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旅の支度でわかること。

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西田
完璧な人生はないんだけど、
完璧なパッキングはあるんじゃないかと
思って僕は生きているんです。
11年間、年に2回、10日間、
ミラノ、パリに取材に行っているんですが、
旅って反省ばっかりなの。
ああ、あれ忘れたとか、
ああ、これがないって。
たぶん、旅がうまい人は、
部屋もきれいだし
生きるのも上手な気がする。
僕は基本全部持っていくタイプだったのが、
だんだんうまくなってきたんです。
伊藤
「あるもの全部持ってっちゃえ」だったんですね。
西田
日本人が整理が得意なのは、
居住空間が狭いからなんですよね。
アメリカに移住した友達の家に行くと、
部屋が余ってるんですよ。
その余った部屋にある程度きれいに並べておけば、
収納のこまかな工夫とか、要らない。
日本の収納って人間国宝級の技術ですよ。
こんなに片付けるのに命がけになる国民って、
僕らだけだと思うくらい。
──
「収納のプロ」や
「収納アドバイザー」がいますものね。
西田
だからこそ旅って、
いろいろ見えてくるなと思ってて。
伊藤
旅に出ると、
「なんだ、スーツケースだけで
生きていけるんじゃん」
みたいに思うことがありますよね。
「何なのわたし、この荷物でいいんだ?」
みたいな。
西田
そう、ほんとに思う。
だって旅してるあいだ、
別に苦労しないんだよね。
伊藤
そうなんですよ。
西田
ちなみに夫婦で
トランク1個だけで生きてる人っているんですよ。
アメリカ人と日本人の夫婦なんだけど、
家にあるものがトランク1個に入り、
そのまま旅に出られる、
けっこう様子のいいカップル。
伊藤
それが最終的には理想です。
西田
これ、何回も同じの書き直すんだけれど‥‥。
伊藤
うわっ、すごーい。
西田
すごいでしょ、変態でしょ。
伊藤
しかもちょっと可愛い。
西田
多分3種類しかないんですよ、
旅に持っていくものって。
服と、グルーミング系と、仕事の道具、
だけなんですね。
その他、細かいものはいろいろあるんですけど。
伊藤
でも服も、やっぱりお食事行く約束があったりとか、
コレクション見たりとかで、
編集長としてのTPOがあるから、
たいへんですよね。
ある建築家のかたは旅支度の時に、
1週間ぐらい前からスーツケースを開けておいて、
思いついた必要なものをポイポイ入れるそうです。
化粧品に関してはある料理家のかたは、
朝行く時に使ったものを入れておくと。
「それを全部もってけばいいんじゃない?」。
西田
ああ、いるいる。同じ人いる!
投げ込んでいくんだ。
西尾
それでも旅に行くと、1個忘れますからね。
西田
行ってきます、と玄関から外に出て
歩き出したときはじめて
「あ!」と気づく忘れもの、ありませんか? 
僕よく忘れるのは腕時計です。
あとときどき、ベルトを忘れます。
伊藤
歩いてる時落ちてくる、みたいな?(笑)
西田
ストーンと落ちて「キャー」とか言われます。
伊藤
そんなマンガじゃないんだから。
西田
でもほんと、旅に出ると
「ああ、忘れた」って気が付く。
2年ぐらい前に完璧なパッキングを
成し遂げたと思ったのに、
機上でパソコンを開いた時に、
ACアダプターを忘れたことに気付いた。
そんないちばん大事なものを忘れて、
爪切りとか綿棒は持っている。
まさこさんは、ふだんでも、旅先でも、
ものをなくしますか?
伊藤
なくさない。
西田
「あれ、あれ?」ってならない?
伊藤
よく玄関の前で、
鍵がないって言ってますけど。
西田
それはカバンの中で行方不明ってだけでしょう。
でも、そうか、ようは、
旅先で最大のパフォーマンスを発揮するには、
日常をそのまま持っていけばいいということか。
普段と変わらない部分を変えなければいい。
ということは、やっぱり
本来は全部持っていきたいよね。
いつもの洗顔料と違うもの持ってっちゃうと
「何か肌が気になる」って。
──
西田さんは旅先で洗濯をしない前提ですか?
西田
そうなんですよ。
選択はしてるんですけど、洗濯はしないですね。
なのに僕は、洗剤を持ってっているわけです、
完璧主義で。
──
つまりちょっと余るぐらい、
向こうで使わないものがあってもいい?
西田
でも完璧なパッキングの時は、余らなかったです。
西尾
現地で気分変わらないですか?
この服じゃなかった、
きのう着たやつをもう一回着たいと思ったり。
西田
そしたら僕、クリーニングに出しちゃう。
だってシャツとか洗濯してさ、
アイロンなんてかけられないもの。
西尾
えっ。アイロンかけますよ。旅先でも。
西田
あ、そうなんだ?
じゃあ、全然違う話なんですけど、
ふだん、カバンって変えます? 毎日。
伊藤
変えます。全部、出す。
西田
財布、どうしてます?
1回出しますよね、全部。家帰ったら。
伊藤
出す出す。
西田
オフィス行ったら?
あ、まさこさんはオフィスがないのか。
僕はオフィスに行ったら、
財布とか、全部出して箱に入れるんですよ。
で、しまうんです。
家に帰っても全部出して、セットします。
だって持ってきてるのかどうか
はっきりしないのは心配だし、
家に帰った時も財布の確認をするために、
場所が決まっていたほうがいいから。
でもね、ツイッターでアンケートとったら、
そんな僕は異常だと言われましたよ、
財布をいちいち出してしまうのはね。
伊藤
家はカバンを変えるから出すけど‥‥。
西田さんは普段から、
どこに何があるのかを把握しておきたいんですね。
西田
SASっていうイギリスの特殊部隊の本を読んだらね、
一番大事な仕事は、荷物の点検でした。
作戦の実行中でも、1時間か2時間ごとに、
あれがここに入って、これはある、
というのを確認する。
僕はそれと同じなんです。
特殊部隊と同じ。
一同
(笑)
──
『ミッション・インポッシブル』なんかで
彼ら肝心なところで秘密の武器を出して
ギリギリでやっつけたりするでしょう。
あるところにあるはずのものがなかったら、
死んでるシーンばっかりですよ。
だから完璧に準備ができてるわけですよね。
西田
だから目指すはスパイですよ。
特殊部隊、特殊まさこ部隊をつくろうよ。
伊藤
やだ、なにそれ、つくりたくない(笑)!
──
話がメチャクチャです(笑)!

こんなスーツケースがあったら。

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西田
「空想家電」というのを、
実はBRUTUSで連載していたことがあって。
西尾
それ何年前でしたっけ?
僕、大学生の頃、読んでました。
西田
90年代かな。
あと僕はね、博報堂のコピーライター時代に
日立の社内本を編集してたんです。
日立の社内本って30万部ぐらい出るので、
お題に答えてもらうアイデアコンテストをして、
実際にモックアップ(実物大模型)をつくったの。
たとえば「なんでも和風にしてみよう」で
ウチワ扇風機、とかね。
扇風機の羽が全部ウチワになってて、
置いてある時は日本の風情があって、
回ると意外に涼しい、みたいなもの。
伊藤
面白いですね。
西田
あるいは、
「何でも色を変えてみよう」ってお題の優秀回答が
「金槌をピンクにしてみる」。
そこで、ピンクのトンカチっていうのも試作しました。
重いんだけど、軽やかに見える、
可愛いんだけど重い、みたいな。
アイデアって、かたちにしてみないと
分からないことが多いんですよね。
伊藤
そうですよね。
それから、是非とも欲しいものがありまして。
これなんですよ。
西田
何かいい、それ。おっ。
伊藤
スーツケース・イン・スーツケース。
かたちはリモワを参考に描いています。
西田
すごーい、なるほど。
伊藤
行きに小さいほうのスーツケースに
入るだけの荷物を持ち、
大きなスーツケースの中に
入れ子にして持って行くんです。
涼しい顔して1個でチェックイン。
で、帰りはたくさんおみやげを買って、
大きいスーツケースも使って、
パンパンに荷物を詰めて帰ってくる、
お買い物好きのためのスーツケース。

この絵を娘に描いてもらったら
「こんなに買い物するのママだけだから」
って言われたんだけど、
でもわたしのまわりはみんな、
欲しい欲しい、って。
軽めのポリカーボネートで。
これ、よくないですか?

西田
うん、いい。今までなかったなと思って。
細かい話をすると、
センターの持ち手が邪魔だとか、
いろいろ出てきそうだけどね。
伊藤
まだ全然、細かい話はいいんです。
西田
は、はい!これ考えさせられるね、
向こうで1個安いの買えばいいのかな、
とも思うし。
伊藤
じつは、そうやってきて、
どうでもいいスーツケースが
家に増えるという状態がすごく嫌で。
西田
嫌だよね。あと、大小セットで持ちたいよね。
伊藤
使わないときの収納にもべんりだし。
西田
スーツケースメーカーに
言いに行ってみたらいいんじゃないかな。
ただもうひとつうるさいことを言うと、
小のほうが、相当小さくなりますね。
そしてこれの欠点はさ、ほんとは小が予備で、
大をメインで持ってきたいでしょ。
僕はそうしてるんですよ。
2つ持っていって、小さいほうをおみやげ用にしてる。
だから「こんなに買うのはママしかいない」って言われるんだね。
まさこさんはきっと、パッキングが上手なんだろうね。
伊藤
わたしの荷ほどきの様子を見て、
友人が驚いてました。
5泊7日の旅行で着るものを、
風呂敷包みひとつにおさめたんですよ。
そこにコート3着、ロングパンツを2枚、
ワンピースだのブラウスだのって。
「あり得ない量」って言われました。
西田
小っちゃくなってるの?
伊藤
パッキングは得意。
仕事でいつも何だかんだ、やってるからかな。
西田
風呂敷でやっちゃうんだ。
でも身の回りの道具もあるよね。
それもきっと最小限なんだろうね。
伊藤
そこは面倒くさがりで、
歯磨き粉もそのまま持っていっちゃうし、
化粧品も大きなボトルを持ってっちゃう。
だから、今つくっているんです、
「weeksdays」で基礎化粧品のトラベルセットを。
西田
すごいなあ。

毎日使うものを変えたい。

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伊藤
わたしたちがつくりたいと思ったのに
なかなかつくれないものっていうのを、
おふたりに見ていただきたいんです。
ジャーン。
これはトイレットペーパーです。
わたし、トイレットペーパーを買って、
帰るまでの家路が嫌なんですよ。
西尾
分かります!
伊藤
でもこんなデザインのものが
コンビニに置いてあったら、
普通に買いたいな、
と思うものをつくってみました。
これはある大きな企業に
企画を持っていったんですが‥‥。
西田
どんな理由でダメだったの?
伊藤
こういうものって、大工場で
大量生産をする商品なんですね。
生産ロットを組んで、
全国のコンビニエンスストア、
スーパーマーケット、
ありとあらゆるところに配り、
足りなくならない量をつくりつづけ、
供給が足りなくならないよう、
倉庫を持って管理している。
その中に、これを特別につくるラインを
組み込むことはできないし、
それ用の倉庫を持つこともできない。
OEMだったらできますよって言われましたが、
そうすると高価で手に入りにくいものになる。
普通に買える価格で
どこでも手に入るものとして、やりたいんです。
西尾
僕もトイレットペーパーを買いに行く時だけは、
黒い大きなバッグを持っていきます。
買い物の道すがら、駅前を通るので、
そこをトイレットペーパーを持って
歩きたくないなって。
確かにスーパーからそのまま持って帰れる
デザインのトイレットペーパーって、
あったらいいなあ。
西田
トイレットペーパーって、
袋に入れてくれないものね。
西尾
パッケージがむきだしなんです。
西田
「matsukiyo」のトイレットペーパーが、
パッケージのデザインを変えて話題になったね。
「何枚重ね」とかそういう言葉を排除して、
ラジカセの写真とかがプリントされていて、
持って歩くのが楽しい、というような。
たしか海外のデザインの賞を受賞してました。
伊藤
そういう動きはうれしいですよね。
でもわたしたちがほしいものとは、
またちょっと違うんです‥‥。

そしてこちらは、ボックスティッシュです。
「真っ白」のものは、世の中にあるんですよ。
でもそれはちょっと質感が、
わたしのほしいものとは違う。
マットな(つやのない)ものがいいなって。
「じゃあティッシュカバーや、ケースを使えば?」
と言われるんですが、それも好きじゃないんです。
毎日つかうものなので、
できればそのままつかえるものがいい。
おふたりは、どうなさってますか?
わたしはそのまま見えないところに
置いているのですが‥‥。

西田
ティッシュなんていつでも
側にいてほしいものじゃないですか。
見えないところに置くと不便でしょ?
伊藤
たいへんなんです、
いちいちそこに行って、戸棚開けて、
西尾
戸棚に入れてるんですか?
伊藤
戸棚に入れてる場合もある。
西尾
僕もカバーやケースは使わないです、嫌いだから。
そしてトローリーの中段にスポッと差してます。
でも伊藤さんと同じで、取りに行かなくちゃいけない。
西田
うちは、バンダナを巻いてます。
家の人が巻いてるんだけど、
バンダナじゃなくてスカーフかな。
伊藤
なるほどね、すごい。ビックリ。
でも基本、そのままは、嫌なんですね?
たしかにほんとうは
ティッシュは寄り添ってほしいですよね‥‥。

そして、こちら。こんどは電化製品です。
「ハンドフリードライヤー」。

西田
ああ、置いて使うタイプだね。いいね。
伊藤
いいでしょう?
何でつくってくれないんだろう。
だって、五十肩になるかもしれないし、
置いてあったほうがラクなのに。
西田
“三十”肩ね。
伊藤
(笑)ありがとうございます。
こうなってたら‥‥。
西田
本も読めるし、
携帯で電話しながらでもいいし、
ご飯食べながらでもいいよね。
伊藤
そこまでじゃなくてもいいです(笑)。
ここは充電もできて、ビッて取れるの。
充電台にもなり、ハンドフリーになるっていう。
西田
あ、抜くこともできるってこと?
ここが充電台なんだね。素晴らしいじゃない。
でもドライヤーで使うパワーを
充電するのってたいへんだと思うよ。
バッテリーが相当大きくなっちゃう。
伊藤
そうか。なるほど。
西田
もうちょっとなのに、
風が来なくなったら嫌でしょう。
──
糸井はせめてコードのグチャグチャが
なんとかなればいいんじゃないかって言ってました。
あのだらしないコードが
シュッと収納できたらいいですよね。
西田
昔の電話みたいな
クルクルタイプになればいいのにね。
今なんであのクルクルがないんだろう。
電線的に問題があるのかな。
伊藤
あれ可愛いのにね。
西尾
しかもドライヤーって置き場所がないんですよね。
西田
まさこさんは、ダイソンは持ってないですか?
伊藤
持ってないです。
やっぱりあれはいいんですか?
西田
あれはケースがあるんです、半分開いてて。
西尾
でもいちいちケースに入れるの、難しくないですか?
西田
それが嫌だったら、台の代わりに、
滑り止めみたいなゴムのシートがあるから、
それに置いとくわけ。
そこが常に置き場所になるんですよ。
ポンと置いとく。ずれない。
でもそういえば、コードがぶっといなあ。
──
やっぱり、相当な電力、使うんですね。
西田
だから充電はたいへんなんじゃないかな。
伊藤
実は、ある電化製品の会社に
つくってもらえないか交渉に行ったんです。
西田
おお! そしたら?
伊藤
開発に何億円もかかりますって言われちゃいました。
西尾
ティッシュペーパーとか
トイレットペーパーもそうなんですけど、
つくりたいものをつくりたくても、
結局ロットや予算の問題に
突き当たっちゃうんですよね。
僕も2年ぐらい前かな、
海外の日用品を買い付けて
サイトで売るという特集を組んだことがあるんですが、
何か別注をつくろうと思っても、
その最小ロットがたいへんな数になってしまう。
「こういうものがほしいな」っていうのは、
わりと思うことはあるんですけど、
それが日用品であればあるほど、
実現がすごくたいへんっていうことになるんですね。
伊藤
そうなんですよ。糸井さんからも言われました。
「虎屋で100個、
特別なお菓子をつくるのは、
今は簡単なんだよ。
逆に、誰もが食べるチューインガムを、
100万個つくるぐらいのことも考えなくちゃ」
って。
西田
それにこの面白さが
ついてくるんだったらすごい!
伊藤
そうしたいんですよね。

ことばを信じる。

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伊藤
企画を思いつくのって、
どういうことからなんですか。
西田
天才編集者の西尾さんはどう?
西尾
なにをおっしゃるんですか。
伊藤
でもほんと、西尾さん、どうしてるんですか?
編集長が「これだ!」って言うんですか、
それともみんなから出てきたものを
「お、いいんじゃない?」って?
西尾
今のところ、僕は編集長になってまだ‥‥。
西田
ほんの3日ぐらいだものね。
西尾
そうですね、3日(笑)‥‥まだ半年なので、
今のところ僕が「特集はこれ」と決めています。
一応企画会議はありますが、
企画会議から特集案件をそのまま拾うことは、
今のところ、ありません。
どう思いつくのかは‥‥、うーん?
西田
でも編集長1年目って、
多分、全部自分の企画ですよ。
西尾
西田さんもそうでしたか?
西田
うん。3年目ぐらいで、
やりたいことを1回吐き出しちゃうと、
衝動ではつくらない企画も出てくるんです。
僕は編集長になってから
BRUTUSを300冊ぐらいつくりましたが、
衝動的にやりたいことが300もあるやつなんて、
いないわけで。
やりたいことは、1年23冊でぜんぶ出ちゃう。
たとえば‥‥お魚、ソウル、インテリア、
お金、アウトドア、植物、福岡、公園、
廃校、グルーミング、刀、ファッション、
旅、洋菓子、札幌、映画、家具、
読書、コーヒー、日本絵画、芸能誌、
そんなふうに過去1年、向こう1年の予定が、
目の前のパソコンにガーッて並んでるわけです。
担当は1冊つくればいいんだけど
編集長は前後を見なければいけないから、
ときどき「あれ? この街に行ってない」とか、
「肉が足りない!」「そろそろ本読みたい」
とかが見えてくる。
それで調整をします。
それだけだと思うんですけどね。
だから編集長って
「思いつく」というよりも、
どっちかというと「並べる」仕事ですよ。
この順番でこのタイミング、っていうのが大事です。

あとは切り口。
BRUTUSの企画だって、
「映画」とか「本」って特集ジャンルだけで見たら、
凡百(ぼんぴゃく)じゃないですか。
それをどうするかだけど、
「危険な読書」
「今さら見てないと言えない映画」
って切り口にするから面白いんであって。
映画、本、旅、ファッション、
たとえば「福岡」「札幌」みたいのだって、
別に素材そのものは新しいものではないですよ。
それをどうやるか、
どのタイミングでやるかが面白いんです。

西尾
確かに、ネタはあっても、
どうやるかが一緒にセットにならないと、
特集にならないですよね。
伊藤
雑誌の場合は、買って読んでほしい、
わたしたちの場合は、買って使ってほしい。
でも「売れること」ばっかりに縛られるのではなく、
最終的に売れたね、よかったね、
というふうにならないと、よくないなと思っていて。
だから今どんなものがみんなは欲しいのかなと思ったり、
ちょっと休みたい気分だったらお茶なのかな、とか。
西田
それ、雑誌と似ていますよ。
タイミングを考えることも、一緒です。
ちがうのは、どんな動きをしても
最終的に二次元になるっていうのが、
本や雑誌ですよね。
伊藤
わたしたちは最終的にお客様に届けるものは
「モノ」なので、webでの伝え方がやっぱり難しいです。
手触りなどを確認していただけないし。
色も、デバイスやモニタで違って見えちゃう。
西田
でもね、ラジオショッピングのほうが、
テレビショッピングより返品が少ないって話を、
以前、聞いたことがありますよ。
伊藤
へえー!
ことばで伝えるからでしょうか。
西田
ラジオで伝えるほうが、
期待度が一致するんですって。
テレビだと、おおげさなリアクションに魅かれて、
ほんとの良さが分からないままに買う人から
クレームが来るんだけれど、
ラジオはことばで理解したものと
来たものが同じっていう意味で、返品が少ない。
「ラジオのほうが買いたくなるかどうか」は別にして、
じっくりことばで聞いたほうが、
こういう商品だなって思うことが
きちんと伝わってるって意味で、
すごく面白いなあと思ったんです。
西尾
昔の単行本や文庫本を、
タイトルを伝えずに
キャッチフレーズだけで魅力を伝えて、
すごく本を売ったっていう話も聞きました。
伊藤
「weeksdays」だったら、
一週間、いろいろな人に
そのアイテムの魅力を伝えてもらい、
写真を一切載せないで販売をする、
というようなことですね。
西田
料理なんかは、今、完全に映像と写真ですよね。
でも本当の素晴らしいレシピっていうのは、
文章だけのレシピです。
──
はい、大事なのは文章だと思います。
西田
ところがそのレシピ文の文化もなくなってる、日本では。
伊藤
そのレシピの文章も、
わりとフォーマットにのっとったみたいな、
西田
そうそう、専門家がいるんだよね。
でもね、ほんとうは、研ぎ澄まされたことばで、
7つくらいの手順が1行ずつ書いてあるだけでも、
きちんと料理はつくれるはずなんです。
そしてその前につける一文が、
ほんとは大事だと思っていて。

じつはBRUTUSでレシピ集をやりたいと、
もう5年ぐらいずっと言ってるんです。
全部モノクロで、こんな分厚くして、
その代わり、全部文字で写真なし。
これがね、どうしても通じないの。

ひとつ例を言うとね、
ココアのつくり方なんですけど、
30分以上かかるんですよ。
その前に何て書いてあるかというと、
「バイト先の喫茶店のマスターが、
店が終わった時に学生アルバイトにいつも出してくれた、
時間がかかり過ぎてお店では出せないココア」。

伊藤
飲んでみたい!
西田
もうたまらないじゃないですか。
それでオッケーじゃないですか。
そういうレシピだけを集めた本をつくれないか。
有名シェフの「最後まで迷ったもう一個の味」とかさ。
一同
おおおおお。
西田
そういうのが100個あったらできるね、
企画になるんじゃないのって言ってるんだけどね。
伊藤
それはぜひとも読んでみたいです!
いいレシピ本って、そのレシピには書かれてない
行間が分かるというか、
これとこれの間にこれをしてるんだな、とわかりますよね。

ところで‥‥編集長のお仕事は
とってもお忙しいと思うんですけど
時間のやりくりってどうされているんですか?
お忙しい中で、最終的に、
あのクオリティに持っていくというのが不思議で。
それでも、これ売れるぞ、って自信満々なのに、
え? ぜんぜん売れなかった、みたいなこととか、
その逆もありますよね。

西田
雑誌の売れ方が変わってきて、
ここ3~4年は思いもよらないことが多くなってきました。
増刷になったらどうしようって
寝る時考えるような本が、ダメでガックリとか、
そこそこだといいな、と思ったら
あと伸びして化けちゃったり。
伊藤
「福岡」特集もすごかったですよね。
西田
福岡って全国のアイドルだったんですね。
福岡のメディアのかたがたから
「話、聞かせて」って、
新聞3紙、ウェブ4、テレビ2、
久々にそんなにインタビューを受けました。
福岡ってコンパクトシティなのに、
書店が170もあるんですよ、
小さなお店やコンビニも入れて。
だから、本が売れやすいの。
それでも売れ行きは「後伸び」でしたよ。

編集長という仕事。

未分類

伊藤
あったらいいのに、
自信を持ってお勧めできるのに、
なぜつくれないんだろう、というものが、
「weeksdays」を始めてから、たくさんあるんです。
実際にいくつかの会社に相談をして、
実現に至らなかったものもあって、
そういう、卵にもなっていないようなアイデアを、
聞いていただきたいというのが、
今回の座談会の主旨です。
あわよくばこのコンテンツを読んで
「うちでつくりましょうって」
ってどこかの企業のかたが
言ってくれたらいいのに、って。
よそでこっそりつくられちゃうかもしれないけれど。
西田
あれば嬉しいのだから、
つくられちゃってもいいわけですよね?
伊藤
でもね、自分たちに「こうじゃないと!」
というところがあるので、
それを実現させたいな。
ちゃんと気に入るものをつくりたいんです。
──
ですから、この座談会は、
「weeksdays」の未来を
見据えたものになるといいなあと。
それでお二人に来ていただきました。
伊藤さん、なぜお二人に?
伊藤
BRUTUSの西田編集長と、
Casa BRUTUSの西尾編集長は、
わたしがいま読みたい雑誌をつくってる人なんです。
そしていまわたしは「weeksdays」の
編集長的な仕事をしていますが、
あらためて「雑誌の編集長」という仕事の
すごさ、たいへんさに驚いているんです。
わたしは、こんなふうに
チームで動くのも初めてでしたし。
西田
著者でいるよりもたいへん、ということですか。
伊藤
はい、たいへんですね。
コンテンツをきちんと売上に結びつけていきたい、
という思いもありますし。
西田
なるほど、それはいままでとはちがう
たいへんさでしょうね。
──
「著者」としての伊藤さんだったら
知らなくてよいことも、
すべて共有していますから、
その情報整理だけでもたいへんだと思います。
あそこに連絡したとか、
この価格はどうなっているだろうとか、
発注数はどうしましょうだとか、
著者だったら「そこは僕らがやります」という部分も、
全部伊藤さんが知っておく必要があるので。
バックヤードの全ての情報が
つまびらかにされています。
西田
じゃあ、僕らより細かいことやってるんだ!(笑)
伊藤
そうなんですか?
たとえば企画書を書きますよね。
それで取材の対象の相手に送りますよね。
それも任せてますか?
西田
任せてますよ。
西尾
もちろんそうです。
誰にお願いするかは、もちろん分かっているけれど。
西田
まさこさんは、全部自分でやってるの?
伊藤
最終的に書いて送るところは
お任せするんですけど、
「どういうふうにお願いをしようか」
というところから、一緒に考えます。
西田・西尾
ああー!
伊藤
「weeksdays」は立ち上げたばかりでしょう、
わたしが受け手だとしたら、
急に知らない編集部から連絡が来て、
「伊藤さん、ひとに任せっきり?」
と思われたくないな、と。
西田
ああ、そうか。
まさこさんは、ずっと、自分の名前で
仕事をしてきたから、そう思われるんですね。
ぼくらは、「西尾マガジン」でも
「西田マガジン」でもないからさ。
伊藤
でもやっぱり先頭に立って
「ついてこい!」でしょう?
西田
うーん?
どちらかというと「行ってきてね!」ですよ。
後ろでこう(胸の前で小さく手を振る仕草)、こうやって。
伊藤
そんなふうにはぜんぜん見えません!
西田
僕はそうなんですよ。
伊藤
それとね、おふたりに来ていただいて
こんなことを言うのもなんですけれど、
わたし、昔ほど雑誌を買わなくなったんです。
西田
それは僕も同じです。
買わなくなりましたし、読まなくなりました。
以前は何誌も何誌も読んでたけれど、
今はしません。
西尾
西田さんはdマガジンも読んでないですか?
西田
読む時はありますよ。
ニュースになっている
文春や新潮の話とかは読みますよ。
他の雑誌は、読みたければ買うけれど、
それは電子版か紙版かは関係ないかな。
──
つまり興味の持てない特集の号は読まなくてもいい、
それはBRUTUSが毎号まったくちがう
特集を組まれるのと、
なにか通じているかもしれませんね。
西田
でも、毎回切り口が同じ雑誌は、ないでしょう。
ファッション誌なら、
ファッションという大きなテーマがあるけれど。
伊藤
でもたとえば、数号に1回は収納の特集があるとか、
そういう実用系の雑誌はたくさんありますよ。
西田
何回かに一回はこのテーマを、っていうことだね。
そういう意味ではBRUTUSは毎号変わります。
ただ、特集が毎回違うことは、
そんなに特別なことじゃないんです。
だって「毎回変えればいい」だけの話だから。

それにね、昔、こういうふうによく言っていたんですが、
総合婦人誌ってありますよね、
こんなに(むかしの電話帳のように)分厚くて重い雑誌。
あのなかには、旅も本も映画も料理もスイーツも、
和装も洋装も、能の特集も歌舞伎も、
生け花もインテリアコーディネートも
文学も映画も、毎号、入っているでしょう?
BRUTUSはね、それを横に切って、
1冊にしているだけなんです。
1年あつめて1冊にしたら、総合誌です。
でもスライスすることで、すこしだけ、
深めることができる。
月刊誌は年に12冊ですが、
BRUTUSは年に23冊、
そうスライスしているんです。

かごのつきあいかた

未分類

野沢温泉のあけびのかごがそうであったように、
どのかごにも、
作られた土地ならではの気候や風土、
人々の暮らしが背景にあります。

最初は「かわいい」という、
ただそれだけの理由で買っていたかごですが、
ルーツを探ってみると、
それぞれとても興味深く、
知れば知るほどまた好きになる。
それの繰り返しで、
いつのまにやら家にはたくさんのかごが集まりました。

作られた国はばらばら。土地もいろいろ。
値段も数百円から、ちょっといいブランドの小さなバッグが買えるくらいのものまで。
でもどれが一番大切ということはなく、
どれも大切。

たとえばダイニングに置いているこの竹のかごは、
岐阜の山の中をドライブしていた時に見つけた
「売っているものすべてが埃まみれ」というかんじの
古道具屋で手に入れたもの。
店主に何に使っていたのかたずねてみると、
「それは炭入れだねぇ」とのこと。
中に貼られた和紙がまっ黒だったのはそのせいなんだ。
家に帰って、ぬるま湯につけ、
中の和紙も、編み目につまっていたよごれも
すっかり取り払ってこざっぱりさせて。
まさか、囲炉裏の横に置かれていたこの炭入れが、
今ではMacの充電器が入っていようとは、
編んだ人も使っていた人も
想像もしていなかっただろうなぁ。

小さな栗のかごは友人のバスク土産。
こまごましたものを入れて、
掃除道具と一緒に台所の壁に。
最後の編み手と言われる、
このかごを編んだおじいちゃんだって
日本や北欧の箒やほこり取りと一緒に置かれているなんて、
想像もしていないだろうなぁ。

偶然が重なってひとつの家に集まってきたかご。
たくさんあってもうるさい存在にならないのは、
「好き」という私の基準以外に、
自然の素材を使ったくらしの道具だから、
というのもあるのかも。
だってどのかごも、
ちっとも出しゃばらず、気取らず。
どこかひかえめな顔をしていませんか?

さて、かさばるかごの収納ですが、
私の場合は「置けるところならどこでも」
というかんじです。
たとえば冷蔵庫やワインセラーの上。
たとえばクローゼットの空いた部分。
食器棚の中にも、バスルームの扉の奥にも。
ワインセラーの右下の竹かごの中には、
ひとまわり小さな竹かごが。
入れ子にできるものは、
なるべくして全体のかさを減らしています。

それから、よく聞かれるのは手入れの方法。

古道具屋や蚤の市などで買ったものは、
じゃぶじゃぶ洗ってしまうこともありますが、
それはかなりの荒治療。
ふだん少し汚れが気になるくらいだったら、
固めに絞った布で拭いてみてください。
それからよく乾かすこと。
からりと晴れた日は、
こんな風に風通しのよいところに置いて。

ある職人さんはこんなことを言っていました。
「長持ちさせたかったらとにかくよく使うことだね」って。
大切だからとしまいこまず、とにかく使う。
なるほどなぁと思った、説得力のある言葉でした。

高校生の時に出会った柳のかご。
そこからはじまった私のかご収集ももう30年。
これからもっと増えるのか、
それとも少しずつ淘汰されていくのか?
これからの自分の変化が楽しみでもあります。

かごをさがして信州へ。 後編 アメ色に変わるかご。

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あけびのかごに使われる蔓は、
奥信濃の標高500~800メートルの山地で
自生する落葉性つる植物から採ります。
その弾力性のつよさ、丈夫さから、
江戸時代に「背負い篭」などの生活必需品として、
また「花篭」「鳩車」などの工芸品に使われました。
大正時代にはあけびの篭のトランクやバスケットが
旅行用品として人気にもなったそうです。

蔓を取るのは、毎年10~11月。
春から秋にかけて生長した蔓を採集し、
手入れをしてから家の中に吊るして保存します。

「製白蔓」をつくるためには、
温泉に浸けて表皮をやわらかくし、剥ぐ必要があります。
野沢温泉には、「麻釜」(おがま)と呼ばれる
源泉湧出地があります。

▲「麻釜」までは、坂道をのぼっていきます。
今回お世話になった「三久(さんきゅう)工芸」の
久保田敏昭さんが案内してくださいました。

▲着きました。「麻釜」は国の天然記念物。
地元の人以外は、使うことができないそうですよ。

「麻釜」は、あけびの蔓などの
工芸専用というわけではなく、
湯温の高い「大釜」や「茹釜」(90度)では
山菜、野菜、卵などを茹でるのに使われています。
あけびの蔓を浸すのは、70度ほどの「丸釜」。
根曲竹やあけびの蔓などの工芸品の材料のほかに、
むかしは蚕具の消毒にも使われたとか。
それより少し高温の「竹伸釜」や「下釜」もあり、
この5つの「湯だまり」を総称して「麻釜」と呼びます。

▲敏昭さん、「こんなふうにやるんですよ」と、丸釜へ。

▲よいしょっ。

▲40分ほど浸すそうです。

さて「三久工芸」さんのあけびのかご。
使う蔓に均質ではない個性がありますし、
型を使わずに編むため、
ひとつひとつに異なる味わいがあります。

皮をむいた「製白蔓」のいいところは、
軽さとなめらかさ、だけではなく、
虫がつきにくいことと、
使っていくうちに出てくる艶にあります。
使い込むと、こんなふうに色が変わっていくんですって。

▲左が、できたばかりのかご。右は、三久工芸のおくさまのもので、
10年ほど経ったもの。「これは毎日使っていたわけではないんです。
もし毎日使っていれば、5年くらいで、
こんな色になるんじゃないかしら」

「ああ、二十代のうちに買っておきたかった。
そうすれば、いまごろ、
うんと艶のあるかごが、たのしめたのになあ」
‥‥と、伊藤さんの買い付けに同行した
「ほぼ日」乗組員(50代女性)の声でした。

ところで、この「あけびのかご」、
手入れはどんなふうにしたらよいのでしょう?
まず、基本的には「ブラッシング」。
汚れても水洗いはせずに、乾いたたわしなどでこする。
そうすることで使い込むほどにきれいな艶が出てきます。
そのためには、できるだけまいにち使うのがおすすめ。
使わないときは風通しのよい場所に置いてくださいね。

そんなふうにしてつくられた「あけびのかご」。
入荷数がとても限られていますので、
抽選販売とさせていただきます。
どうぞ、ご検討くださいね。

かごをさがして信州へ。 前編 「赤棒」と「製白蔓」。

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伊藤まさこさんが
かごの買い付けに出かけたのは、
寒さのきびしい2月のことでした。

東京から松本、戸隠へ、そして野沢温泉へ。
それは「生活のたのしみ展」の、仕入れの旅でした。

松本や戸隠で仕入れた竹かごは
「生活のたのしみ展」で販売をするために。
そして、つくるのに時間のかかるあけびのかごは、
できあがるのを待って「ほぼ日ストア」で販売をしよう。
そんな計画を立てたのでした。
あけびのかごを待っているあいだに、
伊藤さんと「ほぼ日」は
「weeksdays」を立ち上げました。

そうして訪れた冬の野沢温泉。
訪ねたのは、「三久工芸」さん。
さんきゅうこうげい、と読みます。

ここのかごと伊藤さんの出会いは
いまをさかのぼること十数年前。
松本の民芸品店で
伊藤さんがひとめぼれし、購入したかごがありました。
編み目のうつくしさ、形の安定しているところ、
持ち手のじょうぶさ。
あけびの風合いをいかして、表皮をつけたまま編む
「赤棒」とよばれるそのかごは、
伊藤さんの日々のくらしでも、
そしてスタイリングの仕事でも、
ずいぶん活躍したといいます。

そのかごが野沢温泉の「三久工芸」で
つくられていることを知った伊藤さんは、
それから、幾度か野沢温泉を訪ね、
三久工芸に足を運びました。
そこは、三代目になる久保田敏昭さんと、おくさま、
そして敏昭さんの弟さんである直昭さんが切り盛りする、
ちいさな工房でした。

▲こちらがご当主の久保田敏昭さんです。

「あけびのかご」は、正確には
「あけび蔓細工」といい、2つの種類があります。
自然そのままの風合いをいかし、
赤茶色の表皮をつけたまま編まれる「赤棒」(あかぼう)、
表皮を温泉で剥いて編まれる「製白蔓」(せいはくづる)です。
一般的によく見られるのは「赤棒」。
伊藤さんが最初に買ったのもそちらでした。

そのうち「製白蔓」の存在を知り、
つるつるとした気持ちのよい手触り、軽さ、
年月を経て変化していくようすに、
さらに惚れ込んでいったといいます。
今回「weeksdays」でご紹介するかごは「製白蔓」です。

▲表皮をむいた「製白蔓」は、こんなふうに白くなります。

じつは、野沢温泉では、この「製白蔓」のほうが、
よく知られ、使われてきました。
ふるい謂われでは、田んぼ仕事のとき、
馬鍬(まぐわ)に引っかかっても切れない
強い蔓があり、それを調べてみたところ、
皮のむけたあけびの蔓だったと、
そんなお話に由来しているのだそうですよ。

(後編につづきます)

あけびのかご

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あけびのかご

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「なんてきれいなんだろう」
民芸品屋でひとめ惚れし、
抱えて帰ったあけびのかご。

素朴な質感ながら、
たたずまいはとても端正。
使っているうちにどうしても
編んだ方にお会いしたいと、
野沢温泉に久保田敏昭さんをたずねて行ったのが
今から10年ほど前のことでした。

山から採ってきたあけびのつるを
温泉にひたしてやわらかくしてから編む。
久保田さんの案内で、
街やお仕事場を見て回るうちに、
あけびのかごができあがるまでの背景には、
その土地ならではの気候や風土が
欠かせないものだということが、
わかったのでした。

weeksdaysで今回ご紹介するのは、
ふだん見慣れている、
つるをそのまま編んだものではなく、
外側の皮を取り除き、中の芯で編まれたかご。
皮を除くことで、軽く、虫もつきづらくなると言いますが、
とても手間がかかるため、
この方法であけびのかごを編んでいる方は
今は久保田さん以外ほとんどいらっしゃらないそう。

使うほどに味わいも、
愛着も増していく久保田さんのあけびのかご。
着物姿にもぴったりです。

冬だからこその、おしゃれ。

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伊藤
先日の「ZORI」も、
日本からアイデアを出したと聞いて、
すばらしいなって思いました。
ほかの人が考えたことを、
ミヒャエルさんたちが商品化するなんて、
trippenの25年で初めてなんじゃないかしら、
っていうぐらい、
すごいことなんだろうなと思っていたんです。
中村
そうかもしれません。
三好
おっしゃるとおりです。
伊藤
あれは世界でも売れたんですか。
斉藤
この夏にドイツのお店に並んでいたんですけれど、
ベルリンのスタッフには、あのサンダルを
普通の洋服に合わせるというような感覚が
まだ浸透できてないところがあると感じました。
伊藤
違和感があるのかしら。
斉藤
でも、面白いものだから、きっと今から
みんなに広まっていくと思うよ、
というような段階でした。
伊藤
マルタン・マルジェラが
地下足袋をモチーフにした靴を出したとき、
わたしたちはびっくりしたんだけれど、
逆に西欧のひとたちには面白がって
すんなり受け入れられたりしましたものね。
中村
そうですよね。
でもファッションブランドと比べて
「してこなかった」こともあるんです。
それは、セットアップで、モデルさんを使って
履いたときの全身のイメージを伝えること。
斉藤
あまり見たことがないですよね。
毎シーズン、目に見えるわかりやすいビジュアルを
打ち出しているわけではない。
中村
これをどう履くのか、ということを
どんなふうにみんながイメージしてくれるかなと。
モードの服が好きなお客様はどう履くかなとか、
カジュアルなお客様はどう履くかなって、
想像するのも楽しかったりするんですけど‥‥。
三好
だから「weeksdays」での
伊藤さんのスタイリング写真を、
私たち、ほんとうに歓声をあげて見ていたんですよ。
とってもうれしくて。
伊藤
ありがとうございます。
そんななか、先日は
「マームとジプシー」という劇団と組んで、
「BEACH」という公演をなさったり。
衣裳としてだけじゃなく、
まるで大事な登場人物であるかのように、
trippenの靴が登場していました。
あの取組みは、どんな経緯だったんですか。
三好
マームの舞台衣装も手がけていらした
スタイリストの大森伃佑子さんが紹介くださって、
そうしたら主宰の藤田貴大さんが
もともとtrippenを知っていらして、
展示会に遊びにきてくれたんです。
そこで展示会をみてその規模感に驚かれて。
それで衣裳提供という枠を超えた取組みになりました。
斉藤
『ロミオとジュリエット』という、
大森伃佑子さんが衣装を担当された舞台で
trippenを使っていただいたのが最初ですね。
藤田さんはじめ女優のみなさんも
本当にtrippenがお好きということで、
そこからご縁がひろがりました。
伊藤
そのお芝居を観に行ったとき、
客席の三好さんたちが本当に温かい目で、
まるで子どもを見るような目つきで観てらした(笑)!
──
今回「weeksdays」で扱うのは2種類、各2色、
4つの靴ですね。
そのお話も伺っていいでしょうか。
中村
まず、かかとのない靴ですが、
trippenのフラッグシップ的な靴である
「Yen」のかかとがないバージョンなので、
「HALF-YEN」っていうんです。
三好
そのうちの1足は白い靴ですね。
ウインター・ホワイトという言葉がありますが、
皆さん黒っぽい服を着るなかで、
足元の白い人がいたら、さぞや‥‥!
伊藤
きっと目立ちますよね。
しかも中敷がシープスキンのファーで、あたたかい。
一見、サンダルなんですけれど、
全身冬らしい白のコーディネートで違和感がありません。
中村
サンダルとかオープンの靴を
夏だけじゃなく、長く履きたいという声は、
昔からあったんですよ。
そういうかたには、ソックスをレイヤードにして、
あたたかくしてサンダルをどうぞ、
という提案をしてきたんですが、
今回はこんなふうに靴自体があたたかいものができて。
斉藤
ドイツって冬がとても寒いんですが、
このインソールができたのは、
社長のミヒャエルの息子さんが
「足先が寒い」と言ったことがきっかけなんですって。
クローズドコレクションと呼ぶ定番系のシリーズなら
中敷を交換して履けるんです。
三好
でもサンダルで使うという発想はなかったので、
この「HALF-YEN」を提案したのは日本からなんですよ。
やっぱりかかとがないと寒いって思うみたいで。
伊藤
私は違和感がないですよ。
これ、素足で履きたいな。
家で仕事をするときのルームシューズにしてもいい。
斉藤
もちろん素足でも!
三好
タイツでもかわいいですよね。
中村
そもそもこの「HALF-YEN」自体が
ファーじゃない、通常の中敷のタイプで、
2019年春夏のコレクションなんです。
それに先行して日本で出るわけです。
伊藤
わぁ、うれしい。
──
きっと飛行機に乗るときもラクでいいですよね。
機内で足がちょっとむくんでも大丈夫だし、
セキュリティチェックで靴を脱ぐのもラクだし。
伊藤
そしてもう1種類はブーツです。
中村
「SWIFT」という名前です。
伊藤
こちらは最初に紹介いただいたとき
「走れるブーツです」っておっしゃっていました。
こんなにかかとがあるのに走れる!
斉藤
そうです。走れますよ。
伊藤
シュッとしたデザインも素敵だし、
なのに、すごく安定感があるんですよね。
斉藤
ソールを見ていただくとわかるんですが、
足の動きにそって曲がるようになっているんです。
そしてアスファルトを模ったような
ユニークな着地面です。
このソールが発表されたときに、
最初にできたデザインの靴がこの「SWIFT」なんですよ。
中村
しかも一枚革。
伊藤
どうやって作っているんですか、これ?
中村
1枚の革を木型に嵌めてグッと形をつくって、
下から中底に向かって縫い込んでいくんです。
デザイン自体、本当に独特ですよね。
しかも今回別注で選んでくださったのは、
この靴が発表されたときの
記念すべきテーマカラーなんです。
「シャーク」という色ですが、
ブラウンのようにも見えるし、
そこにブルーをまぜた茄子紺のようにも見える。
三好
trippenの革の色は複雑なので、
だから服に合わせやすいんです。
しかもかかとを覆う革のカットがきれいで、
かかとに向かって斜めに低くなっていることで、
脚長に見えます。スカートにも合わせやすいですよ。
斉藤
もう1色、白を選んでくださったのも嬉しかったです。
中村
白の革靴は「汚れるから」と敬遠なさるかたも
いらっしゃるんですが、
履いてみるとわかるんですが、そんなに汚れません。
汚れても基本的にふつうの革靴と同じ手入れで大丈夫。
クリームの色は気をつけていただきたいですが。
伊藤
trippenの靴の話になると、止まらない(笑)。
多くのかたのところに届くといいなと思っています。
三好
ほんとうに!
伊藤
みなさん今日はありがとうございました。
またご一緒できてよかったです。
これからもどうぞよろしくおねがいします。
中村
こちらこそありがとうございます。
斉藤
ひきつづきよろしくおねがいします。
三好
またぜひお声掛けくださいね。

履きやすさと、かっこよさ。

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伊藤
日本でできあがったイメージがある、
ということですけれど、
たとえば雑誌のファッションページに
trippenの靴を貸し出すことが
きっと、ありますよね。
日本ではどんなコーディネートが多いのかな。
外国とはちがうのかしら。
なにか、傾向があるんですか。
三好
国によっても媒体によっても
だいぶ違うので一概には言えませんが、
日本の場合、trippenのイメージは
「ちょっとほっこり」とか、
「コンフォータブル」なイメージが強いんですね。
trippenをご存知のかたは、
実はすごくデザイン性が高いブランドであると
理解してくださっているんですが‥‥。
伊藤
そもそも、なぜ「ほっこり」のイメージが?
中村
「森ガール」が流行した頃に、
そういうスタイリングで取り上げられることが
多かったんです。
寒くて靴下を重ねばきするのに、
trippenのブーツならすぽっと履けるよ、って。
三好
「冷え取り」の方に、
今でも絶大な人気があるんですよ。
伊藤
なるほど、たまたま「森ガール」だったから、
ほっこり系のオシャレに馴染んで、
それが広がっていったんですね。
中村
ミヒャエルたちは、
trippenのデザイン性の高さは、
ほかのデザイナーズブランドに対しても
アプローチできるものであるという
信念があるんです。
でもそれとは別に、ほっこり部分というか、
コンフォタブルな部分というのが、
日本の中だけで広まっていった。
僕らは、両方がデザインの中に含まれてこその
一つのブランドであるというのを
ちゃんとミックスして説明をしたいと考えています。
伊藤
いわゆるモード系、
ハイファッションとも合わせられますよね、
trippenの靴は。
中村
はい。実際、そういう服のお好きな方たちにも
選んでいただいています。
伊藤
そういえば、たしかに私も
最初のtrippenのイメージは「ほっこり」でした。
でもtrippenのプレスの仕事を
三好さんと一緒になさっている
岡本敬子さんに誘っていただいたのがきっかけで、
デザイン性の高さに目が行くようになりました。
三好
私も実はそう思っていたほうなんです!
それが展示会であれだけの数を見たときに、
すばらしいデザインが多いことを知って、
「何これ?!」って。
伊藤
三好さんは、中村さんや斉藤さんよりは遅く?
三好
そうなんです。縁があってプレスを担当して、
まだ6、7年なんですよ。
trippenだけでいうと、
今年に入ってから正式に着任しました。
伊藤
そうなんですか!
三好
それまではもう1名、男性のプレス担当がおりまして、
彼がずっとtrippen畑でした。
私は弊社で扱っているブランド全般の
プレス統括を担当していたので、
trippenは彼と一緒に、というスタンスだったんです。
しかも本当に詳しいことはこの2人にお任せ、
みたいな感じだったんですけど、
あらためて関わってみたら、
彼らの言うtrippenの世界観が、
なかなか伝わっていないんじゃないかなと思って、
積極的に打ち出そうとしているところなんですよ。
岡本敬子さんは専門学校の同級生という縁で、
外注でプレスの仕事をお願いしているんですが、
彼女から広がる世界にもとても期待しています。
trippenには、「ほっこり」のイメージからは遠い、
レディ・ガガが履くような
造形的な靴があったりしますから、
そういうことも伝えていきたいなって。
伊藤
ファーがついているものとか、ありますよね。
三好
そうなんです。「これ履けるの?」みたいなのに、
履くと「カッコいい! しかも歩きやすい」となる。
そのことが「何これ?!」だったんです。
展示会では岡本さんと2人で履いて、
「ぜひ見てください!」みたいに接客します。
そうするとみなさん「履いてみようかな」って。
伊藤
まさに私もそうでした!
三好
展示会にいらっしゃるみなさんは、
同時期に、ほんとうにたくさんの
洋服や靴、バッグなどを見て回られているので、
「また靴? 履くの面倒くさいなぁ」
なんていう気持ちにもなると思うんです。
でも1足履くと「え、履きやすい」「カッコいい」、
そして「もっと履きたい!」ってなってくださる。
そうして、最初のころよりもずっと、
長い時間をかけて見てくださるようになりました。
いま、trippenのイメージが、
「ほっこり」から「かっこいい」に
徐々に変化していっているように思います。
中村
たしかにそれまでは「trippenといえば、これだよね」
というほっこり系のものが選ばれる傾向にあったのが、
三好と岡本敬子さんがプレスに携わるようになってから、
ファッションの世界の人たちに広がるようになり、
選ばれるものに幅が出るようになりましたね。
斉藤
本当に幅広くなりましたよね、最近。
伊藤
だって、オシャレですもの。
三好
オシャレです!
「weeksdays」で扱ってもらえたのも
私たち、ほんとうに嬉しいんですよ。
伊藤
こちらこそ。
中村
弊社でも、インターネットでの販売が
盛り上がってきた時期に考えたんです。
世界ではこういうものを販売しているのに、
「日本だけこうです」というのは違うだろうなって。
僕らがもっとやらなきゃいけないことは、
海外のデザイナーが考えてること、
発表しているアイテムを、
もっと素直にダイレクトに
表現していくということなんじゃないかなと考えて。
それで10年ほど前から、
展示会のやり方も変えて、
いまは海外と同じような大きな規模感で、
いっそ海外よりボリュームを持って発信しています。
伊藤
そういうことも中村さんと斉藤さん、
そして三好さんが加わって、変化してきたんですね。
中村
はい。もちろんそれを考えるにあたって
デザイナーであるミヒャエルがいて、
アンジェラというキュレーションを強烈にしてくれる
人間がいたので、彼らと相談をして、ですけれど。
その頃から日本のtrippenと本国のtrippenが
親密になっていった。お互いが近づき合って。
伊藤
本国とのやりとりはおもにメールで?
斉藤
はい、メールです。
もちろん半年ごと、コレクションの発表のたびに
ドイツに行って、彼らが発表するとき説明を直接受けます。
最近はもう誰よりどこよりも早く、
現地スタッフと同じタイミングで
聞かせてもらえるようになったんです。
そのときに「日本ではどう?」という話もします。
「そういう見せ方をするなら、
これは君たちで選んでみたらどうかな?」とか、
「こういうふうにすればいいんじゃないか」って。
伊藤
輸入会社というよりも、
もうtrippen日本支社みたいですよね。
斉藤
もう本当にそれぐらいの感覚でいます。
そうやってやってきたことが彼らに伝わって、
一緒に表現しようという感覚に
なってくれてると思うんです。
アイテムにしても、私たちが選ぶものを
「やっぱりそれを選んだ! じつはこれは、
君たちなら選ぶなと思ってつくったんだよ」
と言われたこともあります。
それくらい日本のことを彼らもわかってくれている。
三好
デザイナーたちの、この2人に対する信頼は厚いです。
私もこれまでたくさんの輸入ものを扱ってきましたが、
ここまで信頼されているのは
ちょっと見たことないぐらいです。
どの海外ブランドもそうですが、
日本で「こう展開したい」というときの
本国へのアプルーバル(許可、認可)の取り方って、
本当に細かくやらないといけないんですけれど、
trippenは「任せるよ」みたいなところがある。
伊藤
関係がそこまでできているということですね。

「大好き」が仕事に。

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伊藤
前回の夏もの、今回の秋冬もので
いっしょに仕事をさせていただいて感じたのですが、
皆さんの、trippenへの愛情って
すばらしいと思うんです。
そもそも、どういう経緯で
trippenの仕事をすることになったのか、
聞かせていただけますか。
中村
三者三様なんですが、
僕は大学生のときから
trippenの販売に携わっていました。
伊藤
えっ、そうなんですか!
学生のときに。
斉藤・三好
一緒に働いているのに、知らなかった!
中村
あまりこういう話、みんなでもしないから(笑)。
僕、もともとスニーカーが大好きで、
スニーカー販売のアルバイトをしていたんです。
その当時、ラフォーレ原宿が勤務先でした。
そこにtrippenのお店があったんです。
それを見て「何だ、この靴は?!」って。
スニーカーとは違う。
革靴なのに斬新で、ほかにないデザイン。
なおかつ、話を聞いてみたら、
すごく歩きやすくできていると知りました。
むくむく興味が出て、
その場で、2足買っちゃったんです。
そして、履くうちに惚れ込んでしまって、
「ここで働きたいです」と志願して、
アルバイトに入り、卒業と同時に就職しました。
だからぼくの社会人生活は、ずっとtrippen畑なんです。
伊藤
学生のときからだから、数えると‥‥。
中村
もう約20年って感じですね。
それで15、6年前から卸売のお客様、
セレクトショップの担当になりました。
最初の頃、ひとりで日本全国を担当して、
ほぼ全都道府県を回っていたんですよ。
僕の仕事は日本で誰よりも先に
そのシーズンのすべての品番を確認することです。
全部を自分の手で触って検品します。
三好
彼は、これまでに生産された
2500の品番をだいたい覚えているものだから、
trippen本社から
「あいつの知識は半端ないぞ」
みたいに言われているほどなんです。
本当に詳しい。
斉藤
「この品番なんだっけ?」なんて、
海外から聞かれたりするほどなんですよ。
伊藤
中村さんって、「weeksdays」の別注をつくるとき、
「この靴にこの革は合わせられるかな」とか、
「このソールの色は替えられるのかしら」なんて、
ふと尋ねても、
「これは○○年のもので、この革じゃないと」とか
「この硬さの革はこのソールとは難しいんです」と、
すぐに返ってくるんです。
もしかしたらtrippenの年代や品番が
すべて頭に入っているんじゃないかしら?
って、いつも、思っていました。
廃番のないtrippenでは、
品番がどんどん増えていくでしょうに。
すごい!
中村
いえいえ、とんでもないです。
伊藤
いずみさんはいかがですか?
斉藤
私は学生の頃から洋服の販売員をやっていました。
はたちの頃から洋服一筋だったんです。
縁あって「Harriss(ハリス)」というブランドの
福岡店のオープニングスタッフとして
参加することになり、
その後1年半で東京に転勤になりました。
trippenはもともと好きで、
「Harriss」とは日本では
同じ会社で扱っているという縁があるものの、
ふつうの「ファンのひとり」だったんです。
それが、中村に指名してもらい、
「Harriss」から異動して一緒に働くことになりました。
‥‥どうして声をかけてくれたんだろう?(笑)
中村
trippenには「バイイング担当」という
位置づけの人がいなかったんですよ。
それぞれの店舗について在庫の投入具合を見たり、
売り上げの管理をしたりという人間はいたんですけど、
「バイイング」を特化してできる人いなくて。
伊藤
「バイイング」というのは?
中村
「買い付け」なんですけれど、
ドイツでつくられるtrippenの靴から、
日本向けのアイテムはどれだろうと選ぶこと、
そのときに「売れるかどうか」だけじゃなく、
trippenの世界観を
きちんと伝えることができることが大事なんです。
そして同じ国内のtrippenでも、
所在地によって売れ筋もちがうので、
その個性を把握して「この靴を置いたほうがいい」と
考えられる人が必要だと思っているんですね。
それは「センス」‥‥と言ってしまうと
一言で終わってしまうんですけど、
やっぱりいろんなファッションの情報を知っていたりとか、
感度、アンテナを持っていたりとか、
常にそういう環境にいる人じゃないと
難しいなと思っていたんです。
で、この人しかいないって思って。
たまたまタイミングというのかな。
斉藤
それが2010年くらいですね。
伊藤
シーズンごとに発表されるtrippenの靴の
何パーセントぐらいが日本に入ってくるんですか。
中村
全部入ってくるんですよ。
伊藤
じゃ、そこから何を選び、
その数量をどうするかみたいな?
斉藤
はい。それがわたしの重要な仕事のひとつです。
中村
そして、全体のバランスをどうするか、ですね。
伊藤
地方によっても違うということですけれど、
それも面白いですよね。
斉藤
ソールの形状ひとつとっても、
西のお客様と東のお客様で好みが違ってくるんです。
けれどもそういうマーケティング的なことだけではなく、
あくまでもやっぱりドイツでつくられる
彼らのコレクションをどう表現するかが大切です。
日本でできあがった「trippenのイメージ」だけが
独り歩きをしないように。
伊藤
「日本でできあがったイメージ」って?

trippenの冬の靴

未分類

冬の足元

未分類

冬の足元、さあどうしよう。
そろそろそんなことを考える季節ではないでしょうか?

あたたかくて、歩きやすくて、
見た目ももちろんかわいくて。
weeksdaysでは夏につづき、
冬に履きたい靴をtrippenと考えました。

ひとつは“The trippen”とも呼びたくなる
「HALF-YEN」。
内側はもこもこ、
かかとがない分、厚手の靴下やタイツと合わせても
きゅうくつさを感じさせない。
何より、ちょっと動物っぽいころんと丸い形がいい感じ。

もうひとつは、
すでに私自身、2足持っていて
冬には欠かせなくなっているブーツ「SWIFT」。
今季は欲張って、
weeksdaysのオリジナルカラー2色を作りました。

履くほどに自由になる。
気持ちも足取りも軽くなる。
trippenの秋冬の靴。
どうぞおたのしみに。

みんなの「かご」の使い方。2 草場妙子さん編

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ヘアメイクの草場さんの仕事を間近で見ていると、
感心することがたくさんあるのですが、
その中でも毎回すごいなぁと思うのが
メイク道具の管理です。

使い終わったものは、
入っていたパッケージに戻し、
さらにそれをきちんきちんと仕分ける。
荷物はけして少なくはないと思うのですが、
どこに何が入っているかはすべて把握していて、
「さっき使っていたあのリップだけど‥‥」
などと質問すると、
「ああ、これですね」
なんてパパッと取り出して説明してくれる。

あらゆるシーンを限られた時間の中で
撮らねばならない撮影の現場で、
臨機応変に対応してくれる草場さん。
それはきっと、きちんと道具の管理、
そして頭の中の整頓が
できているからなのだと思っています。

「仕事に持って行く荷物は、
リモワのスーツケースとメイクボックス、それからかご。
この3つが基本です」
と草場さん。
weeksdaysのかごの中には、
いくつかのポーチに仕分けたメイク道具を入れているそう。
「間口が広いので何が入っているか
すぐに分かるところもいいですし、
布製のバッグと違って
床置きしても気にならないところも助かっています」

小さなサイズは、
ロケバスの中など、限られた空間で
メイクをする時にも重宝するとか。

かごなんだけど、
ちょっと引き出しみたいな感覚で使えますよね?
と言うと、
「あ! そうです、そんな感じ!」
そんな返事が返ってきました。

お買い物にもかごは活躍。
この日はセレクトショップに、
オーダーしていたシルクのローブを受け取りに。

1泊2日の家族旅行では、
大小ふたつのかごに、
必要なものをぼんぼん入れて車で出発。
「天気や気温が予測できない旅先では、
着替えなどをちょっと多めに持って行きます」

大きな方には、
重くはないけれどかさばる着替えを、
小さな方には、小学生のおじょうさんと公園で遊ぶための
ボールなどが入っているそう。

黒やネイビーなど、シックな色合いの服が多い草場さん。
家の中もどうやら同じトーンのよう。
シルバーと白のこのかごが、
家の中でどんな風に使われるのか、
またいつかお話をうかがってみたいなぁ。

みんなの「かご」の使い方。 植松良枝さん編

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家のあちらにも、こちらにも、
かごがたくさん。
「かご大臣」の異名を持つ、
料理家の植松良枝さん。
昨夏は一緒に北欧を旅しましたが、
そういえばヴィンテージの器や雑貨が並ぶマーケットでも、
抱えきれないほどたくさんのかごを
買っていましたっけ。

バスク地方の栗の木の皮や
北欧の白樺の皮で編まれたもの、
また日本をはじめとしたアジアのかご‥‥
と、世界中から集まった植松さんちのかごですが、
彼女の家に集まると、
どれもがすーっと馴染んで、
ひとつの風景になっている。
毎度、不思議だなぁと思うのですが、
それはきっと、
たくさんのものを見て、
えらんで、使ってきたからこその、
一本筋の通った「眼」があるからなのでしょう。

さて、今回weeksdaysで作ったベトナムのかご。
植松さんならどんな風に使ってくれるかしら? と
おじゃますると、まず見せてくれたのが、
「良枝のベトナムかごコレクション」。
ベトナムが好きで好きで、
何度も通ううちに買ったかごはなんと40個以上。
20年近くの間に、
友だちにあげたり、
料理教室の生徒さんに譲ったりして淘汰され、
現在あるのがこちらなのだとか。

「ベトナムでは、このテープで編んだかごは、
バイクとセットで街の風景になっているような気がします」と植松さん。
高温多湿のベトナムでは、
天然素材のかごは、
カビてしまったりもするけれど、
これなら安心。
カビの心配もいらず、軽くて丈夫。
ベトナムの人たちにとって、
欠かせない生活道具のひとつになっているそう。

「weeksdaysのオリジナルは、
浅すぎず、深すぎず。
入れたものが一目瞭然なところ、
それからシックな色合いもいいですね」と植松さん。

今日は、翌日の料理のイベントにそなえて、
直販所で買った野菜がどっさり。

また、畑で野菜を育てている植松さんは、
「この中に紙やビニールを敷いて、
採れたての野菜を入れても。
汚れたら丸洗いできるのも、この素材のよいところです」
ですって。なるほど。

ピクニックにもかごは大活躍。
「いちょうの季節になると毎年、近くの公園で
仲間とピクニックをします。
お弁当にポット、カッティングボード、敷物、
ブランケットなど、なんでも入っちゃう!」

リビングの片隅には、
今年生まれたばかりの息子、
たすくくんのオムツや肌がけを。
「同じベトナムのミニかごを合わせてみました」
と植松さん。
着替えやおもちゃなど、
必要なものをガサッと入れて
車で移動。
そんな時にもかごは大活躍なのだとか。

買いものに、
ピクニックに、
ケータリングや撮影のお仕事。
赤ちゃんを連れた移動にも。
家の中でも。

「ベトナムの風景」になっているという、かごは、
植松さんちでも、
しっかり「植松家の風景」になっていました。
さすが、かご大臣です。

(伊藤まさこ)

「道具」としてのかご。

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「かごは好きですか?」と聞かれたら、
はい、好きです。
一瞬のためらいもなく、
そう答えるでしょう。
とにかくかごには目がないし、
いいかごを見ると目がくらんで
自分を(ちょっと)見失ったりもします。

ふだんから培われたかごハンターぶりは、
財布の紐がとくにゆるみがちになる旅先で、
いかんなく発揮されます。
いいかごはないかな、
この土地ならではの、
ここで作られた意味のある、
暮らしの中で使われているかごはないかな?
街中で。市場で。
目をキョロキョロさせながら、
ハントするのです。

そうやって手に入れてきたかごの中で、
なんていうか、一番「働きものだなぁ」と
感じるのがベトナムのかごです。
使っても使ってもへこたれない。
ちょっとチープな見かけは、
おしゃれで持つ、というよりは
必要だから持つ、といった感じで、
ぜんぜん気取っていない。
ざるとか、鍋とか、
そんな「道具」の一部なんじゃないかな?
と思っています。

さてweeksdaysでは、
暮らしの道具としてのベトナムのかごに、
「シック」をプラスしてみました。
形のもととなったのは、
私が気に入って使っている、
アジアのどこかの国の竹かご。
使いすぎて、底がもう抜けそう。
出番の多いかごだったのに‥‥と残念に思っていたのです。

そこで私は考えました。
同じ形で、
ベトナムのかごと同じ素材で作ったらいいのでは? と。
結果は大正解。
たとえば、仕事に行く時。
撮影で使う器や、鍋、布などを入れて車で出発。
スタジオではここから必要なものを取って、
使ったらまたしまう。

また、ファッションの撮影の時は、
服にはじまり、箱に入った靴、そのほか
小道具いろいろを大小のかごに振り分けて
‥‥という具合。

そうそう、着物の撮影では、
大きな方に着物と草履を、
小さな方には帯揚げや帯どめ、肌襦袢を入れました。

キッチンクロスやペーパータオル、菜箸など
毎回の撮影に持って行く小道具は、
かごの中にひとまとめにしておき、
そのまま食器棚の中へ。
仕事に出かける時は、
棚から取り出し、
そのまま持っていけばいい。
すっきりとしたデザインと色が、
ものの多い棚の中を美しく見せてくれます。

「持って行く」だけではなく、
家の中でも使います。

ほら、こんな風に
ベッドカバーにもなるような、
大きなブランケットや毛布もらくらく入っちゃう。
ベッドサイドに置いて
いつでも取り出せるようにしています。

今だったら夏がけやタオルケットなどの
季節はずれのものを入れて、
クローゼットの中へ。
ちょっと引き出しのようなかんじで
使ってもいいのかも。

働きもののかご。
まだまだ使い道がありそうです。

(伊藤まさこ)

ベトナムのかご

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ベトナムのかご

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はじめて自分でかごを買ったのは高校生の時でした。
フランス製で素材は柳。
手つきの「バスケット」と呼ぶのにふさわしい、
童話に出てくるようなそのかごは、
当時の私にとってはとても高価なものでしたが、
「これは持っておくべきもの」。
なぜだかそんな気がして、
思い切って自分のものにしたのでした。

それから30年あまりのうちに、
我が家には世界中からたくさんのかごが
集まりました。

生活道具としてのかごから、
職人によって編まれた
工芸品と呼ばれる手の込んだものまで。
どれが一番、ということはなく、
私にとっては、どれも一番。
どれも「持っておくべきかご」になっています。

今回、weeksdaysでは、
私の暮らしの中で、最近とても出番の多い、
プラスチックの素材で編んだ
ベトナムのかごをご紹介します。

たくさんものが入り、
手入れがラク。
買いものはもちろん、
家の中でもあれこれと使える、
使い勝手のいいかごです。

大きさはふたつ。
色はグレーと白の2色。
ああ、どっちの色にしようかな。
大きさは?
いっそのこと4つ買ってしまおうか?
なんて悩む毎日。
ますますかご屋敷になりそうな予感がしています。

父に、服を。

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わたしはセーターが好きだ。
今、セーターについて思いを巡らせて初めて、
自分がセーター好きだということに気づいている。
毎年どこかのセーターを買う。
これさえ着ていれば大丈夫だという安心感がある。
できるだけ肌触りの良いもので、適度にゆったりしていて、
下はせいぜいキャミソールくらいで、
できるだけ中は薄く着たい。
気持ちいいセーターはネコを抱くのと似ている。

青森の祖父が亡くなった時に形見としてもらったものも、
セーターだった。
おしゃれだった祖父はクローゼットの中に
上質な洋服をきちんとしまっていて、
セーターも年代ものだったけれど虫食いなど一切なく、
わたしでも着られそうなものがあった。
黒地に、ゴルフをしている男性が描かれているもの。
薄いカーキ色に、暖色系で
Black & Whiteという文字が描かれているもの
(よく考えたらどこにも
BlackとWhiteは使われていない)。
いわゆる“ダサカワ”風にすれば着られる、
と思ってもらってきたが、
そもそもダサカワを着こなせるキャラじゃないため
あまり出番はなかった。

初めてパリに行った時のことを思い出す。
13歳。
ニューヨークから一人で飛んで、パリで父と合流した。
父のヨーロッパツアーのパリ公演に遊びに行ったのだった。
その頃はまだ父との間には緊張感があった。
彼はあまり家にいなかったし、
ゆっくり父親と過ごすという習慣がなく、
正直、何を話していいかわからなかった。
今もしこれを見たら傷つくかもしれないけど。
だからこそ、一人で行って一緒に過ごしておいで、
ということになったのか、
今となってはわからないが
もしかしたら大人の計らいがあったのかもしれない。

父の空き時間に、一緒にパリの街を歩いた。
なぜか、その頃父が着ていた
ロメオ・ジリのお店に入ったということは覚えてる。
あと、母のお気に入りのステーショナリーのお店で
綺麗な色のノートを買ったこと。
お土産はすぐ思いつくのに、
美雨は自分でなにか欲しいものはないの?
と言われて、困ってしまった。
父としては、なにか買ってあげるというのが
娘との交流の一つとしてあったのだろうけど、
幼い頃からあまりおねだりをしたこともなかったし
いざ聞かれると欲しいものは何もなかった。

けれど、とにかく通りかかった洋服屋さんに入ってみると、
白とグレーのミックスの厚手のセーターが目に留まった。
Vネックで、コンプレックスだったおしりも隠れる
少し長めのボックスシルエット。
迷っている時間がなんだか気恥ずかしくて、
これ! と即決して、
13歳の女の子にしては渋めのセレクトに
父は「ほんとに‥‥?」という感じだったけれど、
とにかく買ってもらったのだった。
父に、洋服を。

そうして二人で歩きながら、父の柔らかな表情を見た。
ちょっと踏み込めそうな気がして、
いろんなことを聞いてみることにした。
大したことじゃなくても、
街で見かけたいろんなものについて。
大抵父は答えを持っていたし、話は興味深かった。
なんでも知ってるんだな~、すごいなぁ、と思い、
こんなたくさんのことを知ってる父のことを
もうちょっと知ってみたいと思った。

主にメールの交換を通して
徐々に父との距離を縮めていった
その後のティーンエイジャーの数年間、
ずっとそのセーターを着ていた。
そして何年も経って、
ぬいぐるみ作家の金森美也子さんの手によって
セーターは白とグレーの
ネコのぬいぐるみに生まれ変わった。

四半世紀前にパリで出会ったセーター。
白とグレーのネコと一緒に、今も暮している。

姉御の初恋

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セーターと聞いて、最初に思い出すのは、
不覚にも、私が男子のために編んだセーターだ。
初めて手に取った棒針と毛糸と編み物の本で、
無謀にも、マフラーを飛び越え、
セーターに挑戦するなんて、
恋という魔法にかかった、
中学2年生女子は何をするか、
全く見当がつかない。

当時の私は、(今でもあまり変わりはないのだけど)
浅黒く日焼けして、
背もいつも後ろから2番目くらいで、
スポーツと美術が大好きで、
どちらかというと姉御肌で、
悩み相談窓口にもなっていた。
そう、そんな、ネエさんが、恋に落ちたのは
バレー部の色白アタッカーのH君だ。

ねえ、世の中で、姉御的に育ってきた人種ほど、
実はとっても、乙女なんだって知っている?
色はピンクが好きで、フリルも好きで、
フカフカモヘアや、ぬいぐるみだって大好きなんだよ。
でもどれもなんか似合わないのも知っている。
ただ、この時は違った。
買ったのはハマナカ毛糸のベージュと、
Hのイニシャルを入れるための赤い毛糸だ。
目指すはその年のバレンタインデー。
一年に一度、女子が男子に告白を許される1日だと、
信じていたのだろうね。
チョコレートといっしょに、
手編みのセーターを渡そうと思ったのだ。
しかしながら、編んでいる時の記憶があまりない・・・。
今、必死で思い出しているのだが、
渡した時の記憶が鮮明すぎて、
作っている時がもはや消去されている。

ただ思い出すのは、その出来たセーターの
重くて不細工で大きいこと。
肩の付け根なんかがピョンと飛び上がっていたり、
イニシャルの編み込みがなぜか、
糸を引っ張りすぎたのか浮き上がっていたりと
色々問題があった。
そう、15歳の姉御の初恋と
同じくらいの重量がそこにはあった。
もちろん、色白のH君には
そのセーターも姉御の想いも重過ぎた。
腕を通すことが出来たかどうかもわからない。
渡すだけ渡して逃げて帰ったからだ。
その人のことを思って編んでいったのだろうが、
結局、自分の気持ちが膨れ上がりすぎて、
ただ、ただ、押し付けるという、
なんとも、ほろ苦い結果になってしまった・・・。
それから、棒針はどこかにしまったままだ。

あー、今から思い出しても顔から火が出そうだけど、
実は、体当たりをした自分を少し愛おしく思う。
駆け引きなど全く知らない、
純粋な気持ちを人生の中で
持ち合わすことが出来たことが
今となっては宝物かもしれない。
恋が叶う叶わぬではなく、(これは負け惜しみではないぞ)
どんなことでも、
より多くのことを自分自身で体験すること、
失敗を恐れず、何かを決めて貫き通すこと、
そんな今の私の原型が、
ここで養われたのかもしれない。

冬を迎えるころ、
暖かいものが恋しくなると、
H君の顔も名前ももはや、よく覚えていないのだけど、
あのベージュに赤いイニシャル入りのセーターを
時々思い出すことがある。

大嫌いだった。

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子供のころに苦手だったものでも
歳をとるに連れて好きになるものがある。
例えばにんじんやピーマンはその代表格と言えるだろう。
ぼくの場合はというと、食べ物ではないが
ニットも大嫌いだった。
セーターやマフラーはもちろん
ニットキャップや手袋(毛糸で編まれた手袋)なんて
もう絶対に、無理なアイテムだった。

ニットを好まない理由はただひとつ、
なんとなく弱そうにみえるからである。
だからぼくは10代の後半ごろまで
ニットの類を身に付けた記憶がほとんどない。

そんなニット嫌いの僕が
好んでニットを身に付けるようになったのは、
20代になってからのこと。
映画や雑誌をみてガンジーセーターや
フィッシャーマンズセーターをかっこよく着こなす、
いわゆる男服のカッコイイ着こなしに触発されたのだ。
そしてニットを好むようになった理由はただひとつ、
なんとなく強そうにみえるからである。

20代のころは未脱脂で骨太な
フィッシャーマンズセーターを好み、
30代ではパジャマにしても快適な
カシミヤの肌さわりの良さを知り、
40代ではハイゲージのカーディガンを着るようになった。

そうしていまやそんな僕がニットをつくっている。
しかも、今回のアイテムは、
ぼくが20代から40代までに着用してきたニットの
好きなところを足し合わせ、
アメリカンレッドクロスのビンテージニットをベースに、
MOJITOらしくアップデートしたものだ。

使用した原料は子羊(ラム)と成羊の中間期に刈りとられた
ラム独特の光沢に柔軟性と成羊の弾力性を持ち合わせた
オーストリア産のウィナーズという原料がメイン。
そこに、タスマニア地区の繊維が細いファインメリノを
ブレンドして作られた毛糸を使用している。
両方をブレンドすることによりフワフワし過ぎず、
なおかつチクチクしにくい
アイテムになるように仕上げている。

はたしてこのニットは弱そうに見えるんだろうか、
それとも強そうに見えるのだろうか。
いまの僕は「そんなこと、どっちでもいいや」と、
できあがったニットを手に、
早く寒くならないかとニンマリしているのである。

MOJITOのセーターとマフラー

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冬支度。

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朝起きるとまず窓を開け、
冷たい空気を思い切り吸い込む。
夜、ベランダに出て
空の向こうにかがやく星空を眺めてからベッドに入る。
冬のすがすがしさが、
あまりに好きなものだから、
この季節はいつもより外の空気を感じながら
暮らしています。

すがすがしさと同時に好きなのが、
冬支度。
温かい飲みものがたっぷり入るマグカップや、
ぬくぬくのおふとん。
まっ赤なりんごを木のボウルにたくさん入れて
テーブルの上に置いたりも。

そうそう冬支度で忘れてはならないのが、
厚手のセーター。
それから帽子にマフラー。
毎年、少しずつ増えている、
私の冬のアイテムに今年は、
ニューフェイスがくわわりました。
タートルのセーターと、
帽子にマフラーがついた
(マフラーに帽子がついた?)
姿も形もかわいいぬくぬく小物。

これがあれば寒い日の散歩だって
ぜんぜんへっちゃら。
早くもっと寒くならないかなぁと、
思わずにはいられません。

毛玉

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ある冬の晩、先輩の編集者と
ふたりのフォトグラファーとともに
楽しいひとときを過ごしていた。
6、7年前のことだったかと思う。
美味しいごはんを食べていたのは確かだけど、
どこのレストランだったかは覚えていない。
木製のテーブルにはキャンドルが置いてあったような、
いや置いてなかったような‥‥。
どんなきっかけでその話題になったのか、
同じく今では記憶にないのだけれども、
「セーターをどれくらいの頻度で洗うのか。
毛玉の処理はどうしているのか」
という議題が持ち上がった。
3人は、ワンシーズン洗わないし、毛玉も気にしない
という意見であった。
それじゃあなんか心許ない感じがする
という発言をしたひとりに対して、3人は
「いやいや、多少毛玉ついているくらいが
風合いが出ていい」
と突っついた。
ぼくは、鮮やかな緑色のセーターを着ていて、
ぽろぽろとできていた袖の毛玉を自慢げにさすってみせた。

時は遡り、ハイティーンのころ。90年代半ば。
制服のないハイスクールに通っていて、
おしゃれに目覚めていた。
ビートルズを入り口とし、イギリスの音楽に傾倒していた。
60年代に活躍したザ・フーやスモール・フェイセズ
といったモッズムーブメントの影響を受けたバンドが、
当時数多く台頭していた。
「モッズ、カッコイイ!」と心踊らせ影響を受け、
細身のパンツにジャケットといった洋服を好んだ。
そんなぼくには、すぐにピンと来ていなかったのだが、
アメリカでも新しい音楽の潮流があり、
ニルヴァーナというロックバンドが大流行していた。
そのバンドにビシバシ影響を受けていたクラスメートが、
ある日、毛玉だらけのボロボロセーターを着て
学校にやって来た。
ニルヴァーナのフロントマン、
カート・コバーンのスタイルである。
ぼくは、その姿にウググっとなった。
当時ぼくとセーターの付き合い方は、
「洗濯をよくする/毛玉気になる」派であったからだ。
こういう格好良さもあるんだなと思った。
カートが着ていたセーターをぼくは買い求めなかったけど。

それから20年以上が経った。
時に洋服に関する仕事をし、
どちらかと言えば着道楽傾向にあるぼくは、
いろんなセーターと付き合ってきた。
おろしたてのつるっとした上質なセーターも気分がいいし、
数年着古して毛玉ができたものも愛用している。
颯爽と流行の波に乗る楽しさを今も持っている反面、
時代の流れや人の影響をあまり受けず
自分の性分に合うものを探す喜びも
少しずつではあるけれども得てきている。
増えゆく白髪が似合うオジサンに
なれればいいなと願うように、
毛玉がついたセーターをもっとぐっと格好良く
着こなせるようになりたいと思っている。

理想はこう。
イギリス北部の片田舎で余生を楽しむ男性が
庭いじりの際に着用しているような無骨なセーター。
長年着こなしていて、毛玉はついているが
適度な手入れもして、決してみすぼらしくみえないもの。
そんな一着が自分の身や心にぴったりと馴染むことだ。

編み直す

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ついこの間まで一緒に働いている人の中で
自分が一番若くて
ミニスカートをはいていたと思っていたのに、
あっという間に、今ここにいる中で自分が一番年長だね
ということが多くなりました。
びっくりです。
“もうー、いやだ! 歳月人を待たず”
と自分にそっと言って、可笑しくなります。

祖母は孫の私のセーターを編んでいました。
少しがっかりでした。
デパートとかで売っているのが欲しかったから。
中学になって制服になったので
ジャケットから出ないようにと、
Vネックの白いセーターです。
新しい毛糸でなく何かだったものをほどくと
毛糸は小さく波うっていて、
それを束にして洗って干して
波はまた小さくなります。
編むときには糸が繰りだしやすいように毛糸玉にします。
小さいころは両手に洗った毛糸の束をかけて、
向いあって座った母がくるくると
毛糸玉を巻くのを手伝いました。
小学生になるころまで、
セーターは家で編むかオーダーでした。
祖母が毛糸屋さんへ連れて行ってくれ、
よそ行きのニットは糸を選んで
こんな形にとお願いして寸法を計ってもらって、
手編みの出来上がりを待ちます。

同じころお嫁に行く前のお姉さんたちは
御裁縫を習うより
編み機を買って機械編みを習うのが
流行したのかもしれません。
わが家の店で働くお姉さんたちも
みんなお稽古に行きました。
そうして祖母はとても上達したお姉さんに
私の小学校入学の
ワンピースを編んでもらうように頼みました。
水色で襟とカフスは白、
スカートのプリーツの内側は模様編みになっていて
嬉しくてプリーツが広がるように
くりっと回ってみたりしました。

毛糸はほどいてまた次に何かに編みなおされます。
何度か編み直して使ううちに糸は細く弱くなってきます。
最後は、その弱くなった糸を
2本とか3本とか合わせながら小さなモチーフを作り
それをはぎ合わせてこたつ掛やひざ掛けになりました。
思い出すと、次々と欲しいものは買えないけれど
本物の良い物を特別な時だけというのでなく、
少し頑張って良い物を買って
作り直しながら本物を使う普段の暮らしがありました。
それはかける時間も思いもずいぶんと違うものだと
考えるようになりました。

まさかの虫食い

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冬並みの寒気が訪れた9月のある日、
クローゼットからホワイト、ネイビー、
グレーのセーターを取り出した私は、
どれを着ようか迷っていました。
からだの一部のように愛用しているカシミヤのセーター。
気温は低いが、コートを着るほどでもない日、
冷たい風を、セーター越しに感じるのが好きでした。
ところが、グレーのセーターを手に取ったとき、
私の心は凍りつきました。
あろうことか、袖に、小さな穴があるのです。
本当に小さく、でも確実に。
洗濯に問題があったのか、
収納のレベルを上げる必要があったのか、
まさかの虫食い。
セーターは一部でも瑕疵があると、
全体に影響を及ぼします。

どうしようと思って思い出したのが、
ミスミノリコさん。
著書に『繕う愉しみ』があり、
「繕い」で服をよみがえらせる仕事を提唱しています。
グレーのセーターを鞄に入れた私は、
待ち合わせ場所の青山の喫茶店へ。
ミスミさんに復活させたいむねを伝えると、
三つの方法を提案してくださりました。
一つ目は、ニードルパンチとチェーンステッチ。
二つ目は、鉤針の細編み。
三つ目は、ダーニング。
それぞれ実例を交えて詳しく説明してもらったのですが、
最初のニードルパンチとチェーンステッチが
心から離れません。
器なら金継ぎに似ているのではないでしょうか。
繕った服は、新品とはまた別の趣が感じられ、
むしろ、仕上がりが楽しみになるほどに。

洗濯も再考しました。
虫食いを調べてみると、皮脂やホコリが原因。
そこで思い出したのが「LIVRER Silk&Wool」。
山藤陽子さんに
その洗いの素晴らしさを教えてもらっていたのです。
週末のお客さんであふれる銀座三越で
私はそのボトルを探しました。
説明書通りに5Lのお湯をはって、
5mlの洗剤を溶かして、カシミヤのセーターを手洗い。
感じがいいと言うのが一番ふさわしい香り。
あとで調べたらローズとカモミール。
すすぎは1回のみで、
乾くと予想以上に柔らかな仕上がり。
香りは、わずかに、でも確実にのこっていました。

長期天気予報によれば、
今年の冬は暖冬の可能性とのこと。
気温は低いが、コートを着るほどでもない日は続きそう。
新しくなったグレーのセーターに袖を通す。
さらっとした香りの余韻を楽しむ。
上質なセーターが上質なもの招き寄せてくれたと
言っても良いかもしれません。
今回の出来事がグレーのセーターに編み込まれ、
私にとっては、より大切なものになっていきそうです。
万が一またほつれも、もう心配する必要もありません。
そう考えると、あの9月のがっかり感は、
むしろラッキーだったのではないかと思えてきます。

カシミアのセーターとワンピース

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馴染むカシミア。

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朝晩、だんだん冷え込んできました。
まずは靴下、次にストール、
それからニット….。
少しずつ身のまわりにぬくぬくしたものが増えていく、
今の季節が大好きです。
weeksdaysは、
1日のはじまり
「さあ、なに着ようかな?」
という時についつい手に取ってしまいたくなる、
着心地のいいカシミアニットを作りました。

イメージは、
履き慣れたデニムや着慣れたTシャツのような、
自分に馴染んでくれるニット。
え、カシミアで?
と思う方もいるかもしれませんが、
大人ですもの、
それくらいのぜいたくしてもよいのではと思うのです。

形ちがい、色ちがいの全部で4枚。
サイズ感など、
明日のルックブックを参考にしてくださいね。

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