COLUMN

木曜日のクリスマスイブ

鈴木潤

クリスマスにむけて準備をする。
そんなワクワクした気持ちを、
子どもの本の専門店「メリーゴーランド」の
鈴木潤さんに書いていただきました。

すずき・じゅん

広告代理店勤務を経て、
「子どもの本専門店メリーゴーランド」四日市店で
13年間企画を担当。
2007年、京都への出店とともに店長に就任。
「メリーゴーランド」は創業42年になるお店で、
鈴木さんが4歳のときにオープン、
小さなころは親に連れられ通っていたお店だったそう。
現在は京都に暮らし、お店の切り盛りだけでなく、
雑誌、ラジオなどにも登場、
子どもの本の普及に力を注いでいる。
2人の男の子の母、少林寺拳法弐段。
著作に『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』
(アノニマ・スタジオ刊)がある。

メリーゴーランドのウェブサイト

私は木曜日が定休日の本屋で働いています。
大人の本ももちろんあるけれど、
絵本や児童文学をたくさん扱っている
子どもの本専門店です。

12月、クリスマスが近づく木曜日に店を閉めていると
私はそわそわとしてどこか落ち着きません。
定休日というのはわかっているのだから
わざわざ閉まっているだろう店を尋ねる人は
いないかもしれないけれど、
ひょっとしてクリスマスの贈り物の本を探しに来た人が
いたとしたらと考えずにはいられないのです。

うちは街中にあるので、他にも本屋はあるし、
今ではインターネットでいくらでも買えるのだから
きっと目当ての本があれば
手に入れることはできるでしょう。
けれどひょこりやって来てくれた誰かが
閉まっている扉の前で
がっかりして帰って行く様子を思い浮かべると
なんともやるせない気持ちになります。
そんな訳でなんとなく
12月の木曜日は店を開けてみるのです。

その年は12月24日が木曜日でした。
さすがに世のサンタクロースの皆さんは
早々とプレゼントは準備しているようで、
イブのその日はのんびりとしていました。
日も暮れてそろそろ店を閉めて
家に帰ろうかと準備をしていると
「まだいいですか?」
とお客さんが飛び込んで来ました。

「娘のクリスマスプレゼントに
 ちょっと特別な絵本をあげたいと思うんですけど、
 一緒に探してもらえませんか?」
とその人は息を切らしながら一気にそう言うと
すこしほっとしたようでした。
(うちは古いビルの5階なので
もし階段でいらっしゃればすぐにわかるのです。)
「もちろんです!」
と私は嬉しくなって
娘さんの年齢や
どんな本を最近は気に入って読んでいるのかなど伺って
気になる本を何冊かお見せしました。
するとその人が
「あ! この本、日本で翻訳されてたんですね」
と信じられないという風に一冊の本を手にとりました。
「私が子どもの頃
 父親がアメリカ土産に
 洋書のこの本を買って来てくれたんです。
 もちろん英語はわからなかったけれど、
 それはそれは夢中になって読んでいた
 大好きな本でした。
 いつの間にか手元から
 なくなってしまっていたのに‥‥」
と懐かしい友達に再会したように話してくれたのです。
その本を包みながら
「ほうら、店を開けててよかったでしょう?」
とどこかでにんまりする自分がいました。
「やっぱりここに来てよかった」
と言ってくれたお客さんを見送りながら、
私も素敵なプレゼントをもらったような
気持ちになりました。

私は店を閉めてすっかり暗くなった道を
急いで家に向かいました。
今頃お腹をすかして
夫と子どもたちが待っているだろう、
夫は何かご飯を作ってくれているかもしれない
と考えながら‥‥。

本屋をしていると
クリスマスは自分の家や子どもたちのことはそっちのけで
ついつい店のことばかりになってしまいます。
けれど
「何か大切なものを届けたい」
という目に見えない想いのようなものがあるとすれば、
私が店や本やお客さんに向けているそれが巡り巡って
何処かから子どもたちに届けばいいのになぁと
都合のいいことを考えたりします。
街に溢れるクリスマスソングやイルミネーションに
少々うんざりするのですが、
たくさんの
「誰かに喜んでもらいたい想い」
が集まっているクリスマスの夜は
やっぱり特別な日なんだろうなと思ったりするのでした。

2018-11-27-TUE