デザインは、使う人ありきの仕事。
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ーー |
昨年はじめてファブリックカバーを作りまして、
そのとき、シャツ生地を使ったカバーも作ったんですが、
シャツのことならいっそ森蔭さんに相談してみよう、
ということで今回のコラボレーションが実現しました。
本業の、シャツを作るお仕事とは
ずいぶん勝手が違ったのではありませんか? |
森蔭 |
いや、おもしろそうだなというのが先にきて、
できるかなみたいなことは、思わなかったですね。
ふだんやってることと、そんなに違わないですし。 |
ーー |
そういうものなんですか? |
森蔭 |
ええ。あの、ぼくら、シャツ作ってますけど、
ファッションをやってるつもりもないんですよ。
デザインしてものを作る、
その工程とか考え方は、シャツも手帳カバーも
そんなに変わらないんです。
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ーー |
まず、見本のカバーを分解してみたと
おっしゃってましたね。 |
森蔭 |
そうなんです。
たぶんぼくは、ものの発想とか考えかたが
すごく3次元的なんだと思うんですが、
デザイン以前に、
どうやって作られているかということのほうに
まず、興味がいくんです。
それで、ちょっと申し訳ないなと思いながら、
手元にあったカバーを解体してみたんです。 |
ーー |
ええ、はい。 |
森蔭 |
そうすると、ほぼ想像していたような
構造ではあったんですが、
そうか、ここに芯を入れてるんだなとか、
ここをこうしてからステッチをかけてるんだとか、
そういうことが、見えてきました。
でね、これ、こことここの生地で、
布の目を変えてあるんです。
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ーー |
ベースの部分とポケットと、ですね。
その、布の目というのは? |
森蔭 |
布って、機織りを思い浮かべてもらうと
わかりやすいかと思うんですが、織るときに、
先に縦の糸を張って、後で横に糸を入れていくんですね。
それで、織りあがった生地は、
縦の方向には伸びにくく、横には伸びやすいという
性質があるんです。 |
ーー |
へえぇ。あ、なるほど!
伸びてほしくない方向に、布を縦に使ってるんですね。
手帳の場合は、開閉する方向に伸びては困るから‥‥ |
森蔭 |
そうです、そうです。
だから、開いたときの長辺の方向に
縦地を通すのが、必然なんだろうな、と。
で、ポケット部分は、布目が逆になるんです。 |
ーー |
伸びてはいけない方向が逆、ということですか。
おもしろいですねー。 |
森蔭 |
布の目をそうやって使うということは、
ストライプの生地を置いたら、
ここが横になって、こっちが縦になるよな、
っていうようなことを、考え始めて。
▲「ボタン・ステッチ(ストライプ)」のサンプル
手帳カバーの構造をいかした、
一番ミニマムなデザインって、
こういうことだろうな、と。
そんなことが、見えてきたわけです。
デザインを考えるとき、こんなふうに
「見た目を絶対にこうしたい」みたいなことは
先にこないんです、ぼくの場合。 |
ーー |
シャツを作るときもそうですか? |
森蔭 |
シャツに関しても、そうです。
デザインって、どんなものでも基本は
使う人ありきの仕事だと思うんです。
だから、作る側がああしたいこうしたいという以前に、
使う人はどうしたいかなということを考えてますね。
こちらが一方的に押しつけるのではない、
かといって、言われることを聞くだけでもない、
ちょうどその真ん中ぐらいのバランスのときが、
一番いいものになると思ってるんです。 |
ーー |
森蔭さんはオーダーメイドのシャツも作られていて、
お店で直接、お客さまとやりとりされるなかで
そのバランス感覚が培われているんでしょうね。 |
森蔭 |
だから、ものを作るときにまず考えるのは、
使う人がどう思うかなっていうことと、
あと、やっぱり使い勝手のこと。
使っていて、不便なところがあるよりかは
やっぱりちょっと便利なほうがいいし、
そのためには、理にかなった構造になってるほうがいい。 |
ーー |
なるほどなるほど。 |
森蔭 |
で、もうひとつ。
ちょっと平たい言い方をしてしまうと、
「かわいい」ほうがいいと思うんですよ。
かわいいというのは、
それを欲しいと思う動機になるもので、
それを使ってる自分っていうのが
いいよなと思いながら使えて、
それをまた誰かが見て、
「それ、すごくいいね」って言われたりすると
うれしいと思うんですよ。 |
ーー |
便利なだけじゃなくて、
持っていて、うれしくなるようなもの。 |
森蔭 |
デザインされるものって、
そういうものであるべきだと思ってるんです。 |
機能性とデザイン性を兼ね備えた
ダブルポケット。
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ーー |
9月から販売している「ボタン・ステッチ」も大人気で、
メールもたくさんいただいているんですよ。 |
森蔭 |
ああ、うれしいですね。 |
ーー |
11月の「パッチワーク」を待っていてくださってるかたも
多いんですが、基本はどちらもシャツのイメージですね。 |
森蔭 |
そうですね。シャツっぽくしようというのは
最初から思っていたんです。
で、シャツといえば、ボタンとか前立てとか、
いろいろありますけど、なにかこう、
ちょっと立体的な要素を加えたいと思ったんです。
たとえば刺繍であったり、
縁をトリミングするとか、パッチワークとか、
こんなふうなことをやってみたらどうだろうという
アイディアがいくつか出てきて。
▲森蔭さんのアイディアスケッチ |
ーー |
わぁ、アイディアスケッチですね。
これは最初のころのもの、でしょうか。 |
森蔭 |
ええ、簡単なスケッチしか描いてないんですけどね。
で、思ったよりも面積が小さかったんですよ。 |
ーー |
ああ、手帳にかけると、さらに二つ折りになりますし。 |
森蔭 |
そうですね。この面積の中でどうするかと考えると、
これは、実際に作っていかないと
わからないなという感じで、
次はもう、解体したものを元に型紙をおこして
実際にカバーを作りはじめたんです。 |
ーー |
それは、縫うところからご自分で? |
森蔭 |
そうです。まぁ、初めてやるようなことは、
ひと通り自分でやってみないとね。
まわりのスタッフにしてみれば、
「‥‥何してるんですか?」っていう話です。
「いやいや、まあ、放っといてくれ。
おもしろいとこだから、話しかけてくれるな」と(笑)。 |
ーー |
(笑)さきほどのスケッチにあった
「ポケット両方」というアイディアが実現したのが、
11月の「パッチワーク」のカバーですね。
いつもはカバーの後ろ側にある外側ポケットが
前と後ろと、両方にあるのが大きな特徴です。 |
森蔭 |
そうですね、ポケットを両面につけたいという考えは、
初期段階からありました。
単純に、前にもポケットがあったら
使いやすいんじゃないかなと思ったんですよ。 |
ーー |
ええ、なるほど。 |
森蔭 |
といっても、すでに手帳カバーとして完成した形だし、
これだけ仕様を変えるのは、
むずかしいかもなとも思ってたんです。
でも、カバーの機能としては、たぶん
ポケットがふたつあっても困らないだろうし、
こう、前にポケットをつけられれば、
この辺をシャツの前立てに見せられるよな、と。
パーツの数も増えるので、それぞれ違う生地を使うと、
こういうパッチワークみたいなデザインも成り立つし、
ちょっと表現が広がるんです。
生地を重ねて、縁をトリミングしたりして、
立体感も出せる。 |
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ーー |
どちらも表側から見たときと、裏側から見たときで、
表情がかなり違って見えるんですよね。
生地の柄や色の組合わせが絶妙で、
それもすごくたのしいです。 |
手帳とお揃いのシャツを作ろう。
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ーー |
生地はすべて、ふだん森蔭さんがシャツに使ってるものと
まったく同じものを使っていますね。 |
森蔭 |
そうです。
じつは、手帳カバーを作ることになった時点で、
だったらシャツもいっしょに、っていうのは、
ぼくのなかには最初からあったんです。
まだやるやらないは別として、ですね。
だから、手帳カバーにもシャツ地を使おう、と。 |
ーー |
はい、さらっとしたコットンの手ざわりが
すごく着心地よさそうで、わたしたちも
お揃いのシャツがあったらすてきだなぁと
思ってました。
それで「ボタン・ステッチ」も「パッチワーク」も
同じ生地、お揃いのデザインで
シャツを作っていただいて。 |
森蔭 |
お揃いのシャツといっても、
別にかならずお揃いで着てほしいとか、
そういうことじゃないんです。
それぞれ単体で成立つプロダクトとして作っていますし。
で、一緒に使う人がいたときに、なんかこう、
「あ、いっしょじゃない?」みたいなことを
だれかが気づくっていう、そういうおもしろさですね。
あの、やっぱりうれしいのって、
人に言われるときやと思うんですよ。
「あれ? これ、いっしょ?」ってね。
ふふふ、実はいっしょなんだよな、みたいな。 |
ーー |
やっぱりこれも、使う人がどう思うか、
うれしいと感じるのはなにかっていう発想なんですね。 |
森蔭 |
ぼくの場合、絶対こうじゃないといけないというのは、
ほんとになくて、やっぱり、
使う人にとって大事なのはなにかということ。
まぁ、そうすると、作り手としてこだわりはないのか、
という話になるかもしれませんけど、
それって、こちらがあれこれ説明するものじゃなくて
使っている人が使いながら見つけてくれる、
わかっていただくものだと思ってるんですね。
それを使っている人がじわじわわかってきて
気がついていく、ということのほうが
意味があると思ってるんです。
だからこういうのも、なんとなく使ってて、
人に「いいね」って言われたりとか、
「そういえば、ポケットがふたつついてて便利だわ」
とか、そういうふうになってくれればいいなと
思うんですけどね。
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