
升ノ内朝子さんはギリシャ・アテネに暮らす
イラストレーターです。
ほぼ日の「やさしいタオル」のデザインも
手がけてくださっているんですよ。
そんな升ノ内さん、ギリシャのすてきなところを
みなさんに知ってもらいたいと、
現地で心を掴まれた風景やできごとを
イラストに描いてくれることになりました。
遠い国から届く絵ハガキをながめるように、
いろいろ想像して楽しんでくださいね。
不定期連載です。

アテネを歩いていると、お祭りなどの特別な日でなくても、
所々で屋台を見かけます。
焼きトウモロコシや焼き栗、フルーツやナッツ、古本、
なんていうのもあるけれど、きっと一番多いのは
ギリシャの国民的スナック「クルーリ」でしょう。
それはごまをまぶしたシンプルなパンなのですが、
その名の通りくるりと一周リング状になっているので、
ギリシャに来てすぐに覚えた単語の一つです。
私がギリシャに住み始めたのは
もう15年以上も前になりますが、
当時は友人のスタジオの一角を借りて
仕事をさせてもらっていました。
その友人の父親であり、
スタジオのオーナーでもあるおじさんが
よく差し入れに買ってきてくれたのがクルーリで、
密かに心の中で彼のことを「クルーリおじさん」
と呼んでいたものです。
一般的にギリシャの朝ごはんは軽めで、
コーヒーだけで済ませたり、
なんなら食べない人も多いと聞きますから、
クルーリおじさんのように、忙しい朝、
仕事に行く途中でクルーリを買い、
歩きながらや仕事中に食べるという人も多いようです。
ピシッとスーツを着ているビジネスマンでも、
手元にはクルーリを持っていたりするのを見ると
なんだか微笑ましい。イラストにある屋台も、
地下鉄のシンタグマ駅を出てすぐ目の前に構えていますから、
そういう人をターゲットにしているのかもしれません。
クルーリの起源は、一説によると古代ギリシャで
奴隷に与えられていた「Kollyra」(コリュラ)に遡るとか。
興味深い、と同時にちょっと複雑な気持ちにもなるのですが、
ギリシャ語の「働く」という単語は「奴隷になる」
という意味もあったりして、今も昔も、
クルーリが働く人たちにとって重宝されている
安価な食べ物という位置付けは同じようです。
クルーリの屋台は、そんなギリシャの庶民生活を
象徴する存在であるような気がしています。
ギリシャも年々物価が上がっていて、
ご多分にもれずクルーリも値上がりしていますが、
それでも先日購入したらまだ70セントでした。
今どき1ユーロ以下で買えるスナックはそう多くはありません。
時間が経つと硬くなってしまいがちなクルーリは、
午前中のできたてをゲットできれば
さらに最大限に楽しむことができますので、
ギリシャにお越しの際にはぜひ試してみてくださいね。
升ノ内朝子
2026-08-14














