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ほぼ日刊イトイ新聞

2021-03-03

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・青春ってやつには、後ろ姿があってさ。
 だいたい人はそれを忘れてしまうものなんだよな。
 あのころのおれに戻れるものなら、戻って、
 あんたに、会いたいよ。

 と、しらばっくれて書いた4行は、
 お気づきの人もいるだろうけれど、
 荒井由実の『あの日にかえりたい』って歌の一部分を、
 男のセリフっぽく書き直してみたものだ。
 なんというか根本的なアイディアは、荒井由実さんだ。
 みごとなものだなぁと、いまさらながらに思うよね。
 1975年の10月5日にリリースされたというから、
 荒井(松任谷)由実さん21歳の作品だよ。
 21歳の「わたし」が「青春の後ろ姿」を詩にしている。
 もう「わたし」は青春のなかにいないと書いている。
 「かえりたい」というと、ずいぶん遠くに聞こえるが、
 21歳の女性のなつかしんでいる恋愛の思い出が、
 それほど遠い過去にあるはずもない。
 歌詞の全体をあらためて読んだら、
 写真をちぎったり、アドレスを扉にはさんだり、
 そんなことをしている現在も見えてくる。
 この歌のなかで、いちばん秀逸なテーマは、
 「青春の後ろ姿を人はみな忘れてしまう」の部分だ。
 聞きようによっては老成した作家のことばにさえ読める。
 太宰治が20代半ばで、はじめて出版する短編集の題名を
 『晩年』としたことなども思い出す。
 しかし、歌詞のなかの恋愛は実はまだ進行形である。
 不思議で、生き生きとおしゃれでおもしろい歌だ。
 ぼく自身が若いときにはついていけてなかったけれど、
 こんな歌詞を書けてしまうのは、すごい作家だ。
 人びとがもてはやしたのも当然だったということが、
 いまさらながらによくわかる。

 ポピュラー・ソングの歌詞を、
 じぶんの口語で翻訳することは、とてもおもしろい。
 おそらく、みんなが無意識でそれをしながら、
 じぶんの声で歌ったりはしているのだろうけれど、
 文字にしてノートに書いてみたりすると、
 あらためておもしろい発見があったりするものだ。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
10代や20代の才能のやることは、たいしたことなんだぜ。


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