革についてもっと知りたい。
糸井重里と革のプロたちの
革座談会をお届けします。
2009.11.24
ほぼにちわ。です。
昨日のイベント「会いてー人とは、ITで。」お試し版に、
ロフト店頭のモニターを通して、あるいは生中継をとおして
ご参加くださったみなさま、ありがとうございました!

さて、本日の手帳クラブはがらりとかわりまして、
革にまつわるお話を。
「ほぼ日手帳2010」のカバーラインナップには、
じつに16種類の革カバーがあるのをご存じでしょうか。
まずは、基本の黒革「TSブラック」オリジナル版とカズン版、
タンニンなめしの革カバーと大人気のOHTOシリーズ、
気品あふれるピッグスキン、
そして12月には、スペシャルカバーとして
5つのカラーのアンリ・シリーズが登場、と、
個性豊かな革カバーが揃っています。

で、ひと口に革カバーといっても、
素材となる革や加工の違いで、ずいぶん違うんですね。
わたしたち手帳チームでも、
革については、勉強しながら作ってきました。
ところが革って、知れば知るほど、
知りたいことが増えてくるのが不思議です。

糸井重里も、思うところがある様子。
革にくわしいプロにお集まりいただいて、
「革の知識を深める『革』座談会をしよう」
ということになりました。
いろいろと、聞きたいことがあったのです。

「革」座談会に参加してくれたのは、
革小物を製作するプロの立場から、
ほぼ日手帳の革カバーを担当する頼もしいパートナー、
株式会社伊勢丹の北川正さんと籠浦(かごうら)兵衛さん、
そして、革小物を取り扱うプロの立場から、
ロフト商品部のチーフバイヤー、細井潤治さんと、
同じくロフト商品部バイヤーで革小物を担当する黒澤康二さん。
いずれも、革については豊富な知識と経験を持ち、
プライベートでも革が大好きという4人です。
さぁ、糸井重里を聞き手に、お届けします。

【4人の革のプロたちのプロフィールはこちら

まずは、この日みなさんに
初お披露目した12月のスペシャルカバー、
「アンリ・シリーズ」の話題から。
革の猛者たちに、アンリさんのカバーはどう映る?


糸井 いま、2010年の革カバーが一同にそろってますが、
みなさん、アンリさんのカバーをご覧になるのは
はじめてですね。いかがですか?
北川 いやぁ、すばらしい。
この手の仕事をできる職人さん、
いまは、なかなかいなくなりました。
糸井 そうですか。
北川 ぼくはイタリアの革がなにより好きで、
使えば使うほど味が出るのはわかってるんですが、
これ、もうすでにその気品が漂ってますよ。
持てば持つほど、もう3年、4年と‥‥。


▲北川正さん

籠浦 いやいや、これは3、4年どころじゃないですよ。
北川 いや、だから、だんだんよさが増していくっていうことだよ。
細井 ほんとにそうですよね。
本来の革小物っていうのは、こういう作りなんですよねぇ。
黒澤 そう思いますね。
糸井 これ、たぶん4人ぐらいの職人の手で作ってるんですけど、
その4人は、ほんとはもっともっと、
緻密な仕事ができる人たちなんです。
そこを、このラフさで作り上げられるように、
職人たちを鍛えてるんですよね。
細井 なるほどねえ。
糸井 なにせ、アンリさん本人がやったのが
一番ステッチの目が粗いんですから。
それ、ぼくらが見てる前でご本人が作ったものなんですが。



籠浦 これ、2本の糸を通して縫っているんですか?
糸井 そう。蝋引きの糸を、こう、引っ張って。
で、仕事場に機械の音がいっさいしないんですよ。
だから、停電になろうが工場が閉鎖されようが作れる。
機械を使わないから、自宅でご飯食べた後でも
1個作るか、っていうような作り方ができてしまう。
籠浦 はあー、そうですか。
黒澤 味わいがありますよねえ。
細井 抽選に当たった人はうれしいだろうなあ。
糸井 そう伝わるといいんですけどね。
細井 いや、伝わると思いますよ。
もしじぶんが当たったら‥‥どうするだろうなあ。
糸井 え?(笑) どうするの?
細井 あ、ちょっとなにか、使いはじめるまで
準備期間が必要なような気がして。
籠浦 いやいや、使っていかないと
よさがわからないから、ぜひ使わないと。
北川 そうそう。
使えば使うほど、艶が出て、
革の醍醐味が味わえますよ、これは。
糸井 これ、アンリさんのお店のバッグで、
もう4年ぐらい、ひっきりなしに使ってるんですけど、
こんなふうになるわけですよね、このカバーもね。
この財布もそう。



黒澤 ああ、すばらしいですね。
細井 いいですね。
バッグはこれ、革を伸ばしてないんだな。
北川 うん、いい革を、ありのままで使ってますよね。
糸井 財布なんかだと、使っているうちに、
こう、艶がでてきますよね。



籠浦 「経年変化」ってよく言いますけど、
ぼくはこういうのが、
ほんとの経年変化だと思うんですよね。
細井 そう。そうですね。
籠浦 どうも、色のことばかりが
注目されてる気がするんですけど、
こうやって、使ってて自分の形になってくるとか、
艶が出るとか、そういうのが
「経年変化」なんだと思うんです。
糸井 うわ、核心に入ってきましたね(笑)。
籠浦 わざと日に当てるとかね、
育てるって、そういうことじゃないと思うんですよ。
細井 そう、乾燥させることじゃないですよね。
籠浦 そうです、そうです。
細井 やっぱり手の脂で艶がでるとか、
ポケットに入ってるものの形が
浮き出してくるみたいなことで、
その人のものになっていくんだと思うんですよね。
黒澤 そう。そうなんですよ。


▲黒澤康二さん

細井 革というのは、本来、
使っているうちに、艶感が出てくるとか、
丸みが帯びてくるみたいなところとか、
ほかでは味わえない
革のよさというのが、間違いなくあるんです。
糸井 おそらく、革がいつのまにか
大量生産品のイメージで
見られるようになっていたんですね。
北川 そうですね、たしかにそうです。
糸井 間違いがない、丈夫な、っていう
「機能」で選ばれるものに、知らないうちになっていた。
だけど、一番最初の革のこころっていうのは、
きっとなにか違うところにあったはずだ、ってところから
さあ、今日の本題に入りましょうか。

革のベーシックな考え方を。

糸井 いま、情報がかんたんに手に入りますから、
革に関しても、先ほどおっしゃていたような、
日に当てる的な、こうすると、こういう味になるぞ、
というような話を、いっぱい耳にするんですね。

ぼくは、ジーパンが好きなもんですから、
革の、とくに「経年変化」について、
あれこれ言われているのを見ていると、
ジーパンの「経年変化」が一般化していったときと、
そうとう似てるな、と思うんです。
「生のジーパン」という言い方をあえてしますけど、
洗いざらしてないジーパンを買うほうが今じゃ少数派で、
履き古したような感じを最初から作ってしまうのが、
今、ジーパンという商品の当たり前の形になってますよね。



細井 そうですね。
糸井 そういう時代に、
革にもいろんな考え方があると思うんですが、
「これがベーシックな考え方だよ」っていうのをまず知って、
そこからいろんなバリエーションを考えていくほうが、
やっぱり正しいんじゃないかと思うんです。
それは、ぼくらもよくわかっているわけではないので、
革にくわしいみなさんに、
「ああ、それは、もともとこうでね」というようなことを
うかがっていきたいなと思っています。

いま、まさしく「経年変化」の話が出ましたけれど、
その「経年変化」という言葉と、もうひとつ、「ヌメ革」。
このふたつの言葉が、
本当はどういうことなの? っていうのがないまま、
いま、ひとり歩きをしている気がするんですね。
じゃあまず、「ヌメ革」ってなんですか?
というところから、はじめましょうか。

ヌメ革って、なんですか?

細井 ヌメ革を、最初に世の中に有名にしたのは、
ルイ・ヴィトンだと思うんですよね。
糸井 なるほど。
細井 「フランスヌメ」と呼ばれる、
白っぽいベージュの革なんですけど、
あれがおそらく、日本のヌメ革の
スタンダードな解釈になったんじゃないかと思うんです。


▲細井潤治さん

籠浦 たしかにそうかもしれませんね。
そのあと、ヌメ革をメインに扱うブランドも出てきて。
糸井 ヌメ革っていうのは、
染めてないベージュ色の革のことだというふうに、
いま、一般的に思われていますよね。
細井 でも、本来のヌメ革っていうのは、
あの「色」をさすものではないわけでしょう?
籠浦 ええ、「タンニンなめしの革」であるのが大前提ですね。
細井 ケミカルじゃないほうですね。
籠浦 そうです。
タンニンでなめして、もともとは、染色もしていない、
素材の自然のままの色の革を、「ヌメ革」と言ってたんです。

そこから、最近では意味が広がってですね、
「タンニンなめし」をした革で、
後で色をつけているものも「ヌメ革」と呼ぶ、
ということになっていますね。


▲籠浦兵衛さん

糸井 それは、定義みたいなものが変わったんですか。
籠浦 定義がかわったというか、小売業の都合なんですけどね。
細井 そうそう、そうですね。
糸井 ええ(笑)?
細井 そのほうが売りやすいからですよね。
糸井 ああー。
籠浦 「ヌメ」という、耳障りのよさを、
みんなが便利に使ったんだと思うんです。
糸井 「無添加」、みたいなことですか、いわば。
北川 そうですね。
で、先ほど細井さんがおっしゃったように、
ブランドから入ってきたイメージも強くて、
わかりやすく定着してしまったんでしょうね。
糸井 なるほど。
北川 革の歴史をさかのぼれば、
そもそもヌメしかなかったわけですよ。
革って、最初は何に使ったのかというと、
ヨーロッパでいえば、馬具ですとかね、
そこからスタートするわけですが。
糸井 なるほど、はい。
北川 動物の皮は、そのままだと腐りますから、
どうしたら腐らなくなるのか、
皮を腐らなくする方法として、
自然にある植物の渋を使って
「なめす」という方法が発見された。
原点はそこだと、ぼくは思うんです。



糸井 ははぁ。
北川 さらにさかのぼると、
毛のついた状態でそのまま敷物にしたりとか。
糸井 いわゆる毛皮ですね。
北川 ええ、そうですね。
で、そのときには、腐らなくする方法も、
乾燥するしかなかったはずなんです。
糸井 固かったでしょうね、もっと。
北川 腐ることもあったし、臭かったと思いますね。
糸井 そういえば、革製品って、
昔はもっと臭かった覚えがありますね。
北川 「皮」から「革」って、よく言うんですが、
なめす前を「皮」、なめしたものを「革」と、
漢字を使いわけてるんですね。
腐らなくするためになめす工程を経ることで、
皮革の「革」になるんです。
糸井 なるほど。
「ヌメ革」という言葉の定義ということになると、
じゃあ、元来のものからは、
違うものにさしかわっちゃってるということですか。
籠浦 いまは「タンニンなめし」イコール「ヌメ」、
色がついているかいなかにかかわらず、です。
そこに定着していますね。
北川 たぶん、色を染めることと加工することを
分けて考えないといけないと思うんですよね。
糸井 というと?
北川 革をどのような仕上げにするのか、
柔らかくするのか、
自然のままにするのかというようなことと、
革を染めるっていうのは、
別問題だとぼくは思うんですよね。
それがいっしょになって語られることで、
わかりにくくなっているというのが、
今の現状だと思うんです。
籠浦 たまに、なめし方を関係なくして、
ベージュの色の革というだけで
「ヌメ」と書いてしまっているものもありますね。
細井 そのとき、クロムだったりコンビネーションだったり、
ケミカルな加工を施しているとすれば、
ベージュ色をしていても、
「ヌメ革」というのは言葉として正しくないですよね。



北川 そうですね。
細井 だから、色が変わらない「ヌメ革」というのはないわけで。
籠浦 そうですね。
ただ、色が変わるかどうかでいうと、
コンビなめしの革もタンニンが含まれているので、
もちろん変化するんです。
なめしの段階で革に含まれたタンニンと
紫外線が結びついて色が変わるので、
タンニンの量が多ければ、変わる度合いも大きいし、
変化のスピードが早かったりするんですけど。
細井 うん、そうですよね。
籠浦 それと、今年のタンニンなめしのカバーの場合だと、
フルタンニンで、いわゆる「ヌメ革」なわけですけど、
じゃあ、これが色が濃くなっていくかっていうと、
そういうことではないんです。
濃色がついているので、色が濃くなるというよりは、
よぶんについてる顔料が落ちていって、
透明感が出てくるんですよね。
糸井 ああ、それも愉快ですね。
籠浦 ぼくがいま使っている手帳カバーは、
はじめて担当した2007年版で、
これは、タンニンとクロムを併用した
いわゆる「コンビなめし」のものなので
まったくいっしょではないんですが、
こんな具合に、透明感が出てくるはずです。
糸井 ちょっと見せてもらってもいいですか?
籠浦 どうぞ。



糸井 (手にとりながら)
これは、いい感じですねぇ。
細井 ほんと、いい感じですね。
丸くなって、こう、角がなくなって。
籠浦 自分の厚さになって、
丸くなって、透明感が出て、っていう。
ぼくは「経年変化」って、
こういうことをいうんだと思ってるんです。

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みなさんのお話を聞きながら、
わたしたちも、「へえぇー」と思ったり、
「うんうん」とうなづいたり。
「革」座談会はまだまだつづきます。
明日の後編も、おたのしみに。