかそうはいかないと思う。
自分自身は必ず変化していくと思うので
同じ会社に勤め続ける姿があまり想像できない」

最近、経団連の会長や、トヨタの社長が
終身雇用制を続けるのは難しいと言ったことが
話題になったけれど、
少なくとも、集ってくれた大学生たちは
すでに終身雇用なんて望んでいなかった。

その一方で、
自分で起業したいという学生も少なくなかった。
「失敗するリスクへの不安はない?」
と尋ねると、ひとりの学生は「全然」と首を振った。
「昔なら、社会のレールに従って
というがあったかもしれないけど、
今だと、一回失敗しても、
他にいろいろな選択肢があると思う。
ぼくはいい仕事につくというよりも、
楽しいことをするほうが幸せだと思っているので
全然、リスクは感じない」

彼はそう言って、こう付け加えた。
「それと海外がすごく近くなったと思っていて。
ぼくはいまNPOの活動で
タイとプロジェクトをやっているんだけど、
起業するならタイでやってみたいと思っています」


すでに起業している男子学生もいた。
「もうどのくらい、起業して?」
「だいたい2年くらいです」
「CEOとかそういう感じ?」
彼がうなずくと、「おおお」という驚きの声が上がった。
外国人旅行者向けのアプリを作っているという。
「もうかってる?」
そう尋ねると、あっさりと言った。
「はい」

彼は言う。
「日本の上場している会社のすべての時価総額を
あわせると800兆円になるんです。
これを1社でめざしたいです」
さらにこう続けた。
「日本の借金をひとりで返せたら
うれしいなと思っています」
「え、1000兆円ぜんぶ?」
「1000兆円は無理だけど、
800兆円ならなんとかなるかな」
彼はにやりと笑った。

国の借金や、原発から出る核のゴミの後始末などなど、
多くの問題を先送りしていることに対して
ぼくらの世代は、どこか後ろめたい思いを持っている人も
少なくないのでは、と思う。
でもそんなことを忘れさせるほど
彼らの言葉の端々に、楽天性のようなものが感じられた。

繰り返すけれど、彼らが
若者の代表だと言うつもりはない。
全体からすると、かなり恵まれた若者たちと
いうことになるのかもしれない。
(奨学金という名の学生ローン〈と言ってもいいと思う〉を
組んでいる人も一握りだった。)
しかも、こうしたグループインタビューに
自分の意志で来てくれるのだから
意識も高い若者なのだろう。

それでも彼らの楽天性を支えているのは
若い世代ならではのもの、のように思えた。
自分が高齢者になったとき、どんな社会になっているか、
と尋ねたときだ。
「たとえばiPhoneだったりとか
10年前には想像できないものが生まれている。
だから難しい問題も解決する方法が見つかるかもしれないし
自分が見つけるかもしれない。
最終的には、自分の想像を超える変化とか
テクノロジーの進化が起きると思う」

別の男子学生も言う。
「社会制度はちょっと不透明で
崩壊しそうな部分もあります。
でも医療技術だとか、ロボット工学だとか、
高齢者向けのテクノロジーが発展すると思っていて、
人手不足で介護が云々だとかは解消されて
高齢者が生きやすい社会になっているのかなあ
と思います」


彼らが育った平成という時代は、
バブル崩壊後の失われた20年とも30年とも呼ばれた。
でもその一方で、
デジタル革命と呼ばれる技術革新の空気を
胸一杯吸って生きてきたのだ。
彼らの多くには、テクノロジーへの強い信頼
とでも言うべき感覚が共通してあるように思えた。

最後に夢は何かと尋ねると、
起業してすでにCEOになっている男子学生は
こう答えた。
「日本全体をひとつのテーマパークにしたくて。
テーマパークって皆が笑顔になれるじゃないですか。
黄色いクマとか、ものすごく耳の大きいネズミとか、
自分自身の個性を活かして、
かつ、そこにアトラクションという要素があって。
自分自身の楽しいこと、そこでさらに、
ひとりひとりが自分の個性とかを活かして、
それを遊びっていう軸で笑顔になっていくような
そんな世界をつくりたいなって思います」

10年、あるいは20年後、
私たちの社会はどう変わっているのだろう。
そのとき、彼らは「自分は甘かった」と思うのか、
それとも「言ったとおりでしょう」と胸を張るのか、
あるいは全く別のことを考えているのか。
これからずっと先に、もう一度、
話を聞く機会があれば、こんなうれしいことはない。

(終わり)

2019-06-05-WED
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こちらもぜひ。
初の長編小説『ここを出ろ、そして生きろ』を上梓した
松原耕二さんにインタビューしました。

松原耕二さんは、なぜ小説を書いたのだろう?



『ハードトーク』


新潮社 1,785円
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松原耕二さんの長編小説第二作。
報道インタビューを天職とする主人公、
テレビ記者の岡村俊平は、
ある事件をきっかけに番組を降板、
名声も家族さえも失なう。
20年にもわたるその負の連鎖を打ち切るため、
彼は最期の大勝負に出る。
相手は時の総理──。
報道現場の内幕を、
松原さんが自身の経験をもとに描きます。


『ここを出ろ、そして生きろ』


新潮社 1,470円
アマゾンでの購入はこちら
松原耕二さん初の長編小説です。
NY駐在時代、暗いうちに起きて、
出勤前の2時間を執筆にあて、
登場人物が動くまま
物語をすすめていったという松原さん。
帰国時には中編2本と、書きかけの長編1本、
短編が4本が手元に残ったといいます。
『ここを出ろ、そして生きろ』は
その中編の1本を肉付けし完成度を高めたもの。
ご本人はそのつもりがなかったといいますが、
帯文には林真理子さんから「壮大な恋愛小説」と
いう言葉をいただいたそうです。
ストーリーは‥‥(公式サイトより)
「目の前の誰かを救うためNGO活動に没頭しながらも、
 戦後利権に群がる民間組織の現実に
 戸惑いを覚えるさゆり。
 より危険な道を選ぶことでしか「生」を実感できない
 焦燥感に悩む、プロの人道支援者ジャン。
 コソボ、コンゴ、NY、エルサレムを舞台に、
 生死の境界を往く恋人たちの壮絶な闇を追う。」
立ち読み版は、こちらからどうぞ。


『ぼくは見ておこう
 ニュースな人たちが教えてくれた
 生きるヒント25


プレジデント社 1,500円+税
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27年間、テレビの報道の仕事に携わってきた
松原耕二さん。
これまで取材してきたニュースの背後にある
さまざまなドラマ、
人間のものがたりを描いたコラムが
一冊の本になりました。
筑紫哲也さん、吉田都さん、坂東玉三郎さん、
釜本邦茂さん、フィデル・カストロ氏、
スティーブ・ジョブズ氏、クリント・イーストウッド氏、
ウォルター・クロンカイト氏、
さらには原発を止めるよう命じた裁判長の告白もあれば、
9.11後の熱狂に立ち向かって死んでいった
ジャーナリストの物語、
日米をつなぐ奇跡のような人間のつながりも。
松原さんが直接向き合った人々からこぼれ出た思いや、
彼らが明かした人生の物語です。


『勝者もなく、敗者もなく』

幻冬舎 680円
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“ぼくは見ておこう”の前章ともいえる、
松原さんの2000年発表のコラム集が、文庫化されました。
世界的な指揮者・佐渡裕さん、
1996年の孫正義さん、
ヴァージン航空のブランソン会長、
パラリンピック出場の平澤知緒理選手、
田村亮子に涙をのんだ女子柔道の長井淳子選手、
チェリストから為替トレーダーに転身した田中雅さん、
そして、みずからの両親のこと、
日航ジャンボ機墜落事故の報道のことなど、
9つのエピソードを描くノンフィクションです。

これまでの「ぼくは見ておこう」

あるジャーナリストの死
2008-11-04-TUE
ローキー
2008-12-01-MON
世界を変えたオーケストラ [1]
2009-01-01-TUE
世界を変えたオーケストラ [2]
2009-01-02-WED
なぜオバマ大統領も
イスラエルに加担するのか[1]
2009-02-09-MON
なぜオバマ大統領も
イスラエルに加担するのか[2]
2009-02-10-TUE
なぜオバマ大統領も
イスラエルに加担するのか[3]
2009-02-11-WED
なぜオバマ大統領も
イスラエルに加担するのか[4]
2009-02-12-THU
あれから24年
2009-03-16-MON
インタビューの神様[1]
2009-04-20-MON
インタビューの神様[2]
2009-04-21-TUE
インタビューの神様[3]
2009-04-22-WED
ぼくは見ておこうの話
2009-05-01-FRI
ハリウッドから遠く離れて
2009-06-01-MON
108通の手紙
2009-07-01-WED
核のない世界
2009-08-06-THU
450年の記憶 [1]
2009-09-01-TUE
450年の記憶 [2]
2009-09-07-MON
なぜイラク戦争で
ジャーナリストは命を落とすのか
2009-10-01-THU
帰還兵たちの悲惨
2009-11-01-SUN
クロンカイトの遺言 [1]
2010-01-01-FRI
クロンカイトの遺言 [2]
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2010-02-01-MON
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裁判長の孤独 [3]
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父と子の冒険[2]
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2013-02-15-FRI
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2013-10-08-TUE
活字のリレー[1]
2013-11-07-THU
活字のリレー[2]
2013-11-08-FRI
キーンさんの見た玉砕[1]
2015-05-01-FRI
キーンさんの見た玉砕[2]
2015-05-05-TUE
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2015-05-08-FRI
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2015-05-12-TUE
キーンさんの見た玉砕[5]
2015-05-15-FRI
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2015-06-26-FRI
ふたりの監督[2]
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84歳の創造力
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ふたりの天才
2019-04-04-THU
世代間闘争の時代 @
2019-05-31-FRI
世代間闘争の時代 A
2019-06-03-MON