BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。
インターネットだから、ニューメディアだからと肩肘張って、
マスメディアの良いところを無視するのは おバカさん♪♪
おいしい情報は、骨までおいしくいただきましょう。
ぼくが月に一度たのしんでいる「井戸端会議」の再録です。

提供は、雑誌・婦人公論。
(このところ好調で、大入り袋もらっちゃった)
いわゆる婦人雑誌ではありますが、
男が読んでもおもしろいのは保証します。


落語の入口へ
ご案内いたします
(全 5 回)


初めて落語を聞いた時、
「これ知らずに死んでたら、すごい損だったな」って
怖くなっちゃった――(昇太)。
まだ知らないあなた、さあ、ご一緒に

ゲスト
春風亭昇太
橘蓮二


構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2004年9月22日号から転載)

春風亭昇太 :
1959年静岡県生まれ。
東海大学文学部
卒業目前に、春風亭柳昇に入門、
86年に二ツ目となり、
92年真打昇進。
新作・古典を問わず
高い評価を集めている。
テレビや演劇、
コントライブなどでも
活躍中。
著書に
『楽に生きるのも、楽じゃない』
『楽しんだ者勝ち』(共著)、
CDに『ぞろぞろ』

橘蓮二:
1961年生まれ。
フリーカメラマンとして、現在、
人物写真を中心に
雑誌などで活躍中。
95年より寄席など
演芸の現場を
撮り続けており、
『高座の七人』
『狂言の自由』
『笑現の自由』
『六顔萬笑――「六人の会」
フォト・インタビュー集』
『寄席・芸人・四季』
など作品多数

糸井重里:
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は多岐にわたる。
当座談会の司会を担当

第1回 初心者さん、いらっしゃい

第2回 この楽しみを知らないなんて

第3回 高座の勇姿、楽屋の意外

第4回 あなたの想像力、刺激します

第5回
笑いにお作法なし!
糸井 昔の話をすると、僕が小さい頃、
柳家金語楼という
ものすごい人気の落語家がいました。
「柳家金語楼でございます」の
出の一言を言った時には、
もう客が笑ってる。
本人、「まだ何も言ってない」
なんて言ってますが。
昇太 伝説の人です。
僕の所属する落語芸術協会を作った人で、
われわれは柳家金語楼と春風亭柳橋だけは、
「師匠」ではなく
「先生」と呼ぶくらい特別な存在。
金語楼先生の会があると、
お客さんは途中で
ロビーに出てきてしまったそう。
笑い過ぎて苦しくて
「もうたまらん」と。
糸井 娯楽に飢えていた時代というのも
あったでしょうけどね。
爆発力という点で言えば、
そのあとは林家三平です。
昇太 三平師匠が出てきた頃、
一方ですごい古典ブームがあって、
三平のは落語じゃないと言い出す人も出てきた。
僕らに言わせれば、
まさにあれが落語だと思うんですが……。
多分、
どなたかが落語の地位を
上げようとしたんでしょう。
それはそれで成功したんですが、
落語を高尚なものにするために
いろんな付加価値をつけて教科書も作って、
「これが落語ですよ」と言い切っちゃった。
それで、
後世の落語家たちも
その教科書から離れられなくなって、
窮屈な状態で
落語をやらなきゃいけなくなったの
かもしれない。
落語が
一部のファンのものになってしまったのも、
そのせいだと思います。
そんな時代が長く続いたので、
今も落語というと
堅苦しそうなイメージがあるんじゃないかな。
糸井 笑うのに肩凝るようじゃ、困るもんねえ。
落語はハードルが高いって、
みんな言い過ぎですね。
『へっつい幽霊』の
「へっつい」がわからない、とか。
たしかに古典の噺には、
初めて耳にするような言葉も
時々出てきますけど、
前後の話の流れを聞いていたら、
そんなにわからないものじゃないし。
昇太 さっきも言いましたけど、
これが落語ですというものは本当はないんです。
その噺家がどう演じ、
どう面白くするかが重要なだけで。
落語を聞くには
どうしたらいいかと聞かれると、
僕は
「落語ファンの話を聞いてこないでくれ」と
言いますね。
あと、
「死んだ噺家さんの
名前ばかり出す人の話も聞かないでほしい」と。
落語は目の前の、
まさに今生きている人たちに向かって喋る芸。
だから事前の勉強もいらないし、
普通の状態で来てもらえるのが一番ありがたい。
糸井 僕なんか、あやうく、
昔の人だけってことになるところでした。
今、糸井さんがよく聞くのは?
糸井 ここのところ
CDで集中的に聞いているのは
志の輔さんですね。
「なんでこんなに上手いんだろう」と、
そこのところが
僕にとって謎に満ちている人で、
つい聞いてしまう。
再現する力がすごい。
志の輔師匠は、
噺の描き方が非常に丁寧ですよね。
昇太 あの人はサラリーマンも経験したし、
お芝居なんかもやっていたので、
落語をわりと冷静に見ていて、
初めて聞いた人でもわかるようにというか、
落語をこの人たちに
どう聞かせるかを絶えず意識して喋るんです。
古典落語も組み直して、
聞きやすく、わかりやすくする。
この間、すごいなあと思ったのは、
志の輔師匠の『抜け雀』。
最後に
親を駕篭かきにしてしまう
というサゲがあるんですが、
「駕篭かき」と今の人に言ってもわからない。
だけど、
最初、主人公が出てくる場面に
駕篭かきを登場させて、
そのイメージをすっと
ストーリーの中に
あらかじめ入れておくんですよ。
だから、
最後のサゲが若い人にもわかる。
これは他の人はやってない。
糸井 噺のジャンルで言えば、
僕はふざけた噺が好きですね。
アニメにもなった、
頭の上に桜の木が生えたり池ができたりする
『あたま山』とか、
自分が死んでいるのを発見する
『粗忽長屋』。
昇太さんはそっち系が多い。
昇太 基本的にはばかばかしい噺が好きですね。
人情噺については、
僕は落語家の年金みたいに思っています。
歳をとると、喋るペースも落ちる。
その分、
人生経験を積んで魅力も増してくるだろう。
そういうふうに、
笑わせるよりも
語るほうが得意になってきた頃に
やるものだと。
僕は古典にも好きなものはいっぱいありますが、
同世代の人の作る新作が好きです。
さっき出た昇太さんの
『花粉症の寿司屋』や『力士の春』。
志の輔師匠だと、
『メルシー雛祭り』なんか、
笑わせて最後にグッとこさせる
見事な噺です。
嫌いなのは、これ、
噺家さんのタイプになりますが、
「200パーセントの力出して
頑張ってまーす」というのが見える人。
見てて辛くなる。
上手ぶって
「僕の芸、どう?」と匂わせるのも
鼻につくなあ。
糸井 それと反対なのが鶴瓶さんですよ。
自分の落語は、
噺よりマクラのほうが面白いってこと、
ご本人が自覚してる。
このあいだも鶴瓶師匠、
「志の輔さんのCD買って、
ずーっと聞いてたよ。
勉強してるんだ」って。
あれほどの人なのに陰では努力してる。
糸井 あんなに好感の持てる人もいない。
昇太さんは、
お客さんが端から端まで沸いているのに、
本人はものすごくクールでね。
お客も自分も
全部コントロールしているんですよ。
それで、
ニヤニヤ、半笑いしてますからね。
昇太 時々ね、
お客さんの呼吸が全部わかって、
指揮者みたいな気持ちになる時があるんですよ。
袖で見ていて、
「うわ、この人、悪魔のようだ」
と思いますよ(笑)。
いずれにしても、
噺家さん本人が魅力的でないと、
聞きたいとは思わないですね。
昇太 落語って、演じているわけじゃないですか。
だけど芝居と違って、
その役になりきってるわけじゃない。
次の瞬間は
また別の人にならないといけないから、
自分がどこかに残っていないとね。
何パーセント自分が残っているかは、
その落語家の裁量ですが、
僕なんかほぼ一人称に近くて、
どんな人物が登場しても全員僕なんです。
反対に
自分があまり出てこない人もいて、
語りが上手いと
パッとハマって面白いんですが、
自分が出ていなくて
しかも喋りも下手だと、
辛いですね。
糸井 こういう新作書きたい、というのはありますか。
昇太 最終目標にしているのは
古典の『権助魚』なんですよ。
糸井 ああ、
権助が旦那の浮気のアリバイづくりを
頼まれるけど、マヌケなことをして、
結局、
本妻さんにバレるという。
昇太 こんなネタ書けたらもういいよっていうくらい、
落語として素晴らしいです。
落語の噺をお芝居にすることもありますが、
『権助魚』は落語でしか表現できない。
時間を笑いにする罠とか、
いろいろなものが噺の中に仕掛けられていて、
それが最後に
全部パーッと出てくるところは見事です。
糸井 今、落語家さんは何人くらい?
昇太 東西合わせて500人くらいかな。
数でいえば
今までの落語の歴史の中で一番多いですね。
中にはイェール大学出身という人がいて、
その彼は一流商社を辞めて
志の輔師匠に弟子入りしたんです。
初高座でも、まったくアガらなくてねぇ。
見てるほうがムカつくくらい落ち着いている。
それでみんな、裏で言ってましたよ、
「あいつがアガらないのは、
会場の中の誰より自分が一番、
高学歴だと思ってるからだ」って。(笑)
糸井 お弟子さんというと、
昔は師匠の家に住み込みでしたよね。
昇太 僕は通いでした。
入門した時、師匠の家にまだ娘さんがいたんで、
住み込ませたら大変なことになる。
「芸どころか
家ごと持っていかれそうだ」と……。
糸井 昇太さん、
その話、もうすっかりネタにしてるでしょう。
急に生き生きして、
面白すぎたもの、いま。(笑)
  (おわり)

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春風亭昇太

昇太師匠のおもしろさを本とCDで完全に再現した
『 はじめての落語。春風亭昇太ひとり会』。
「人生が二度あれば」「壺算」
「愛犬チャッピー」が収録されています。

出演・解説:春風亭昇太
監修:糸井重里
定価:2,300円(税込)
ISBN:4902516039
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【紀伊國屋BookWEB】
CDブックの詳細は
「はじめての落語。」でご覧いただけます。


橘蓮二

橘さんが舞台の袖、楽屋で撮った写真が
収められた文庫版写真集。
寄席に登場する100名以上の芸人さんの
客席では見ることができない
表情や姿がきりとられています。
『 おあとがよろしいようで』、
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著者:橘蓮二
監修:高田文夫
定価:1,000円(税込)
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