明日に向かって捨てろ!!
〜ボーズの脱アーカイブ宣言〜
スチャダラパーのボーズさんは
ものをたくさん持っている。
あんなものも、こんなものも、持っている。
けれど、そういう状態があんまり好きではないようだ。
「もういい加減に捨てなきゃ!」と思っているようだ。
そこで、ボーズさんに捨ててもらうことにした。
連載を通じて、捨てる彼の姿を見届けていこうと思う。
今日はいったいどんなものが捨てられるのやら。
ちなみに聞き手は、永田ソフトが担当します。

最終回 
『犬がいて、仕事があって、友だちが来て。
  〜明日に向かって捨てられなかった言いわけ〜』




── さて、まとめるような話じゃないとは思いますが、
最後にいちおう、まとめてみましょうか。
ボーズ この企画って、
はじまったの何年だっけ? 何年前?
── ええとね、5年前だから、2003年かな。
ボーズ たしか、まだハードディスクレコーダーとかって、
持ってる人が少ないぐらいで。
── そうそう。ボーズさん、まだ持ってなかった。
ボーズ まだまだビデオがふつうに全盛期で。
── うん。
テレビ番組をハードディスクに録って
DVDに焼くなんて、夢のまた夢。
ボーズ この5年、そういう技術的な進歩はあるのに、
自分の内面的には、まったく変化がないね。
ほんとに進歩がない。
── 5年前の連載を読み直してみても‥‥
変わってないなぁ(笑)。
ボーズ 言ってること、いまといっしょだよ。
── なんていうの? 
「あのころはお互いに若かったね」
みたいなことが‥‥。
ボーズ まるでないね。
だって、もう進歩が終わった時から
はじまってるもん。
── ははははは、いえてる。
ボーズ まあね、30歳以降って、
そんなに変わんないしね。
── そうだねぇ。でも、5年だよ?
5年って、けっこう長いよ?
ボーズ 長いよね。
── 50歳の人の10分の1だよ?
ボーズ 小学校生活がほとんど終わるぐらい。
── だけど、ほんとに変わってないね。
ちらちら登場するボーズさんのルックスも、
いまとほとんど変わらず。
ボーズ 部屋にあるものも、ほとんど同じで。
── ふたりで、おもしろがってるポイントとかも、
ずっといっしょだよ、これ。
ボーズ いっしょだね。
だって、同じもの出されたら、
たぶん同じことしゃべるよ。
── しゃべりそう、しゃべりそう。
ボーズ ヤバいよね、それ。
そういうのはほんと、よくないなと思う。
だから、やっぱり、
こういうものを抱えて生きてる限りは、
変わらないんじゃないかと思うんだよね。
── どっちだろうね? 本人が変わらないから、
持ち物が変わらないのかもしれないし。
ボーズ うーん、連載の最初のころにも言ってるけどさ、
やっぱり、いま持ってるものを
「ぜんぶ、なくていい」
っていう人間にならないと、
もう変わらないと思うんだよ。
── 実際、いま、捨てずに持ったままで、
引っ越した直後だけど。
ボーズ ぜんぜん変わってないもんね。
── 変わる必要がないのかもしれない。
生き物の変化的にいえば、
変わらなきゃ生き残れないから変わるわけでしょ?
ボーズ まぁ、そうだね。
── すごくでっかい話としていうと、
ボーズさんが「ボーズ」という名前で
生きていけてるってことは、
いま持ってるものを捨てなくても
いいということなのかもしれない。
ボーズ ああ、うん、そうかもしれないね。
── だって、
「ボーズ」という人がみんなに認知されて、
みんながそれを欲してるわけだからさ。
この、半端なフィギュアやレコードや本も含めて
「ボーズ」という人なわけでしょ?
ボーズ そうなんだよね、いまはね。
でも、それはさ、
「いままでのボーズ」
っていうこともいえるからね。
「別のボーズ」になることだってできるし、
そういうふうに
すんなり変わっていく人っているじゃん?
── ああ、いますね。いるとは思うけど、
ボーズさんはそうならないと思うなぁ。
ボーズさんが変わるとしたら、
「ボーズ」がダメだったり、
行き詰まったりした場合でしょ、やっぱり。
ボーズ うーん、そう?
── 基本的な話だけどさ、ボーズさんって別に、
「いまの自分は最悪だ」
っていう人じゃないじゃん?
ボーズ うん(笑)。
── ちょっと心配性で
持ち物が多いのはどうにかしたいけど、
過去の自分を葬りたいっていうわけじゃないから。
ボーズ まあね。
でも、完全に生まれ変わらなくてもいいから、
「ネオ・ボーズ」くらいには、
なってもいいんじゃん?
── それって、どのくらいのレベル?
ボーズ まぁ、小学生時代の辞書を
ずっと持ってなくてもいいっていうか。
大工道具箱の中に同じスパナが
いくつも入ってなくてもいい、っていうくらいの。
── いやいやいや、
その余談も含めてボーズという人だからさ。
ボーズ そうなのかなあ。まあねぇ。
── だから、極端な話、
ミュージシャンとして世に出てなくて、
そろそろなんか変わんなきゃっていうときには、
全部捨てたりできるのかもしれないけど。
ボーズ あとは、まぁ、子どもができたりとかね。
── ああ、そうだね。
ボーズ そういうのはあるよね。
だって、もし、
うちに子どもが来ることになったら、
いまの家だと絶対無理だもん。
── それは、変わるよ。間違いなく、変わる。
ボーズ 子どもができて、たとえば何が変わった?
── うち? そうね、端的なところでいうと、
子どもが歩き出したころに、
ゲームキューブとプレステ2、あっさり捨てた。
ボーズ へぇー。
── あるとガチャガチャさわり出すし、
自分はそんなにプレイしてないしっていうんで、
まったく迷いなく。
ボーズ 変わるんだなぁ。変わるよなぁ、そりゃ。
── だって、ボーズさんちに
コパン(ボーズさんの愛犬)が来たとき、
変わったでしょ?
ボーズ ああ、変わった、変わった。
かじられそうなところに、
いいレコードは置かないようにしよう、とかね。
── ああ、なんとなくわかってきたよ。
だから、こういうのって、
関係によって変わっていくんだよ。
ボーズ そうだね。
── だから、単行本用の取材で
しまおまほさんのすごい実家に行ったけど、
あの家っていうのは、家族のいい関係が
変わんないまま何年も同じ家にいたから、
ああやって溶けていったわけでしょう? 
で、ボーズさんの場合は、取り巻く環境でいうと、
この5年間は、関係が変わんなかったんだよ。
ボーズ うん、うん、そうだね。
── それは、いいことなのかどうかは知らないけど、
犬がいて、音楽の仕事があって、
友だちが遊びに来てっていう
5年間だったわけだから。





 
ボーズ 変わらないよね。
── 変わらないんだよ。
ボーズ うん。そうなんだよ。
やっぱなんかが入ってきたり、
出ていったりとかがないと、変わんないよね。
── たとえば仕事がなくなったりすると、
関係は変わるしね、やっぱり。
ボーズ たしかになあ。
やってること、変わんないもんね。
音楽つくるにしても、
けっきょくいつものスタジオに通って
歌詞書いてっていうのはいっしょだし。
なんにも変わってないんだよね。

── でも、あえて言うけど、
それって悪いことじゃないよ。
ボーズ まあね(笑)。
それが、まぁ、続けられるっていうのは、
うれしいことでもあるよね。うん。

── つまり、5年間変わんなかったのは、
幸福であるという。

ボーズ とも言えるね(笑)。
そういう意味では。

── 相変わらず、犬がいて、友だちが来て、
スチャダラパーの音楽を待ってる人たちがいて。

ボーズ そうだね。
だから、なぜ音楽をつくるかというと、
ぼくは、つくりたいことや
言いたいことがあるからというよりも、
誰かが「つくってよし」って言ってるから
やってるような気がしてるのね。
── あああ、なるほど。
ボーズ だから、レコード会社と契約できてるのは、
まだ「やってよし」って言われてるんだろうなと。
── お客さんがそこにいる、
という具体的なニーズことじゃなくて、
もっと大きな枠での話だよね、それ。
ボーズ うん。大きな意味で、やってもいい状態。
だから、「もうやめてください」っていう状態が
いつか来るかもしれないって
思いながらやってるから。
幸い、それはまだ来ないみたいだから、
「じゃあ、がんばります」みたいな。
── で、そういうふうにがんばってるかぎりは、
半端なものも増えちゃうし、
家も部屋もこういう感じだと。
ボーズ そうなんだろうね(笑)。
なんか、5年間かけて、
長い長い言いわけをしたような気もするけど(笑)。
── いや、いいんじゃない? 
たどり着いた場所としては、悪くないと思う。

ボーズ まぁ、だから、つぎの5年は違う展開で行きたい、
と思いながら、同じ螺旋階段をのぼっていくんだよ。
── ちょっとずつ上がりながらね。
ボーズ うん。同じ風景をちょっと高いところから見ながら。
── いや、いい結論だと思います。
意外に、きちんと総括できたと思う。
ボーズ あ、そりゃよかった。
── ありがとうございました。
ボーズ ありがとうございまーす!
── いったん終わります。
ボーズ よし。なんか食おう。

(おしまい)

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2008-11-27-THU
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2003-09-25 第1回 捨てる宣言
2003-09-26 第2回 ビデオの棚を前に苦悩する
2003-09-29 第3回 謎のゲーム箱と本棚
2003-10-02 第4回 『半端フィギュア』
2003-10-06 第5回 『行かない試写会案内状』
2003-10-09 第6回 『ダブりビデオ』
2003-10-13 第7回 『役目を終えたCD-R』
2003-10-16 第8回 『トリセツ』
2003-12-04 第9回 『週刊誌』
2003-12-07 第10回 『5センチのNumber』
2003-12-09 第11回 『半端ムック』
2003-12-11 第12回 『薄いもの』
2003-12-22 第13回 『壊れていない電子機器』
2003-12-24 第14回 『携帯電話の分厚いトリセツ』
2003-12-25 第15回 『ボーズのCD整理術』
2003-12-26 第16回 『台所付近に溜まるもの』
2004-04-28 第17回 また増えてる!
2004-04-29 第18回 クッションの中身
2004-04-30 第19回 赤白ケーブル的なもの
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2004-05-06 第21回 部屋の隅のふたつの箱
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2004-05-10 第23回 『第一線を退いたタオル』
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2004-05-18 第27回 『出前チラシ地獄』
スチャダラパーのスタジオ潜入編
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特別取材『The 9th Sense』のライムノート
2004-07-16 その1〜「寝癖」か「鼻毛」か?〜
2004-07-19 その2〜火事から馬、零細企業へ〜
2004-07-21 その3〜幻の4番の歌詞〜
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最終ブロック
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