
升ノ内朝子さんはギリシャ・アテネに暮らす
イラストレーターです。
ほぼ日の「やさしいタオル」のデザインも
手がけてくださっているんですよ。
そんな升ノ内さん、ギリシャのすてきなところを
みなさんに知ってもらいたいと、
現地で心を掴まれた風景やできごとを
イラストに描いてくれることになりました。
遠い国から届く絵ハガキをながめるように、
いろいろ想像して楽しんでくださいね。
不定期連載です。

今回はギリシャの南東部にある小さな島、シミ島のお話。
その目と鼻の先はすぐトルコという、
アテネからはすごく離れた場所にありながら空港はないので、
アクセスするには一晩かけてフェリーで行くか、
あるいは近隣の島まで飛行機で行き、
そこからフェリーで向かうことになります。
私も以前ロドス島へ行った時に立ち寄りました。
日帰りだったのでごく限られた時間での滞在でしたが、
ありがたいことにシミ島の一番大きな町、
「シミタウン」はフェリーの発着する港にあります。
レストランや土産屋も一通り揃っているし、
またその美しい景色が見所の一つ。
ギリシャの典型的な島のイメージと言えば、
白い壁の建物に青いドームといったものだと思いますが、
シミタウンの主な建築は新古典主義で、
古代のギリシャやローマの建築をお手本としたスタイル。
ベージュとブラウンを基調としつつ、
エーゲ海の島らしい陽気さを閉じ込めきれないのか、
所々明るいパステルカラーの点在するクラシカルな建物が、
おもちゃの様に並んでいる様は圧巻です。
これらは19世紀、シミ島の人々が
主に天然海綿(スポンジ)漁で極めた繁栄を背景に、
金に糸目をつけず周辺の島々やイタリア、フランスにまで
手を伸ばして材料や人材を集めて建てられたそう。
サントリーニ島の石材、パロス島の大理石、トリエステの木材、
マルセイユの瓦、カルパトス島の大工…といったように。
残念なことに第二次世界大戦で多くの家屋が破壊されて、
その後再建されたということなので、
当時と全く同じとはいかないでしょうが、
今も歴史的な場所として当時の建築の特徴を崩さないように
保護されているということです。
さて、フェリーが到着して
そんな風景をひとしきり堪能した我々ですが、
滞在時間はたったの3時間。
街をぶらぶら歩いてご飯食べるくらいの時間しかありません。
とりあえず長く湾曲状に続く海沿いに歩いてみると、
上品な雰囲気の建物が立ち並ぶ傍ら、
なんとも素朴な看板が多くてほっこりします。
今も島の特産物である天然海綿が、
変に高級感を出さず野菜でも売るかのように
てんこもりに積まれているのがなんともギリシャらしい。
ご当地グルメであるシミシュリンプもおいしかった。
鮮やかな赤色と繊細な甘い味わいが特徴の
3~4cmほどの小エビを素揚げしたものですが、
殻ごといけて、ぽりぽりがとまりません。
…でも悲しいかな、私のシミ島での一番強烈な思い出は、
時間差で襲ってきた船酔いからか、
街歩きの途中この美しい風景を背に盛大に吐いてしまったこと。
その前後もふらふらで、正直記憶も曖昧なのですが、
そんなことがなければぜひ山の上からの景色も見てみたかった。
ていうかこんな遠い島中々来れないんだから
ケチケチせずに一泊くらいすればよかった。
今はただ、写真に残るフェリーから見た景色を反芻しながら
思いを馳せることしかできませんが、
この苦い経験を今後の旅計画に生かそうと思います。
升ノ内朝子
2025-12-18














