BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


マジックのはまり方
(全4回)


びっくりしたい、でもあんまりひどく驚かされるのはイヤ
--ほどほどの刺激と、大いなる好奇心を満たす頭の体操

ゲスト
ナポレオンズ(マジシャン)
松田道弘(著述家)


構成:岡田尚子
写真:和田直樹
(婦人公論2000年6月22日号から転載)


ナポレオンズ
(パルト小石&
 ボナ植木)

専修大学 マジック 同好会出身。
1977年に プロデビューし、
84年、ラスベガスで 開催された
世界マジック
オリンピックで優勝。
得意マジックは
400種類以上を数え、
国内外で活躍中。
偽超能力現象の
トリック解説なども手がける。
著書に『ザ・マジック』他

松田道弘:
1936年京都生まれ。
同志社大学卒業。
学生時代から
海外奇術文献の研究を始め、
ラジオ局勤務を経て、
奇術・ゲーム・
ジョークについての
著述に専念する。
著書に
『おどろきの発見〜
マジック世界の魅力』
『超能力のトリック』
『世界のゲーム事典』
など多数
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の
司会を担当。

第1回
タネも仕掛けも
糸井 僕、小さい時から手品が好きだったんですよ。
実は初めて出した本も
『スナック芸大全』というくらいで。
パルト 持ってます。
松田 いじわるゲームを集めた
古典的名著です。
糸井 そうですか(笑)。
昔、学校の近所に
手品のネタみたいなのを
売りにくるおじさんがいたでしょう。
僕は学校さぼってついていきました。
いろいろ見ましたけど、
竹の棒に石を縛りつけて
斜めに立てるという手品は、
カッコよかったですねえ。
松田 あれは重心安定の原理を使った
物理トリックですね。
糸井 できるんですか?
松田 やじろべえと一緒ですよ。
普通、茶碗をひっくり返して、
その糸底に立てるんですけどね。
ボナ 先生、さすが詳しいですね。
やってたんですか?(笑)
糸井 僕はマジック好きな人の生活や性格に興味があって、
そういう人は、
朝、「行ってきます」と出かける時に
ポケットやバッグに
何か仕組んだりするわけでしょ。
そのまぬけな努力が好きなんですよね。
ボナ スライディーニっていう、
もう亡くなったイタリアの名人がいるんですけど、
彼はね、たとえばパーティに呼ばれると
仕掛けをしていくんです。
でもリクエストがなかったら絶対にやらない。
「何かやっていただけますか」
と言われた時だけ、
「何も用意してないんだけど」
ってやるんです。
糸井 憧れるなあ。
自分だけが努力して、
報われる日もあれば報われない日もある。
パルト 彼は有名だったから、
たいていはリクエストされますよね。
でもされない日には
「もったいないなあ」
なんて思いつつも、
「それじゃあ」
って帰っちゃう。
糸井 そのもったいなさはカッコいい。
ボナ 今日なんかでも、
この部屋に糸井さんが来る前に
仕込んでおくトリックもあるんですよ。
糸井 あ、前にそれを助手のコにやられたことがあります。
「この部屋で、手紙を隠すとしたらどこがいいか、
 好きなところを1ヶ所選んでください」
って言われて、
「ここ」って選んだら、そこに
「ほら、やっぱりここでしたね。へへへ」
なんて書いた紙があったんです。
要は、事前に部屋のあちこちに
同じ紙をしまってあったんですけど、
びっくりしましたね。
ボナ 同じようなネタ、今、持ってますよ。
お見せしましょうか。
パルト それ、誰かに、リクエストされましたか?
ボナ 今言われたから、
しょうがなく出すんですよ。(笑)
では、編集部の方にお願いしましょう。
ここにトランプの、
ハートの1、2、3がありますね。
これを裏返して並べます。
で、マッチ箱を持って、
3枚のカードの上をスーッと動かす。
何か感じたら、
そのカードの上にマッチ箱を置いてください。
――
(以下
  編集部)
はい。
ボナ では、どうぞ。
―― じゃ、このカードの上に置きます。
ボナ (カードを開ける)これ、1ですね。
さあ、マッチ箱を見てみましょう
(マッチ箱を開ける)。
見てください。
―― (中に入っていた紙を渡され、開ける)
あれっ?
「あなたはハートの1を選ぶ」と出てきました。
ボナ 当たったでしょ。もう1回、やります?
―― はい。今度はここにします。
ボナ (カードを開けると3が出る)
また予言されてますよ。
ほら、このカードに
「あなたはこのカードを選ぶ」
と書かれています。
糸井 これ、2は……?
ボナ 2はここです。
(マッチ箱の裏に「あなたは2を選ぶ」という文字)
―― 皆さん、なんでわかるんですか……
あっ、選んだカードが1だったら
マッチ箱から紙を出して、
2だったらマッチ箱の裏を見せる。
3はカードそのものに書いてある。
どれでも当たるようになっているんですね……
やっとわかりました。
糸井 このトリックを知っていると、
怪しい宗教的なまやかしが、
すいぶんわかりますよね。
「北に大事な人がいる」
みたいな言い方がよくされるけど、
大事な人っていっぱいいるでしょ。
で、「北に」と言われたら、
みんな、それなりに探すんですよ。
ああいうまやかしに、
騙されないような勉強になりますね、手品は。
―― いま、勉強になりました。(笑)
糸井 松田さんはこういうふうに、
「たまたま」なんてことはしないんですか。
松田 予言トリックですか。
昔はよくやりました。
パルト 先生はかなり枚数が多かったらしいですよ。
3枚なんかじゃなくて、52枚全部あって、
「ハートの9でしょ。そう思いました」
とか言って靴脱いで
靴下の中から出したりして(笑)。
52枚、全部覚えてるからすごいですよね。
松田 知らない人が聞いたら、
本当かと思いますよ。
今の予言トリックは昔からある原理だけれど、
さっき、ボナさんが
「もう1回やります?」
と言ったでしょ。
あれはナポレオンズの工夫ですか。
パルト あ、そう言われればそうかもしれません。
いつもやってるんですが。
松田 その演出は新しいですね。
いいアイディアです。
知的所有権を主張できる。
糸井 なるほど。
マジックは、見せ方、演出までも含むんですね。
パルト これは誰それのタネ明かし方法、
というのもありますから。
糸井 そういえばナポレオンズは
よくタネ明かしをしますけど、
仕掛けを隠し通すようなことはないんですか。
パルト だから、本流じゃないんでしょうね。
糸井 あ、そういうことになるんですか。
パルト 昔から伝わってる
松旭斎という流派などには原則があります。
「これからこんなことが起きますよ」
という現象を先に言わない、
同じ現象を2度やってはいけない、
タネ明かしをしてはいけない、とかね。
でも、僕らは
もともと遊びたいという部分がありまして、
タネ明かしまで楽しみたいんですよ。
松田 タネ明かしの楽しみという
新しいジャンルを開拓した
偉大なアイデアだと思います。
ボナ もっとも、すべてのタネを
明かすわけじゃないですけど。
糸井 手品には、
仕掛けをわかりたいと思わせるものと、
わからなくてもいいと思わせるものが
ありますもんね。
松田 でも、いいトリックというのは
だいたいシンプルです。
タネを知ってみると、
どうしてこんなもので人が騙せるのか、
不思議に思いますよ。
ボナ トリックの結果としての現象だって、
消える、移動する、出る、増える、
それから通り抜ける、瞬間移動、
これくらいなもんですよ。
あとは、これを
どう組み合わせるかだけですからね。

第2回 手品好きの人々

第3回 演出の妙

第4回 ちょっとだけ騙して

2001-08-27-MON

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