きょうも、オバマ大統領と
イスラエルです。
長いので4回の連載、
きょうは2回目です。



なぜオバマ大統領もイスラエルに加担するのか [2]

なぜアメリカは、
これほどまでにイスラエルに加担するのか。
その答えで最も多く語られてきたのが、
強い影響力を持つ、ユダヤ・ロビーの存在だ。

アメリカでは、自分たちの利益に沿うよう、
政府の政策を動かそうとする団体がひしめき合っている。
そうした活動を行う人はロビイストと呼ばれている。
たとえばマイケル・ムーアの
『華氏911』で有名になった全米ライフル教会も、
強力なロビー団体のひとつだ。

17世紀に最初に移住してきたのを皮切りに、
ユダヤ人はヨーロッパでの差別や貧困から逃れるため、
次々と新大陸アメリカに渡った。
アメリカでも幾多の差別を経験するものの、
ヨーロッパに比べると自由で、
不動産や金融といった分野などで
次第に経済的な力をつけていく。
ユダヤ・ロビーと呼ばれるロビー活動が
活発になったのは、
戦後イスラエルが建国されたのがきっかけだった。
ユダヤ系アメリカ人はイスラエルを支援するため、
様々なロビー活動を展開したのだ。

ユダヤ人の人口はアメリカ全体のわずか2%、
しかし大富豪の上位100人のうち
ユダヤ人は3分の1ほどにも上るという。
彼らは豊富な資金力をもとに、連邦議会に
多くのユダヤ人の議員を送り込んでいるほか、
多額の献金によって影響力を増している。
民主党の政治資金の半分、
共和党の資金の2割以上を
ユダヤ人社会が出しているとも言われるほどだ。

オバマ氏が大統領レースを戦っている最中、
「エルサレムはイスラエルの首都として維持され、
 分割されることはない」と発言した、
在米ユダヤ人の組織AIPAC
(アメリカ・イスラエル広報委員会)は
最強のユダヤ・ロビーと言われている。
その幹部が雑誌『ニューヨーカー』のインタビューに答え
「われわれは24時間もあれば、
 連邦上院議員70人分の署名だって
 集めることができる」と豪語したのは有名な話だ。

ユダヤ・ロビーが力を持っているのは、
資金力もさることながら、
議員にとって最も怖い
“落選”に追い込むという戦術だという。
反イスラエルの政策を打ち出した議員がいると、
選挙でその議員を落選させるキャンペーンを展開したり、
巨額の資金を対立候補に提供したりして応援するのだ。
ターゲットにされた議員は、
落選すれば政治的影響力を失い、
もし運よく当選したとしても、
恐れをなしてイスラエル寄りの政策に転向するという。

こうした強引ともいえる影響力の行使は、
あまり報道されない。
金融界だけでなく、
メディアの世界もユダヤ人が
大きな力を持っているからだという解説があるが、
それがどれだけ影響しているかはわからない。
ただ1988年にCBSテレビの報道番組
『シクスティ・ミニッツ』が、
AIPAC(アメリカ・イスラエル広報委員会)を
取り上げたときのケースは興味深い。

番組では、AIPACがイスラエルに
非友好的な議員候補者を落選させるために
巨額の資金を使っている実態を調査して報道、
AIPACを批判する人々だけでなく
支持者の声も入れてバランスをとったとはいえ、
タブーでもあったユダヤ・ロビーを
正面から扱ったリポートは大きな反響を呼んだ。

ところが放送したCBSのオーナーは、ユダヤ人だった。
当時アメリカのテレビ局は、
レーガン政権の規制緩和政策によって
買収の対象になっていた。
CBSも金融投資会社に買収され、
ユダヤ人のラリー・ティッシュという人物が
ボスになっていたのだ。

ティッシュ氏がこの報道にどんな態度を見せたかが、
ケン・オーレッタ氏の
「巨大メディアの攻防」(新潮社)に記されている。

「この番組の数日後、ティッシュは
マンハッタンのイーストサイドの上品なアパート、
リバー・ハウスで、
ウォール・スト−リート・ジャーナルの発行人
ウィーレン・H・フィリップが催した、
ジョウン・コナーのコロンビア大学ジャーナリズム学部の
学部長就任祝賀のカクテルパーティーに出席した。
「お元気ですか、ボス」と
「シックスティ・ミニッツ」のプロデュサー、
ドン・ヒューイットが
笑いながらティッシュ(ユダヤ人のCBSオーナー)
に近づいてきた。
「私に、“はい、ボス”なんて言うな」と
ティシュはヒューイットに言った。
「君には会いたくないね。君に腹を立てているんだ」と
 ヒューイットに背を向けてしまった。
 マイク・ウォーレス(問題の番組のリポーター)も
 同じパーティーでティッシュに会ったとき、
 ティッシュは彼を無視したが、
 それは数ヶ月後にある夕食会で和解するまで続いた」

ティッシュ氏をめぐっては
「もし、ニュースの利害とイスラエルの利害が
 衝突するようなことが起これば、
 ティッシュ氏はイスラエルをとるだろう」
という見方がついて回った。
こうした姿勢が、現場の報道に微妙な影響を
及ぼしたとしても不思議ではない。

アメリカはイスラエルを支持してきたと言っても、
歴代大統領を比べると、
その加担ぶりにはもちろん濃淡がある。
この30年を振り返ると、
ユダヤ社会と強い協力関係を築いてきた
レーガン、クリントン、ブッシュの3人の大統領は
2期8年をつとめ、
逆にイスラエルに必ずしも有利な政策を選ばなかった
カーター、“パパ”ブッシュの2人は
1期4年で再選は果たせなかった。
偶然かもしれないが、不思議な符合ではある。

もし仮にそうしたユダヤ・ロビーの圧力が、
アメリカのイスラエル加担の、最大の理由だとしても、
何らかの理屈や人道上の根拠がついてこなければ、
国民を納得させ続けることはできないだろう。
そこにはたとえば、
イスラエルは中東で唯一の民主主義国家であり、
ユダヤ人は長い間、差別され苦しめられてきた、
といった理由づけが登場する。
 
しかしアメリカで暮らしてみると、
さらに別の要素が
絡みついているように思えるようになった。

(続く)

2009-02-10-TUE
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