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わたしが ふだん つかうもの [3] お茶はガラス瓶に
料理の撮影で、台所に立ちっぱなしの日が
続いたことがありました。
ふだんなら、頃合いを見てお茶を出したり、
おやつを出したりするのに、それがなかなかできない。
どうしたものかと考えて、
ウォーターサーバーの横に、お茶とカップを用意して、
飲みたい人はどうぞご自由に、
という一角を作りました。
黒豆茶、プーアール茶、ルイボスティ、
アーティチョークティー、ほうじ茶などの
ティーバッグをそれぞれガラスの瓶に入れて、
はいどうぞ。
これがなかなか好評だし、私も楽だし。
これはなかなかいいこと考えついた。
ガラス瓶は北欧に行くたびに、
マーケットで少しずつ集めたもので、
密閉するためのゴムパッキンと金具がついていたのですが、
パッキンがよれよれだったり、
金具が曲がっていたり(なにしろ古いものですから)
していたので、思い切って処分しました。
今はガラス瓶の本体に蓋が乗っているという状態ですが、
お茶がすぐに取り出せるし、
まあこれはこれでいいかな、なんて思っています。
忙しい時は、無理しないのが一番ですからね。
(伊藤まさこ)
わたしが ふだん つかうもの [2] 男の道具入れ
大工仕事は、すべて、
部屋の内装をたのんでいる友人にお願いするので、
自分で手を動かすことはほとんどないのですが、
でもそれなりにトンカチとか、釘とか、
ドライバーは持っています。
大工道具や工具を眺めるたびに、
「男っぽい道具だなぁ」としみじみ思います。
きっとそれはなんだか固そうなものばかりだから?
でも私はその男っぽい道具が、とても好きです。
フィンランドのマーケットで、
この缶を見つけた時、
「これはいい!」とピンときました。
男っぽい道具を入れるのには、
男っぽいいれものがいい、ってね。
聞けば、軍で使っていたものだそうで、
それもなるほどのアーミーカラー。
一見、無骨だけれど、
どの角度から見ても無駄のないデザインで、
それが私には逆に美しく感じられたのでした。
最近、無駄のないデザインを考える時、
軍で使われているもののことを考えます。
デザインとしてシンプルな形を考えたわけではなく、
まずは用途が先に立ってできたデザインが、
結果的にシンプルだった、ということ。
weeksdaysも、
そんなものづくりができたらいいなと思うのです。
(伊藤まさこ)
わたしが ふだん つかうもの [1] 測る道具
「どうせしまっておくものだから、なんでもいいや」
そういう気持ちでものえらびをすることはありません。
扉を開けた時、
引き出しを開けた時、
いつでも好きなものが目に入ってくる。
そんな状態でいたいと思うのです。
高価なものだからいいというわけではなく、
ものえらびの基準は自分にしっくりくるもの。
それから飽きのこないもの。
自分の持ち物を見返していると、
わりと質実剛健なものが好きみたい。
メジャーや定規などの測る道具も、
こつこつ時間をかけてえらびました。
定規はロンドンの布屋街で、
店の人が布を切る時に使っていたもの。
数字のフォントが気に入って、
どうしても欲しくなり、
「どこで売っているのですか?」とたずねると、
それが案外近所の店。
店を出てすぐに買いに走りました。
探そう、見つけなくては!と意気込むと見つからず、
ひょんなきっかけで手に入る。
ものとの出会いにあせりは禁物だなぁと
思ったできごとでした。
今のところ、
「測る」についての懸念事項は体重計。
どこかにいいものはないかなぁ、
でもいつか出会えるかなぁ、
などと思っているところです。
(伊藤まさこ)
デザイナー・惠谷太香子さんにきく 「私が、シルクの下着をすすめたい理由」
その3 毎日、着てほしい。
今回、「weeksdays」で
伊藤さんが選んでくださったのは、
トップスにはキャミソール、
ヒップラインまですっぽり隠れるキャミチュニック、
そして袖のパターンがやさしくなじむVネック長袖。
ボトムとして、ヒップをすっぽりつつむショーツ、
この4アイテムです。
トップスは、丈の長さ、肩、袖の仕様がことなりますが、
丸胴仕上げでチューブなので、
縫うところは裾と襟と袖口と脇のみ。
縫い目が肌にあたりませんし、
やわらかく伸びる素材ですから、ストレスフリーです。
いずれも胸元にシンプルでやわらかな
ポリエステルのストレッチレースを使っています。
シルクのレースにすると、レース自体が伸びがないので、
そこを考えて今回は一番繊細なレースにしました。
キャミソールに使っているストラップも、
ソフトでフィット感のあるものを使っています。
それぞれMサイズとLサイズ、
色はモカ、ネイビー、モーブの3色。
モーブはweeksdaysオリジナルの、
パープル寄りのピンクです。
ショーツも、脇に縫い目のない丸胴仕上げで、
ヒップをすっぽりつつむ安心丈です。
縫い目が肌に当たりませんから、
ほんとうにストレスフリーで穿きやすいと思います。
足口にゴムを入れていないので、
鼠径部、リンパを圧迫しません。
ゴムで絞め付けると、肉が分かれて、
色素沈着して肌の色が変わっちゃうんですよ。
水着を着たときにその跡が見えて、
あんまり綺麗じゃないですから。
そうそう、ショーツの内側のマチもシルク100%です。
ここ、とても大事な部分ですから、
そのほうが汚れも早く落ちますし、
ある意味匂いも取れやすい。
マチをシルクにしているショーツって、
たぶん、ないんじゃないかなと思います。
ここはリブだと食い込んでしまうので、
マットにフライスの素材にしています。
ma.to.waは、繊細なものをつくりたかったんです。
なぜなら、肌に近いものにしたかったから。
素材の透け感と伸びを考えると、
ちょっとセレブな爪のついてる指輪をしたままでは
引っかけることが、どうしても、ある。
もっとリアルクローズでバサバサと
日常でどんどん着るものを、というふうにも考えつつ、
やっぱりそのバランスは難しいですね。
それで繊細よりのものに仕上がりました。
おそらく他のシルク100%の製品より、繊細だと思います。
それでもね、ネットに入れて洗濯機で洗えますし、
旅先では手洗いしてタオルに包んで
キュッと絞ったら、すぐ乾く。
出張が多い方にも、ものすごく便利ですよ。
単価としては高いものですけれど、
着る回数を考え、日割り計算すると結構安い(笑)!
そう思っています。
(おわります)
デザイナー・惠谷太香子さんにきく 「私が、シルクの下着をすすめたい理由」
その2 和の技術で、洋の仕立て。
このシルク素材が「ウォッシャブル」ということにも、
みなさん、とても驚いてくださいます。
この加工、じつはとてもたいへんで、
京都の小さな工房でやって頂いています。
どんなふうにすればそうなるのかは
企業秘密だということなんですけれど、
糸を「かせ」(枠に糸を巻いてとりはずし、
その糸を束ねたもの)の段階で入れて、
ウォッシャブルにしています。
洗いをかけて、温度管理と時間を
いちばんいい状態で加工をするんです。
この加工、歴史がとても古くて、
なさっているかたは「ほんの平安時代から」と仰います。
もともとは、京都御所の中に工房があったそうで、
やんごとなきかたがたの
お召物に使われていた技術だということです。
私個人では巡り合えなかったはずのご縁ですが、
ma.to.waとcohanの製造をしている
豊島通商さんが、
その工房とおつきあいがあったということで、
私にとって、それがとてもラッキーでした。
思い出すのですが、初めて見たとき、
ほんとうにびっくりしました。
ずっとやりたかったシルクの下着が、
この技術があればできるかもしれない! って。
今まで、自分のコレクションは、
ヨーロッパのハイブランドである
ランバンとかニナ・リッチの、
1960年代の生地のデッドストックを頂いて
つくっていたんです。
それはやはりウォッシャブルシルクで、
イタリアのコモという町でつくられているものでした。
エルメスのスカーフでも有名な産地です。
エルメスは、
いかにもウォッシャブルなものではありませんが、
特殊な工房で、コモでおつくりになっている。
そういえば、話が逸れますが、
3ヶ月ほど、コモの工房で、
シルクのプリント図案の修業をしたことがあったんですよ。
私がオペラ座の衣裳室にいたとき、
日本人がどういう図案を描いて、
どういう色使いをするかというのが知りたいと呼ばれて。
私、元々は着物の柄を描きたくて、
辻ケ花の勉強をしていたんです。
面白かったですよ、むこうでつくったものは、
「こんな柄? こういう色なの?」と
向こうの人にはあんまり評判はよくなかったんですが、
それでも気に入ってつくった色が、
日本に持ち帰ったら、まるで違って見えるんです。
光がまったく違うんですね。
‥‥とまあ、ヨーロッパのシルクしか知らなかった私が、
「シルクの仕事をしたい」と言っているのを、豊島さんが
「実は面白いシルクがあるんだけど、
どう扱っていいかわからない」と。
豊島さんの担当の方もずっと悩んでいたそうです。
何を作っていいかがわからないと。
それで私が「是非やらせて欲しい」と立ち上げたのが
ma.to.waなんですよ。
ずいぶん回り道をしましたが、願いが叶いました。
それがいまから3年半ほど前のことでした。
このウォッシャブルシルクは、
もともと和装のための技術ですから、
オペラ座で立体裁断を学んだ私にとって、
まったくの異世界でした。
それで洋装の下着をつくるというのは、
誰にとっても挑戦だったと思います。
ほんとは生地があってデザインを出す
という方が早いんですけど、
正直、その糸自体、リブ編みができるのか、
普通のマットなフライス編みしかできないのかもわからず、
開発がどこまでできるのかもわからないわけです。
ですからとにかく
「こんなものがやりたい」というデザインを出しました。
すると、それは糸番手は何番ですねとか、
匁(もんめ=重さ)を考えてもらい、
サンプルをつくり、そこから生地のバランスを見る。
そんなやりかたですすめていきました。
(つづきます)
デザイナー・惠谷太香子さんにきく 「私が、シルクの下着をすすめたい理由」
その1 シルクは、第二の肌。
ma.to.wa(マトワ)の名前は、
衣類を「まとう」という言葉からつけました。
シルクはセカンドスキン、第二の肌、
そんなふうにも呼ばれていて、
シルク100%の布を肌にまとわせることは、
とても気持ちのいいことなんです。
以前「weeksdays」で取り上げていただいた
cohan(コハン)というブランドは、
湖のそば、湖畔という言葉からついた名前で、
“リラックスをするもの”ということで、
コットンやウールなど、いろいろな素材を使います。
そちらは、ブランドが先にあり、
私があとからデザイナーとして入りました。
けれどもma.to.waは、
ずっとシルク100%の下着を作りたかった私が、
この素材と出会い、立ち上げから関わっているものです。
「どうしてそんなにシルクが好きなんですか」
と、聞かれることがあります。
なぜ私がシルクをみんなに着て欲しいと思っているか。
それは私のライフワークとして、
体にいいものを作っていきたいということがあります。
いろいろな素材の中で、シルクがいちばん人の肌になじむ。
シルクは、肌と同じ成分であるアミノ酸なので、
理論上、肌にやさしいわけなんですけれど、
みなさんのイメージの「シルク」というのは、
つるつるしていて、ピカピカしていて、
ちょっとひんやりと肌をすべって‥‥
というものだと思います。
これは、じつは、肌にあたる糸の表面の部分は、
シルクとは言えないんですよ。
もともと、蚕が吐き出す糸はとても繊細なので、
それを織物にするためには、
強度を増すために、糸にコーティングをします。
だから糸自体はシルクなんですけれど、
合成物を使って、表面に糸を硬くする加工をし、
織りやすいようにするんです。
皆さんが思われているシルクのサテンとか、
よく出ているシルクの下着は、
洗った後にパリッとするというか、シワになる。
それは糸の周りにコーティングをしているからです。
ma.to.waに関しては、その硬いコーティングをしないで、
糸をそのままニットにしています。
ma.to.waのふわっとした柔らかさは、
それゆえに出ているんです。
逆に言うと、テカテカ・ゴワゴワのほうが、
作り手としては、製品化しやすい。
だからma.to.waに関しては、
作り手がすごく苦労するんです。
それでも、実際に着る方の気持ちになったら、
こっちのほうがいい、と、
自分もユーザーのひとりとして、心の底から思うんです。
ほかの下着とは、つくるときの発想が違うんですね。
何故シルクが好きかと言うと、
やっぱり肌に馴染んで気持ちがよくて、
夏は涼しくて冬は暖かいという、
肌と同じように調節をしてくれる素材だから。
ma.to.waの下着は「白いシャツをめぐる旅。」でも
取り上げていただいていますが、
夏に着てもベトベトしないし、
冬に汗冷えしても寒くない。
旅行に持っていき手洗いをしてもすぐ乾く、
そんな評判をいただいていています。
「汗の匂いもしなくなりました」と
おっしゃるかたも多く、
消臭機能をつけているわけではないのですが、
こういうところは、さすがに自然素材ですよね。
匂いがこもりません。
結構長く着ても、乾きがいいので生乾き臭も少ないです。
シルクを編んだり織ったりしたときに、
ボロボロ落ちていくローシルクから
化粧水や乳液をつくる技術があって、
基礎化粧品の分野では注目をされていますよね。
化粧水は、滲み込みは早いんですけれども、
塗っちゃうと落ちちゃうので、
下着であれば、いつも化粧品を着ている、みたいな、
そんな感じですよね。
じっさい、シルク工場の女の子たちの、
蚕を茹でてお湯から糸を引き揚げる作業をしてる手は、
ものすごく綺麗なんですよ。
そういえば、私が小さいとき、
祖母がもうボロボロになったシルクのお腰を
切り刻んでちっちゃい袋を作って、
その中に米ぬかを入れて顔を洗っていました。
しかも、その後、何もつけないでいても、
とても肌がきれいでした。
亡くなるまでツルツルでピカピカだったんです。
私もじっさい、シルクを身に付けてから、
ストレスでできる吹き出物が
ずいぶん減ったように思います。
私みたいにふだんノーメイクで、
一切何もつけない、という人にも、すごくお勧めです。
ma.to.waの下着は、
シルクってつるつるしてひんやりするでしょう?
‥‥と思っているかたにこそ、
ぜひ、試してほしいと思うんです。
(つづきます)
ma.to.wa
やさしい肌ざわりを、自分のために。
年齢を重ねるごとに、
気になってきたのは、
下着の肌ざわり。
やさしく、やわらかく、
なるべく肌に負担をかけないものをと、
くしゅっとさせたり、さすってみたり。
ことに肌が乾燥にさらされる冬は、
いつもより慎重にえらびたいもの。
今週のweeksdaysは、
「ma.to.wa」のシルクの下着をご紹介。
持った時に、ふわり。
着てみると、しっとり体に馴染みあたたかい。
「体がやさしい何かに守られている」
そんな着心地。
キャミソール、キャミチュニック、
Vネック長袖、ショーツ。
色は冬の空気に馴染みそうな、
おだやかな「モカ」「ネイビー」「モーブ」の3色。
「今日はどれにしようかな」
服をえらぶように、
下着もえらびたい。
今年の自分のクリスマスプレゼントは、
「ma.to.wa」の下着にしようかな、
なんて思っています。
私だけのクリスマスケーキ
ミッション系の学校で育ったせいか、
クリスマスは割と身近だったように思う。
11月末くらいから準備がはじまり、
学校自体が慌ただしくも慈愛に包まれるような、
独特の雰囲気になる。
ミサでは、アドベントキャンドルが
クリスマスまで毎週1本ずつ灯されていく。
其処此処に、生誕のアドベントやツリーが飾られ、
大きなモミの木の点灯式、
聖歌隊の募集に、クリスマス会の練習。
クリスマス会では、最後に聖堂にて
高等部の全員によるハレルヤの大合唱を披露するのが
会の一番の演し物で、
この時期は、クリスマスに向けて
ハレルヤの練習を授業そっちのけでやっていた。
今でも、ハレルヤのソプラノは全て歌えると思う。
思春期には、聖歌隊に誘われないように
静かにしていた位だが、
幼稚園の頃のクリスマス会は、
それは待ち焦がれた一大事であった。
私の一番の楽しみは、
会の最後に表れるサンタクロースが、
園児全員に小さなケーキをプレゼントしてくれる事だった。
ひとりずつに配られるクリスマスケーキは、
小さく作られた丸型で、
バタークリームのバラの花が飾られ、
メレンゲのサンタクロースが乗っているもの。
バニラ味とチョコレート味があり、
ランダムに配られる。
どちらがくるのかは不明で、
その当時はチョコレート味がよかったのか、
開けてみて、白いバニラ味だった時の
落胆した気持ちはよく憶えている。
生家は、商売を営んでいて、
毎年お付き合いという事もあり、
クリスマスケーキが最低でも3~4台はあった。
生クリームのもの、アイスケーキ、焼き菓子のもの。
幼稚園時代は、そこにクリスマス会の小さなケーキ。
このクリスマスケーキの渋滞にあまりいい思い出はなく、
「頑張って食べなければならない」
という、家族全員の静かな決意の元に、
冷蔵庫にある大きな箱がなくなるまで続いた。
特に、生クリームのケーキは急がねばならず、
いつもより大振りに切られたケーキが毎食後並ぶ。
アイスケーキは、まだいい。
急がずとも、お客様がいらした際に
出せばよいという感じだ。
焼き菓子は、これは大体どちらかに
渡していたのではないだろうか?
私自体はあまり食べた記憶はない。
家に数多あるクリスマスケーキの中でも、
特別な美味しさや珍しさもない
バタークリームで作ったクリスマス会のケーキだけは、
別格だった。
私だけに渡されたケーキである。
切られていない丸いままのケーキ。
勿論ひとりでフォークを入れる。
メレンゲのサンタは途中で食べる。
チョコレートの家は一番に。
このケーキを誰が作ったのかも知っていた。
ケーキ屋さんである同級生のお父さんだ。
いつも買いに行くと、
笑顔で迎えてくれる友人のお父さんが作ったケーキ。
それもあわせて特別だったのかもしれない。
毎年同じでも、心待ちにし、嬉しくて特別だったケーキ。
自分だけの小さな丸いケーキにフォークを入れる、
年に一度だけの高揚感を今も手先が憶えている。
白いモスリン。
十数年前にロンドンの小さな食料品店で出会い、
長年気に入っていた紅茶を輸入し始めて、5年あまり。
出張ティールームのようなイベントも多いので、
ここ最近はクリスマスが近づくと、
ひたすらお菓子を焼く日々が続きます。
イギリスのクリスマスの伝統菓子といえば、
ミンスパイとクリスマスプディング。
ミンスパイは、ドライフルーツやスパイスで作る
ミンスミートを詰めた、小さなパイのこと。
クリスマスから公現祭の十二夜、
毎日1個ずつ食べると幸運が訪れる、
という言い伝えもあって、
イギリスでは毎年シーズンになると、
デパートからスーパーのお菓子売場まで、
ミンスパイが山積みになります。
いろいろな店で買い集めて、
食べ比べをしたこともありました。
有名シェフプロデュースのミンスパイは、
もみの木の香りをつけたお砂糖が
表面にパラパラとかかっていて、
ロマンティックな演出だったけど、
お味は正直‥‥。
いろいろなレシピがありますが、
私は数種類のレーズンやオレンジの絞り汁、
スパイス、刻んだりんごやくるみなどで
ミンスミートを作ります。
欠かせないのは、ブランデー。
香りづけはラム酒ではなく、
ブランデーを使うのがイギリス。
ミンスミートは作りたてよりも、
しばらくおいた方が
味がなじんでおいしいので、
11月になると、
早く仕込まなきゃとそわそわします。
一方で、毎年苦戦しているのが、
クリスマスプディング。
ドライフルーツをふんだんに使った生地は、
材料を混ぜるだけなので簡単ですが、
専用の陶器のボウルに詰めて、
長時間、蒸すのがひと苦労です。
昨年、ロンドンの友人が送ってくれた
彼女のママのレシピでは、
蒸し時間は、なんと4時間。
さらに半年以上、涼しい場所に吊るして干し、
食べる直前にまた温かくなるまで
数時間蒸すというのです。
いったいいつ作って、どこに干せばいいの?
暑くて湿気の多い東京で、
半年もおいて大丈夫だろうか‥‥。
もう少し手軽なレシピもあるけれど、
なかなか手強い。
北国のどこかに物置を借りて、
漬物小屋ならぬ、プディング小屋を作ろうか。
そんな妄想はふくらむものの、
試作すらままならず、挫折のくり返し。
以前、ロンドンのある店で見つけた
クリスマスプディングは、
プディングの入った陶器のボウルを
白いモスリンでふわりと包み、
素っ気ないタグをつけたシンプルさで、
造り物の柊の飾りや
クリスマスカラーのリボンもなく、
モスリンの柔らかな白さが際立っていました。
ガーゼのように薄く柔らかい
モスリンの布は、イギリスでは、
赤ちゃんのおくるみに使われるコットン。
そんなクリスマスプディングに憧れて、
ロンドンの生地街で
イメージ通りのモスリンを探し、
抱えて持ち帰ったのは、もう数年前。
今年こそは、いや、来年こそは‥‥。
出番を待つ白いモスリンを
横目で眺めながら、
寒い12月も、慌ただしく
過ぎ去っていきそうな気配です。
ロロスツイードのこと。
ノルウェー中部のロロス村。
海抜600メートル、冬はマイナス40度にもなるという
世界遺産としても知られる小さな村で、
「ロロスツイード」はつくられています。
無農薬の牧草で育つ羊の新毛(ニューウール)をつかい、
北欧で唯一、国内で紡績(糸づくり)をしている
関連会社のラウマ社とともに、
染織、機織りまでの製品化の工程を
グループ内で一貫しておこなっているロロスツイード。
その織物づくりの歴史は、
18世紀にまでさかのぼります。
ロロス村はもともと銅鉱山の町として
1644年から333年にわたって栄えてきました。
そんななか、18世紀に、鉱山管理者のヒョルト氏が、
まずしかった村の人々のための基金を設立。
それをもとでに、村人たちは
ウールなどの手織りの仕事をはじめます。
それが伝統的に受け継がれてゆき、
個人宅での手織り仕事をグループ化して、
まとまった販売所をもうけるというかたちで、
1938年にロロスツイード社が誕生しました。
そして1952年には織機を使っての工業生産を開始。
そうして現在のような、世界的に評価される
ロロスツイードがつくられるようになったのでした。


▲ノルウェーにあるロロスツイードの工房
原毛は「ノルウェージャン・ホワイトシープ」から。
無農薬の牧草を食べて育った
健康な羊たちから、春に刈り取った毛をつかいます。
この羊毛のいいところは、
水に強く、かつ、繊維の回復力が高いこと、
そして柔らかさも兼ね備えていることです。
織り上げた生地は、お風呂くらいの温度のお湯で洗浄、
乾燥ののちスチームとブラッシングを繰り返して、
ふんわりと起毛させることで、
ほどよいボリューム感がありながら、弾力性にとみ、
防寒・保温性ばつぐんのツイードがうまれます。
ロロスツイードの魅力は、品質だけでなく、
そのデザインにもあります。
ブランケットなど製品のデザインは、
基本的に社内のデザインチームが行ないますが、
ノルウェーを代表するような芸術家たちとの
コラボレーションも数多く手がけています。
もちろん、長く愛されている定番的なデザインもあります。
品質そして色とデザインのよさ。
これは、冬がながく厳しいノルウェイで、
家の中でたのしくあかるく暮らしたいという
ひとびとの気持ちから、来ているのかもしれません。

▲「ヴィンタースコッグ」(Vinterskog)という
ロロスツイードを代表する「もみの木」柄。
ROROS TWEED
ブランケットと湯たんぽ
陽だまり。
毛糸玉。
やかんの湯気。
ぶあつい靴下。
マグカップに入ったミルクティ。
雪柄のミトン。
キャンドルの炎。
空気も地面も冷たくなる、
こんな季節はやっぱりあたたかいものが恋しくなります。
今週のweeksdaysは、
ロロスツイードのブランケットと湯たんぽ。
色は、森のような深いグリーンと
部屋も気持ちも明るくしてくれる赤の2色です。
湯たんぽをかかえて、
毛布にくるまりながら、
読書したり映画を観たり。
寒い日が待ち遠しくなる、
ぬくぬくのアイテム。
冬仕度にいかがですか?
ちいさな革のトートバッグのコーディネート
ワンピースをさらりと一枚。
それに気に入りのバッグと靴。
そんなシンプルなよそおいが好きです。
今回、バッグと合わせたこのワンピースは、
さらりと一枚着ただけ‥‥なのですが、
ふわりとした袖やスカート部分のフレアのラインなど、
細かい工夫がところどころに感じられるもの。
シルバーにもよく馴染み、
ニットの質感をさりげなく引き立たせてくれています。
そこに合わせたのは、赤いショートブーツ。
少しだけクリスマスをイメージしたのですが、
明るめのブルーとか、
きいろなどのブーツでもよさそうだな、と思いました。
シルバーって、懐の深い色なのです。
バッグの持ち手に、
しなやかな素材のスカーフを結びました。
間口が空いているので、
スカーフを目隠し代わりにしても。
容量はたっぷりながら、
合わせる服によって、
ちょっとした夜のお出かけにも合うのも
このバッグのいいところです。
黒とグレーで統一したコーディネートを、
シルバーがまとめてくれる。
バッグを主役にした着こなしです。
清楚な水玉ワンピースを着る時は、
髪をしゅっとひとつにまとめて。
ふだんは小さなバッグを合わせるところですが、
今日はシルバーのバッグ。
バッグとファーのコートに目がいくから、
アクセサリーもつけません。
マットなシルバー、やわらかな質感のワンピース、
ふかふかファー。
色や服の形だけでなく、
「質感」のコーディネートもたのしんでくださいね。
(伊藤まさこ)
菊池亜希子さんとちいさな革のトートバッグ
シックになったり、カジュアルになったり。
このバッグ、持つ人によって
ずいぶん印象が変わりそうだな、
できあがった時にそう思いました。
あの人が持ったらどんな感じになるのかな?と
想像するのはたのしくて、
友人たちの顔を思い浮かべてはひとりでニヤニヤ。
おしゃれって、たのしいものですね。
weeksdaysでこんなバッグを作ったんだ、
と“あっこちゃん”こと菊池亜希子さんに報告したら、
「すてきなバッグ! 持ってみたい」とのお返事。
どんなコーディネートで
来てくれるのかなとたのしみにしていたら、
わー、全身まっ白でした!
「まっ白いコーディネートがもともと好きで、
モヘアとかコットンとか、いろんな質感の白の延長に、
シルバーのバッグを合わせたらきれいだなと思って」
あたり一面銀世界っていう景色が好き、
というあっこちゃん。
今日のテーマは雪の結晶とか、ゆきんこ、なんですって。
ギャザーがたっぷりよった
白のコットンパンツに古着のモヘアのセーター。
その袖口から出たブラウスのフリルがかわいい。
「襟とか袖とか、どこかにどっさり
フリルをこぼれさせるのが好きなんです」
ところで、
シルバーのバッグを
いくつか持っていると言っていましたが?
「基本的にマットなものとか、
もけもけした質感のものが好きだけど、
それだけだとなんだかケモノ的すぎるというか、
森の中の住人っぽくなってしまうので、
時々ツヤりとしたものや、
キラリとしたものが欲しくなることがあるんです。
そんなときにシルバーをひと匙足したくなります。
ゴールドより、そういった有機的な質感のものに
馴染む気がします。光とか水の輝きに近いからかな」
主役というより、あくまでひと匙、ひとつまみ、
味をひきしめる感じ、なのだとか。
さりげないシルバーづかい、参考になります。
「マチが大きくて、荷物が見やすいカバンには、
ストールとかを目隠しがわりに乗せることが多いけど、
わたしのストールは大抵フリンジとか
タッセルが付いているので、
このシンプルなバッグからはみ出ていたら
かわいいなと思いました」
ほんとうだ、
毛糸のポンポンがちょっと出ている。
ところどころで「ゆきんこ」が見え隠れしています。
かわいいけれど、シックでもあって
大人っぽいんだけど、お茶目なところもある。
さすがのおしゃれさん、なのでした。
(伊藤まさこ)
田中真理子さんとちいさな革のトートバッグ
おしゃれな人の定義は、
流行りに敏感とか、スタイルがいいとか、
そういうことではなくて、
なにより一番は
「自分に似合うものをよく知っていること」なのだと思う。
編集者の田中真理子さんとは
15年以上前からの知り合いですが、
その当時からずっと、ご自分にぴったりな
「真理子スタイル」を築いてらっしゃる。
まっ赤な丸襟のシャツとか、
だぼっとしたパンツとか。
おおっ! という新鮮な色づかいや、
私には着こなせなさそうな形の服をさらりと着こなす。
私のずっと先を歩くおしゃれのセンパイです。
「自分の持ってるバッグのほとんどが四角」
とおっしゃる真理子さん。
「しかも縦横の比率はだんぜん横長で、
ファスナーや蓋つきはほとんどなし。
色や素材は、様々なんだけど、
そこが共通しているところかな。
トートの延長でえらんでいるのかも。
だから、このバッグも最初見たときに、
いいなって思ったんだ」
古着のネイビーのニットに、
白いコットンのギャザースカート。
首元にはショッキングピンクのマフラー。
シルバーのバッグをお届けしてまだ間もないというのに、
もう完全にご自分のものにされているではありませんか。
「シルバーもいい。ピカピカしてないから、
グレーに近い感覚で持てて、白より私にはなじむと思う。
横長好きの私にもこのバッグの縦横比率は新鮮です」
でも、ですね、と真理子さん。
「口がしまらない分、たしかに緊張感もある。
持ちやすいか、っていうと
もっと持ちやすいものはあるかもしれない。
安全かというと、もっと安全なものはあるかもしれない。
いろんな場面に使えるか、というと、
A4サイズの書類は、とび出ちゃいますしね。
でも、そういうのは持ってるし、
このバッグ、他のバッグが持っていないものを
持ってますから、それでいいんです」
そうそう、私もひとつのバッグにすべての要素は求めない。
かわいければいいんじゃないの。
持っていてうれしければ、それでいい。
分かってくれて、うれしいなぁ。
「新鮮とか緊張感って、おしゃれにはとても大事。
持つと気分が上がるもの、着ると気分があがるもの、
そういうものを一つは身につけていたいです」
この日、散歩がてら真理子さんと近くの公園に行きました。
ネイビーのちょっとごわっとした
厚手のコットンのコートと、
足元はコム デ ギャルソンとドクターマーチンが
コラボレートしたという黒いごつめのタッセルつきの靴。
バッグの中を見せていただくと‥‥
わー、かわいい。
黄色いマフラー、ピンクの携帯カバーとエコバッグ。
「マフラーとか手袋とか、
冬の小物は派手めなものが多いので
そういうのを上にちょこんと乗せて見せられるのも、
うれしいです。
このバッグ、東京の街の今年の冬のお出かけ用になりそう」
なんてうれしいお言葉をいただきましたよ。
(伊藤まさこ)
シルバーの革のバッグ
曇った冬の空の下
ネイビーや黒など、モノトーンの服が多くなる冬。
コーディネートをあれこれ悩んだ末に、
よし、出かけようと鏡の前に立つと
「あれ?」
全身、なんだかくらい印象。
そんな時、ひとつ持つだけで、
モノトーンのコーディネートをかろやかに見せてくれる
バッグがあったらいいのにな。
そう思っていました。
素材は少しマットで
色は、はなやかさをプラスしてくれるものがいい。
形は少し変わった横長かな?
‥‥やがてできたのが、
このバッグです。
真横から見ると折り紙をパタンとふたつ折りしたような形。
でもマチがたっぷりあるから、荷物もたくさん入ります。
何よりうれしいのは、
コーディネートの主役になってくれるところ。
これさえ持てば、アクセサリーいらずなのではないかしら?
ちょっと曇った冬の空の下、
手元にシルバーのバッグはどうですか?
明日のLOOKBOOKをどうぞおたのしみに。
わたしのリースのかざり方
森のにおいを1日、感じていたいから
玄関ではなく、家の中に飾ることにしました。
場所はどこがいいだろう?
大きいのと小さいの、
よくばってふたつのリースが手元にある。
あっちをウロウロ、こっちをウロウロした結果、
大きい方はリビングのドアにかけることに決定。
少し明るめのグレーのドアと、
葉っぱと実だけの素朴なリースがなかなかいいじゃないの、
ひとり悦に入ります。
ドアを開け閉めするたびに、空気がちょっと動いて
リースが香る。
きらきらした街のイルミネーションよりも、
こんなクリスマスが私はだんぜん好みです。
小さな方は、テーブルの上においてもいい。
合わせるのは、ちょっとなつかしい感じの花柄のお皿。
リネンのナプキンと、シルバーのナイフ。
それから1ドルで買った古いグラス。
いつもと変わらぬセッティングでも、
まん中にリースがあると気分が違います。
食事が終わったら、リースは子ども部屋に移動。
ベッド脇のぬくぬくの座面の上におきます。
そう、壁に掛けるだけでなく、
こんな風に椅子の上や棚の上に飾ってもいいのです。
娘が「pomme(りんご)」と名づけたうさぎを
横においたら、
あたたかそうな空間のできあがり。
「子ども」というには、ちょっと大きすぎる娘だけれど、
いくつになっても、かわいいのが好きみたい。
あと何回、一緒に過ごせるのかしらね。
(伊藤まさこ)
木曜日のクリスマスイブ
私は木曜日が定休日の本屋で働いています。
大人の本ももちろんあるけれど、
絵本や児童文学をたくさん扱っている
子どもの本専門店です。
12月、クリスマスが近づく木曜日に店を閉めていると
私はそわそわとしてどこか落ち着きません。
定休日というのはわかっているのだから
わざわざ閉まっているだろう店を尋ねる人は
いないかもしれないけれど、
ひょっとしてクリスマスの贈り物の本を探しに来た人が
いたとしたらと考えずにはいられないのです。
うちは街中にあるので、他にも本屋はあるし、
今ではインターネットでいくらでも買えるのだから
きっと目当ての本があれば
手に入れることはできるでしょう。
けれどひょこりやって来てくれた誰かが
閉まっている扉の前で
がっかりして帰って行く様子を思い浮かべると
なんともやるせない気持ちになります。
そんな訳でなんとなく
12月の木曜日は店を開けてみるのです。
その年は12月24日が木曜日でした。
さすがに世のサンタクロースの皆さんは
早々とプレゼントは準備しているようで、
イブのその日はのんびりとしていました。
日も暮れてそろそろ店を閉めて
家に帰ろうかと準備をしていると
「まだいいですか?」
とお客さんが飛び込んで来ました。
「娘のクリスマスプレゼントに
ちょっと特別な絵本をあげたいと思うんですけど、
一緒に探してもらえませんか?」
とその人は息を切らしながら一気にそう言うと
すこしほっとしたようでした。
(うちは古いビルの5階なので
もし階段でいらっしゃればすぐにわかるのです。)
「もちろんです!」
と私は嬉しくなって
娘さんの年齢や
どんな本を最近は気に入って読んでいるのかなど伺って
気になる本を何冊かお見せしました。
するとその人が
「あ! この本、日本で翻訳されてたんですね」
と信じられないという風に一冊の本を手にとりました。
「私が子どもの頃
父親がアメリカ土産に
洋書のこの本を買って来てくれたんです。
もちろん英語はわからなかったけれど、
それはそれは夢中になって読んでいた
大好きな本でした。
いつの間にか手元から
なくなってしまっていたのに‥‥」
と懐かしい友達に再会したように話してくれたのです。
その本を包みながら
「ほうら、店を開けててよかったでしょう?」
とどこかでにんまりする自分がいました。
「やっぱりここに来てよかった」
と言ってくれたお客さんを見送りながら、
私も素敵なプレゼントをもらったような
気持ちになりました。
私は店を閉めてすっかり暗くなった道を
急いで家に向かいました。
今頃お腹をすかして
夫と子どもたちが待っているだろう、
夫は何かご飯を作ってくれているかもしれない
と考えながら‥‥。
本屋をしていると
クリスマスは自分の家や子どもたちのことはそっちのけで
ついつい店のことばかりになってしまいます。
けれど
「何か大切なものを届けたい」
という目に見えない想いのようなものがあるとすれば、
私が店や本やお客さんに向けているそれが巡り巡って
何処かから子どもたちに届けばいいのになぁと
都合のいいことを考えたりします。
街に溢れるクリスマスソングやイルミネーションに
少々うんざりするのですが、
たくさんの
「誰かに喜んでもらいたい想い」
が集まっているクリスマスの夜は
やっぱり特別な日なんだろうなと思ったりするのでした。
クリスマスとの戦い
高校生の頃、新しいカレンダーや手帳を手にするたびに
すぐ調べることがあった。
それは「バレンタインデーは何曜日か」である。
休日だとほっとした。
助かった。
学校に行かなくても済む。
でも、平日だと暗い気持ちになる。
自分がチョコレートを貰えるはずがない。
そう知りながら下駄箱を開ける時はどきどきして、
もちろん空っぽで、「ほら見ろ」と思う。
バスケ部のトースケと立ち話をしているところに
下級生の女子が近づいてきたら、素早く脇にずれる。
でも、そんなことしなくても
彼女のきらきらした目にはトースケしか映っていない。
終業のチャイムが鳴ったらすぐに下校だ。
もたもたしていて、何かを期待していると思われたくない。
だが、そんな脳内の戦いのすべては無意味。
私のことなんか誰も最初から気にも留めていない。
苦しかった青春のバレンタインデー。
でも、大人になってからのクリスマスはもっと厳しかった。
その日が何曜日でも逃げ場がない。
一年の中のただの一日に過ぎないのに、
どうしてこんなにも
自意識過剰にならなくてはいけないのか。
だいたい日本人は同調圧力が強すぎるんだよ。
もしも私が独裁者だったらクリスマスなんか‥‥、
とどんどん妄想が暴走してゆく。
会社にいる間はまだいい。
けれど、その日はやはりみんな早めに引き上げてゆく。
恋人のもとへ、家族のもとへ。
一人で残業する勇気はない。
でも、すぐに帰宅したら、
クリスマスなのにずいぶん早く帰ってきたな、
と家族に思われる。
ずっと独身で実家住まいの私のことを母は心配していた。
突然「結婚してくれる人はいないのかい」と訊かれて、
まさかそんな直球を投げてくるとは思わず、
ごくりと唾を飲んでしまったこともある。
仕方ない。どこかで時間を潰して帰ろう。
そう考えて会社を出た私は、気づくと銀座にいた。
どうしてそんな最前線に‥‥、と今考えても不思議だ。
たった一人でクリスマスと戦うつもりだったのか。
自分でもわからない。
寄り添う恋人たち、笑い合う家族たち、
そんな人々を見守る大きなクリスマスツリー。
逃げ場を失った私は、
ふらふらと高級時計店に入ってしまう。
よせ、やめろ。
自分で自分に豪華なクリスマスプレゼント。
それ、いちばんやばいやつだから。
でも、私には私の声が届かない。
アンティークの時計を買ってしまった。
チュードル・クロノタイム、二十六万円也。
店員さんは花のような微笑みを浮かべて
店の外まで見送ってくれた。
「ありがとうございました」。
美しい時計を腕に巻いて、魂が抜けた私は、
凍りつくような舗道を歩き、
路地裏の古いゲームセンターに入った。
もちろん、店内はがらがらだ。
でも、一人だけ、
トレンチコートの女性がテレビゲームをやっていた。
煙草をくわえたまま、敵の宇宙船と戦っている。
その無表情が美しい。
少し離れた席で、卓上に硬貨を積み上げて、
私も同じゲームを始めた。
ぴきゅーん、ぴきゅーん、ぴきゅーん、ぴきゅーん。
街中が幸せに輝くイブの夜、
私と彼女だけが地球を守っている。
あれから二十数年が経った。
あの時の腕時計はまだ実家のどこかにあるはずだ。
結局、一度もしていない。
クリスマスの季節になると、
ゲームセンターの彼女のことを思い出す。
幸せになっただろうか。
同志よ、あの夜、我々のおかげで
地球は、
人々の笑顔と安らかな眠りは守られた。
クリスマスリース
クリスマスリース
雪に見立てた綿、
モールでできたサンタクロース、
きらきらかがやく、まんまるオーナメント、
ツリーのてっぺんに飾る金色の星。
クリスマスが近づくと、
それらが一式入った箱と、
もみの木を母が準備してくれて、
私は自由に飾りつけをする。
オーナメントをもみの木にかけるたび、
あたりにただよう森のにおいをかぐと、
「ああ、クリスマスが来たんだな」
そう思う。
なつかしい子どもの頃の思い出です。
weeksdaysは、
そんな森の中の木や葉っぱや実を、
ぎゅっと集めたリースを作りました。
見るたびになんだかちょっとうれしくなる、
素朴であたたかなリース。
今年のクリスマスにいかがですか?
野田琺瑯
何かとせわしない毎日。
今日はごはんを作る気もおきないし、
かといって外に食事に行くのもめんどうだなぁ。
そんな時、ああ作っておいてよかった!
そう思うのが、
ひじきや切り干し大根の煮物、
青菜のおひたし、お出汁などなど。
お出汁でお味噌汁を作って、あとはごはんを炊けば
素朴だけれど、しみじみおいしい晩ごはんに。
また、仕事で家を留守にしなければならない時も、
冷蔵庫の中のおかずがあれば安心。
娘は小さな頃から、この地味なおかずが大好きなのです。
おかずはすべて野田琺瑯の保存容器に入れています。
まっ白な見かけがなにより美しいし、
匂いもうつらず、清潔。
一番上の取手つきのには2種類の味噌を。
2段目は、おかず数種類
(今日はひじきとれんこんの柚子胡椒風味のあえものと、
ささみと香菜のサラダ、青梗菜のオイル煮など)、
下の深くて大きなものには、
洗ってキッチンペーパーでくるんだ葉野菜や
ハーブを入れています。
この深型、大きさを持て余すかといえばそうでもなく、
ぬか床入れにもちょうどよい。
知人はふきんを煮沸する「道具」として使っていて、
なるほどと感心。
そう、琺瑯は火にもかけられるのです。
「冷蔵庫の中の様子は自分の頭の中の状態と一緒」
とは、家事の大先輩が言った言葉。
考えの整頓ができていない時は、
なんとなくごちゃっとしているし、
さえている時は、きちんとしてる。
理想は写真のようなこんな状態で、
開けた時に、
ずらりとまっ白な琺瑯の保存容器が並んでいるのがいい。
(伊藤まさこ)
柳宗理さんのデザイン
一人暮らしをはじめた時に決めたこと、
それは
「すぐにすべてがそろわなくてもいいから、
本当に気に入った道具や器を買うこと」でした。
とても小さな部屋でしたが、
目に入るものすべてが自分の気に入り、
というのがとにかくうれしかった。
まだスタイリストの卵だった20代の私の
なつかしい思い出です。
その時にそろえたのが、この5個のボウル。
大きなものは葉物の野菜をたっぷり使ったサラダに、
そのひとまわり小さなものは生クリームを泡立てる時、
小さなものは下ごしらえ‥‥と
私の中でそれぞれ用途が決まっていて、
手がそれを覚えている。
20年以上使って、
今ではなくてはならないものになりました。
重なった姿も、横から見ても美しい。
実用と美をあわせ持ったデザインは
いかにも「柳宗理デザイン」。
使うたびに「いいものだなぁ」と感じ入っています。
一人暮らしをはじめる年下の友人に
プレゼントすることもしょっちゅう。
私がそうであったように、
彼らもひとつひとつ、よい道具をそろえていってくれたら
いいなあと思っています。
朝食にかかせないのは、
ミルクパンと小さなフライパン。
これでチャイを作って、目玉焼き焼いて。
あとはパンがあればいい。
またお弁当を作る時にも重宝。
卵焼きを作ったあとに、ウィンナーを焼いて、
その横では青菜を茹でて、という具合。
ボウル同様、このふたつの道具も、
なくてはならないものになっています。
持ち手も、そそぎ口も、見た目のフォルムも
尖ったところがなく、やさしい印象。
柳さんのやさしい笑顔と
どこか重なるところがあるのです。
(伊藤まさこ)
リネンのキッチンクロス
旅先で、
かわいい柄や、めずらしい色合いの
キッチンクロスを見つけるたびに、
ついついうれしくなって買っていた時期がありました。
でもね、家に帰って使いはじめると、
なんだか落ち着かない。
いろんな国のいろんなキッチンクロスが大集合した様子は、
それはにぎやかで楽しくもあったのですが、
「うーん、なんだか自分の台所じゃないみたい」
とも思っていたのでした。
そこでえいやっと思い立ち、
fogのキッチンクロスにそろえたのが
今から15年くらい前のこと。
するとどうでしょう。
台所はたちどころにすっきり。
すると気持ちまですっきりして、
台所仕事がはかどるようになったのです。
以来、1、2年に1度、20枚ずつ買っては使って‥‥
今では私の台所に、洗いたてのこのクロスが
たっぷり用意してあるのは
見慣れた光景になりました。
fogのキッチンクロスはいろいろな色がありますが、
私は白か生成りのどちらか。
「前回白でそろえたから、今度は生成りにしようかなぁ」
という具合に、
どちらの色にするかはその時の気分次第で決めています。
白は、清潔を一番とする台所にぴったり。
ナチュラルなリネンの色そのままの生成りは、
入荷のタイミングでほんのすこしだけ
色のバラつきがあるのですが、
「ああ、今回のリネンは色白だわねぇ」とか
「前回より、ちょっとこっくりしている?」
なんて思ったりして、それもまた愛おしい。
もしも迷われたら、まずは2色そろえて使ってみて、
ご自分の台所に合う色を見つけてくださいね。
1日の終わり、
使い終わったリネンを洗って、干してから眠りにつきます。
1日のはじまり、
乾いたリネンをたたむところからスタートします。
私の暮らしにfogのリネンは、
なくてはならないものなのです。
(伊藤まさこ)
マルシェかご
はじめて行ったパリでとても印象的だったのは、
エッフェル塔でもなく、
おしゃれなパリジェンヌでもなく、
マルシェで見かけたパリの人たちの買いもの風景でした。
肉屋に八百屋、チーズ屋、パン屋‥‥
ずらりと並ぶ店の中に、
どうやらそれぞれの行きつけがあるらしく、
店の人とは顔馴染み。
くだものの匂いをかいで熟成具合をたしかめたり、
店の人におすすめの調理法をたずねたり。
おいしいもののためならば行列もなんのその。
パリの人たちはなんて食いしん坊なのだろう!
その中で、私の目を引いたのが
おじいちゃんが持っていた買いものかご。
持ち手はボロボロ、底の部分もやや擦り切れていて、
いったい何年使っているんだろう?
という年季の入った代物。
でも目を凝らしてよーく見ると、
持ち手に縫い跡がある。
そうか、大事に大事に使っているものなんだ!
そのおじいちゃん、
まわりにたがわぬ食いしん坊らしく、
あちらこちらで買い物してまわり、
かごをパンパンにして満足気。
一人で買い物にきていたけれど、
家にはおばあちゃんが待っているのかしら?
帰りがけ、マルシェの近くの荒物屋で見つけたのが、
さっきのおじいちゃんが持っていたようなかご。
大事に抱えて持って帰り、
買いもののおともはもちろん、
洗いたてのリネンを入れたり、
ピクニックに持って行ったりしたものでした。
weeksdaysでは、それよりもやや小ぶりのものと、
それよりもさらにひとまわり小さなもの、
2種類のかごを紹介します。
大きな方は、買いものかごとしてはもちろん、
根菜を入れて台所の床に置いたり、
ランドリー入れにしたり。
今だったらマフラーや手袋など、ぬくぬくしたものを入れて
クローゼットの整理にしてもいいし、
夏は、これを持って海なんかに行ってもいいなぁ。
夢は広がります。
小さな方は、こんな風にいただきもののりんごを入れて、
近くに住む友人へ、かごごとおすそ分け。
そうそう、その後その友人の家に遊びに行ったら、
子どもたちのおもちゃ入れになっていて、
なんだかうれしかった。
お姉ちゃんの方は、時々、買いものの時に、
お母さんを真似て
このかごを持って行くんですって。
いつか、
パリのおじいちゃんのかごみたいに、
「ぼろぼろになっても大切」みたいになるといいなぁ。
(伊藤まさこ)
毎日を機嫌よく。
朝起きたらまずは窓の向こうの空模様をたしかめ、
お湯を沸かします。
やかんから聞こえてくるシュンシュンという音に
耳を傾けながら、
さあ、今日は何からはじめよう?
家事と仕事の1日の段取りを考えるのです。
かご、
リネンのキッチンクロス、
ボウル、小さなフライパン、
琺瑯の保存容器‥‥。
家の中を見回してみると、
すこしずつ揃えた気に入りでいっぱい。
使いやすく、デザインも感じのいいもの。
それらに囲まれた私の暮らしは、
なかなか気分がいい。
今週のweeksdaysは、
私がずっと使っている道具を紹介します。
みなさんの定番になっているものもあるかと思いますが、
これを機会に、よさを見直したり、
買い足してくれたらうれしい。
毎日が気分よく、ご機嫌になる。
そんな暮らしの道具をどうぞ。
とにかく動いてみよう!
- 西田
- 消耗品のデザインって、
店頭でのアピール重視なんですよね。
トイレに置いてあること重視、じゃなくて、
店頭で目立つ派手さを求める。
だから家ではそれが邪魔になるんです。
しかもその強烈なパッケージが目に焼き付いて、
刷り込まれちゃって、
店頭ではそれを探すんですよね。
- 西尾
- ああいった消耗品は、
ドラッグストアやコンビニで
いかに目立つか、棚で目につくかっていうことを、
まず第一にしてパッケージを考えるんですね。
だから派手さの競い合いになる。
- 伊藤
- このモヤモヤした気持ちを持ってる人は、
多いと思うんですよね。
それを企業のかたが拾って、
シンプルなものを商品化してくれないかな。
- 西尾
- 派手なデザインの中に白いものがポンとあったら、
そっちのほうが目立つような気もするんですけどね。
- 伊藤
- そんなふうに変わっていくといいのに。
- 西田
- コンビニチェーンのテーマカラーは、
赤などの食欲を喚起する色を、
という鉄則があって、
青って絶対ダメと言われていたんです。
青い食べ物ってないから。
でも青で通したコンビニチェーンもあって、
しかも、やり通したら何とかなってる。
- 伊藤
- だからこれをどこかの大企業の社長さんが読んでて、
「よし、ワシが一肌脱ごう」
とか思ってくれればいいのにな(笑)。
- 西尾
- 「ワシ」っていう人、
今どきいないかもしれないですけどね(笑)。
- 西田
- でもまさこさん、
どんどん有名な企業にぶつかっていくのは
いいと思いますよ。
トイレットペーパーも、
ドライヤーも、スーツケースも。
- 伊藤
- 西田さんはほしいものはありますか。
あるといいのに、ないもの。
- 西田
- ぼくじゃないけど、
栗剥き器が欲しいって言ってる人がいたな。
リンゴ剥き器はあるのに、栗剥き器はないと。
- 伊藤
- あ、確かに。
栗、剝くのが嫌で、
生栗を買うのを躊躇しますよね。
サクランボの種取りはあるのにね。
- ──
- イタリアにもないのかな。
今の時期、刃物屋さん行くと
トリュフ用のナイフセットを売ってるくらいなのに。
- 伊藤
- ないと思う、わたしも見たことない。
- 西田
- 一応ね、ペンチのようなかたちのはあるんです。
でもなかなか使いにくい。
- 伊藤
- でもだからこそ、栗菓子が喜ばれているのかも。
もうひとつお聞きしてもいい?
ちょっと近所に軽めのご飯を食べに行く時って、
男の人って何を持つんでしょう。
携帯とお財布を入れるのに、かばんは。
- 西田
- コンビニはスマートフォンだけ。
電子マネー機能を使えばいいいじゃない?
- 伊藤
- もうちょっと遠くに行く時は?
- 西田
- ポケットに入れちゃう。
- 伊藤
- ポケット! カッコいいですよね。
- 西尾
- 僕はふだんはトートバッグですけれど、
休みの日はなるべくカバンを持ちたくないので、
なるべく手ぶらです。
- 西田
- 何か買っちゃったらどうするの?
- 西尾
- 何か買いに行くっていう時は、
ショッパー(買い物袋)も好きじゃないから、
買うことを想定したバッグを持っていきます。
でも買う用事が何もない時は、なるべく手ぶら。
- 西田
- 僕は小さいトートかな。
- 伊藤
- 好きなトートがあるの?
- 西田
- うーん、トートって、この職業、
何だかんだでもらうから、
山のように溜まるんですよ。
そういうもののなかから小さなものを使っています。
僕、休みの日に
スーパー銭湯に行くのが好きなんですけど、
スマホと本を持って、
併設の和食屋で本読みながらチビチビ、って時に、
いつも持っていくのはそんな小さなトートです。
それでじゅうぶん。たぶん、機能をつきつめていくと、
特殊部隊の用品に行き着いちゃうんです。
そのほうが強度もいいしね。
‥‥そうだ、男の軍物系はあるけど、
女性にはないでしょう?
化粧品ポーチに、英国特殊部隊のノウハウを!
超カッコよくない?
- 伊藤
- 「このごろのweeksdaysちょっとヘンじゃない?」
って思われちゃわない?
でもたしかに参考になるかも。
- 西田
- 特殊部隊の化粧品ポーチ(笑)!
- 西尾
- すごいな。あるいはミルスペックの(笑)。
- ──
- 米国国防総省の規格をクリア!
- 西田
- デルタフォース直伝の栗剥き器!
- 一同
- (笑)
- 伊藤
- もう! 何でこうくだらない話で
盛り上がるの!(笑)
でも勉強してみよう。
長い時間、おつきあいくださって、
ほんとうにありがとうございました。
- 西田
- いえいえ。またぜひお話ししましょう。
とにかくね、企業に連絡すると、
なぜそれが世の中にないのか、
すぐに理由がわかることもあるから、
訊いてみるといいと思うよ。
- 伊藤
- そうですよね。
- 西尾
- 僕はなんだか
行き当たりばったりですみません。
ありがとうございました。
- 伊藤
- いえいえ、とても楽しかったです。
ありがとうございました。
洗面所で考えた。
- 西田
- ただようするにさ、
トートバッグもチャックがないほうが
カッコいいわけですよ。
でも旅に出ると、チャックがいるんです。
倒れるし、飛行機で上に入れる時もそうだし、
あとものが見えてるからあぶない。
でもチャックがあるトートバッグって、
メッチャかっこ悪いでしょう。
そしてチャックが一方向しかついてないと、
出し入れがどれだけ面倒か。
そういう気持ちが分かってないメーカーが多くて。
日本で売れてるバッグメーカーだと、
日本の意見をすっごい取り入れるから
どんどんよくなるんですけど‥‥。
- 伊藤
- 「不便でもいいからカッコいいデザインを選ぼう」
ってことなんでしょうね。
- 西田
- あとズボンのポケットもさ、
座ったままで出し入れできるっていうことが、
旅だとけっこう大事で。
それでどんな座り位置でも
ものが出せるポケットがついているのは
軍パンなんだって気が付いて。
- 伊藤
- じゃあ今日の結論は、
軍に学ぼうってこと?
ちょっと待って。何か違う!
結論を出さなくて全然いいんです。
- 西田
- じゃあこんな話をしよう。
深沢直人さんっていうデザイナーの
講演会に行った時に、
すごく面白い考え方が2つあって。
1つは傘立てをデザインをするって
どういうことかという話。
深沢さんは玄関の床、壁際に
1本溝を掘るだけでいいと言うんです。
そうすると雨の日に人が来たら、
何も言わなくても傘をそこに立てかける。
それがデザインだって。もう1個、ガードレールの丸い筒、
そこに飲み終わりのドリンクが置いてあるんです。
人は捨てる場所に困った時に、
丸いものに合わせて置くと罪悪感がなくなると。
なぜかというと、
あるべきものをあるべき位置に
置いたように見えるから。きっと気持ちいいデザインというのは、
そういうことなんだろうと。
だからあんまり出過ぎた真似もしないけど、
ハマるところにピタッとハマるっていう、
そういうものがいっぱいあるといいなって、
今日、思いました。
- 伊藤
- たとえば、歯磨き粉のデザインも、
「何もなくてもいいのに」と思います。
それからそんなに大きくなくてもいい。
大きいとね、だんだん‥‥。
- 西田
- よれていくから。
デザインは何も書いてないのがいい、ということ?
- 伊藤
- いっそ。
そういうものを琺瑯のコップに入れれば、
洗面まわりもすっきりするかなと思ってます。
そういうものがコンビニで
買えるようになるといいなと思うんです。
それからわたしが常々思っているのは、
バスマット問題です。
バスマットって、何であのサイズなんだろう?
- 西田
- もっと大きくていいんじゃないかと。
- 伊藤
- 「ここからはみ出しちゃいけません」みたいな。
- 西田
- まさこさんはどんなものを使っているの?
- 伊藤
- わたしが使っているのは
100年前の厚手のリネン。
きっと台所で使っていたと思うのですが、
タオル地でなくても
マット代わりになるかなと思って。


- 西田
- それいい!
裸でその上に立ちたいです。
- 伊藤
- (無視して)こういうのでいいじゃない? って、
よく「weeksdays」のメンバーで
話しているんです。
何であの小さなサイズなんだろう。
- 西尾
- 僕たちの暮らしは、
洗面所が狭いんですよ。
だからバスマットも
ドアと同じぐらいの幅ですよね。
- 伊藤
- 西尾さんは今、何をお使いですか?
- 西尾
- 使わないんです。
- 伊藤
- え?
- 西尾
- 昔使ってたんですけど、
バスマットを洗うのが嫌で嫌で。
だからお風呂を出る時に、
きれいに足の裏を拭いて出ることにしたんです。
お風呂場のドアの前にタオルを置いておいて、
開けたらすぐ取れるようにしています。
- 伊藤
- そっか、使わないっていうのも手ですね。
不便に感じるなら使わない。
ほしいと思って探していくと、
いちど、ノーブランド商品に行き着きますよね。
- 西尾
- たしかに「デザインがシンプル」とか
「パッケージがない」ものって、
ノーブランド商品を探せばいいじゃない、
って思ってしまうのだけれど、
「でもそうじゃない」っていうところの感覚は、
ありますよね。
- 伊藤
- そうですよね。
- 西尾
- そうだ、僕、我慢できないものがありました。
トイレ用おそうじシートのパッケージデザイン。
スプレー容器の洗浄剤なんかは、
シールを剥がしちゃうんですけれど、
パッケージのプラスチックに
印刷しているものはどうしようもなくて。
- 西田
- 乾燥させないような
パッケージになっているタイプだね。
- 伊藤
- わたしは琺瑯容器に入れ替えています。
でも面倒くさいですよ。
- ──
- あんがいみなさん嫌だって思ってるんですね。
ジップロックに入れてるお家もありますね。
- 伊藤
- つまり、そんなふうに目につくのって、
消耗品なんですよね。
家具は好きなものを選べるけれど、
消耗品って、何でこのデザインなのかな?
というのがすごい多くて。
でもわたしたちの規模では、
ロットの問題があってつくることができない。