カズン待望のファブリック、
「マキノコレクション」
牧野隆司さんインタビュー
2009.10.30
ほぼにちわ。です。

今月から順次お届けしてまいりました
「ほぼ日手帳2010」。
みなさまからいただく「届きました!」のお知らせ、
日々うれしく読ませていただいています。
ほんとに、ありがとうございます。

さて、いよいよ明後日、11月1日(日)から
11月の新作カバーの販売がはじまります


今月のカバーは、オリジナルとカズン、
それぞれに魅力的なファブリックカバーということで、
今週の手帳CLUBでは、キーパーソンとなる
おふたりのインタビューをお届けしています。

「モリカゲシャツシリーズ」の森蔭大介さんにつづき、
本日ご登場いただくのは、
「マキノコレクション」のキーパーソン、牧野隆司さん。
このシリーズのすべての生地を製作しているかたです。

昨年登場したとたんに、たいへんな人気となった
この「マキノコレクション」、
2010年もオリジナルのファブリックカバー、
「シルキーデニム」
「リネンデニム」が好評ですが、
11月の新作は、カズン初のファブリックカバーです。

光を受けて千鳥が浮かぶ
「ブラック・チドリ」

ーー 2010年の手帳を作るにあたって、
たくさんの生地のサンプルを見せていただいて
あれもすてき、これもかっこいい、と
大騒ぎしながら選ばせていただいたんですが、
なかでもこの「ブラック・チドリ」の生地、
圧倒的な魅力がありました。



牧野 ありがとうございます。
これはウールなので、素材は違いますが、
傾向としては昨年の「モノトーンチェック」に
近い生地ですね。
ーー しっとりとした黒で、
それだけでも十分かっこいいんですけど、
角度によって千鳥が見えてくるのが
なんともいえず、おしゃれで。
牧野 これは「モノトーンチェック」と同じ、
ジャガードで織っていて、
「モノトーンチェック」のほうは
比較的、柄をくっきり出したものですが、
この生地は、できるだけ凹凸を少なくフラットにして、
光の微妙な加減で、千鳥の模様が
浮かび上がるようにしているんです。
ーー 角度によっては無地にも見えるぐらい、
とても繊細な模様ですね。



牧野 そうですね。平面のなかに
シャドウのように千鳥が浮かんでくる、
これを繊維組織で作っていることによって、
高級感が出ていると言えると思います。
それに、カズンサイズになったことで
千鳥の柄もよく引き立ちましたよね。
カズンの面積に、大柄の千鳥が
うまくマッチングしてよかったです。
ーー そうなんです、すごくぴったりで。
カズンが仕立てのいい上質な服を着たみたいです。
ウール100%の存在感っていうんでしょうか。
牧野 たぶんウール100%の手帳をつくるという発想は、
これまでほとんどなかったでしょうね。
ぼくらとしても、これから使われた方々から
どんな反響をいただけるのかたのしみです。

モノフィラの光沢のひみつ
「ゴールデンブラック」「パープル・ストライプ」


ーー もうひとつ、ウールとは180度違う、
新しい素材をご提案いただきました。
「ゴールデンブラック」と「パープル・ストライプ」は
同じタイプの生地なんですよね。
牧野 「モノフィラ」ですね。
モノフィラというのは、歯ブラシのブラシ部分の糸版、
あと、釣り糸ともいっしょですが、
この2種類は、どちらもモノフィラの生地です。
ーー 最初にうかがったときも、
すごいおもしろい、はじめて見る布だったんですが、
モノフィラは、どんな特徴がありますか?
牧野 これ、釣り糸を思い浮かべていただくと
わかりやすいかと思うんですが、
こう、パーンと張った糸なんですね。
だから、織りあがった生地も、張りがある。
張り感がでるというのが、まず特徴のひとつです。
それから、光沢感。
ーー ほんとに、独特の光沢感がありますよね。
牧野 ええ。これは生地の表面に加工したりとか、
わざと光らせているわけではなくて、
モノフィラの糸の特性で光っているものです。
ちょっとくすんだ透明感のある糸なんですよ。
ーー あ、釣り糸といっしょと思えば、
なんとなく想像できます。
牧野 モノフィラ、正確にはモノフィラメントといいますが、
糸って、通常はフィラメント、
要するに、細い糸を何本も束ねて
1本の糸に縒った状態なんですね。
それに対してモノフィラというのは、
1本で形成してる糸なんです。
通常の糸は束ねてあるために、
白っぽく、不透明になるんですよ。
ーー なるほどー。
で、モノフィラは1本だから透明感がある、と。



牧野 そう。糸に透明感があることによって、
色をつけると、ちょっと光沢感が出てくるんです。
組織との組み合わせにもよりますが、
光沢感が、こう、出てくる。
ーー それも、いかにも光ってるって感じじゃない、
シックな光沢ですよね。
牧野 そうです、そうです。
ぼくらの表現では、「底光り」と言ってるんですが。
ーー 底光り、ですか?
牧野 ファッションの仕事をしていると、
いろいろと、無理難題なリクエストがあるんですね(笑)。
光沢感はほしい、でも、
いかにも光ってますよというのではなく、
底光りがほしい、と。
底光りって、どないしたらええの?
っていうことなんですけど、まあ、
どうしたらできるだろうかと、いろんなテストを重ねて。
これは、透明感のある糸を組織のなかに隠して、
内側から光を出していく。
ミクロの世界ですが、組織の隙間から光を出すことで、
この光沢感、底光りが実現できたんです。
ーー 「パープル・ストライプ」と「ゴールデンブラック」、
同じモノフィラですが、印象がちがいますね。
こちらの「パープル・ストライプ」は
紫のグラデーションが人気で、
待っていてくださる方も多いんです。
牧野 うれしいですね。



牧野 「パープル・ストライプ」は、
縦糸に色糸を使い、グラデーションの柄を作っていて、
横糸には何も染めてない、透明の糸を使っているんです。
そうすることで、なにか濡れてるような光沢感が出て、
上に膜を張ってるようなイメージなんですね。
ーー なるほど、うん、わかります。
もうひとつ、「ゴールデンブラック」のほうは、
見る角度で、色の見え方が違うのが
とても不思議なんですが。
牧野 ああ、「ゴールデンブラック」のほうは、
黒と色の反射効果をねらって、底光りさせてるんです。



この生地は、縦糸が黒い糸なんですが
縦糸が黒のときに、横糸に色を持ってくると、
反射効果が出て、横糸の色、
この場合は、オレンジイエローの色ですね、
それがより引き立ってくるんです。
かつ、この生地は組織が斜めに走っていってますから、
こう、向きを変えると色が違って見える。
ーー へええ、おもしろいですねえ。
牧野 ほんとはこの生地、最初は黒と白だったんですよ。
糸が硬くて、染まりづらいということで、
黒と白の糸の2種類しかなかったんですね。
で、本来は先染めの生地なんですが、
横糸に色をつけるために、先染めで作った生地を、
さらにもう一度加工場に入れて、
後染めするということをしているんです。
ーー それは、すごい人の手がかかっているという‥‥
牧野 通常は、先染めは先染め、後染めは後染めでやるのが
順当なやり方で、
こういうことはあまりやらないんですけど。

この横糸を染めたっていうのは
あるブランドのデザイナーのアイディアで。
もともとの、黒と白で織った生地を見せたときに、
「横糸を染めてよ」と。
横糸だけで、そんなに色が変わるのかなと、
最初はね、思ってたんです。
でもまあ、ひとつのアイディアとしてやってみようかと
実際に色を変えてみると、それぞれ色が違って見える。
それによって、より高級感が増してきた
というところがあります。
ーー モノフィラの生地は、ファッションでは
どんなものに使われてるんですか?
牧野 そのブランドのコレクションでは、
特徴のあるジャケットに使われてましたね。
ただ、モノフィラは、硬くて縫製がむずかしいので
どちらかというと、オートクチュール向きの生地です。
ほかは、カバンなどに多く使われてますね。
ーー この糸で生地を織ってみようと思われたのは、
なにかきっかけがあったんですか?



牧野 いま、いろんな種類の糸がありますから
これを織ったらどうなるだろうって、
検証の目的で織ってみることがあるんです。
モノフィラも、ある機屋さんが試しに織ってみたら、
これが、なかなかおもしろかった。

そこから、生地としては何に向いているだろう、
硬いイメージがあるんで、
カバンにしてみようかな、とかね。
ぼくだけじゃなくて、
アパレルさんであったり、業者さんであったり、
それぞれの立場でいろいろ置き換えて考えて。
そういういろんなアイディアがヒントになって、
さらに調整しながら、形にしていく。
ーー 生地づくりに携わる人たちの
いろんな角度からのアイディアで、
新しい生地ができていくんですね。
牧野 機屋さんや、同業者たちと、
いろんな情報交換を、常にやってますからね。
そうやって話をしているなかで、
まぁ、夜、飲みながらなんてことも多いんですけど、
ふつうのくだらない話もしつつ、
ひょんなことから、ひとつのアイディアが出たときに、
「なんかそれ、おもしろいよね」というところからはじまって
「じゃあ、こういうの作ったら、こうなるん違うの?」
って、広がっていくことが多いんです。
そういう会話のなかから
新しい生地の閃きが生まれることもけっこうあります。
ーー そういうコミュニケーションのなかから
たくさんの魅力的な生地が生まているんですね。
牧野 だから、人としゃべってることがほんとに多いんですよ。
誰かに話しながら、これはおもしろいなと
あらためて思ったり、話すことで、
倍に広がるということはしょっちゅうあります。
誰かと話すことによって、ますます真剣になってくる。
たいがい、冗談みたいにしゃべってるんですけど、
結局、そのことを実現したいという思いがみんなにあって、
新しいことが動いていく、という感じですね。




カズン用ファブリックカバー「マキノコレクション」は、
明後日、11月1日(日)午前11時より販売を開始します
各商品のくわしい紹介は、こちらをご覧くださいね。

「ブラック・チドリ」
「パープル・ストライプ」
「ゴールデンブラック」


11月の新作カバーのさまざまな表情を、
動画でもご紹介しています