その38 その後の『蟲師』のこと。その38 その後の『蟲師』のこと。

2012年5月21日朝、日本列島を横断するように、とても広い範囲で、「金環日食」を観ることが出来ました。これだけ多くの地域で観ることが出来たのは、1000年前の平安時代以来とのことでした。次回は2030年6月1日に、北海道で観ることが出来るようです。

前回に引き続きアニメ『蟲師』のお話です。
第一期放送は、2005年10月から2006年6月まで。
原作『蟲師』全50話のうち、
(最終話「鈴の雫」は、原作では前後編に分かれています)
最初の26話がアニメ化されました。
オンエア当時から高い人気があったので、
残りの24話もすぐにアニメ化されると思っていたのですが、
制作スタッフのスケジュールなどの問題もあったようで、
9年後の2014年4月~12月に、
単行本6巻から10巻に収録された全24話が放送されました。
(2015年5月には、最終話「鈴の雫」が劇場公開されました。)

今となっては、その9年間という時間は、
ぼくたちスタッフにとって長かったようで、
実は、必要な時間だったのかもしれません。
長濱監督はもちろんのこと、
ぼくも『蟲師』のことを忘れたことはありませんでした。
「続章」というかたちでアニメ化が決定され、
オープニングのオーダーを受けるずっと前から、
制作の準備を始めていました。

9年の間に、カメラの環境も変わりました。
デジタルカメラの成長と共に、
「スチール用のカメラでムービーが撮れる」
という時代がやってきました。
いくつかのデジタル一眼レフカメラにいたっては、
映画用のカメラを超えるほどの性能を持ち合わせるほど。
前回お話しした第一期のオープニングは、
ご覧いただいたようにキーカラーは緑色。
主にスチール写真を中心に編集されています。
ぼくの中で、その続きは青色だと決めていました。
出来ることならオープニングの世界を、
もっと生き生きとしたものにしたくて、
前回とは違って、ムービー中心の構成を考えていました。

その9年間、ぼくが一番通っていたのが、
「現場編 その36」でお話しした、青森の津軽地方でした。
津軽地方には、今でも「虫送り」という、
稲を害虫から守るためのお祭りがあります。
細長い柱状の造形物を「ムシ」と呼び、
害虫の身代わりとして送り出すのです。
そのすがたは龍のようで、
頭は主に木造り、胴は藁で造られ、
大きい物では10メートル以上になります。
集落に入る場所の高い木などに、
その大きい「ムシ」を揚げ、魔除けとします。
初めてそのすがたを雪の中で観たときには、
「あっ、こんなところに“蟲”が!」と、
すっかり、『蟲師』の蟲を連想していました。

長濱監督から続編制作の報せを受け取ったとき、
ぼくは津軽にいました。
しかも、原作の漆原有紀さんが久しぶりに書き下ろしで、
「日蝕む翳(ひはむかげ)」という新作を描き、
2013年11月、12月発売の「月刊アフタヌーン」にて、
前・後篇の特別読みきりとして掲載され、
それとほぼ同時にアニメ化をすすめ、劇場公開も行い、
その場所で『続章』の制作発表を行うとのことでした。

「日蝕む翳(ひはむかげ)」は特別編ということで、
オープニングはないのですが、
エンディングは是非、ということで、
「写真 菅原一剛」というかたちで参加しました。
久しぶりに届いたその絵コンテを拝見すると、
原作がすばらしかったのはもちろんのこと、
なんだか、スタッフみんなの
レベルも上がっているような気がします。
そのエンディングで使用したのが、
最初に紹介した、金環日食の写真です。

それにしても、あの日、津軽の地で、
『続章』のお話をいただいたことが、
今考えても、どこか不思議な縁を感じます。

ここは、白神山地の中にある十二湖の中のひとつ、青池です。
この池がなぜ青くなるのかは、未だに解明されていません。
そんな不思議な池なのです。
長濱監督から、『続章』のオープニングの依頼を受けて、
数週間後、ぼくは早朝の青池に向かいました。
『蟲師』という物語の世界にとってもっとも大切なものが、
劇中では「光脈」とよばれる、
地中を流れる、光の川のような存在です。
ですので、オープニングの世界観にも、
かならず、光と水は、必要不可欠な要素と考えています。
それまでも、青池は何度か訪れたことがあり、
ぼくの大好きな場所のひとつでもあります。
その日は、前日まで場所によっては川が決壊するほどの大雨で、
青池までたどり着けるかどうかも心配だったのですが、
なんとか無事に到着、
いつものようにカメラを三脚に固定して、
青池の中に、光が入ってくる瞬間を待ちました。

前日の天気を考えると、さすがに今日は無理かなあと、
あきらめかけた瞬間に、木漏れ日のような光が
ゆらゆらと湖面に差し込んできました。
すると、そのすがたは、一気に立ち上がる朝靄と共に、
まるで湖面の上を踊るかのように動きはじめました。
ものすごいことが起きたことは確かでした。
しかも、そのようなすがたを観ることが出来たのは、
後にも先にも、この時だけです。
そして、ぼくの運がよかったのは、
その時、湖面の揺らぎのようなものを、
ムービーで撮りたくて「Canon EOS 5 markⅡ」という
デジタル一眼を持ってきていたことです。
あの『続章』のオープニングの映像は、
編集でオーバーラップも何もしていない、
その時の、そのままの映像です。

「蔦温泉」の横にある蔦沼まで、スノーシューズを履いて記念撮影。音楽の増田さんが写っていないので、増田さん撮影によるものかもしれません。

東京に戻って、その映像を長濱監督にも観てもらい、
「津軽には、今でも蟲がいる」という話をしました。
後半のお話には、雪国の話であったり、
酒蔵の話であったりと、津軽らしい話もいくつかあるので、
だったら、みんなで津軽に美術ロケハンに行こう、
ということになり、長濱監督をはじめ、
原作者の漆原さんら主要スタッフみんなで、
雪の中の蔦温泉に宿泊するなどして、冬の津軽を回りました。
そうやって、『続章』の制作はスタートしました。

今では、『蟲師』に関しては、
原作も、アニメもすべての制作も、オンエアも終わり、
TVでたまに再放送を見かけるぐらいだったりするのですが、
不思議と、まるで終わったという気がしていません。
これは第一期の時から思ったり、言ったりしていますが、
いつか、漆原さんの完全書き下ろしで、
劇場版アニメ『蟲師』を、今でもやりたいと願っています。
しかし、終わった気がしないというのは、
どうやら、それだけの理由ではなさそうです。
こうやって結果的に深く関わることになった『蟲師』という世界は、
ぼくは、たまたまアニメのオープニング制作というかたちで
その世界のことを知りましたが、
もしかしたら、この話に出会うずっと前から、
ぼくが毎日のように向き合っている
この世界そのものの話でもあり、
ぼくがずっと、そして今でも、
被写体としている世界そのものなのかもしれません。
それほどに、ぼくにとっては、日常です。

この作品に出会えてよかった、
この人たちで出会えてよかった。

2017-02-09-THU

菅原一剛さんが写真家としてスタートしてから
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2013年に至るまでの作品群を集約した、
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「Daylight」では2000年代に発表された
「Amami」「Komorebi」そして「Tsugaru」を、
「Blue」では1990年代に発表された
菅原さんの代表作ともいえる「Norway」「Nara」
などの作品を収録しています。
菅原一剛の写真家としての軌跡がわかる、
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そのために知っておきたいこと、
ちょっとしたコツなどを、
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菅原一剛さんが解説します。

第1章 カメラと一緒に歩いてみよう。
第2章 あなたの思いは、きっと写ります。
第3章 ゆっくりものを見てみよう。
第4章 ちょっと不思議な写真のしくみ。
第5章 写真は、ひとつの大切な“もの”
第6章 季節の光の違いを写してみよう。
第7章 正しいカメラとレンズの使い方。
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菅原一剛さんの目は、そんな時間や場所、
そして彼らの人生に思いを馳せます。
写真というものがもつ、ゆたかな背景を、
ぜひ本書で体験してください。

第1章 ロバート・キャパ
第2章 アンリ・カルティエ=ブレッソン
第3章 ダイアン・アーバス
第4章 ウイリアム・エグルストン
第5章 ウジューヌ・アジェ
第6章 マヌエル・アルバレス・ブラーヴォ
第7章 フェリックス・ナダール
第8章 土門 拳
第9章 田淵 行男
第10章 アルフレッド・スティーグリッツ
第11章 エドワード・ウェストン
第12章 岩宮 武二
第13章 ロバート・メイプルソープ
第14章 ヨゼフ・スデク
第15章 小島 一郎
第16章 ロバート・フランク

ソフトバンククリエイティブ
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菅原さんが2002年から取り組むプロジェクト
「今日の空」。
これは、菅原さんが出かけた先で、
毎日空の写真を撮影し、
エッセイを添えてネット上に公開するというもの。
本書は、2011年12月31日までに
撮影された3650枚から
選りすぐりの写真を収載しています。

また、「今日の空」プロジェクトは
iPhone用の写真アプリケーションも
開発されています。
くわしくはこちらをどうぞ。

ソフトバンククリエイティブ
272ページ オールカラー
定価:1,890円(税込)

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