ほぼ日WEB新書シリーズ
糸井重里がブータンに行く直前、
解剖学者の養老孟司さんに
お会いすることになりました。
ブータンに何度か行かれ、
とても詳しい養老さんに
いろいろ教えていただこう、
という趣旨だったのですが、
脱線していった話のおもしろいこと!
昆虫、国語、左脳と右脳、そこに生まれる穴、
系統樹、分類学、コンピュータ、人間関係‥‥。
そして、出てきたキーワードは「アミノミズム」。
第3回
「それは管轄外です」
養老 感性で捉えられない、
論理的なことはすべて
脳で言うと左脳が司るんですよ。
左脳ってすごく変で、
論理と手続きがきちんとしているんです。
だから、それがそのまんまでいくと、
すごく変なことになってきても、
それでも平気なんですよ。
そういうのって、ひょっとすると人間の意識、
特に左脳が持ってる、穴じゃないかと思う。
しかも人間が自分では気付かない「穴」。
糸井 ああー。
養老 こういう抽象的な世界、
文明のことを、ぼくは「脳化社会」と
言ってきたんです。
意識が作ってる社会って、
意識が根本的に持ってる「穴」を
埋められないんですよね。
しかも穴はどんどんどんどん広がっていく。
その典型が官庁です。
平和が続いてなにも起こらない前提で
手続きをどんどん決めて、
全部法律にしていきます。
法律は、言葉だから、
左脳的なんですよ。
糸井 はいはい。
養老 「這っても黒豆」ってことわざ知ってます?
たとえば糸井さんとぼくの間に、
なんか黒いものがぽつんと落ちているとする。
ぼくが「これ虫かな、黒豆かな」って言うのに
糸井さんは「それはぜったい黒豆」だという。
そのうち黒いのが這い出す。
それでも糸井さんは、
「這ったけど、黒豆だ」とまだ言い張る。
言い張って変えないのは左脳の働きです。
糸井 うんうん。
前提を揺るがせてはいけないんですね。
養老 うちの親戚のお年寄りが、
婿さんと一緒に田舎道を歩いていて、
ひょろひょろ、光るもんがあった。
婿さんが、
「お父さん、あれ、なんでしょうね」
って聞いたら、おじいさんは、
「へびだね、これは」と答えた。
そしたら、婿さんが、
「でも、目は2つなのに光るものが
 1つしかありませんよ」
そしたら、「いや、片目のへびだ」
とこれまた言い張る。
この人もね、都庁の役人でした。
糸井 ああー。
いい話だ。
養老 それってね、左脳優先なんですよね。
左脳は、論理的分析的にきちんとやっていく。
だから、文明化、つまり、組織化、
社会化が進んでいけばいくほど、
前提と現実のズレが生じていくから、
穴はでかくなってくるはずですよ。
糸井 政治もそれに倣ってるわけですよね。
養老 もう、政治もね、
言語をどうしても使いますから。
言語は、目の前のことを定義していきます。
現実に即してそれを
絶えず訂正していくのが右脳です。
だからああいう黒豆のことわざを作って、
揶揄してるわけでしょうね。
糸井 うんうん。
そうか、ことわざっていうのは、右脳なんだ。
養老 だって、言いっぱなしでしょう。
糸井 そうだそうだ。
養老 で、ピンとくるかこないか、どちらか。
糸井 ものすごくおもしろいですね。
うんうんうん。
養老 右脳側は最終的には、論理的に
力を持たないので、
負けますよね、どうしても。
糸井 対決したら負けますよね。
養老 そう。
絶えず注意する役目になっている。
糸井 悲鳴に近くなってくるんですよね。
養老 大学なんて典型的に官僚的で、
左脳優先の世界ですよね。
ぼくは大学に長年勤めたから
よくわかるんですよ。
右脳の卒中の患者さん、
つまり左脳が残った患者さんに出てくる
特徴的な症状があって、
それは半側無視っていう症状なんです。
自分の視野の、左半分を無視する症状が出るんですよ。
糸井 ああー。
養老 車イスで動くと、
左側が周りにゴンゴンぶつかるんです。
糸井 ああー。
養老 ご飯を食べるときは、
右視野の右側にあるものしか食べないんです。
全部食べさせるために、
介護者はお皿に対してイスの向きを変えるんです。
そうすると、左にあったものが
右視野に入ってくるじゃないですか。
そうすると、食べられる。
糸井 はぁー。
養老 次に簡単なスケッチを描いてもらうとします。
例えば、花描いてくださいというと
花びらを描くのですが、
なんとね、右側半分の円の中に
花びらを5つ全部入れるんです。
きれいに。
それで、時計を描いてくださいっていうと、
最初の丸は、描くことができるんですよ、
不思議なことに。
だから、丸はあるんですよ。
糸井 丸はできるんだ。
養老 うん。
丸はあるんだけど、
その中に数字を書き入れて行きますよね、
12時から、1時、2時‥‥
糸井 はい。
養老 右側の半分のところに
12時からひとまわり全部入れてしまうんです。
で、左側が空いてるんです。
糸井 はぁ。
興味があるのは、丸ってやつですね。
また。
養老 (笑)。それでね、思うんですけど、
左脳だけが残ってると、
右の機能が消えているわけですよ。
そうすると、右脳の司る左半分の視野が、
役所でいえば「管轄外」と言えるでしょう。
糸井 はぁー!
養老 「それは管轄外です」(笑)。
糸井 役所のね。
養老 極端な症状の方は、
左側にあるものを教えてくれと言っても、
「ありません」って言うんですよ。
「そんなものはありません」と。
糸井 あー、おもしろいなぁ。
(つづきます)
2014-08-20-WED
(対談収録日/2011年6月)


第1回
他の人になれないから。
第2回
英語と日本語、どうだっていい。
第3回
「それは管轄外です」
第4回
人間が悩むということは。
第5回
系統樹から網の目へ。
第6回
アメリカ文化を壊すもの。
第7回
弱点が関係をつくる。