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Q.
ピッグスキンの革製品を
使ったことがないのですが
どういう特徴がありますか?
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籠浦 |
ピッグスキンの性質としては、
薄く通気性がよく、柔軟性があるという特徴があって
手袋などによく使われていますが、
バッグや革小物にしたときのいちばんの魅力は、
やっぱりピッグ特有のしぼ模様ですね。
海外の高級ブランドでも
バッグや革小物にピッグスキンを使って
すばらしい商品をつくっています。
そこで多く採用されているのが
イタリアの「チベット社」というタンナーの革で、
今回のピッグスキンの革カバーには、
そのチベット社の「チンギアーレ」という
猪豚革を使っています。
チンギアーレはヨーロッパでは
古くから使われている高級素材なんですが、
とくに、このチベット社の革は、
なにより発色がすばらしいんです。
仕事柄いろいろな革を見ていますが
こんなふうに微妙な色は、
なかなか出せるもんじゃありません。
今回手帳カバーをつくるときにも、
まず、革を小さくカットした色見本で候補を選んで
サンプルを取り寄せたんですが
1枚革のサンプルがはじめて届いたときには
「うわ、すごいの来たな!」って思いましたよ。
発色もいいし、透明感もあるし、
光沢といい、パーンと張った感じといい‥‥
なんというか、表面がキュッとしまってて、
パーンと張ってるんです。わかります? |
ーー |
は、はい(笑)。
カバーを手にしてみると、よくわかります。
そのピッグスキンについては、
こういうご質問もいただいています。 |
Q.
ピッグスキンと牛革では、
「育ち度」はどうちがいますか? |
籠浦 |
「育ち度」というと、
経年変化の度合い、ということですね。
一般的に革の経年変化というと、
手に脂や汗で革がなじんで起こる自然な変化、
ツヤが出て、色も落ち着いて、形もなじんで、
といったことがありますが、
ヌメ革のように日に当たって色が濃く変化する
といったこともあります。
これは、牛革とピッグスキンといった
革の種類のちがいというよりも、
「なめし」の方法や表面加工のちがいによるものです。
「なめし」の方法には、
植物の渋(しぶ)でなめす「タンニンなめし」と、
化合物をなめし剤にした「クロムなめし」、
その両方を組み合わせた
「コンビなめし」という方法があるんですが、
これを経年変化の度合いで順番をつけると、
「タンニンなめし」の革が、
いちばん変化の度合いが大きくて、
次に「コンビなめし」、その次に「クロムなめし」
ということになります。
タンニンなめしは、表面加工が少ない分、
手の脂や汗の影響を受けやすいということと、
タンニンが太陽の紫外線と結びついて
色が濃くなるという性質があるんです。
そういう面で、タンニンを多く含んでいるほど
変化が大きいと言えるわけです。 |
ーー |
ピッグスキンはどの方法でなめしているんですか? |
籠浦 |
チベット社は、なめしも染色も加工についても
企業秘密といいますか、
いっさい公表していないんです。
タンナーによっていろいろ工夫がありましてね、
それで革の仕上がりがぜんぜん違うので、
職人の腕のみせどころといったところがありますから。
ただ、なめしの種類に関しては、
革の断面の色やなめし剤の含有率の試験結果から、
クロムなめしと言っていいと思います。
ですので、このピッグスキンは、
色が大きく変わっていくということはなく、
じっくり使っていくうちに
手の脂や汗でなじんでツヤが出て、
という自然な経年変化ですね。 |
ーー |
そうすると、ピッグスキンは、
いまの発色のまま長く楽しめて、
逆に、もっと経年変化をたのしみたい方には
タンニンなめしの牛革がおすすめ? |
籠浦 |
そうです、そうです。
それぞれに良さがあるんです。
ピッグスキンについてもうひとつ言うと、
クロムなめしはタンニンなめしに比べて、
表面にキズがつきにくいという利点もあります。
だからたとえば、女性のバッグなどのように
変わらずきれいに使いたいものに向いているんですよ。 |
ーー |
高級ピッグスキンだけど、
そういう意味では、気軽に使えるんですね。
TSブラックも、クロムなめしですか? |
籠浦 |
そうです。
ああいうやわらかさ、しっとりとした質感は
タンニンでは出せないんです。
やわらかさが必要なもの、たとえばジャケットなど、
衣料品に使われる革は、ほとんどがそうですし、
市場に出ている革製品の9割か9割5分は、
クロムなめしの革製品です。
タンニンにもクロムにもそれぞれの良さがあって、
目的によって使いわけているんですが、
植物由来のタンニンなめしは
環境にやさしいということでも近年見直されて
クローズアップされています。 |
Q.
「タンニンでなめした革をヌメ革と呼ぶ」
という説明を他で読みました。
2010年のタンニンなめしの牛革カバーは、
「色の着いたヌメ革」ということですか? |
籠浦 |
そうですね。
ヌメ革というのは、タンニンなめしの革を
表面加工をせずに仕上げたもので、
今回のタンニンなめしの牛革カバーは
ヌメ革と同じつくり方をしています。
もともとは、染色もしないナチュラルな色の革をさして
ヌメ革と呼んでいたんですが
いま、一般的には、色をつけたものも
ヌメ革と呼ばれるようになっています。
ただ、ヌメ革の特徴に
日に当たると色が濃く変化するということがありますが、
今年のカバーは
グレープ、マスタード、オレンジレッドと
どれも濃いめの色に染めているので、
ナチュラルな色、仕上げのヌメ革ほど
目に見えて色が変わっていくということは
ないんじゃないかと思います。 |
Q.
「タンニンなめし」の牛革カバーは、
以前の「タンニン仕上げ」のカバーと、
どんな違いがありますか? |
ーー |
こちらは、2007年、2008年版の革カバー、
「牛革タンニン仕上げ」のカバーを
お使いの方からのご質問です。 今年の「タンニンなめし」の牛革が
植物から抽出した渋(しぶ=タンニン)だけで
なめしているのに対し、
「タンニン仕上げ」と名付けた以前のカバーは、
クロムなめしで下処理した牛革を、
タンニンで仕上げたもの、でしたね。 |
籠浦 |
そうです。ぼくらの言葉でいうと、
今年のタンニンなめしの牛革のように
タンニンだけでなめしたものを
「フルタンニン」と呼んでいます。
以前の「タンニン仕上げ」のほうは、
「コンビなめし」と呼んでいる方法ですね。
じつは、ぼくが使っているこのカバーが
ちょうど2007年版の
「牛革タンニン仕上げ」なんです。
自分がはじめて取り組んだ手帳カバーということで
とくに思い入れがあって、使いつづけているんです。 |
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ーー |
今年いただくお問い合わせには
革の経年変化の度合いについてのご質問が
多いのですが、いまのお話によると、 コンビなめしの「タンニン仕上げ」に比べると
今年のタンニンなめしのほうが
経年変化は大きい、ということになりますね。 |
籠浦 |
そうです。
とくに色の変化は、革が含んだタンニンが
紫外線と結びついて起こるものなので
タンニンの量がより多く含まれる革のほうが
変化は大きいということになります。
お使いになる環境や使いかたにもよりますが、
コンビなめしの「タンニン仕上げ」のほうは
タンニンなめしの革よりも、
より変化がゆっくりだ、と思っていただくと
いいんじゃないかと思います。 |
Q.
革は使い込むほど変化するようですが、
具体的にはどう変わるのでしょう。
濃い色目は、褪せて薄まるのでしょうか? |
籠浦 |
色が褪せて薄まる、ということではないですね。
最初のうちは表面の顔料が少し落ちていくと思いますが、
色が薄くなるという程度ではなくて、
余分な顔料が落ちて定着していくという感じです。
ぼくが使っているこの「牛革タンニン仕上げ」のカバーは
2007年から使い続けて、今年で3年目なんですが、
こんなふうに透明感が出てます。
ツヤが出て、丸みが出てきて、
こう自分の形になってくると、
愛着も増して、なかなかやめられません。 |
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右が籠浦さんが使っている2007年版の
「牛革タンニン仕上げ・オリーブグリーン」。
左は、サンプルとして保管してあった未使用の同カバー。 |
ーー |
ほんとですねえ。
並べてみると、使い込んだカバーは
ツヤが見事に出ていますね。
よく見ると細かいキズはありますが、
こうなるとそれも味に見えてしまうというか、
なんだかかっこいいです。 |
籠浦 |
経年変化は、革を使うたのしみのひとつですが、
1年で確実にこうなる、というものでもないんです。
使っているうちに、手になじんで自分の形になっていく、
使っているうちに、いつのまにかこうなっていた、
というようなところがあります。
それをたのしんでいただけるとうれしいですね。
革は、使いかたによって5年でも10年でも、
長く使っていただけますから。 |
ーー |
籠浦さんは、引き続きそのカバーを使われるんですね。 |
籠浦 |
手放せませんからねえ(笑)。
でも、ピッグスキンもすっごく使いたいんですよ。
うちの上司や同僚なんかも、
来年はピッグスキンだ! って言ってますけど、
ぼくもずっと使いたかった革なのでねえ。悩んでます。
お客様にも、長く愛用していただきたいという気持ちと
新しい商品も買っていただきたいという気持ちと‥‥
ぼくらの仕事のむずかしいところです(笑)。 |
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