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メキシコのカラフルな街並みをイメージして。
「パペルピカド from MEXICO」 |
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2009年のスプリング限定カバーとして、
佐藤卓さんにオリジナルの
アロハ柄をつくっていただいた
「TSアロハ」は、とてもたくさんの方々に
喜ばれた人気のカバーでした。
2010年はその第2弾に加えて、
新たに「世界の伝統柄」をテーマにした
オリジナルパターンのプリントカバーを
つくりたいとご相談したのでした。
「世界の」伝統柄というと、数々あると思いますが
今回、メキシコ、フィンランド、ガーナという
3つの国の伝統柄を選んだのは
どういういったところから? |
日下部 |
「世界の伝統柄」というテーマをうかがって
まず最初に佐藤(卓)と考えたのが、
メキシコの街並みのカラフルな色のイメージで
なにかできないかな、ということでした。
それで、メキシコの写真集や資料を集めてみたんです。 |
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まず色から、メキシコへ。 |
日下部 |
そうです。そうしていろいろ資料を見ているうちに
「パペルピカド」を知ったんです。
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パペルピカドというのは、
メキシコのお祭りに飾られる切り絵、ですね。
フィエスタ(祭り)のときには
万国旗のように街のあちこちに飾られるものだとか。 |
日下部 |
そうですね。名前もかわいらしくて。 |
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「パペルピカド」。
口に出して言いたくなりますね(笑)。
で、今日はそのパペルピカドの実物も
お持ちいただいて。
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日下部 |
これは、たまたま入った
横浜の中華街の雑貨やさんに、
それこそ万国旗のように
ディスプレイされていたんです。
もうデザインができあがった後で
まったくの偶然の出会いだったんですが。 |
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ほんとにカラフルですね。
絵柄もなんだかユーモラスで。
花とか鳥とか、どくろまで。 |
日下部 |
そうですね。カバーにするモチーフは、
多くの方に受け入れられるものとして、
鳥と花と、文字などで作ってみたんですが、
最終的には鳥になりました。 |
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もともとパペルピカドには
鳥のモチーフも多いとか。 |
日下部 |
そう、これにもありますね。
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ーー |
ほんと。カバーの鳥は、
日下部さんが描かれたものなんですか? |
日下部 |
はい、パペルピカドを参考にしながら
まず絵を描いて、
ただ、描いただけだと切り絵らしさが出ないので
その絵を実際に切り抜いたものを原画にしました。
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わぁ、これまたきれい、見事ですね。
これはわたしたちもはじめて拝見しました。
最終的に、淡いエメラルドグリーンの地になって、
内側とバタフライストッパーのピンクが映えています。 |
日下部 |
メキシコの街並みの写真を見ていると、
この色の組合わせが多いんです。
内側の色は、手帳を開くと
ちょっと元気がでるような感じに
なるといいなと思って(笑)、
全体的に明るい色を選んでます。 |
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(笑)元気がでます。
全体的に、気持ちが浮きたつというか、
たのしいカバーになりました。 |
日下部 |
はじめは、いかにも伝統柄というようなものも
いろいろ考えてみていたんですけと、
そうすると、民芸調になりすぎてしまって。 |
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以前、卓さんにお話をうかがったときにも、
「伝統的な模様といったものに興味のない人でも、
ふつうに持てるようにチューニングしていくのが大切」
とおっしゃっていましたね。 |
日下部 |
常にそれを意識して考えていますね。
このパペルピカドというモチーフが見つかったことで、
北欧でもなにかこういったものはないかな、と
工芸品まわりを探してみたんです。 |
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なるほど。
そうして、フィンランドの「ヒンメリ」に
つながっていったんですね。 |
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手仕事のぬくもりを感じる北欧のモビールから。
「ヒンメリ from FINLAND」 |
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日下部 |
こちらも、最初はもっと北欧らしいデザインとか
範囲を広げて考えた時期もあるんですが
ストーリー性のあるものがいいと佐藤も言っていて。
北欧の工芸品まわりを調べているうちに
「ヒンメリ」にたどりついたんです。 |
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ヒンメリは、フィンランドの
伝統的なクリスマスの飾りだそうですね。
ライ麦の藁(わら)を糸でつなげて
作られていると聞きました。 |
日下部 |
直線をつなげてできる幾何学的な形が
おもしろいですよね。
こちらは実物を手に入れることは
できなかったんですが。 |
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いちど、ヒンメリの実物を見たことがあるんです。
桐島かれんさんのお店「House of Lotus」で
クリスマスの時期に
ディスプレイされていたものなんですが、
大きなヒンメリが天井から吊られていて。
カバーになるとは想像もしていなかったころですが
すごく印象的でした。
かすかな風にゆっくりとまわって、
壁に映る影もきれいで。
もともとは新年の豊作を祈るというような
意味もあるとか。
風を感じるところは、ちょっと風鈴みたいですよね。
画像提供:おおくぼともこ
左は「House of Lotus」での展示風景(2008年12月)。
どちらもおおくぼともこさんの手作りのヒンメリ。
ヒンメリの作りかたを紹介したおおくぼさんの著書
『ヒンメリーフィンランドの伝統装飾』は
おおくぼさんのホームページでも販売中です。 |
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そのヒンメリをイメージして
パターンを起こしていただいたわけです。 |
日下部 |
そうですね。ふだん使いのカバーに
ヒンメリの模様をおとしこむときに、
どういう模様がいいのかなと、
いろいろ試して検討しました。
どうパターン化するのか、
パーツのつなげ方とか、ですね。
ちょっと実際のヒンメリのつなげ方とは
ちがっていると思うんですが(笑)。 |
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これも手描きでドローイングしたものでしたね。 |
日下部 |
はい、模様の配列は
パソコン上で試していたんですが、
データのままだとフラットになるというか
無機質な線になってしまうので、
もっとゆらぎを出すために
最後はペンで描いて、ムラを出したり、
あえてインクのたまりを作ったりしました。
そのペン描きしたものをスキャンして
またパソコンで線の太さを調整して、
という作業を何度か繰り返してます。
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生地へのプリントの段階でも
いっしょにプリント工場に行っていただいて
濃淡の調整をしました。 |
日下部 |
雪の結晶を思わせるような繊細なイメージに
なるといいなと思っていたんですが、
微妙な調子で印象が変わってくるんですね。
最終的には、プリントのムラもうまくいきて
奥行きがでたのも、よかったと思います。 |
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「ヒンメリ」という名前の語源は、
ドイツ語やスウェーデン語で
「天」とか「空」という意味の
「Himmel」という言葉だそうです。
今年のナイロンカバーとプリントカバーは
例年よりも、ほんのちょっと光沢のある糸を
使っているんですが、
地色のアイボリーに糸の艶感が加わって
すごく雰囲気がでましたね。 |
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西アフリカのフォークテキスタイルから。
「ガーナ from AFRICA」 |
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メキシコの紙細工、フィンランドの藁細工、
いずれも工芸品をモチーフにしていますが
「ガーナ」の場合はそうではないんですよね。 |
日下部 |
こちらは、伝統的なテキスタイルの
資料を集めて。
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民族衣裳とか、フォークアートとか、
とてもカラフルですね。 |
日下部 |
ええ、最初はそういうカラフルなもので
考えはじめたんですが、
やってみるとくせが強くなって、
ちょっとカバーには合わない感じがしたんです。
もうすこしシンプルな方向で行こうと
いろいろ見ているうちに、
あるテキスタイルの
赤と黒とベージュの色づかいが
イメージに近いな、と。
それがガーナのテキスタイルだったんです。 |
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なるほど、「ガーナ」は色から
インスピレーションがわいたんですね。
赤い地に並ぶ小さな模様もリズミカルで、
音楽が聞こえてきそうな気がします。 |
日下部 |
パーカッションとか(笑)。 |
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そうそう。音楽的な感じがするのも
このカバーの魅力のひとつだと思います。
ちょっと和のテイストもあるのが
おもしろいですよね。 |
日下部 |
そうですね。 |
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外側のポケットがダークブラウンで
ツートンになっているのも
このカバーの特徴です。 |
日下部 |
表のパターンを全面にひくと、
すこしくどい感じがしたので
ポイントに、ダークブラウンの無地を
組合わせました。 |
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3つのカバーそれぞれ、ちがう魅力があって
読者のみなさんからも、早くから
「パペルピカドがかわいい」
「ヒンメリ、すてきです」
「ガーナにくぎづけです」
というメールをいただいているんですよ。 |
日下部 |
うれしいです。 |
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ちなみに日下部さんは、
2010年にどのカバーを使うか決めましたか? |
日下部 |
この3つのうちのどれかなんですけど、
まだ迷っています(笑)。
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