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ほぼ日刊イトイ新聞

2025-02-14

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・ホタテ貝というのは漢字で「帆立貝」と書くように、
 帆を立てて海水面を走ることがある。
 少年時代には富山の海を眺めて暮らしていた
 立川志の輔さんは、何百何千という数のホタテ貝が
 貝殻の部分を90度に開き文字通り帆に風を受けながら
 日本海を疾走している景色を見たという。
 小さな帆船が一面の海を群れになって走っている姿は、
 いじらしくもあり自然の脅威のようにも感じられ、
 いつまでも忘れることができないという。
 いい話だなぁ、すばらしい景色を見たんだなぁ。
 落語のまくらに話していたうそなんだけどね。
 ぼくは、かなりほんとうだと思って聞いていた。
 たぶん、ほんとうだと思いたかったのだろう。
 そのほうが、おもしろいから。

 人は、そう思いたいように話を聞くし、
 そう見たいようにものごとを見ているものだ。
 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というが、
 まことにそのとおりだ。
 心霊写真だとかも、デジタル写真の時代になってからは
 すっかり姿を消してしまったけれど、
 人の肩にだれのものでもない手があるとか、
 樹木のなかに少女の顔が見えるとかも、
 「見たい、見て驚きたい」という気持ちが見せるものだ。
 幽霊を好きで、それが見たいということでもない。
 そこには「嫌だけど」という前提があることも多い。
 「嫌だけど、逆に、霊が見たい」ということだろうと思う。

 思えば、世間に流れてくる「真相はこうなってるよ」
 という噂話も、とてもよく似たものだ。
 「信じられないけれど、逆に」が感じられるほど、
 人の興味をひくし、ひそひそ話として広がりやすい。
 最初に書いたホタテ貝の話なんかは、
 あんまり迷惑のかかるうそではないけれど、
 「信じられないけれど、逆に」の構造をしている。

 「好奇心」とは、「奇」を「好む」「心」である。
 たぶん、弱い人間が、警戒心を高じさせて
 「奇(異)」に対して敏感になったせいで
 身につけた本能的なものなんだろうね。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
「おもしろい」っていうのも、奇を好む心だと思えるしな。


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