COLUMN

白いモスリン。

奥田香里

クリスマスのエッセイ、今回は
「イギリス」に縁のふかい、奥田香里さんです。

おくだ・かおり

1970年生まれ。TEA & TREATS代表。
フリーの編集やライターを経て、
2013年からアイルランドの紅茶の輸入をスタート。
紅茶やジャムの輸入代理店をつとめる傍ら、
イギリスの焼き菓子の魅力にひかれ、
イギリス菓子のブランド「mistletoe」を主宰。
不定期でお菓子の販売や
ティールームイベントなどをおこなっている。

■公式サイト
■インスタグラム

十数年前にロンドンの小さな食料品店で出会い、
長年気に入っていた紅茶を輸入し始めて、5年あまり。
出張ティールームのようなイベントも多いので、
ここ最近はクリスマスが近づくと、
ひたすらお菓子を焼く日々が続きます。

イギリスのクリスマスの伝統菓子といえば、
ミンスパイとクリスマスプディング。
ミンスパイは、ドライフルーツやスパイスで作る
ミンスミートを詰めた、小さなパイのこと。
クリスマスから公現祭の十二夜、
毎日1個ずつ食べると幸運が訪れる、
という言い伝えもあって、
イギリスでは毎年シーズンになると、
デパートからスーパーのお菓子売場まで、
ミンスパイが山積みになります。
いろいろな店で買い集めて、
食べ比べをしたこともありました。
有名シェフプロデュースのミンスパイは、
もみの木の香りをつけたお砂糖が
表面にパラパラとかかっていて、
ロマンティックな演出だったけど、
お味は正直‥‥。

いろいろなレシピがありますが、
私は数種類のレーズンやオレンジの絞り汁、
スパイス、刻んだりんごやくるみなどで
ミンスミートを作ります。
欠かせないのは、ブランデー。
香りづけはラム酒ではなく、
ブランデーを使うのがイギリス。
ミンスミートは作りたてよりも、
しばらくおいた方が
味がなじんでおいしいので、
11月になると、
早く仕込まなきゃとそわそわします。

一方で、毎年苦戦しているのが、
クリスマスプディング。
ドライフルーツをふんだんに使った生地は、
材料を混ぜるだけなので簡単ですが、
専用の陶器のボウルに詰めて、
長時間、蒸すのがひと苦労です。
昨年、ロンドンの友人が送ってくれた
彼女のママのレシピでは、
蒸し時間は、なんと4時間。
さらに半年以上、涼しい場所に吊るして干し、
食べる直前にまた温かくなるまで
数時間蒸すというのです。

いったいいつ作って、どこに干せばいいの?
暑くて湿気の多い東京で、
半年もおいて大丈夫だろうか‥‥。
もう少し手軽なレシピもあるけれど、
なかなか手強い。
北国のどこかに物置を借りて、
漬物小屋ならぬ、プディング小屋を作ろうか。
そんな妄想はふくらむものの、
試作すらままならず、挫折のくり返し。

以前、ロンドンのある店で見つけた
クリスマスプディングは、
プディングの入った陶器のボウルを
白いモスリンでふわりと包み、
素っ気ないタグをつけたシンプルさで、
造り物の柊の飾りや
クリスマスカラーのリボンもなく、
モスリンの柔らかな白さが際立っていました。

ガーゼのように薄く柔らかい
モスリンの布は、イギリスでは、
赤ちゃんのおくるみに使われるコットン。
そんなクリスマスプディングに憧れて、
ロンドンの生地街で
イメージ通りのモスリンを探し、
抱えて持ち帰ったのは、もう数年前。
今年こそは、いや、来年こそは‥‥。
出番を待つ白いモスリンを
横目で眺めながら、
寒い12月も、慌ただしく
過ぎ去っていきそうな気配です。

2018-12-11-TUE