メイド・イン・ジャパンの挑戦。 シグマ・山木社長を会津工場に訪ねる編
 

これまで、この「実践編」では、
数回にわたって、今一度
写真とカメラの関係をはっきりしようと
カメラの話をして来ました。
そんな中で「シグマ」というメーカーのことが
どんどん気になっていきました。
シグマはもともとレンズメーカーだったのですが、
今ではセンサーも同時に作っています。
センサーというのはデジタルカメラにおいて
フイルム時代でいうところのフイルム。
つまり、レンズ、カメラ、フィルム、
そのすべてを自前でつくっている会社なのです。
しかも工場は会津に集約されているといいます。
かねがね一度、おじゃましてみたいなあと
思っていたのが、こうして実現、
山木和人社長とたくさん話すことができました。

編集部より:このシリーズの画像は「ほぼ日」が撮りました。


 
プロフィール
山木和人 やまき・かずと



株式会社シグマ代表取締役社長。
1968年東京うまれ。上智大学大学院卒業後、
1993年に株式会社シグマに入社。
技術畑をあゆみ、
2000年に取締役・経営企画室長を経て
2003年取締役副社長に。
2005年、取締役社長に就任。
2012年代表取締役社長に就任。

 
 

SIGMA SD1 + 17-50mmf2.8
津軽 十二湖にて

この日は山の中はいい感じでしっとりしていました。
それは撮影した時から、思った以上に、
しっとり写るなあと感じていました。
その後「SIGMA Photo Pro」で、
モノクロ現像をしてみたのですが、
すると、デジタルっぽくない、
それでいてフイルムでもない、
それでいて、あの日の山の中の光を感じる
しっとりとした写真が出来上がりました。

 
菅原 ぼく、大学の先生が、宮川一夫さんって、
1950年代に黒澤明監督の
『羅生門』を撮った先生だったんです。
途中で、京マチ子さんが森の中を、
ワァーッて逃げ回ってるシーンがあります。
そこに、光がギラギラギラした、
森の中に自分がいるかのような描写があるんです。
それを、授業で先生が、どうやって撮ったのか、
全部説明してくれたことがあるんですね。
そしてぼくが仕事をするようになって、
1995年に、映画の撮影監督を、
初めて担当することになりました。
先生が『羅生門』を撮ったのは京都。
ぼくの撮影地は沖縄。
沖縄のほうが光が強い。
山木 ええ、ええ。
菅原 だったら、木漏れ日を、
先生が撮影した時のようにやってみたら、
すごくギラギラしたの撮れるんじゃないかなと思って、
教わったように撮影してみたのですが、
全然、ギラギラとは写らなかったのです。
山木 へぇ!
菅原 もちろん、ぼくのカメラワークの問題もあると思いますが、
その後、そのことがずっと気になって、
いろいろと研究してみたら、わかったことがいくつかあって。
要は、その40年の間に、レンズとかフイルムとか、
写真や映像を撮る環境が変わりましたよね。
少しずつ、光をより具体的に分析出来るようになって、
そのなかで「眩しい」とか「ギラギラする」と感じるような
光の部分を、ないがしろにしてしまったような気がします。
山木 あぁ、なるほど。
菅原 たとえば、視覚的に空気は見えてないけれど、
「この辺、空気がいいよね」なんて言いながら歩く。
「きれいだな」とか、「いい感じだな」とか思う。
「やっぱり、空気もうまいしさ」って。
そしてそういうものが、少しでも写ったら、
きっとそれは、いい写真ってことだと思うんです。
山木 そうですね。
菅原 しかし、具体的に目にも見えていないわけですから、
ことカメラにいたっては、まったくもって
データだけでは解析できない部分がありますよね。
山木 数値的なことをいうと、デジタルって、
ピクセルの配列によって、解像限界が、
もう理論的に決まってるんですね。
あるところまで、ピーッと解像してるんですが、
それ以上に細かくなってくると、
ストーンと切れるんですよ。
菅原 あぁ、たしかに、そうですね。
山木 そこが、フイルムは曖昧なんです。
うちのもデジタルなんで、同じなんですけど、
ただし解像度は、かなり高いんです。
解像度が高ければ高いほど、より自然に
なってくるはずなんですね。
菅原 厚みを感じますよね。
山木 ええ。で、解像度を追うっていうのは、
「こんなに大きくプリントできます」ということよりも、
自然な描写に近づいていくっていうのに貢献すること。
菅原 そう思いますね。一般的なCCDの場合、
特にローパスフィルターが入っていますと、
「眩しい」とか「暖かい」っていう部分もそうですし、
光の中にある、ぼくらが撮りたいと思ってるところが、
全部取られちゃうっていうか、
どこにも記録されてないっていうか。
とにかく別のものを見ているような感じさえします。
山木 ローパスはそうですね。スキッとしてない。
モゴモゴっとしちゃうんですよね。
菅原 ぼくは、ローパスが入ってるだけで、
なんとなく好きになれません。
山木 私もそう思う。だから、最近なくなってきて、
本当、いいんじゃないかなと思いますね。
ただ、こんなコンセプトで、
こんなふうにやりたいと思っても、
時代もかなり厳しくなってきてるんで、
やっぱり、ちゃんとしたものを作らないと売れない。
ぼくも、今後、一生仕事をする中で、
ただ単に安いものをボンと作って売れればいい、
っていう話じゃないから、
納得できるものを作りたいっていう話をいつもしているんです。
それがいまのレンズの
新シリーズへの流れになってるんですよ。
菅原 レンズを「アート」「コンテンポラリー」「スポーツ」
というカテゴリーに分けましたよね。
そういう大きなコンセプト変更みたいなことは?
山木 いろんなディスカッションの中で、
旧来のものが「わかりにくい」、
「どれを選んでいいかわかんない」
という声が出ていました。
私は、社長になる前、
いろんな技術部門の部長をやっていたんです。
もちろん、技術っていうのは、常に、
課題を克服していく開発の仕事なので、
矛盾するものをちゃんと解消することが大事です。
とはいえ、コンセプトがはっきりしてないと、
プライオリティを付けられないんですよ。
たとえば、レンズは特に、
古典物理学の世界で生きてるものなので、
画質を重視すると、どうしても大きく重くなっちゃう。
小さく軽くしようとすると、
画質を犠牲にしなきゃいけない。
そこに必要なバランスがあるっていうのは、
技術部長をやってて、すごく感じたんですね。
しかも、技術者にそれを明確に伝えることができれば、
すごくいい仕事をしてくれるんです。
ただ「画質も最高だし、軽くもしなきゃいけないし」
ってやると、できないんですよ、いい仕事が。
すごくいいものをつくるためには、
コンセプトがしっかりしたものを、一気通貫で、
お客様にもどう伝えるかっていうことまで含めて、
商品企画、開発、ものづくり、マーケティング、
全部串刺しでやるべきなんです。
菅原 本当にそうですね。
すごく正しいと思います。
技術者にもわかり、ぼくら消費者にもわかる
コンセプトが「アート」「コンテンポラリー」
「スポーツ」だったんですね。
山木 はい。「コンテンポラリー」だったら、
日々、コンパクトに、いろんなことに使える用途で。
もちろん、画質がいいっていうのは当たり前なんですけど、
「アート」ラインはそこをもっと進めて、
どんどん表現に行っちゃうのをつくろうと。
菅原 カタログまで一貫したムードがありますよね。
山木 はい。種明かしばっかりしていますが(笑)、
それはプロダクトデザイナーの岩崎一郎さんに、
ラインナップ刷新の
デザインを依頼したところから始まるんです。
ならば製品のデザインはもちろん、
「グラフィックも重要だ」っていう話になり、
「この人と一緒にやりたい」っていう話が出てきて、
それが佐藤卓さんでした。
菅原 佐藤卓さんなんですか?
山木 そうなんです。
菅原 へぇ!
山木 卓さんに入っていただいて、
いろいろディスカッションしてて、
「もう面倒くさいこと言わずに、工場見よう」
っていうことで、工場に来てくださって、
そこでビシッと方向性が定まりました。
菅原 サイトから、会社案内のムービーの動線から何から、
誰かがすごい整理をされたんじゃないかなと
思っていました。
そこに佐藤卓さんがいたのですね。
コンセプトをつくる山木社長のところに、そういうふうに、
いろんな人が集まって、1本筋が通ったんでしょうね。
誰かが「えいやっ!」と言わないと、
できないことをやってるなぁっていう印象を受けました。
山木 恐れ入ります。
菅原 これから、シグマさんは、新しいレンズ、
新しいカメラっていうほうに、
技術を進めていくっていう感じですか?
山木 そうですね。やっぱり、写真のところですね。
菅原 フォビオンもフォビオンで、進化し続けていくと?
山木 そうですね。いろいろ開発をやってます。
ただ、イメージセンサーはどうしても時間がかかります。
当社の場合は、
新しいジェネレーションのセンサーを作ろうとすると、
ピクセル・アーキテクチャから、
2年から3年くらいかかります。
菅原 シグマさんの場合は、ソフトウェアもありますものね。
山木 やることが多くてね、儲からないですよね。
菅原 1社だけで、全部やってるんですもんね。
それだけでも、本当にすごいことだと思います。
山木 いつまで続くかなっていう感じで。
菅原 いやいや、続けてくださいね(笑)。
山木 やせ我慢です。
センサーの開発はお金がかかるし、
カメラはなかなかむずかしいですよね。
だから、早いうちにね、カメラも軌道に乗せないと、
大変なんですよ(笑)。
菅原 ぼくは、勝手なことで申し訳ないんですけど、
最近ではカメラもそうですけれど、
全体的にレンズの描写にしても、
どこか少し世界をクールに捉えるっていう方向に
向かっているようなところがあると思うのです。
もちろん、そういうカッコよさもあると思うんですが、
そんな中で、シグマさんのカメラとレンズは、
その描写が、深みがあるというか、
その中にあたたかさのようなものを感じます。
やっぱり、写真好きで撮ってる人っていうのは、
きっと、あたたかみがほしいと思うんです。
いい写真って、世界があたたかく見える。
山木 たしかに、湿度があるというか、
しっとりした感じがありますよね。
菅原 そういう世界が、やっぱり、ある意味、写真的とも言える。
写真には160年、170年の歴史がありますけど、
写真的な写真って、ずっとそこが、
変わらずあるような気がするんですよ。
山木 やっぱり、個性は重要ですね。
今度、じっくりお話を伺わせていただいて、
どの辺に個性出しをしていけばいいのか、
あらためて話させてください。
菅原 ぼくでよければ、ぜひ!
山木 今日は、遠い所をお越しいただきまして、
ありがとうございました。
菅原 こちらこそ、ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。
山木 こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします。
対談を終えて

あまりにも、おもしろかったので、
5回に分けて、様々な角度から。
いかがでしたでしょうか?
本当に、山木和人社長自ら
工場のすべてをご案内いただき、
そして、自らの言葉でお話をしてくれました。
しかもその話のすべてが、
自身の経験の中から生まれていました。
そんな「メイド・イン・ジャパン」な
写真に対する真摯な姿勢も含めて、
まだまだ、この先おもしろくなって行くような気がして、
とてもうれしかった対談となりました。
そんな、これからのシグマのこと、
ますます楽しみですね。
そして、こんなカメラメーカーが会津の地にあることも、
なんだかちょっと誇らしげな気持ちになりました。

山木社長、そしてシグマの社員の皆さん、
楽しい工場見学をありがとうございました。
2013-12-19-THU
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