BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 初心者さん、いらっしゃい

第2回 この楽しみを知らないなんて

落語の入口へ
ご案内いたします
第3回
高座の勇姿、楽屋の意外
糸井 写真を撮る時、
お客さんとは違う目線で
落語家さんを見ているわけですね。
高座を撮る時は正面からではなく、
舞台の袖から撮るようにしています。
横からだと、その人の上手い下手、
体調のよしあしまでわかるんですよ。
汗のかき方とかね。一番わかるのは姿勢。
下手な落語家ほど姿勢がグラグラ揺れている。
糸井 紙切りでもないのにね。
そう。
そういう人の高座は
お客さんも噺に集中できてませんね。
昇太 うーん、それは思い当たらなかったですね。
正面に向かってしゃべってるんで、
サイドは
落語家が一番気にできない場所ですから。
これが
昇太さんだと、体はよく動かすのに、
姿勢は崩れないんです。
腰のブレがなく、軸がしっかりしている。
昇太 いいバッターになるな。(笑)
びっくりするくらい姿勢がきれいなんですよ、
意外なことに。
この間も、
若手では高座姿がきれいと定評がある
立川談春さんが、
昇太さんが『妾馬』をやっていた時に、
「昇太兄サンは
殿様をやってる時の姿勢がものすごくきれいだ」
と陰で言ってましたよ。
昇太 それ聞くと逆に気にし過ぎちゃって、
ものすごい感じの悪い殿様に。(笑)
糸井 そんな風に鍛えた覚えはない?
昇太 まったくないんですけど。
糸井 やっぱり噺がそうさせるんですね。
今、一線級でやっている落語家さんは、
たいてい姿勢が動かないですね。
糸井

鶴瓶さんも着物姿がきれいです。

見た目の雰囲気がいいというのは、
それだけでかなりの才能ですよね。
糸井 うんうん。
寄席って、楽屋の中も面白いでしょう。
高座に向かうまでのテンションの上げ方とか、
みなさん、全然違いますしね。
昇太 家で上げてくる人もいるし、
楽屋で徐々に上げる人もいるし、
高座に上がってからという人もいるし。
糸井 昇太さんはどんなタイプ?
昇太 僕は高座に上がる直前にピャーッと上げて、
パッと出て行く。
糸井 どうやってピャーッと?
昇太 後輩を蹴飛ばしたり。(笑)
昇太さんは、
「おはようございます」
と楽屋に入ってきた時はおとなしい。
で、出番直前になると、
近場にいた人に蹴りや
空手チョップをお見舞いして、
あとは袖で、
「ぶっ殺してやるー」「皆殺しー」とか
叫んで舞台に出て行きますね。
昇太 戦闘的にならないと頑張れないの。
談春さんに言わせると、
「昇太兄サンは狩猟民族だから」と。
獲物を前に、
「俺が一番笑いを取る!」という
攻撃的な状況に自分をもっていく。
糸井 それは他の職業でもありえますね。
僕は逆に、
攻撃的になって自分が出過ぎるといけない。
楽屋とか袖で撮ってるでしょ。
いてもいないみたいに、
誰にも存在を気づかれないのがベストです。
糸井 気配を消して、空気化するんだ。
昇太 この人、戦国時代だったら、
いい忍者になりますよ。
糸井 落語家さんでも、
狩猟民族じゃないタイプの人もいるでしょう。
草食動物みたいな人、多いですね。
糸井 それはそれでいい味出してたり。
昇太 うちの師匠の柳昇もそういうタイプでしたね。
高座に何となくファーッと上がって
ファーッと喋ってという。
糸井 草をもぐもぐ食む感じですね。
昇太 兄弟子の昔々亭桃太郎師匠もそうです。
もぐもぐしていて、いったんヒットしたら、
そのもぐもぐ感がたまらない。
楽屋での噺家さんの姿といえば、
小朝師匠は25歳の時に36人抜きという
異例の速さで真打昇進したでしょう。
それでね、
やっぱり楽屋では落ち着かないんですよ。
一人で廊下とか舞台の袖にいたりして、
常に先輩に気を遣う。
前もって着替えてきて、高座に上がったら、
「お疲れ様でした」
とサッと帰るなんてこともありました。
糸井 すごいもの見ましたね。
まあ、
先輩36人が小朝師匠に抜かれているわけで、
いろいろ思う人もいるんでしょうけど、
僕の中では爽やかな“横町の若様”、
怖いものなしの人というイメージだっただけに、
意外な気がしました。
糸井 僕らノッてる落語家さんを見て、
いい感じで天狗になってるなと思うけど、
それは高座だけが自由な場だからかも。
楽屋では、
座る場所についても暗黙の了解があります。
末広亭なら真ん中の火鉢のまわりには重鎮、
大師匠しか座っちゃいけない。
鈴本だと、広い部屋に小さな続き部屋があって、
そこは色物さんとか
真打になりたての人が着替える場所。
そこから徐々に
広いほうの部屋に入っていくんだけど、
いつ入っていいかは空気を読まなきゃいけない。
読み間違えると、
「お前、まだ早いよ」
という視線が飛んでくる。
昇太 「おや〜、そこに座るか」と。
何年といった明確な物差しはなくて、
そういうことは全部、
自分で計らなくちゃいけない。
ずっと見ていると、
「あ、昔、狭いほうにいた人が、
ずいぶんこっちに来てるな」
とかわかりますよ。
糸井 じりじりにじり寄るわけだな。
昇太 領土拡大している。
  (つづく)

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第4回 あなたの想像力、刺激します

第5回 笑いにお作法なし!

2005-05-13-FRI

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