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day7/旅のおわり
そういえばここのところ、
旅先であれしようこれしなくてはと、
気が急かなくなった気がする。
美術館に行って、そのまわりをうろうろしたら、
あれ? 今日も1日終わっちゃった、そんなかんじ。
あるいはカフェのテラス席で、
昼間からワインを飲んでちょっといい気分になり、
うたた寝したら夕方だった、とか。
時間の無駄遣いに気をよくして、
そういえばあまり買いものもしていない。
せっかくスーツケースに空きがあるのだから、
なにか買いたいのだけれど‥‥と思っていたら、
ブルックリンの古道具屋で見つけてしまいました。
ぎりぎりスーツケースに収まりそうな小さな引き出しを。
付箋とか名刺とか、こまごましたものを入れたらよさそう。
これで20ドルはお買い得だわ。
そう、ここは訪れるたび掘り出しものが見つかるのです。
あとは街歩きの途中、
メイプルシロップ、ナッツにグラノーラ、ピクルス、
チョコプレッツェルなどをちょこちょこと。
最終日にはバターを買いだめして、
結局、荷物はいっぱいになりそう。
たのしかった旅ももうおしまい。
旅は名残惜しいくらいがちょうどいいのかもしれない。
day6/ふたつのスーツケース
旅に出るたび思うのは、
なんだ、スーツケースの中の荷物だけで
何日も過ごせるじゃないの、
ってこと。
もっと年をかさねたら、
すずしい顔して
「持ちものはスーツケースひとつ分だけです」
とか、言ってみたいけれど、
きっと無理なんだろうなぁ。
ものにかこまれた暮らしもやっぱりいいものだもの。
今回の旅に持ってきたスーツケースはふたつ。
右は友人へのお土産がぎっしり。
左は着替えなどのふだんの旅支度が入っていますが、
ほぼ半分がらがら。
お土産を渡したら、ずいぶん空くなぁ。
たくさん買いものができるぞウシシ‥‥
と思って市場でメープルシロップとか
ピクルスとかを買うものの、
スーツケースの中がぎっしりになるにはほど遠い。
せっかくなのだから、
旅の思い出をぎゅうぎゅうに詰めて帰りたいと思う
よくばりな私は考えました。
そうだ、ふだんは少し躊躇する
「かさばるもの」を買おうと。
キルトのベッドカバー、
かご、
古いフレームもいいなぁ。
夢はふくらむばかり。
day5/友人のために。
味噌、醤油、梅干し、
それからそうめんに乾燥わかめ‥‥。
行きのスーツケースは、
食材でいっぱい。
自分で食べるんじゃありませんよ。
これぜんぶニューヨークに住む友人へのお土産です。
食いしん坊のこのお方、
ニューヨーク中のおいしいものを
知っているのではないかと思うのだけれど、
やっぱり日本の味が時々恋しくなるみたい。
毎回、涙を流さんばかりに喜んでくれるので、
渡すこちらもうれしくなる。
重いものもえんやこらの「おっかさん便」です。
お土産の前に座っているのは
友人の愛猫、ミチコ。
憂いをふくんだまなざしが印象的な
(でもややグラマーが過ぎる)美人猫。
子どもと女の人が苦手なくせに、
なぜか私には少し気を許しているかわいいやつ。
今回の旅では何回会えるかしら?
day4/巻きものをしのばせて。
1週間の旅。
さて何を着ようかと頭を悩ませます。
9月の終わりのニューヨーク。
まだ夏のなごりが残っているのか、
それとも寒いのか?
気温をしらべてみたけれど、
行ってみないとやっぱりわからない。
うーん、と思いつつえらんだのが、
少しあつでのコート1枚。
さっと羽織れるうすでのコート2枚。
ニット2枚。
パンツ2枚。
ブラウス1枚。
半袖のカットソー2枚。
ワンピース1枚。
街歩き用のブーツとななめがけできるバッグ、
ちょっとだけおしゃれする時用のエナメルの靴と
小さなファーのバッグ。
そうそう、
忘れちゃいけないのが
「巻きもの」類。
何かと重宝するネイビーのカシミヤストールにくわえて、
今回はヴィンテージのシルクのスカーフを2枚入れました。
首に巻いたりバッグにつけたり、
パンツのポケットからちらりとのぞかせたり。
地味になりがちな、
ネイビーと黒中心のコーディネートに
ちょっと華をそえてくれるのです。
昔、お母さんがしていたような
ちょっとなつかしい色合いや柄がいいでしょう?
今回の旅でも、
すてきなスカーフと出会えるといいんだけれど。
day 3/荷ほどき
チェックインまでまだ時間があるから、
ホテルに荷物をあずけて街をぶらぶらする。
ちょっと気の利いた食材屋や、
かわいらしいベーカリー。
ハムやソーセージがずらりと並ぶ加工肉屋。
ここブルックリンは、
小さいながらも店主のしたいことが
見て取れる店が多いから歩いていてたのしい。
途中立ち寄ったスーパーで、
けばけばしい色のアイシングがかかったカップケーキや、
茹で上がったものが大量にパックされた
(オレンジと黄色の2色)パスタを見つける。
わあすごいなぁと思うけれど、
それがいいと思う人は買えばいいし、
自分とは合わないと思ったら買わなければいい。
「人は人なんだから」という空気が店の中にただよう。
そうだ、ここは自由の国なのだ。
部屋について荷ほどきをする。
靴は入り口近くに並べ、服はクローゼットへ。
歯ブラシや化粧道具はバスルームの洗面台に。
パジャマや下着類はチェストの引き出しへ。
たとえ少しの滞在だとしても、
旅先ではそこが私の帰る場所。
少しでも気分よくいたいから、
部屋をふだんとなるべく変わらない状態にしておきたい。
ひととおりものがおさまったら、
お湯を沸かして白湯を飲み一息。
夜の約束まで時間があるから、
アイロンでもかけようかなぁ。
day 2/機上より
せまいところと高いところが苦手なのに、
飛行機に乗るのがきらいじゃないのは、
その先にたのしい何かが待っているからなのだと思う。
機内ではいつも映画を観て、本を読み、
少しうとうとする。
それでも到着の時間にはまだまだ時間がたっぷりあるから
ひまつぶしにパソコンの中の写真を見てみる。
メニュー、タイル、石畳、
たべものがずらりと並ぶ食材屋の棚、
窓枠、食べ終わったあとの皿。
美しい風景や人の写真はほとんどなくて、
どれも撮りたいものに寄ったものばかり。
料理の写真があまりないのは、
食べたい気持ちを優先するからのようで、
空になったお皿を見て、
ああそうだ、写真でも撮ろうかという気持ちになるらしい。
逆におやつの写真が多いのは、
どうやら状態が料理ほど変わらないから。
フーン、
こうしてみるといろいろな発見があるものだなぁ。
それからもうひとつ、
飛び立つ前の飛行場も好きということに気づく。
飛行機の窓枠はお世辞にもすてきとはいえないけれど、
それがいいフレームになって、
ひとつの絵のように目に入る。
自分でねらったフレームではなく、
偶然が重なってできた風景、
というところもまた新鮮でいいなぁと思う。
この空と飛行場はいったいいつのものだっけ?
なんて思っていたら
「飛行機はあと30分でケネディ国際空港に到着します」
というアナウンス。
いよいよ
ニューヨークに到着です。
day 1/私の旅じたく
旅の前はいつも慌ただしくて、
あれも持っていかなきゃこれも持っていかなきゃと
頭の中では思うものの、
なかなか思う通りにはならない。
知人の建築家は出発する1週間ほど前から
リビングにスーツケースを広げ、
必要そうなものをポイポイとそこに投げ入れていくとか。
「出かける当日はパタンと閉じるだけ」と言っていて、
それはなかなかいいアイデアだなぁと感心したものの、
スーツケースが部屋にあるのも
なんだか落ち着かないような気がして、
実現にはいたっていない。
それで結局、
パスポートとお金とカードがあれば大丈夫なのでは?
あとは困ったら買えばいいさ、
というおおらかな(半分投げやりな)気持ちになって
準備は出かける当日の朝か、
もう少し気持ちに余裕のある時は、前夜ということになる。
それがここ最近の私の旅支度の傾向。
それでも、パスポートとお金と‥‥
というわけにはやっぱりいかない。
旅ごとに「どうしても」必要なものがあるのです。
今回、パスポートの次に用意したのは塩。
あの、しょっぱい、SALTです。
というのもこれから滞在する街に
世界一好きなステーキハウスがあるから。
そしてそこはなぜかメインのステーキは、
肉質といい焼き加減といい、
最高に申し分ないのにソースがからきしだめ。
肉の味がぜんぶ消えて
口の中がソースの味だらけになってしまう。
この味大丈夫? と、
毎回まわりのテーブルを見回すのだけれど、
みんないせいよくドボドボとソースをかけてる。
塩。この肉を味わうのは塩だけでいいんだよ‥‥
と思いながらステーキを噛みしめるのです、毎回。
さて、塩を準備してひと安心した私が
次に用意したのは、
エアパッキンと紙、それから箱。
まだ出発もしていないのに、
もう買ったものを持って帰るときのことを考えている。
だってせっかく買ったジャムや
ピクルスの瓶が割れていたら悲しいでしょう?
ちょっとくやしいでしょう?
だから万全を期すための策なんです。
箱はクッキーやケーキなんかの焼き菓子を守るため。
こうして今まで世界中の
「こわれやすくておいしいもの」を
持って帰ってきたのです。
次に用意したのは本。
長いフライト、あまりよく眠れない私は
時間を持て余すことが多い。
そのための本でもあるけれど、
時差ぼけで寝つけなかったりするときに読むこともある。
なれない言葉で日中過ごしたとき、
日本語を読んで心を落ち着かせる、
そんな役わりもあるのです。
今回は定番の向田邦子さんにくわえて、
沢村貞子さんと開高健さんにしてみました。
小さな文庫の文字を読むとき用の眼鏡もわすれずに。
ホテルですごす時の必需品は
着慣れたパジャマと歯ブラシと歯磨き粉。
至れり尽くせりの日本のホテルと違って、
それらのアメニティがあまり充実していない海外。
わりといいホテルでも
なぜか歯ブラシはないことが多いのです。
あったとしても日本のとくらべて格段にサイズが大きい。
だから使い慣れている歯ブラシを持っていくというわけ。
歯磨き粉は小さなサイズのものを
わざわざ準備していくことはなくて、
いつももう少しでなくなりそうなものを
持っていくことにしています。
外貨は国ごとに分けて瓶に入れています。
なんといっても便利だし外から見えて分かりやすい。
それをガイドブックの横にずらりと並べていて、
いざ出かける時に、ささっと取り出す。
マイユのマスタード瓶に入っているのは、
イギリスのポンド札。
エリザベス女王がにっこりしているのが目に入るけれど、
今回の行き先はイギリスではありません。
さてどこかは、また明日。
旅のまなざし。
訪れる土地ごとの風土が織りなす眺め。
そして、立ち昇っては霧散する光景の数々。
旅は短い。
しかし、その余韻は長く生き続け、
人生における無意識の営みに滋養を与えてくれる。
印象深い旅は数あれど、今から十数年前、
友人と共にドイツとチェコを車で巡ったことは
良き思い出である。
フランクフルトで待ち合わせ、
アウトバーンを車でひた走り、
ドレスデンのエルベ川沿いの蚤の市を経由して
プラハで数泊滞在、その後ベルリンまで上り、
最後は再びフランクフルトへ。
その道程の中で、
私たちは様々な風景を共有した。
夏が終わり、秋に差し掛かる頃の高い空。
遠くの丘の上に見える小さな砦。
葦が茂る池の畔に集う、ボートを担ぐ男たち。
檻の中の猿の物憂げな背中。
国境付近の森に突如現れた半裸の娼婦。
まるで白昼夢の様な、
或いは路地裏で拾った
古いスライドの様なイメージの断片。
いずれも些細といえば些細な出来事ながら、
その旅を語るのに、
もはやどの一葉とて欠かせないほどの重要性を帯びて、
瞼の裏に焼き付いている。
それから何年か後、古書店にて時期を隔てず、
二冊の本に出会った。
批評家として知られるロラン・バルトによる『偶景』、
そして画家の大竹伸朗による『カスバの男』。
前者は、バルトが60年代の終わりに
モロッコで出会った
様々な「偶発事(アンシダン)」の
ランダムな記録集である。

「メディナ。午後六時頃。点々と露店商人の姿が見える通りで、一人のみすぼらしい男が、歩道の脇で、たった一本の包丁を売りつけている。」
「タンジールの浜辺で(家族、男娼、少年たち)、年取った労働者たちが、大昔の動きのとても遅い昆虫のように、砂をならしている。」
──ロラン・バルト『偶景』
(みすず書房 沢崎浩平/萩原芳子訳)より

具体的な出来事の描写にも関わらず、
とりとめのなさが生みだす大きな余白には、
何か別の抽象的なイメージが湧き上がってくる。
後者『カスバの男』も、同じく舞台はモロッコ。
こちらは旅行記の体裁がとられているが、
文章とドローイングの隙間に時折差し込まれる断章に、
バルトのそれに近い趣きを感じる。

「遠くに見事な桜。じっと見入る。」
「広いガーデンの中の建物、中で男がガット・ギターを練習している。」
「先のとがった丸い鉄の棒を、車を運転する女に乗せてもらおうとするが、断られる。」
──大竹伸朗『カスバの男』(求龍堂)より

『偶景』も『カスバの男』も、共通して伺えるのは、
些細な出来事がいつまでも後を引くその余韻、
そして「観察者としての視点」である。
ふと思った。このことは、
旅について考える鍵になりはしないか。
旅は単なる移動でない。
そこに「観察者としての視点」が介在することで、
移動という行為が初めて旅になる。
ひいては、その視点の持ち様によっては、
日常ですら旅になり得るかもしれない。
日常そのものの捉え方が、
旅を生きるという事に繋がるのだとしたら、
そこで生まれる様々な余韻は、
再び日々の営みに還流し、
その時間を重層的に、
より豊かなものにしてくれるのではないだろうか。
妄想機内食。
「そろそろ、荷づくりしましょう」
家族旅行に出かけた先で、祖母のその言葉に、
幼い私の心はときめいた。
にづくり。おいしそう。煮物だね。具はなんだろう。
がんもどきみたいなのがいいなあ。イカも入れてほしい。
頭の中は“煮づくり”という茶色い料理の絵であふれた。
なんで旅先で、わざわざ煮物を?
なんて疑う気なんかない。
煮づくりを早く食べたい。
子どもの食い意地は、まっすぐで逞しい。
そういえば、小学生の頃、ニュースで流れてくる
「汚職事件」という言葉を聞いて、
「お食事券」だと本気で思っていたことがある。
政治家の大人たちは、パーティばかりする。
それはきっと、フランス料理や中華料理や、
お寿司が大広間に並ぶ、贅沢極まりない宴だ。
お食事券がなければ、当然入れてもらえない。
チケットは争奪戦となり、悪巧みをする輩があらわれ、
ニュースをにぎわす事件へと発展する‥‥。
そんなわけがない。
小さな頃から、私の脳は食べもの直結型。
だから食べることが何より好きだし、
生きることへのご褒美みたいになっている。
そんな私をへこませる、残念な食があって、
そのひとつが機内食である。
食材の匂いに乗っかってくる、
もわんとしたあの機内食臭が苦手だし、
おぼつかない薄い板の上で食べるシチュエーションを
ディナーっていうのもなあ。
だったら新幹線みたいに、お弁当でいいじゃない。
各自その日の気分に合うものを
搭乗前に買うシステムがいい。
はずせないのは、甘辛い煮物が要の弁松の赤飯弁当。
弁当を極めた感がある崎陽軒のシウマイ弁当。
賞味期限の問題はさておき、
京都・和久傳の鯛ちらし弁当があったら私は泣く。
とはいえ、機内では温かいものが食べたくもなるだろう。
そんなときは、好きなカップ麺が選べるサービスをどうぞ。
客室乗務員の方が、いかがでしょうか~、と
大きめのバスケットに数種類のカップ麺を並べやってくる。
きつねうどん、たぬきそば、醤油ラーメン、カレーうどん。
湯切りの始末さえ解決すれば、焼きそばも欲しい。
プレミアムエコノミー席の人は、2個まで選べます。
目の前の映画に没頭しながら、
ずるずると好みの麺をすする。
案外いける。
機内食は、そのぐらいがちょうどいい。
そんな私が、自宅(今はNYにあります)から
出発する旅に限って、欠かさない旅支度がある。
それは、おにぎりを握っていくこと。
相当な時間を持て余す国際線の搭乗口では、小腹が減る。
NYのJFK空港なんか、
某コーヒーチェーンと売店しかなくて絶望する。
そんなときに、おにぎりが私の命を救う。
いざ飛行機に搭乗する。機内食が出る。
アメリカから積んだ料理のクオリティに憎しみすらわく。
そんなときに、おにぎりが再び私の命を救う。
映画を鑑賞し、ほろ酔いになって、ひと眠りする。
小腹が減る。スナック菓子しか手元になくて天を仰ぐ
(結局食べるけど)。おにぎりがまたしても私の命を救う。
だから最低3つ、
ラップで1つずつ包んで持っていくと間違いがない。
具は、叩いた梅干しとおかかを山椒醤油で和えた
最強タッグ。海苔は、べちゃっとするのが嫌なので、
巻かない派。
そうして、心もお腹も膨らむ旅が始まるのだ。
Faliero Sartiの ポリエステル生地のこと。
Faliero Sarti(ファリエロ サルティ)の名前を
聞いたことがあるというかた、
きっと、いらっしゃることと思います。
高級なショールやスカーフ、パシュミナなどで有名な
イタリアのストールのブランドなんですけれど
(公式ウェブサイトはこちら)、
じつは、もともとここは、
1949年にフィレンツェで創業した、
テキスタイルのメーカーなんですね。
創業者がファリエロさん、現社長はその息子さん、
ブランドデザイナーは
ファリエロさんの孫であるモニカさん。
家族ぐるみで経営をしているメーカーです。
彼らは、シルクやカシミアなどの天然素材はもちろん、
そのなかでもいちばんいいものを使うという姿勢ですし、
新素材も積極的に取り入れ、
また自社での開発をしています。
ストールのブランドとしてのファリエロ サルティも
とても人気がありますけれど、
テキスタイルメーカーとしても一流。
彼らのつくるテキスタイルは、
フランスやイタリアの、
誰もが知る“超”のつく一流ブランドが
こぞって使っているほどです。
今回の服は、見たかた、
手でふれたかた、試着したかたから、
「いったい、この素材は何?」と訊かれます。
しわになりにくく、わたしが1年ほど穿いているパンツが
いまでも新品のようであることにも驚かれます。
年中着られそうな風合いで、
高級感があるのに、扱いやすい。
これ、簡単に言えば
「ポリエステルです」となりますが、
しっかり説明をさせてくださいね。
今回の生地は
「ファリエロ サルティが日本で作らせた、
特別なポリエステルです」
と──。
ポリエステルというのは「シルク的」な素材ですが、
代用品というよりも、シルクに利便性、
つまり洗いやすさや扱いやすさを
加えたものだとも言えます。
そして、シルクにしても、ポリエステルにしても、
上等なものと、そうではないものがあります。
シルクも、そのままではあの光沢は出ず、
「セリシン」という外側のたんぱく質を
どれくらい削ぐかで、光沢の度合いが決まります。
この生地に使用するポリエステルは、
多孔質で切断面に空洞がたくさんありますから、
バイオ技術で「痩せさせる」ことで、
うつくしい光沢、いい感じの風合い、
そして深い色味を出すことができます。
この痩せさせる加減がとてもむずかしいので、
うまく痩せさせることができたポリエステルにだけ、
うまく染料が入り、
たとえば同じ黒でも「漆黒」と呼べるような
深い黒に仕上げることができるんです。
この「ポリエステル加工技術」を
高い精度で持っているのが、日本の染色工場なんですね。
だからファリエロ サルティは、
あえて、日本でこの生地をつくっているんです。
今回「weeksdays」で展開する
パンツ、プルオーバー、ワンピースはすべて
「ファリエロ サルティのポリエステル生地」
を使っています。
この素材に惚れ込んで、服をつくったとも言えます。
いまぐらいの季節(秋)や春によい素材ですが、
パンツだったら防寒インナーを、
トップスだったらタートルに重ねたり、
ワンピースはタイツを組み合わせたりすれば、
寒い季節でもへっちゃらです。
しわになりにくいという個性は、
「weeksdays」がもつテーマのひとつ
「旅」にもぴったり。
ぜひたのしく着ていただけたら、うれしいです。
(岸山沙代子)
saquiの旅の服
気がつけば今日も。
気がつくと、今日もsaquiのパンツをはいている。
仕事仲間からも、
「それ、お気に入りですね」なんて言われるくらい。
じつは同じものを2本持って、
着回しているのです。
ウェストがゴムでらくちんなのに、
はいた姿はすらりときれい。
テロン、とした素材はコーディネートによって
カジュアルにも、きちんと見せることも。
不思議なことにいくら着てもシワひとつよらないから、
旅にも欠かせません。
すっかり私のワードローブの定番になった
このパンツと同じ素材で、
色違い、形も少し変えて、
weeksdaysのオリジナルを作りました。
(定番の黒のパンツもありますよ)
シンプルだからコーディネートのしがいがある。
服を着るのがうれしくなる。
おしゃれするのがたのしくなる。
着心地のよさと美しさをあわせ持った、
大人の女の人のための服。
ぜひ一度、着てもらいたいなと思います。
ムーミンママの乾いた靴下。
私の旅立ちはせわしない。
それはひょっとすると、
家を離れる寂しさを紛らわせたいのかもと思う。
それにしたってだ。
荷造りの段階はちゃんとしたっていいだろうに、
それすらバタバタしているのだ。
結局、仕事なのか遊びなのか
南へ行くのか北へ行くのか
不明な荷物を持って旅に出る。
いつだってそうだ。
私の旅は行き当たりばったりが多い。
そして困ったことに、それが気に入っている。
元刑事のおじいさんたちが甲斐甲斐しく働く
安心なんだか犯罪の匂いがするんだか
分からない秘湯に出くわしたり、
極寒のフィンランドから逃げるようにタイに行ったのに、
気がつけば山岳民族の人たちと山に登り
零下に歯をガチガチいわせながら朝を迎え
美しい景色に涙を流したり。
パリの街も、朝焼けどきに走ることが楽しくなり、
気がつけば子犬のリタと暮らす路上生活者と
挨拶を交わすようになったり。
エストニアで人伝えに旅をするうち
片田舎に暮らす伝説の詩人に辿り着き、
玄関の鍵が開かないからと
梯子で二階の窓からお宅にお邪魔し、
その人が丸太をくりぬいて作ったという
カヌーに乗って母なる川を下ったこともあった。
バスの乗り換え時間を読み間違えた時に
助けてくれた初老の夫婦と、
フィンランドをしばし一緒に旅していたのもいい思い出だ。
旅立ちの直前、パッと頭に浮かんだ状況に合わせ、
手当たりしだいに荷物を放り込む。
時どき旅支度が上手な人のスーツケースの中が
雑誌で紹介されていたりするけれど、
大小さまざまな袋が整然と並ぶ様子を見るたび、
私のは絶対に見せられないと軽く落ち込む。
私のは、隙間に物を詰めていく荷造り方式だ。
空港でスーツケースを開けるハメになった時の
見栄えを考えて、とりあえず、
スーツケースの一番上はコートを広げて全体を覆っておく。
コートはシワが気にならなタイプが好ましい。
こだわりも何もあったもんじゃないよなと、自分でも思う。
旅をすればするほど
荷造りのフリースタイル度が増す自分に苦笑し、
ふと思い出した。
そうだ!
私にも、旅に必ず持っていくものがあったじゃないか。
いつも儀式のように、スーツケースの最後の隙間に
ぎゅっと詰め込むもの、それが「毛糸の靴下」だ。
完全にムーミンママの影響だ。
ムーミンママのハンドバックの中には
急場しのぎのものが入っている。
そのうちの一つが、乾いた靴下。
乾いた靴下なんて? と思うかもしれないけれど、
足が濡れていないって、気ままに歩きたいとき、
一番大事なことじゃないかと思う。
足が濡れてなければ、大抵のことは気にならなくなる。
大雨の中でピクニックになっても、
苔むした森の中で迷子になりかけたって、
足が乾いてたら、あんまり辛くない。
行き当たりばったりで泊まった宿の隙間風がひどくても、
足がぬくぬくしていれば、
それほどひもじい思いをせずに済む。
さすが、ムーミンママだ。
毛糸の靴下は、結局使わないことも多い。
それでもいい。
私には実用であると同時に、
旅のお守りにもなっているのだ。
真っ青な空を見上げたとき
真っ青な空を見上げたとき、
ずーと遠くに飛行機が飛んでいるのを見ると、
なぜだか行きたい、行かなくちゃ‥‥どこかに──、
そう思う。
すぐにネットで、
どこに行く?
行きたい国はどこ?
そう自分に問いかけながら、
チープなツアーの中から
できるだけ自由度の高い旅をチョイスする。
旅支度は年々簡素になった。
前はあれもこれも、
何かあったら便利よねと
トランクを一杯にしていたけれど、
帰ってきた時、半分近くは未使用‥‥なんだかなぁ。
今はなんとかなるでしょう、と、
本当に少ない荷ものを目指している。
でもパッキングは美しく。
これは年々こだわりが出てきている。
職業柄、多くの旅の方にお会いする機会がある。
素敵な方がさりげなくバッグのなかからものを出された時、
思わず「すみません、バッグの中を見せて下さい」
と言いたくなるくらい、
一つ一つをていねいにパッキングなさっている方に、
憧れがあるからかもしれない。
トランクを開けたとき、
「完璧!!!」と自分自身が喜ぶことを目指して、
旅に持って行くものを選びたいと思う。
本当に自己満足の為だけれど。
旅の服も、長時間の飛行機、
長時間のバス移動を優先して、
軽くて、着心地が良く、皺にもなりにくく、
でもおしゃれ感もあって‥‥と、
最近、そんなふうに思うのだけれど、
コーディネートはなぜだか毎回同じもの。
その時はあんまり気付いては無いのだけれど、
写真を見たら、
「あれ?! ほとんど毎回同じ服じゃない?」
そうなのです。
軽くて、着心地が良くて‥‥となると、
似たようなものになってしまう。
毎年何かしら新しい服も買っているのに、
旅の服となると何年も同じ服を着ている。
そう考えると、
着心地の良い服や旅に持って行きたい服は
多くは要らないから、しっかりと考えて。
本当に上質な心地よさのものに出会ったとき、
手に入れ、好きなものを大事に着ていきたい。
同じように旅の目的も変わってきていて、
今の旅は、知らない国や町を
「今日は300kmバス移動です」
なんて云うハードなスケジュールが大好き。
バスに揺られて何も考えず、
過ぎ行く景色をぼーっと見る時間がなんとも心地よい。
お昼時、着いた町で
「解散!!」の声と同時に
美味しそうなレストランを見つけ、
贅沢な食事じゃ無くても、
まずはビール!!!
そして町を眺める。
そこにある日常の風景、人、町並み、空気‥‥。
観光ツアーなのに、多くを見なくていい。
その町を感じていたい。
もうひとつ、仕事柄ホテルを見るのも楽しみの一つ。
素敵なホテルに出会ったとき感じる心地よさに、
いいな、ここで暮らしたいな、と思ってしまう。
でも、よく考えてみると、
素敵だな、と思うホテルは
ちっとも非日常的ではなく、
逆に日常を大切に、
何でもない事を大事にしている。
インテリアや醸し出す空気は、
バリバリのカッコよさでは無いけれど、
うぅ、何だかすごくいい‥‥好き、と思うのだ。
旅は色々なことを感じて考える時間。
だから時々無性に行きたくなるのかもしれない。
空を見上げたとき‥‥。
LIMONTA NYLON とAL’S COATのこと。
LIMONTA──リモンタ、と読みます。
イタリア、ミラノの北、コモ湖の東南東に位置する
コスタ・マズナーガという町で1893年に創業した、
老舗の織物メーカーの名前です。
リモンタ社はもともと
ジャガード織りで有名なメーカーでしたが、
近年、一躍名を馳せたのは、
1978年にプラダがつくった
防水のナイロンバッグでした。
軍もの、あるいはアウトドア用品に使われていた
リモンタ社のナイロンを、
あえてハイファッションに取り入れたことは、
ファッション界のみならず、
繊維業界にとっても「事件」だったのです。
その後、リモンタ社にとって、
ナイロンは同社が誇る定番商品であり、
世界の定番と言っても過言ではないほどに
成長していきました。
リモンタ社の生地を使うことは、
イタリアやフランスのハイブランドでは
いまや当たり前のことになっています。
ぼくが、はじめてリモンタ社のナイロンを使ったのは、
ブランドを立ち上げて2年目、
2012年秋冬シーズンでのことでした。
製品は、まさしく、このAL’S COATでした。
今回「weeksdays」別注の
AL’S COATに使ったナイロンも、
リモンタ社の、2012年当時と同じ種類のものです。
AL’S COATは、ぼくが敬愛する作家
ヘミングウェイの短編小説『殺し屋』の
主人公“アル”が着用していたコート、
というイメージでつくったデザインです。
ぼくがリモンタ社のナイロンを使った理由は、
高密度に織ることで生まれる、
しわさえも美しく感じさせてくれる、
独特の光沢にありました。
しなやかで柔らかなハリ感がありながら、
しわも美しい。
そんなところに惚れたのです。
ナイロンには軽い撥水性と防風性がありますから
(もちろん、ゴアテックスなどのように
防水・防風性を謳える機能素材ではありませんが)、
小雨の時にはレインコートとして、
少し肌寒い日には防寒用のコートとして使えます。
ぼく自身、このコートは、
出張や旅行にでかける際には、
季節を問わず携帯している必需品のひとつです。
またこのコートは「パッカブル」(packable)といい、
小さく丸めてジップで留めて、
ちいさく格納できるようになっていますから、
雨や風の予報の出た日に出かけるときは、
その状態で鞄の中に入れておけばいいわけです。
格納時は、くしゃくしゃっと詰めますから、
どうしてもさらなる「しわ」ができます。
パッカブルから広げた時のこの「しわ」が
どうしても気になるというかたも少なくはない、
‥‥と思うのですけれど、
リモンタ社のナイロンは、
その気になる「しわ」こそが、美しい。
デザイナーとして、少し大袈裟な表現をするならば、
その「しわ」もデザインの一部であると
申し上げておきたいと思います。
(山下裕文)
MOJITOのAL’S COAT
風をまとって。
日中、天気のよい日は少し歩くと汗ばむくらい。
でも朝晩は、ちょっと肌寒い。
この季節、毎日「なにを着ていけばいいんだろう?」と
頭を悩ませます。
かさばる上着を持って歩くのもいやだし、
バッグがパンパンになるのもちょっとなぁ。
軽くて小さくもなって、
でもおしゃれ心も満たしてくれる。
それっていったいどんな服?
そんな服の端境期のもやもやを
MOJITOのAL’S COATは一気に解消してくれます。
一番の魅力はなんといっても、
風をまとっているかのような質感。
着ていることを忘れるくらい軽やかで、
広げた時のくしゃっとしたシワでさえ美しい。
さらに着ない時にはコンパクトになる。
いいことづくめではありませんか。
カラーはネイビーとベージュの2色。
あなたのお気に入りをどうぞ。
かわいくなくちゃ、気持ちよくなくちゃ。
- 伊藤
- 体型も個性、ということはつまり、
胸とかお尻も、それこそ人それぞれですよね。
でも今回のcohanもそうですが、
既製品って、いろんな人に合うようにできている。
その折り合いのつけ方って、
どうしたらいいんでしょう。
- 惠谷
- 国によって違うんですけど、
日本人はどっちかって言うと、丸く盛るタイプを好み、
きついブラジャーを着けるのがイヤなんです。
アメリカ人は、グーッと上げて、
脇もかなりピタッとした、フィット感の強いものが好き。
だから本来は75のCカップなんだけど、
わざわざ70のDで大きくするっていう、
そういう着方をする人もいるんですよ。
日本の方は、本当はアンダー70のCでいいのに、
きついのイヤだから75を買うわ、
ということがありますよね。
だから、本来は自分の本当のブラのサイズを
いちどはプロに測ってもらって知るほうがいいです。
それを知ったうえで、
これはフックがなくてかぶって着るから
すこしゆるいほうがいいとか、
この生地は薄いのできつくても大丈夫とか、
そんなふうに選ぶのがいいと思います。
cohanはS・M・Lでやっています。
ブラジャーって、以前はアンダーとカップ表示でしたが、
私がファストファッションの下着部門をつくったとき、
S・M・L方式にしたいと言ったんです。
そのときは、ブラジャーメーカーからの
転職組が多かったので、
「ありえない」と言われました。
ですけど、そのメーカーが提案する
カジュアルなライフスタイルを考えたら、
それがいいと思ったんです。
- 伊藤
- それは何年のことですか。
- 惠谷
- 提案したのは2002年です。
デビューは2003年でしたね。
そうして世に出したら、
S・M・L方式でいいんだわっていう人が大勢いて、
今や日本の大手下着メーカーさんも、
S・M・Lでノンワイヤーブラを出す時代になりました。
それまで、65のA・B・C、
70のA・B・Cというふうだったのが、
ぐんと減ったので、在庫管理もしやすくなって。
でも現在は、P(プチ)や
G(グランデ)という表示ができ、
A・B・Cカップの人はSP・MP・LP、
D・E・Fの人はSG・MG・LG、
というふうになっているところもありますね。
- 伊藤
- cohanの特徴は?
- 惠谷
- 豊島さんといっしょに「リラックスするもの」
そして「旅にもべんりなもの」ということで
考えたデザインです。
cohanは基本的に、
肌に当たる部分を綿100%にしました。
旅や出張が多い人にも使いやすいように、
とにかくコンパクトになるようにつくっています。
わたしも出張が多いので思うんですが、
荷物のなかで、ブラジャーって、やたら邪魔ですよね。
- 伊藤
- 私、スイスのアンダーウェアブランドの
ブラキャミソールが好きなんですけれど、
畳んでもゴロゴロするんですよね。
- 惠谷
- ワイヤーがないのも、さっき申し上げたような
リンパの流れを止めないという意味もあるんですけれど、
そりゃ付けたほうが、着た感じはきれいに見える。
でもそんなにドレスアップすることって、
日常にはあまりありません。
ことに旅のときはちょっと楽なほうがいいし、
移動の電車や車、飛行機のなかでも楽だし、
荷物もちっちゃいほうがいい、と思って、
畳めるブラってできないかなと、これを考えたんです。
しかも旅先で手洗いして、タオルにくるんで
ギュッギュッとやったら、もうほとんど乾いてる。
フックアイもないから背中もすっきり見えるし、
背中が開いたものを着たときに、
見えても、そんなにおかしくない。
- 伊藤
- Vネックの服を着ることが多いので、
胸のカットが深いのが、とても重宝するんです。
- 惠谷
- そうですよね。
デコルテのラインはやっぱりきれいに見せたいし、
楽なブラジャーだけど、脱いでもカッコいいというか、
カッティングがきれいじゃないといけないなって。
じつはね、これ、本当はパターンが
すごくたいへんなんです。
シンプルなのでごまかしがきかなくて。
ズッてずれないような肩下がりと、胸の角度と、
ダーツを移動させことが、
じつはまあまあたいへんなことなんです。
- 伊藤
- 色のことも、聞かせて下さい。
- 惠谷
- 基本は「ヌードベージュ」です。
数百人の日本の女性の肌の色を調べて選んだ色で、
上に白や、淡い色のアウターを着ても透けない色なんです。
そしてcohanで人気のあるカラーの「ターコイズ」。
カラフルですが大人ぽく、
ちらりと見えてもチャーミングですよね。
ブラックはシャープにかっこよく。
そしてまさこさんカラーは、オリジナルで、
「weeksdays」限定の
「ハーブグリーン」をつくりましたね。
- 伊藤
- これが可愛いんです!
- 惠谷
- いい色ですね、これ。
日本の伝統色の萌葱色(もえぎいろ)にも近く、
ナチュラルで上品。
黄色いネイルにもぴったりな色ですよね。
- ──
- 見せるものじゃないけど、
やっぱり可愛いほうがいいわけですよね。
- 伊藤
- そりゃそうです!
- 惠谷
- やっぱりおしゃれな人は下着ですね。
いい下着、きれいな下着を着けていると
気持ちがいいですものね。
- 伊藤
- あと、やっぱり「ちょっと」
見えたりするじゃないですか。
そういう時に、あ、この人、
すごくいい下着着てるな! と思いますもの。
- ──
- このトーク、女子ならではですね。
楽しそうな会話でした。
男子はこういう話、しませんから‥‥。
- 伊藤
- 何穿いてる? みたいなね。
- 惠谷
- たしかにたしかに。
- 伊藤
- でもね、男性がしゃがんだ時とかに、
後ろから腰のところにトランクスが見えたりするのって、
気になりますよ?
- 惠谷
- ふふふ、男性も気を遣うべきですよね。
やわらかいお肉、かたいお肉。
- 惠谷
- 私が就職した当時、
プレタポルテ(既製服)をつくる人は、
9号が着られないと採用されなかったんですよ。
私は体型でNG!(笑)
同級生はダイエットして就職活動をしていました。
でも桂由美先生のところはオートクチュールだから、
どんな体型でもきれいに着れるものをつくるのが仕事です。
体型も個性なんだ、っていうことを、
桂先生のところで理解したものだから、
安心しちゃって、今の状態なんですけどね(笑)。
- 伊藤
- いやいや、そうですよ、
体型だって個性です。
同じ身長で同じ体重でも違いますものね。
- 惠谷
- 双子でも全然違ったりしますし、
国によって、肉質も違うんですよ。
- 伊藤
- 肉質が?!
- 惠谷
- 肌のきめ細かさも違います。
すごく端的に言うと、主食が小麦かお米かで違う。
小麦の人よりお米の人のほうが
肌質がすべすべしていて、肉質は柔らかいです。
- 伊藤
- じゃあ一般的な日本人は‥‥。
- 惠谷
- 日本のお米はもっちりしているでしょう、
それこそ新米のような水分の多いお米を
ふんだんに食べてる人はきめが細かいんですって。
- 伊藤
- 米どころの人って、きれいですものね。
- 惠谷
- そして小麦は、肉質を硬くするんだそうです。
たまたまその知識が役に立ったのが、
ファストファッションのメーカーで
肌着を立ち上げたときのことです。
そのメーカーは、
日本とアジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカと、
体型別にブラジャーの基本を変えているほどで。
- 伊藤
- おなじアジアでも、
中国と日本では違うんですか。
- 惠谷
- 違うんですよ、バランスが。
中国の中でも、たとえば大連の人と、上海の人は
もう全然体型も違うんですよね。
だからどこに向けての製品なのかによって、
糸のストレッチ、生地の伸び感、
そういうのまで変わってきちゃう。
そういうことを、立ち上げの時、やっていました。
たとえば日本人は補正下着みたいに、
ギュッとパワーネットの強いものを着ると、
肉も動いて、もうほんとうにウエストが細くなるんですね。
けれども一般的なアメリカ人は、
強いものを着なくても、そんなに体型が変わらないから、
パワーの強いものを嫌がるんです。
下を向いてお肉を寄せてカップに収めると、
胸の形をそのまま保てるんですが、
日本人でもバストのボリュームがある方は、
落ちてきちゃう。
でもアメリカ人はそんなに垂れてはこないんですよ。
- 伊藤
- 小麦ばっかり食べてたら変わるかもしれない?
- 惠谷
- 肉質は変わると思います。
いまお仕事でヨガウエアをつくっているんですが、
食べ物とプラス、インナーマッスルを鍛えている
いまの20代、30代の人たちは、
わたしのような50代とは違って、
筋肉が付いているから、ずいぶん違いますよ。
そうそう、日本と欧米のちがいで、
いちばんわかりやすいのが、ショーツのカッティング。
ヨーロッパのショーツはお尻がキューッて
鋭角になってるんですね。
それはそういう肉質、肌質に合うからです。
それを日本人が履くと、
肌がつるつるしてるから、お尻の間にギュッて入って、
Tバックみたいになっちゃう!
- 伊藤
- 海外でショーツを買うと、そうなりますよね。
- 惠谷
- 彼女たちは、肉が硬いので、いちばんヒップの高いところで
キュッとショーツが止まるんですよ。
もちろん歩き方も姿勢も違うんだと思うんですけどね。
だから、日本のショーツ屋さんはちゃんと、
お尻にちゃんとかぶさるようにして丸みが出るように、
テンションをかけて縫うんです。わたしたちも
「何%テンションかけて下さい」って伝えます。
- 伊藤
- 引っ張りながら。
- 惠谷
- グッて引っ張り、ギャザーを寄せながら縫う。
これって特別なことで、
今回のショーツも、アウター屋さんというか、
外着をつくってる工場さんには縫えないんですよ。
普通のアウター屋さんだったら、
こんなふうに縫い目にしわが寄っていると、
「パッカリング」といい、不良品扱いになっちゃう。
でもこの攣(つ)りがなかったら、
お尻がつるってすべっちゃう。
とくに、お尻にボディクリームとか塗って、
いつもつるつるしてる人たちはそうです。
ショーツとかブラジャーを選ぶときは、
本来、自分の肉質が関係するんですね。
- 伊藤
- サイズだけじゃないってことですね。
- 惠谷
- そうなんですよね。
サイズはね、変えることができるんですよ。
背中もどこの肉も胸に持って来ると、
「あ、私、背中の肉だったんだけど、
胸だったかもしれない」って、
お肉が勘違いして、ちょっと胸に来ますから。
- 伊藤
- 太香子さんのつくった肌着は、
着心地が楽なんですけど、それでもやっぱり‥‥。
- 惠谷
- はい、これを着る時も、
やっぱり中に入れていただいたほうがいいです。
前かがみになって、下を向いて、脇を寄せてね。
着た時のスタイルがきれいに見えますよ。
サイズが合ってないブラジャーを着ちゃうと、
脇の、副乳が漏れて乗っちゃう。
そういう意味では、合ってるブラジャーを着けないと、
胸の形が悪くなります。
もちろん「べつにいいのよ、ナチュラルだから」
という考え方も、いいんですけれどね。
あとは、ワイヤーはできればやめてほしいな。
- 伊藤
- そのことを、ずっと、おっしゃってますよね。
- 惠谷
- リンパの流れを止めないのがいちばんいいんですね。
きつい肌着は胸と大腿部リンパの流れを止めますから‥‥。
寝る時にショーツを履かないほうがいいと言われますが、
それもそういうことなんです。
- 伊藤
- 太香子さんのつくる肌着はノンワイヤーなのに、
日本人のつるつるした肌質とか肉質でも
うまく乗るっていうのは、
裁断、パターンがいいからですか。
- 惠谷
- はい、立体だからなんですよ。
寝てるとどうしても胸が流れちゃうんですけど‥‥。
- 伊藤
- ん? ということは、
寝てる時も着けたほうがいい?
- 惠谷
- そうですね、本当は寝る時も、
ノンワイヤーのこういうブラジャーを
着けられたほうが、胸が流れないですよ。
パリ・オペラ座衣裳室で。
- 伊藤
- 太香子さんは、
パリのオペラ座の衣裳室にいらしたと
お聞きしたのですけれど、
そこに行く前は何をなさっていたんでしょう。
- 惠谷
- 学生の時は女子美術短期大学で
「染め」を専攻していました。
当時、衣服デザインといって、
テキスタイルからつくってお洋服にするまでの
ゼミがあったんです。
絵描きになりたいという夢もあったので、
長沢節先生のところで勉強をしたい、
という気持ちもありつつ、服の道に進みました。
その時、いちばん基本になるものは
フォーマルだと思ったので、
桂由美先生のところ(ウェディングドレス)に
就職をしたんです。
- 伊藤
- そこから、どうしてオペラ座に?
- 惠谷
- 短大を出て2年半のことですから、
まだ22歳くらいのときのことだったんですが、
絵描きになりたいという夢を捨てきれず、
そのためにフランスに行きたくて、
フランス語を勉強していたりしたんです。
それで思いきって退職願を書いたんですね。
「フランスに行こうと思います」って。
そうしたら桂先生から
「あなた、フランスに行きたいのなら、
仕事で行ったほうがいいわよ!
ちょうどいい仕事があるわ」と。
というのも、当時、歌手であり実業家でもあった
大屋政子さんっていう方がお客さまで、
パリにバレエ団をお持ちだった。
その公演をオペラ座ですることになったので、
衣裳をつくる人が必要だというんですね。
大屋先生からオペラ座の衣裳室にお願いをしたら、
「日本人のための衣裳をつくるのならば
日本人をよこしてくれ」という話になり、
大屋先生から桂先生に、
弟子のなかからひとりお願いできないかという
オファーがあったそうなんです。
それで桂先生から「あなた行ってきなさい」と、
桂先生のところを辞めて、オペラ座の衣裳室に
就職をすることになったんです。
当時は直行便もなかったからアンカレッジ経由で、
着いたら宿舎は屋根裏部屋みたいなところで、
そりゃあもう、とんでもない苦労を
することになるんですけど!
- 伊藤
- 太香子さん、明るくおっしゃるけど、
さぞや、たいへんだったんでしょうね‥‥。
- 惠谷
- ハイ、たいへんでしたね。
ちょっと勉強したくらいじゃ言葉は通じないし、
当時、衣裳室にアジア人はいなかったし、
街でも、お店で物を見るだけで
アジア人だと疎まれるような、
そんな時代でしたから。
- 伊藤
- ‥‥おひとりで行かれたんですか?
- 惠谷
- 60ちょっと前の、刺繍もでき、縫製もすばらしい、
手のきれいな日本人のマダムと私とふたりで行きました。
私はデザインができて、一応縫製もできる人として、
もう一人は刺繍や縫製がきっちりできる
お針子さんとしてです。
ところがそのマダムは初めての海外でフランスだったから、
食べ物が食べられなくなっちゃったんです。
それで半年で帰ってしまった。
結局私だけ残って、約2年、
地下の衣装室と屋根裏部屋を往復する
修業のような暮らしをしていました。
- 伊藤
- その時は、どんなことを?
- 惠谷
- たとえば『くるみ割り人形』っていう依頼が来ると、
『くるみ割り人形』の題目に合わせた資料が
このぐらい(高さ30センチほど)あるんですね、
それを読み込んで、この場面のこの役の人が着る衣裳を、
こういう生地でつくりなさい、ということが基本です。
もちろんバレリーナに合わせてつくりますから、
プリマドンナはどういう体型で、どういう動きをするから、
ここにギャザーを入れるとか、
ここにもっと伸びる生地を入れるとか、
こまかな制約と要望があるし、
衣裳の下には、体をきれいに見せる
ビスチエを着せるんですが、
そのビスチエをつくるのも衣裳室の大事な仕事でした。
それが、すごくたいへんで!
ワイヤーとかボーンとか全部入っていて、
その人にピッタリになるようにするんです。
いまでもブラジャーやショーツのこと、
ファンデーション(基礎)と言いますよね。
お化粧も下地のことファンデーションって言うんですけど、
きれいに見せるその下地がつくれない人は、
何もつくれないですよ、と言われてたので、
まず、そのファンデーション、
ブラジャーとかビスチエをつくるっていうところからが
スタートでした。
- 伊藤
- じゃ、オペラ座の衣裳室で働いていた方は
みんな、それがつくれる?
- 惠谷
- そういうことです。
- 伊藤
- それがつくれないと、逆に、衣装も縫えない?
- 惠谷
- そういうことですね。
とはいっても、学校じゃありませんから、
ちゃんと教えてなんかくれないんです。
まずは立体でトワルを組んで、
それを開いてパターンをつくるときに、
「パターン切っといて」と指示がきます。
向こうはパターンが最後で大事な仕事ですから、
新人にパターンなんか引かしてくれません。雑用係です。
そこで、新人はそれをただ切るんじゃなくて、
切りながら、あ、このパタンナーさん、
こういうふうにつくるんだとか、
ここがポイントなんだっていうのを、
わるく言うと「盗む」、よく言えば「学ぶ」んです。
‥‥って、そういうことも、
最初は、誰も教えてくれませんでしたけれど。
- 伊藤
- 言葉の壁だってあるわけですものね。
- 惠谷
- あります、あります、もう、かなりありました。
ただ、ノンと言われてバッて投げられたら
それはダメだとわかりますよね。
何で悪いか、なぜわからないの?
‥‥というぐらいの勢いで、その繰り返しでした。
すこしした頃、当時からずいぶん
おじいちゃんだと思っていましたが、
今93歳ぐらいになった衣装室のトップクラスの方が、
「何をするかじゃなくて、
誰に付くかっていうことで
あなたの将来は決まる」とおっしゃって。
つまり、「これ切っといて」って言った人が、
最高にいいパターンを引くパタンナーのものだったら、
とてもラッキーなんです。
だから「あの人のパターンが来た!」と思うと、
一所懸命やりながら「なるほど」って。
わたしは、そこで覚えたことが大きいです。
- 伊藤
- すごい。
- 惠谷
- それから、桂の時に言われたことがあって、
それは「世界でいちばんいいものだけを見なさい」
ということでした。
今思うとすごく幸せなんですけど、
世界でいちばん高級なレースを持ったレース商が、
当時、桂先生のところに売り込みに来ていたんです。
メーター35万円とか50万円とか‥‥。
帝国ホテルのお部屋に、
フランスやベルギーから持ってきたレースが、
ベッドの上にバーッと並べられるんですね。それを
「じゃ、これ何メーター、これ何メーター」
って桂先生が買われるんですけど、
たまたまわたしがフランス語が少ししゃべれたから、
通訳しなさいって連れて行っていただいて、
その時にも「とにかくこれが、いま世界中にあるなかで
いちばんいいレースだから、触っておきなさい」って。
- 伊藤
- すごーい!
じゃ、ほんとにいいものを見せて下さったんですね。
- 惠谷
- 振り返って思うと、わたしが自慢できることは、
そんなふうにいいものをちゃんと見てきたことと、
1枚80円のショーツから、
3億円のドレスまでつくったことです。
- 伊藤
- !!! 何がどうなったら3億円になるんですか。
- 惠谷
- 金の刺繍とか、
パールの刺繍とか、
ダイヤモンドの刺繍とか、
そういうものがオートクチュールにあったんですよ。
しかも当時の3億円です。
ショーの2時間前にみんなで刺繍して、
終わると外してジェラルミンのケースに入れたりして。
そんなふうに「いいもの」を
たくさん見て、触れてきました。
つねづね「いちばんいいものを見なさい。
世の中でいちばんいいものを見なさい」
と言われてきましたが、
そこには素材がいいというだけじゃなく、
カッティングだとか、着心地だとか、
それも「いちばんいいもの」を知らないと、
いいものがつくれないっていうふうに言われていました。
- 伊藤
- ふむふむ。
cohan
自分の呼吸に合わせてくれる。
cohanの下着をはじめて身につけた時、
ああ、私はこういうのを待っていたんだ、
とうれしくなりました。
日本人の肌質や、体のラインを知り尽くした
デザイナーの惠谷さんが作る下着は、
「だからつけ心地がいいのか!」
と、納得するところがたくさんあるのです。
(明後日からの対談をどうぞごらんくださいね)
ある日、惠谷さんにこんな質問をしました。
「旅に持って行く下着、どうしてる?」
そこでおすすめされたのが、
チュールネットという素材でできた、
ブラジャーとショーツ。
「ほら、見て」
くしゅくしゅと折りたたむと、びっくりするくらいコンパクトになる。
「洗ってもタオルで水気を吸い取れば、
あっという間に乾いちゃう」と惠谷さん。
つけごこちのよさはもちろんのこと、
かさばらず、洗ってもすぐに乾く。
そんな下着、じつはありそうでなかなかなかったのです。
色は黒、ベージュ、ターコイズ、
そしてweeksdaysオリジナルのハーブグリーンの4色。
旅にはもちろん、ふだんにも。
軽くてらくちん。
まるで下着が自分の呼吸に合わせてくれているみたいな、
cohanの下着。
これから少しずつそろえていきたいな、
と思っています。
伊藤まさこさんのドリンクレシピ。
1.お酒が入っていないピニャ・コラーダ


カクテルとして有名なピニャ・コラーダですが、
お酒を入れないと、
あまくて冷たい、
ちょっと南国っぽいドリンクになります。
ココナッツミルクを多めに入れ、
こっくりとさせたので、
小さなグラスでもじゅうぶん満足。
パイナップルジュースではなく
生のパイナップルで作るとおいしさが倍増します。
グラスの淵にパインを飾るとかわいさも倍増。
■材料(作りやすい分量 3~4杯分)
- パイナップル
- 3センチ角くらいに切ったものを10個
- ココナッツミルク
- 100ミリリットル
- 砂糖
- 大さじ2
- 氷
- 10個ほど
■つくりかた
飾り用のパイン(分量外)は、
グラスにはさみやすいように皮に切れ目を入れておきます。
材料をすべてミキサーにかけ、
よく混ざったらグラスに注ぎ、パインを飾ります。
2.リモンチェッロのグラニテ


イタリアの食後酒、リモンチェッロ。
さわやかであまくて飲みやすい‥‥のですが、
じつはアルコール度数はとても強め。
今回は水で割って凍らし、
食後の口直しにぴったりな、
少し軽めのグラニテにしてみました。
リモンチェッロと水の比率は各自お好みで。
水を多めにすると、よりしゃりしゃり感が強くなります。
あまり薄めると凍らした時に物足りないので、
味見をしてみて「おいしい」と感じた濃度でどうぞ。
■材料(作りやすい分量で)
- リモンチェッロ
- 適量
- 水
- 適量
■つくりかた
リモンチェッロと水をステンレスの容器に入れ、
冷凍庫で冷やし固めます。
完全に凍る前に、何度か冷凍庫から出して、
フォークなどでかき混ぜましょう。
あらめが好きな方は2、3回。
細かいのが好きな方は5、6回混ぜると
なめらな口当たりになります。
3.アイスオレンジティー


アイスティーに
柑橘のさわやかな香りと風味を足しました。
飾りにはオレンジの輪切りを。
グラスの口径いっぱいに浮かぶオレンジが、
見た目にうれしいドリンクです。
■材料(作りやすい分量で)
- 紅茶
- ティーバッグ1人1つ
- 水
- 適量
- オレンジ
- 1人分につき1つずつ
- ミント
- 適宜
■つくりかた
お好きな紅茶をティーバッグに入れ、
水を注いで一晩おき、
水出しのアイスティーをつくります。
グラス1杯につき、
オレンジ1/4個分をしぼり、
スライスしたオレンジとミントを飾ります。
4.おまけのおやつレシピ
自分で作るフルーツサンド
娘が小さな頃に、よく作ったおやつがこれ。
器にそれぞれ、季節のフルーツ数種類と
泡立てた生クリームを盛り、
サンドウィッチ用の食パンを添えてどうぞ!
見た目にわくわくするのと、
さらには自分で作る楽しさがくわわって、
とてもよろこんだものでした。
よろこぶのは子どもだけじゃありません。
今回のweeksdaysの撮影時もみんな大盛り上がり。
気軽に作れて、見た目に楽しい。
ガラスの器はこんな使い方もできるのです。
■材料(作りやすい分量で)
- サンドウィッチ用食パン
- 適宜
- 季節のフルーツ
- 3種類くらい(この時はいちじく、バナナ、ソルダム)適宜
- 生クリーム
- 適宜
- 砂糖
- お好みで
■つくりかた
食パンを4等分します。
(みみは、お好みで。)
季節のフルーツは食べやすい大きさに切り、
それぞれ器に盛ります。
甘みや酸味、食感がちがうものを
組み合わせるとたのしいですよ。
生クリームは、好みの量の砂糖を加え、
泡立てて器に盛り、
各自、パンにフルーツと
生クリームをのせてどうぞ。
齊藤能史さんにきく「職人気質の松徳硝子」。
あたらしいコップをつくりました。
「白いお店 &」のときからそうなんですけど、
まさこさんからいただくイメージを
いかにかたちにするかっていうのが
自分の役目だと思っています。
松徳硝子では、それを職人たちが、
さらにかたちにするという二段階の作業があるので、
自分はその間に立つ
「通訳」のようなものだと思っています。
まさこさんって、単純にかたちのイメージだけじゃなくて
「こんな用途、いいかな」ということを伝えてくださる。
それを自分なりに解釈して、最初のかたちをつくります。
型紙で始め、次は職人といっしょにサンプルをつくって、
まさこさんに見てもらい、
じっさいに使っていただいたうえで、
さらなる微調整をします。
「weeksdays」のガラスのシリーズは
その繰り返しでできていきます。
そういう中で、今回、まさこさんから、
「ちっちゃなコップがほしい」
という提案がありました。
たとえばビールを飲むときに使うようなコップです。
松徳硝子のラインナップでいくと「うすはり」のような、
結構、シュッとしたものが多かったりするんです。
料亭や割烹で使われるタイプのものですね。
けれどそれだと「コップ」と名付けたときの
ちょっとしたかわいらしさがありません。
それはやっぱり「グラス」の風情なんですね。
きっとそれはまさこさんの思いとは
違うんだろうなと考えました。
じっさいにまさこさんからも
「『コップ』っぽくしてほしい」
という意見をいただきました。
その「コップ感」のバランスをどうとるか、
そこがぼくの仕事でした。
かなり試行錯誤をしましたが、
最終的には「うん、これですね!」と、
このコップが完成したんです。

▲右が松徳硝子のビールグラス、左が「weeksdays」のコップ。たしかに「かわいい」印象に!
コップから「うつわ」へ。
まっすぐ立ち上がる、底が大きくて背のひくいものは、
「ガラスのうつわ」と名前がつきましたが、
大中小の3サイズをつくりました。
このなかの「小」は、「白いお店 &」のときに
「松徳硝子のコップ」として販売をしたものと同型です。
それはもともと、フランスとスペインの国境にまたがる
バスク地方の伝統的なチャコリというお酒のためのグラス
「ボデガ」がアイデアのもとになっていました。
まさこさんからは、今回、
その形状をそのまま大きくして、
でも高さはそろえつつ、
飲み物だけじゃなく、ヨーグルトやスイーツ、
または冷菜を入れてもいいような、
ガラスのうつわがほしいという提案がありました。
その製作にあたって大事にしたテーマは、
「高さを揃える」ということです。
そしてそれは図面的にも製造的にも苦労した部分です。
というのも、工場見学をしていただいておわかりのとおり
ガラスの型吹きというのは、
型に入れて、下から吹きあげるんですね。
底のかたちを作ってから上に立ち上げる。
この作業は、径が広ければ広いほど
高い技術を要するものなんです。
途中で調子がずれると、段ができてしまったりする。
つまり、「小」は底面積が小さいのでつくりやすいけれど、
「中」「大」になるほど難しくなるんです。
そのこともあって、ガラスの薄さについては、
コップと、うつわの「小」は薄く、
「中」「大」はすこしだけ厚手にしました。
これは耐久性を考慮してのことでもあります。
結果、できあがったものは、
スタッキングすることができ、
その重ねたすがたは、
横から見ても真上から見ても
キレイだと言っていただけるものに仕上がりました。
もちろん、手づくりですから、機械生産のような
完全に均質なものはつくることができません。
どうしても個体差が出ます。
これを無理やり統一しようと、
管理を厳しくなりすぎても松徳硝子の製品は成立しません。
けれども「厳しくしない」ことが過ぎると、
逆にいえば「何でもあり」になる。
精緻に同じ形をつくることならば
機械生産のほうが合っていますし、価格も安くなる。
そこと勝負をしても仕方がないですよね。
やっぱり値段相応の明確な差、
手づくりガラスだからこそ生まれるよさを、
ぼくらは、表現することができなければいけません。
スペインやフランスのボデガは機械生産で、
ほんとうに庶民的なものですから、価格も安いんです。
でも伊藤さんがおっしゃるのは、
「あれはあれでいいんだけど、
家で夜、ちゃんとゴハンを作ったときに、
それでいいのかなと思った」
ということなんですね。
機械生産ではできない、手だからできるもの。
「weeksdays」の「ガラスのうつわ」は、
その期待にそうものができたように思います。
道具としてのプライド。
ガラス自体の透明度は原料と製法に左右されます。
うちは、光学レンズ用の原料を使っていることと、
工場見学のときにもお話ししましたが、
金型の内側に毎日コルクの炭を塗っていることで、
透明度とともに表面のツルツルしたなめらかさを
実現しています。
松徳硝子の職人はストイックですよ。
大先輩に、片桐という職人がいたんですが、
それこそ50何年やって「現代の名工」にも選ばれ、
3、4年前に引退したんですけど、
自分が入ったばっかりのとき、
これからの設計や企画の参考にしたいなと思い、
「親方、今までつくってきて『よかった』とか
『こういうものが好きだな』って、ありますか?」
と訊いたんです。するときっぱり、
「んなもん、ねえ!」
って。
「『これ完璧だ』なんて思ったことねえから、俺は」
‥‥そんな職人が多いんですよ、松徳硝子って。
職人気質といいますか、世の中には、
一流の作陶家に見えてもご自身は「陶工だ」と
おっしゃるかたもいますし、
すばらしいフランス菓子を作るかたが
「自分はパティシエじゃない、菓子職人だ」
とおっしゃったりもする。
そんな気概の職人が、松徳硝子にも集まっています。
うちのガラスは、作品ではありません。
常に道具でありたいと思っています。
酒を飲む道具だったり、料理を楽しむ道具だったり。
ただ、それはとても難しいことでもあります。
ものって、足し算してるほうが簡単で、
引き算で削っていくと、ちょっとしたアラが目立つ。
満足できないです。
でも満足したら終わっちゃうんだろうな、とも思います。
将来──ですか。
今はやるべきじゃないし、
そんな余裕もないし、
いままで話したことと矛盾もするし、
やるつもりがない、という上での話ですけれど、
もしかしたらその「満足したら」の
先にあるかもしれないことを話します。
ヨーロッパなどで、
いわゆる日常使いの器を作る工房と、
それとは別のアート部門が
同じメーカー内にあったりしますよね。
そういうのって、ちょっとだけ羨ましいです。
理想ではありますよね、松徳硝子のクラフト部門や、
そのプロダクトが生まれていくことは。
でも、まだまだこの「職人」のつくるものを
世の中に出していくのがぼくの仕事。
そう思っています。
松徳硝子さんで工場見学。


「電球用ガラス」というところで、
ちょっとびっくりしたかたもいらっしゃるかもしれません。
でも考えてみたら、電球というのは、とても薄いもの。
それを手づくりするには、当然のことながら、
高い技術が必要でした。
つまり当時から松徳硝子には、腕のいい
職人が集まっていたのです。
やがて機械化の時代が訪れ、
電球は、機械生産のものが市場を席捲します。
そんななか、松徳硝子は、手づくり電球から
「ガラス器」へと、主要製造品目をシフトしていきます。
そこで役に立ったのが、
「均質な薄いガラスを吹く」技術です。
電球をつくるテクニックは、
料亭や割烹から依頼される
「薄い、ひとくちビールグラス」
をつくるのに役立ちました。
そうして数千種類にもおよぶ
ガラス器をつくってきたノウハウは、
平成元年(1989年)、ひとつのアイテムに結実します。
「うすはり」グラスです。
ビールやお酒、つめたい飲み物を飲むのにいいと、
TVCMなどでも多く使われることになり、
松徳硝子の名前を世の中にぐんと広めたのでした。
その後、一般的なクリスタルガラスで使われる鉛を
バリウムで代替する技術を確立。
現在、松徳硝子で使っているのはすべてが
「無鉛クリスタルガラス」になっています。
伊藤まさこさんの隣にいる巨漢は、
齊藤能史(さいとうよしふみ)さん。
松徳硝子のクリエイティブディレクターであり、
営業マンから経営までを引き受けているかた。
「weeksdays」の前身である「白いお店 &」のときから
ずっと「ほぼ日」の担当をしてくださっています。
今回、伊藤まさこさんからの
「こんなガラスのうつわがあったらいいな」
というアイデアを、職人さんたちとタッグを組んで、
じっさいにかたちにしてくださったのも齊藤さんです。
松徳硝子の工場は2階建てです。
その2つのフロアの中央に
築炉されているのが都市ガス専焼炉。
それをぐるりと取り囲む2階フロアで
職人さん達が仕事をしています。
この現場、ものすごい熱さです。
ましてや夏。暑いというよりも、熱い!
炉を遠巻きにしているだけで汗が出ます。
そんななかで、職人さん達は
炉から溶けたガラスを竿の先にとり、
息を吹いてふくらませます。
とうぜん大量の汗をかくので、
すみに設置された巨大な冷蔵庫と製氷機から
ジョッキ大のカップに冷たい飲み物を入れ、
脱水症状にならないように気をつけながら
作業をすすめていました。
松徳硝子でつくっているものは、
手づくりとはいっても「作品」ではなく「プロダクト」。
つまり、一定の品質基準と規格を
まもらなければいけません。
つまり、同じかたち、同じ薄さ、同じ重さに仕上げる。
それが職人の技です。
「weeksdays」のうつわは、
松徳硝子で扱う製品のなかでも難易度が高いものだそう。
そこで齊藤さんプロデュースのもと、
熟練の職人さんが3人でチームをつくり、
無駄のないうごきでつくっています。
ガラスの主原料は真っ白な「珪砂(けいしゃ)」です。
これを炉で溶かしたものを竿の先につけるところから
ガラスのうつわづくりがはじまります。




同じ大きさに仕上げるためには「金型」を使います。
その金型の内側には、コルクの粉末を炭にしてつけた
真っ黒な層があり、そこに水分を含ませることで、
熱いガラスが入ってきたときに瞬間的に水蒸気を発生させ、
溶けたガラスと金型の間に水蒸気の膜をつくります。
形をととのえながら、くるくる回しているとき、
ガラスは、水蒸気の膜の内側にあるのです。
ちなみにその炭の層は、毎日剥がしてまた塗って、
という作業をくりかえしています。
このメンテナンスがきちんとできているから、
松徳硝子の製品は、こんなにうつくしく仕上がるのです。
すこしでもダメな仕上がりであれば、
すぐに廃棄の判断をします。
手をかけても最終的にうまくいかないものは、
職人さんたちには、すぐにわかります。
ガラスのいいところのひとつは、
廃棄してもまた溶かせば、
原料として再利用ができるところです。
かたちができたら「冷やす」作業です。
ゆっくり(1日くらい)時間をかけて冷やす
「留めざまし」を行うこともありますが、
「weeksdays」のようにたくさんつくるときは、
「送りざまし(除冷マシンの中を通す)」を行うことで、
うんと時短ができるそうです。
冷めたら、目視で検品をします。
続いて「口」をカット。
まずダイヤモンドカッターで筋をつけます。
その筋から本体を分離させます。
口の部分は、このままでは「なめらかさ」がないので、
まず機械に通して、やすりをかけます。
さらに、回転する鉄板に
水と粒度の細かい砂(金剛砂)を垂らし、
専任の職人さんが、絶妙な力加減で、磨きます。
続いて、洗浄工程にうつります。
やわらかな水流(噴水のようなしくみ)にあてます。
最後に、口のあたる部分に炎を当てます。
こうすることで表面をとかしてなめらかにします。
最終検品では、ひとつひとつ丁寧に目視をして、
できあがりです。
ちなみに松徳硝子では、「つくる」職人さんと
「仕上げる」職人さんは、それぞれが専門職。
そのほうが品質も効率もたかまるのだそうです。
次回は、齊藤さんによるアイテム解説をおとどけします!
松徳硝子 コップとうつわ
テーブルの上で、空気のように。
ガラスの魅力はなんといっても、
その透明感。
陶器や磁器がならぶテーブルの上に、
ぽん、とひとつ置くだけで、
その場所に空気が通る。
ファッションやメイクでいう「抜け」のようなものを
テーブル上で表現したい時に、
ガラスは力を発揮してくれます。
私がまいにち使いたいのは、
かぎりなく余分なデザインをそぎ落としたグラスや器。
それでいながら、
手に持った時の感触や、
口に触れた時の感覚が冷たくないもの。
水やビールをそそいだ時や、
料理を盛った時に、
ぐっとひきたててくれるもの。
今回、松徳硝子にお願いしたのは、
ほんとうにふつうの「コップ」と、
以前作った円筒形をした形のグラスを元に
サイズを大きくした器。
ひとつひとつ手でつくられるため、
感触にはあたたかみが。
それでいながら、
的確な作業が生み出すその姿はとても端正。
中に入れたものを、
「ぐっとひきたててくれる」、
願い通りのものができあがりました。
伊藤まさこさんの THE LIBRARY コーディネート
その3 さし色がいきる、上品なグレー。
同じ形ながら、
ネイビーともトマトともまったく印象が変わる、
ニュアンスのある明るめのグレーの
ワンピースとプルオーバー。
薄いカーキ色のパンツやトレンチコートを合わせ、
全体的にふわりと軽い印象にしてみました。
髪に巻いたのはシルクのスカーフ。
こんな風に、
黄色や赤など、少しさし色を入れると
グレーの上品さがより引き立ちます。
真っ赤なルージュもかわいいかもしれませんね。
ここからは私の私物と合わせた
コーディネートを紹介していきます。
グレーとブルーグレーは私の大好きな色の組み合わせ。
なんといってもシックで上品。
大人だからこそ似合う色合いだと思うのです。
さらにトレンチコートを羽織ればより大人っぽく。
肌うつりのよいグレーは、
冬の街にも映えそうです。
(トレンチコート:YLÈVE)
ロング丈のニットカーディガンを羽織り、
ショートブーツを合わせてみました。
グレーまたはニットと同系色のストールを巻いたり、
シルバーのブレスレットをいくつかつけてみても。
(カーディガン:YLÈVE)
伊藤まさこさんの THE LIBRARY コーディネート
その2 気分うきうきの、トマト。
着るのはもちろん、
クローゼットにかけてあるだけで
気分がうきうきしてしまう
トマト色のワンピースとプルオーバー。
パッと目をひく元気な色合いに合うのは、
やっぱりシンプルなコーディネート。
ワンピースはショートブーツと、
プルオーバーはデニムと。
アクセサリーもなし。
これ以上にないくらい引き算していますが、
形にくわえて「色」がチャームポイントになっているので
さみしい印象にはけしてなりません。
モノトーンを着慣れた方には、
ちょっと派手? と思われるかもしれませんが、
袖を通すと意外なほど、どんな方にもしっくり、すんなり。
これからの季節はコートやニットコートなどを上に羽織り、
トマト色をちらりと見せる、
なんて着こなしもよさそうです。
ここからは私の私物と合わせた
コーディネートを紹介していきます。
ジャージー素材ながら、
きちんとした印象に見せてくれるワンピース。
黒のヒールの靴と小さなバッグを斜めがけすれば、
お出かけのコーディネートは完成。
少し大ぶりのパールのピアスをしたり、
首にスカーフを巻いたり。
ちょっとした小物で着こなしの変化をつけても。
デニム素材は抜群の相性のよさ。
バッグと靴、小物はすべて白にして
軽やかさを出しました。
また、デニムをロールアップしてバレエシューズと
小さめのかごを持っても。
街着から旅の街歩きまで。
小物でいくらでも変化がつけられそう。
(デニム:YLÈVE/バッグ:weeksdays)
伊藤まさこさんの THE LIBRARY コーディネート
その1 すっきりシンプルな、ネイビー。
ダークなネイビーは、
まずはじめに取り入れやすい色。
この色を着ていると「落ち着く」。
そう思う方も多いのではないでしょうか。
まず私がおすすめしたいワンピースの着こなしは、
黒い靴ですっきりシンプルに着ること。
今回は太めのワンストラップが印象的な
trippenを合わせました。
ひとつ気をつけたいのは、
髪をすっきりまとめて軽やかに見せること。
襟元のラインが美しい服なので、
ぜひともそこを見せて、
すっくとした姿勢で着こなして欲しいと思います。
プルオーバーは、
初秋らしく
白の太めのコーデュロイのパンツと。
ネイビーと白。
相性のよいふたつの色の組み合わせは
着る人をシックに、上品に見せてくれます。
同系色のストールを巻けば、
さらに秋の気分に。
このプルオーバー、
じまんしたいのは絶妙な丈。
気になるウェストをカバーし、
全体をバランスよく見せてくれる。
デニムにも、細身のパンツにも。
一枚あると、着まわしのきく服です。
ここからは私の私物と合わせた
コーディネートを紹介していきます。
シンプルなシルエットのワンピースは、
持ち手が印象的な木のバッグや赤い靴など、
ちょっと個性的な小物も
すんなり受け止めてくれます。
もう少し寒くなってきたら、
靴下やタイツとのコーディネートも楽しめそう。
赤い靴には白いナイロンのソックス、
ブルーのスニーカーにはグレーのタイツなど、
ワンピースとの色の組み合わせを考えてみては?
少し光沢のある糸が混ざったスカートとの組み合わせ。
プルオーバーの裾をインして、
スカートのラインを引き立たせました。
ファーのバッグやエナメルの靴など、
いろいろな素材を混ぜても、
全体的にしまってみえるのは、プルオーバーの素材が
ひかえめだから。
コーディネートのしやすさは、
こんなところにも現れるのです。