BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


ダジャレの未来
(全4回)


“おやじギャグ”が嫌がられるのはなぜ?
「寒〜い」は、ほめ言葉である?
ダジャレの名手、ダジャレマシン研究者、
かく語りき!

ゲスト
小田島雄志
松澤和光


構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2000年9月22日号から転載)



小田島雄志:
英文学者、演劇評論家、
翻訳家。
1930年生まれ。
東京大学名誉教授。
文京女子短期大学教授、
東京芸術劇場館長をつとめる。
シェイクスピアの個人全訳
『シェイクスピア全集』
を始め、
イギリス現代戯曲や
評論の翻訳書、著書多数。
近刊に
『駄ジャレの流儀』 がある。
松澤和光:
神奈川大学教授。
1953年生まれ。
東京工業大学大学院修士課程
修了、
電電公社武蔵野電気通信研究所
入所。
NTT(株)
サービスインテグレーション
基盤研究所主幹研究員を経て
現在に至る。
工学的アプローチから、
ことばと知能や
コミュニケーションなどの
係わりを探る「ことば工学」を
提唱し、研究中
糸井重里:
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

第1回 言う人、言わない人
糸井 今、ダジャレは“おやじギャグ”なんて言われて
非難されてますよね。
だけど僕がインターネットでやっている
『ほぼ日刊イトイ新聞』で
「全日本おやじギャグの祭典」という
投稿ページをつくったら、
これが「いやだ、いやだ」と言いつつ
大人気だったんです。
そのページがなくなると、
「終わりなんですか?」
ってみんなに言われて、
なんだ、好きなんじゃねえかって……。
小田島 アンチ巨人みたいなもんでね。
「いやだ」「嫌い」「バカ」と言いながら、
どっかでやっぱりファンなんだな。
糸井 松澤さんの場合は、
コンピュータにダジャレを言わせてる。
松澤 ええ。仕組みは簡単なんです。
膨大な言葉や決まり文句を記憶させた
データベースをつくって、
発音の近いものを
ダジャレのパターンに当てはめるという……。
できたものをコンピュータ画面に
ただ映し出しても面白くないので、
脚のついた三角の箱から、
ダジャレが書かれた紙が出てくる装置を
つくったんです。
糸井 ダジャレマシン。
松澤 手づくりのステンレスの箱に、
小さなコンピュータと
レジのプリンターが入ってるだけ。
そのプリンターから
「こけでコケる」「腐ってもタイソン」
「盆より証拠」「秘事は松田優作」なんていうのが
次々出てくる。
糸井 「秘事は松田優作」……
何を言ってるんだか(笑)
松澤 「秘事は睫」という故事だか諺が
もとになってるみたいなんですが、
ぱっと聞いてもわかりませんよね。
そこがコンピュータで、
辞書や事典をデータにして
字面を合わせてるだけだから、
どう笑っていいかわからないものも多くって。
糸井 「秘事は松方弘樹」なら、
なんとなくわかるような気がするけど。(笑)
松澤 ただ、コンピュータだとデータは豊富に揃うんで、
一瞬のうちに数万通りのダジャレができる。
それをジージー、延々と吐き出してるわけです。
糸井 こういう人物、いますよね。
小田島 和田勉とか。
糸井 僕、よく「和田勉のようだ」と言われて、
それが僕に対するいちばんの悪口なんです。
松澤さんの機械は、べン・ワダ・マシン?(笑)
松澤 いや、「B級機関」と名付けてるんです。
くだらないダジャレを
永久に出力するということで。
糸井 そのネーミングはナイスですね。
松澤さん自身は、ダジャレを言う人?
松澤 私はぜんぜん言えないほうで。
といっても、こんな装置つくったりしてるせいで、
誰も信じてくれない。
糸井 ダジャレを言う人は、よく嘘をつくんです。
正直に……。
松澤 ほんとです。
純粋に工学の基礎研究者です!(笑)
いわゆるダジャレは言えなくて……。
トラウマかもしれません。
中学のとき、遊び仲間のあいだで
暗黙のルールがあったんです。
ダジャレと顔ネタと下ネタは言っちゃいけないと。
糸井 ませてるなぁ。
松澤 ダジャレなんか言うと、
バリバリに攻撃されましたから。
そのとき以来の
心理的な抵抗があるんじゃないかな。
糸井 小田島先生は、
それこそダジャレはご幼少の頃から……。
小田島 ご幼少からだねえ(笑)。
親父がダジャレ好きだったの。
子どもの頃、親父から聞かされた話で
今でも覚えているんだけど、
ある噺家が師匠のところでしくじって逐電して、
何年かたって東京に戻ってきたら、
向こうから、文都(ぶんと)、芝楽(しばらく)、
小さんと、三人の師匠格が並んでやってきた。
もう逃げられない。
それで噺家はとっさに、
「ぶんとにしばらくでこさんした」
と言ったというのね。
どっかで仕入れたそんな話やダジャレを、
親父は晩酌しながら僕に聞かせるの。
僕も面白がって、ちょっとしたことを言うと、
親父が喜ぶのよ。
次はもっと喜ばせようと思ってね。
糸井 やっぱり、そうかあ。
小田島 これが子ども、孫に伝わって、
今、九歳の孫に負けることがある。
糸井 お孫さんもダジャレ好きですか。
小田島 そしたら当時六つだった孫が、
「名無しのボンベ」。
そっちへ拍手いくわね。
その孫が風呂から上がるとき、伜が
「ちゃんと体を拭いて出ろよ」と言ったら、
自分の体にフッフッって息を吹いてから出たって。
で、伜に
「これ、おじいちゃんに言っといてくれ」
って。(笑)
糸井 いい家族ですねえ、ダジャレ共同体。
ダジャレ好きにはユートピアだ。
松澤 直伝というのはあるのかもしれない。
私の場合、父親はけっこう言ってるんですよ。
僕はそんなに影響を受けたつもりはないけど、
うちの子どもは何か言っては
「今のウケた?」って聞きます。
小田島 子ども時代の環境は大きいでしょう。
吉行淳之介さんはダジャレがぜんぜんダメな人で、
わかるんだけど、自分じゃ言わない。
それは小さいときに父親のエイスケさんが、
晩メシに鯛が出ると、
「今日は鯛があってめでたい」なんて言って、
子ども心にあまりにバカバカしいと思ったから、
とおっしゃってたね。
糸井 僕なんか、その点では、
ものすごく差別がないんですよ。
とにかく笑っちゃうものはみなOK。
小田島 糸井さんも、よく言うの?
糸井 言うというより、
人が真面目な話をしてるときでも、
絶えずダジャレが思い浮かんじゃって……。
難しい話なんかだと、
自分をゆるめるためにもダジャレを入れたくなる。
でも、なるべく言わないようにしてます。
松澤 ガマンしてる。(笑)
糸井 ほんとは言いたくてしょうがないけど、
言えば相手の話の腰を折るから、
間があれば言うくらい。
僕、完全に受け身の作家ですね。
松澤 ダジャレを言う人と言わない人って
はっきり分かれますね。
糸井 お笑いの世界でも、
ダウンタウンの松本人志――松っちゃんなんか、
まったくダジャレを言わない。
「どうしてそんなにダジャレが嫌いなの」
と聞いたら、真顔になって、
「思いつかないんです」て。
だから根本から違うんだな。
これが言う人になると、もうどんどん言う。
小田島 もう亡くなりましたけど、
劇評家で作家の戸板康二って人は、
溜まり場になってる飲み屋に突然入ってきて、
ダジャレを言うの。電車の中で思いつくと、
わざわざ言いに寄って、一杯も飲まずに
そのまままた出て行く(笑)。
そのくらい、言いたい人だった。
松澤 意外な方がダジャレが好きというのもありますね。
糸井 大江健三郎さん、とかね。
小田島 あの人は無表情で言います。
糸井 声の音量はどうなんでしょう。
小田島 和田勉みたいな音量で言われると、
「しょうがない、笑ってやろうか」
になるんだけど、大江さんはボソッと。
糸井 気づく人を探してるんですかね。
言わなさそうなタイプの人が
小さい声で言ったときって、
受け手のほうがクリエイティブじゃないと
いけないんですよ。
松澤 チェックして、拾ってね。
糸井 ダジャレというのではないけど、昭和天皇が
すごくユーモアのわかる方だったというのは
漏れうかがいますね。
天皇を案内する役になった人から聞いた話ですが、
天皇は「あっ、そ」と
よくおっしゃってたでしょう。
そのときは、
案内役の人が間違った説明をしたらしいんです。
そしたら、「あっ、そ……うかな?」と
おっしゃって、ニヤリとされたという。
小田島 戸板康二さんが歌舞伎の話をご進講したとき、
昭和天皇から、
「あなたのごひいきの役者は?」と聞かれて、
戸板さん、「立場上、お答えできません」と
言ったんです。
以前、天皇が相撲観戦なさった際に、
「ごひいきの関取は?」と聞かれて、
「立場上、答えられない」とおっしゃったことが
頭にあったんですね。
そしたら、その戸板さんの答えに、
天皇は心から楽しそうに
お笑いになったそうですよ。

第2回 平和の使者である

第3回 女はそれを許さない

第4回 永遠に不滅?

2002-05-10-FRI

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