BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

英語を話せる人、話せない人
(シリーズ全4回)

飛行機の中、ビールを頼むとミルクが来て、
コーラを頼むと水が来る。
そんなあなたに残された上達への道は、
意外や、「関西人の発想」にヒントがあるようで……

ゲスト: リサ・ステッグマイヤー
松本道弘

司会:糸井重里

構成:福永妙子
撮影:外山ひとみ

(婦人公論1998年7月22日号から転載)

リサ・
ステッグマイヤー

1971年アメリカ出身。
上智大学卒業。
NHK英会話Tをはじめ、
CX『笑っていいとも』、
NTV『投稿! 
特ホウ王国』などに出演。
現在SKY PerfecTV!
『PROMO CHANNEL』で
メインキャスターを務める。
著書に
『リサ・
ステッグマイヤーの
使えるアメリカ英語』
(主婦と生活社)

松本道弘
1940年大阪府出身。
関西学院大学卒業。
日商岩井、
アメリカ大使館
同時通訳、
NHK英会話V講師、
名古屋
外国語大学教授などを経て、
現在英語道塾弘道館主宰。
著書に
『英語アレルギーの
治し方』
(KKベストセラーズ)
『英語の達人になる
とっておき勉強術』
(実業之日本社)など
糸井重里
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、小説や
ゲームソフトなど、
その表現の場は
多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

第1回
■外国に行かなくても
糸井 僕の英語力は平均的な日本人の下くらい。
つまり、中学、高校とやってきたんだけど話せない。
でも英語は習いたいとうっすら思っていて、
いつかは−−と言いながら、
しゃべれないまま死んじゃうタイプの人間なんですね。
そういう人間って、「日本語だけでいいや」
と一度は開き直るんです。
それが、インターネットが出てきて
海外と直接つながったり、
外国人とビジネスがらみのつき合いが増えたり、
情報のやりとりのシステムが変わっていくなかで、
若い人からお母さん、お父さんまで、
英語の必要性がもっと出てきたな
と感じていると思うんですよ
リサ それで糸井さんも英語を?
糸井 今日からでも始めたいという気持ちさえあります。
それで、今日はこういう人間が習得するための
道筋を示していただきたくて……。
「向こうに住めばいい」と
みんな言うんで困るんですけど。
リサ 住んでうまくなる人と、
住んでも上達しない人がありますね。
日本人が多く住んでいる場所に行っちゃうと、
日本人同士ってグループで固まりますから。
私はアメリカにいたとき、ニュージャージーという、
わりに日本人が多いところに住んでいて、
母親が日本人なので、日本人のコミュニティとも
交流がありました。
お父さんの仕事の関係でアメリカにいらっしゃってた
お子さんがたくさんいるんですけど、
1年でペラペラになる子と、
2年いても上達しない子がいました。
上達する子は日本人といっさいかかわらない。
上達しない子はシャイだったり、
発音があまり上手じゃないからと、
あまり自分から進んで出ていかないんです。
糸井 住めばいいというものではない。
リサ 日本に住んでいても、
十分、英語を話せるようになれると思うんですよ。
松本 僕は37歳のとき、NHKでネィティブの人に
インタビューする番組の仕事をもらいましたけど、
それまで日本から一歩も出ていないんです。
最初に出した英語学習の本
『私はこうして英語を学んだ』が
ベストセラーになったのも、
僕が海外経験がないということで売れたんでね。
糸井 がぜん、勇気がわいてくるなあ。
松本 なぜNHKのオーディションに合格したか
いろいろ考えてみましたら、関西芸人って言いますけど、
僕も芸人だったからじゃないかと思うんですよ。
糸井 はぁ、芸人ですか。
松本 大阪って、今は違いますけど、
30、40年前は日本人ばっかり。
僕は英語サークルに参加していましたが、
外人がいないから生きた英語が勉強できない。
そのなかで、なんとか英語を話してみたいと思って
外国人ハントに燃えていたときがありました。
大学の柔道部の友達に、手分けして外国人探してくれと。
「松本、外人おったぞー」で、走って行って、
「メイ・アイ・スピーク・ツー・ユー?」。
糸井 「おったぞー」ですか、猛獣狩りみたい。(笑)
松本 猛獣狩りですよ。僕は外人、慣れてないですし、
目を見ろったって難しい。
けど、相手はライオンとかトラで、
目を離したらガブッとやりよるかもしれんから、
離さんようにってくらいの悲壮感でやりました。
そういうのを繰り返して、
最終的には自分が外国人になっちゃうんです。
ハワイから来た日系人になる。
糸井 「ワタシは〜」とか言って。
松本 「ワタシ、ニッポンゴ、タクサン、ダメ」。
あとは英語だけ。それを松山のバーでやりました。
友達を通訳にしてね。
ホステスは僕のことをハワイ人だと思って、
わいわい寄ってくるもんだから、
向こうで飲んでいる男のところには女性がいなくなった。
それでそいつが関西弁で、「外国人、どこや」。
女性が「この人、外国人です」と言うと、
「ほんまか? 日本人やないか」って。
横に座っている友達が小さな声で、
「ヒー・イズ・ヤクザー!」。
僕は外人になりきっているから
「オー、ヤクザー!」と大声出して。
リサ ハハハ……。
松本 そいつが「この酒飲め」と言うんですよ。
体の大きいやつでね。
日本人なら、「すんまへんなあ」とか言いながら
酒飲むんだろうけど、僕は外人だから、「ノー」。
そしたら相手が怒って、わざと僕に酒をこぼしたんです。
それで僕は立ち上がって相手の胸倉つかまえて、
「アポロジャイズ(apologize)!」−−謝れ、
と言いましてね。あとは英語で怒鳴りまくりました。
そいつ、最後には「ほんまに外国人や」と言って。
糸井 面白いですね、先生って。
松本 「グッバイ」と言って店を出て、
20、30メートル行ってから、
汗がいっぺんにドーッと吹き出ましたけど。
糸井 だんだん芸人の意味がわかってきました。
松本 だから海外で2、3年勉強するより、
日本で体張ってヤクザと英語やってるほうが、
できるようになります。
殺されるかもしれないんだから。
NHKの番組に出るなんて楽なものです。

(つづく)

第2回 恐るべき関西思想

第3回 本音から入る

第4回 英語は“芸”だ

1999-01-22-FRI

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