BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


色気は、どんな色?
(全4回)


尼さんの袈裟にドキドキ、
パソコンの解体にクラクラ、
志ん朝にゾクゾク・・・・・
“色っぽい”について語ることは、
互いの秘密を打ち明け合うに似て-----

ゲスト
中村福助(歌舞伎俳優)
松本侑子(作家)

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2001年11月22日号から転載)


中村福助:
歌舞伎俳優。
1960年生まれ。
屋号は『成駒屋』。
67年、
歌舞伎座
『野崎村』で
中村児太郎を名乗り、
初舞台を踏む。
『仮名手本忠臣蔵』の
おかる役で
82年度芸術選奨
新人賞を受賞、
92年4月に
9代目・中村福助を
襲名した。
華と艶やかさがある
女形として
人気を集めている
松本侑子:
作家。
1963年島根県生まれ。
筑波大学
第一学群社会学類卒業。
『ニュース
 ステーション』で
リポーターとして
活躍中の87年に
『巨食症の
 明けない夜明け』が
すばる文学賞を受賞し、
デビュー。
小説に
『植物性恋愛』
『光と祈りのメビウス』
『性遍歴』、
訳書に
『赤毛のアン』など
糸井重里:
コピーライター。
1948年、
群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

第1回
山崎まさよしには負ける!?
松本 私、20年くらい前、女子大生だった頃に、
糸井さんに声をかけられたことがあるんです。
糸井 それ、ほんとに僕ですか?
松本 はい、新幹線の中で。
中村 ヤバい。(笑)
松本 ゼミ合宿からの帰り、
先生とゼミ生たち4人で座ってたら、
「キミたち大学生なの? いいねえ」
とおっしゃって。
糸井 ああ、それならありうるな。
中村 今、ちょっと冷や汗が出ましたね、
「あれか、これか」と。(笑)
松本 「糸井重里さんだ。素敵な方ね」と
みんなで話してたんです。
中村 声のかけ方に色気があったとか。
松本 いえ、とても声が大きくて、
車両中の人が振り返って見てました。
糸井 声がでかいのは
あまり色気のあることじゃないですね(笑)。
今日は「色気」がテーマですけど、
やっぱり「秘すれば花」と言いますか……。
中村 僕は歌舞伎の女形でしょう。
女形は女性の“実”を写しますが、
男性が演じるがゆえに、
色気というものをすごく強調するんです。
ジーンズ履いた女の子が
あぐらかいてタバコ吸っても、
やっぱりラインは女の子です。
だけどわれわれがバンと後ろ向いちゃえば、
骨格は男ですからね。
それを、後ろを向いた時に
少し反って斜め向きになるとか、
「秘すれば」の部分を
ちょっと出すと言うのかな。
だから、そのまま女形が街に出て行くと、
異様なものがあると思うんですよ。
われわれの色気って、
様式とか形式の上に則って
つくられた色気なんですね。
松本 歌舞伎の女形の場合は、
芸術としての色気ですよね。
でも、今、「色気」という言葉が
普段に使われる時って、
性的な意味が強すぎるような気がして……。
江戸時代の頃までは、
もっと豊かな意味があったと思うんです。
ものの風情とか趣の気配があるとか。
その中に色恋もあれば、
愛欲も含まれる
という感じだったんじゃないでしょうか。
糸井 今はセクシーということと、
ほとんど同義に使われていますからね。
松本 私は色香という言葉のほうが好きですね。
中村 色香ねぇ、色が香る……。
セクシーだけに結びつけるんじゃなくて、
色が香ってくるような、
というほうが奥ゆかしいですよね。
松本 それから女の人には、
女であることの自然な色気のほかに、
文化的な色気があると思うんです。
「女はこういうしぐさをして」
「足は開かないで小股で歩いて」とか、
常に「女の子はこうしなさい」と
しつけられているでしょう。
歌舞伎の女形の方は、
それを徹底的に意識して
やっておられるんでしょうね。
中村 そうですね。
だから恥ずかしい話、
ぱっと靴を脱いでるのを見たら、
靴が内股になってたりして。(笑)
糸井 もう肉体化してるわけだ。
中村 舞台を引きずってしまってるところが
ありますから。
でも、やっぱり
「つくられた、誇張した色気」ですね。
糸井 つくられた色気というと、
水商売の人なんか、
どうやって色気を出すかを学んでますから
上手にやりますよね。
中村 あの方たちもお芝居と一緒だから、
学び方は僕たちと
ある意味、 一緒だと思うんです。
糸井 でも僕なんか、
色気の表現として
たえず信号を出してくるタイプの女性は、
「うるさいなッ」って……。
中村 そう、ぷんぷん匂ってくるんじゃなくて、
さっきおっしゃった、秘めたよさですよね。
それは意識してないところで
出てくるものだと思う。
しつけの話が出ましたが、
しつけって子どもの時から
叩き込まれるものだから、
ちょっとした所作に、自然に出てくる。
ヨーロッパじゃ、
お母さまがお嬢さんに
靴の履き方なんかを厳しく教える。
それで、その子が靴をきれいに
ポッと脱いだ時の色っぽさ。
意識のないところに起こる、
清楚な色気と言うのかな。
糸井 女優さんなんかで
「色気がある」と評されてる人って、
記号的に言われてることが多いですね。
高島礼子さんなんて、
「色気」というジャンルの人みたい。
でも「あの色気は」とみんなが言うのを、
「俺はそれを色気とは感じないけどな」と
いつも思ってたんですよ。
女の人の色気について、
僕はあんまり意識してないなあ。
松本 奥さまですべて満たされて……。
糸井 いや、奥さまはね、
家では色気を抜いて生きてるんですよ。
だからうちの家庭は
ホモ・カップルのようであり、
レズのようでもあり。(笑)
中村 うちもどちらかと言うと、
おばさんが二人いるみたいになってる。(笑)
糸井 で、僕は女の人より、
むしろ男に色っぽさを感じるんです。
中村 ああ、長嶋さんが空振りした時なんか、
「わァ、色っぽい」と思いましたね。
糸井 僕は、自分が好きな男の人は
みんな色っぽいと思う。
「気持ちのいいやつだな」
というのが好きなんですよ。
男子校出身のせいもあるけど、
女の人と一緒にいると、
ベースに軽―く「退屈」が流れる。
いや、楽しいんですよ。
でも、こっちが真っ裸じゃない。
女の人もそうじゃないかな。
だから、男がいない時の
女の人同士を見てるほうが、
僕は好きです。
松本 私も、女の人の色気って、
意識しない時に出るものだと思いますね。
役者さんではなくて、
普通の人の場合。
女の人が羽織を羽織る時とか、
すごくきれいだなって。
スーツだったら、
上着を肩からずらす時とか。
ボーっとしてる時でも
色気がある人がいます。
物思いにふけっているような、
ちょっと疲れて窓を見てるような後ろ姿も、
「あ、素敵だな」と。
糸井 色っぽさを表現してない時ですね。
だから盗み見のほうが色気を感じるんです。
「私はいませんよ」状態で見た時に。
中村 それが本物なんじゃないですか。
松本 男性も女性も糸井さんがおっしゃる通り、
過剰なものは疲れるだけ。
私なんか、何を勘違いされたのか、
地方に講演に行くと、
接待でホストクラブに
連れて行かれるんです(笑)。
ぜんぜん嬉しくないんですけど。
男の人の色気って、
もっとさりげないもので、
顔の美醜とも関係ないし、
人柄とか男としての深さに
感じるものですよね。
糸井 僕、ホストの知り合いがけっこう多いんで、
話を聞くと、
あれは統計学の世界なんですね。
たとえば
「箸を置く時、こう置いたほうが、
 相手から見て色っぽい」
とか、やってることが全部説明できる。
松本 頭いいんですね。
糸井 売れっ子ホストほど、秀才肌です。
他の商売でもうまくやれるだろうと思う。
「女の子はこうすると、クラッとなる」
とか、ほんとによく考えていて、
僕が女性なら、
「おれ、おまえに入れあげそう」
と思うくらい。
ただ、超売れっ子ホストでも、
「山崎まさよしには負ける」って(笑)。
それに気づいてるお前も偉いッ!
たしかに山崎まさよし、
会ったこともないけど、
「クソーッ、憎らしい」
と思いますもんね。
ボーっと出てきてギターをジャーン。
あれには負けた。
あの無防備さが、なんか色っぽい。
男の僕でも、恋愛じゃないけど、
「おまえのために何かするぜ」
とメロメロになりそうだもの。
本人は意識して
信号出してるわけじゃないだろうにね。
松本 あ、でも糸井さんは
山崎さんと同じタイプの
色気がありますよ。(笑)
中村 海女さんが
海からバーッと上がってきた時なんかも、
色っぽいじゃないですか。
あれも自然に出てる色気でしょうね。
糸井 あぁ、生命感が
奧に感じられる色気というのもありますね。
松本 いや、でも、死体の色気もある。(笑)
糸井 うっ、弱ったもんだ(笑)。
だからこのテーマは難しい。
松本 色気っていうのは、
「あ、いいな」と人が思う趣味の数だけ、
あるんでしょうね、
異性に対しても、同性に対しても。
(つづく)

第2回 福助さんの人生を決めた一幕

第3回 今日から着物を着よう!

第4回 やせがまんに美は宿る

2003-05-01-THU

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