ほぼ日WEB新書シリーズ
糸井重里がブータンに行く直前、
解剖学者の養老孟司さんに
お会いすることになりました。
ブータンに何度か行かれ、
とても詳しい養老さんに
いろいろ教えていただこう、
という趣旨だったのですが、
脱線していった話のおもしろいこと!
昆虫、国語、左脳と右脳、そこに生まれる穴、
系統樹、分類学、コンピュータ、人間関係‥‥。
そして、出てきたキーワードは「アミノミズム」。
第7回
弱点が関係をつくる。
糸井 昔、養老さんとはじめてぐらいに
お会いしたときに聞いたのは、
孔雀がバーンって羽を広げたときに、
目玉の数の多いやつが好かれるっていう話です。
一瞬で見分けて、
そのかたの子どもが欲しいわ、
って思うらしい。
これ、説明つかないですよね。 
養老 そのときの文脈はね、たぶん、
人にもそういう能力があるという話なんです。
その辺にポンと置いたマッチ棒が何本か、
すぐに言える人がいるんですよ。
糸井 サヴァン症候群。
養老 糸井さん記憶力はありますか?
糸井 ぼくは、ないんです、記憶が。
養老 記憶がない?
糸井 まったく覚えるってことができなくて、
段取りとかで司会とかまったくダメです。
人の名前も何も、何にもできないんです。
番組の登場シーンを撮るんで、タキシード着て、
誰かと一緒に右に曲がって入ってきてください、
というときに、
誰かと一緒っていうのでもう
いっぱいいっぱいで、
右に曲がれなくなっちゃった。
‥‥っていうくらいひどいです。
養老 調べるとおもしろいと思うんですよ。
どうして、記憶がなくても
糸井さんはやっていけるのか。
糸井 やっていけます。
ものすごいやっていけてます。
「おまえ、ほらあれなんだっけ」って、
自分の人体がもう友だち含めてる。
何々のことだったら、
養老さんに訊けばいいや、とか、
関係を大事にすることで補ってます。
でも、ストックのなさはすごいですよ。
ただ、自分からやることについては、
すごいちゃんと細かいの。自分の都合で。
養老さんは記憶のフォーム、
両方大丈夫なんですよね。
養老 まぁ、ぼくは勝手記憶ですね。
糸井 勝手記憶。
養老 自分の覚えてようと思うことは、
覚えているけど、
そうじゃないことは忘れてる。
糸井 人の名前とか顔はどうですか。
養老 全然憶えない。
糸井 あ、その部分はぼくと同じですね。
昔お会いして仕事したとかって言われても、
全然わからない。
養老 それはもう、学生を教えていたから、
あるときから名前と顔を覚えるのは諦めた。
毎年100人入ってくると、憶えられないんです。
糸井 それを憶えておいたほうが好かれると思って
一所懸命やる人もいるじゃないですか。
養老 いるいる、います。
そういう人はいい教師になるんですね。
ぼくが憶えてる学生って
箸にも棒にもかからないやつばっかり。
できるやつは手がかかんないから、
すぐ忘れちゃう。
糸井 その通りだ、その通りだ。
それはけっこう論理的に説明できますよね。
養老 できます。
糸井 箸に棒にも掛からないってわざわざ言わせる
っていうのは、よっぽどなんかあったんですよ。
やっぱり“弱点”ですよ、これからはね。
関係性が薄くなっちゃうから。
養老 そうですね。
歳をとるとね、もっとわかりますよ。
歳とるとやっぱり孤独になってくるでしょ。
周りがさぁ、
あの人は面倒見てやんなきゃダメだ、
と思うような穴を
自分に上手につくっとかなきゃ
いけないんですよね。
糸井 ぼくはもうやってますよ。
ほんとに。
撒き餌のように。
お婆さんとお爺さんが孫をかわいがるのも、
あれ、無意識にそういうことしてるのかもね。
つまり、自分の子どもをかわいがられて
悪い気する人はいないわけで、
両方に影響与えられるじゃないですか。
うちに、昔来た保険屋さんで、
ピンポンってやって入ってきて、
しばらく話をはじめないで、犬をかわいがってる。
で、いやほんとごめんなさいって言って、
とにかくかわいい、って言う。
お話なんかあったんじゃないですか、って言うと、
いや、もうほんとに、わぁー、ってかわいがって。
で、保険の話だったんだけど、
ぼくも「入ります」ってなっちゃった。
あの人にまた会いたいぐらいの気持ちになって。
そしたら、次の月の集金は違う人だった。
その人に訊いたら、
「あのかたはとにかくトップ中の
 トップの人で」って(笑)。
その人がやったことは何かって言ったら、
保険のことを一言も言わずに、
犬をかわいがったことなんです。
顔を舐められながら、わぁーって言った。
そんなようなことですよ。
だから、養老さんを落とすんだったら、
虫をもうべた褒めして!
養老 (笑)
糸井 なんですか、この刺はなんて言って。
わぁー、気持ち悪い、なんて言って(笑)。
でも、だんだん好きになりそうとか言って。
養老さんも、絶対、悪い気しないですよね。
養老 うん。
── そうですよね。
糸井 年取れば取るほどそうなる。
いやぁ、おもしろかったです。
ありがとうございました。
養老 こちらこそ。
久しぶりでね。
何年ぶりだろうと思って。
糸井 いや、そんなでもないような気も。
養老さんの体の丈夫さっていうのも
すごいもんですね。
養老 そうでもないんですけど、
一切気にしてないから丈夫なんです。
糸井 ああー。
養老 ぶっ倒れるまで走りまわってる。
だから、いつも周りに嫌がられてる(笑)。
(養老孟司さんと糸井重里の対談は
これで終わりです。
お読みいただきまして、ありがとうございました)
 
2014-08-20-WED
(対談収録日/2011年6月)


第1回
他の人になれないから。
第2回
英語と日本語、どうだっていい。
第3回
「それは管轄外です」
第4回
人間が悩むということは。
第5回
系統樹から網の目へ。
第6回
アメリカ文化を壊すもの。
第7回
弱点が関係をつくる。