よく、デザイナーの人が本気で撮った写真が、
なぜだか、おもしろくない、という場合があります。
一所懸命やっているにもかかわらず。
きっとそれは、写真の中の「絵作り」が先行して、
「ものを見る」という行為が抜けてしまった状態で、
「写真を撮っている」気になっているから
なのではないでしょうか。

ただ「写真を撮っている」ってどういうことかっていうと、
担当の武井さんを例にあげて申し訳ないんだけれど、
ぼくの主催している「東京観光写真倶楽部」
メンバーといっしょに箱根の大学駅伝を
撮りに行ったことがありました。
区間ごとに人を配して、
全区間全選手を撮ろうというイベントです。
スポーツにはまったく興味がない武井さんでしたけれど、
買ったばかりの明るいレンズをつけて、
一眼レフカメラで選手を狙っていました。
ところが、これがみごとに、つまらない結果に。
ピントは合っている。露出もいい。画角も決まった。
けれども走る選手たちのすがたが
「なんだかつまらない」んですね。
けれども、ふと、横を見て撮ったらしい、
応援する子供たちの姿など、
沿道の写真にはいいものがあった。
なぜかっていうと、そこに「ああ、寒そうだなあ」とか
「かわいそうになあ、がんばって!」という気持ちが、
はっきり乗っているからなんですね。
きっと駅伝の選手には、武井さん、
まったく興味がなかったんでしょうね。

いっぽうで、駅伝が大好きで、
選手やチームの動向を予選会から追いかけてきた
西本さんの撮った選手の写真は、やっぱりいいんです。
それから、即席でも、せっかく撮るからにはと、
選手名鑑を読んで予習してきた人の写真もいい。
「こんなに苦労してきたんだなあ、
 よくがんばったなあ」
なんて思いがちゃんと写真に残るんですね。

 これほんとうにその通りでした。
「写っているけど、つまらない」。
みんなで集まって写真を見ようという会に、
1枚も採用されなかった!
「これいいですね」って言われたのは、
隣で太鼓をたたきながら、
ハナミズを流している子供の姿。
たしかに「うわ、寒いよねえ」なんて思ってました。
選手にも、なんだか申し訳ないことをしちゃったなあ。

対談現場には、ぐいっと行くべき?

みなさんの心配のなかに、
対談収録の現場で緊張してしまう、
というものがありますよね。
糸井さんがしゃべっていたりしたらなおさらでしょう。
そもそも使い慣れない一眼レフを持ち、
現場にも緊張感があふれていて、
そんななかで、あまり邪魔になっては
迷惑じゃないだろうか、と思いながら撮ったら、
それはやっぱり、望む写真にはならないですよ。

たしかに対談の撮影は、被写体になる人たちのことを
気遣いしながら撮るのは大事ですけれど、
それだけでは思うように撮れないと思ったら、
そんな時は、「あと1歩」前に出て撮ったほうがいい。
これを言ったら怒られるかもしれないけれど、
視覚に入ってちょっと邪魔に思われても、
撮りに行ったほうがいいのでは。
ビクビクしたり、ぐずぐずと躊躇すると、
かえって目立ちます。
それに、ちゃんと本気で一所懸命撮っていれば、
そのことでその場にいることが自然になったり、
時には、撮影そのものもあたり前のように
受け入れてもらうことが出来たりすることもありますよ。

現場を見ていないからなんとも言えませんが、
みなさんは、対談の現場で、
ふつうに対談を聞いているふうに素知らぬ顔で
チャンスを待っているのではないでしょうか。
いい表情を見て「あっ」と思ってカメラを構えても、
もう遅い。シャッターチャンスを逃してしまう。
最初の30分でもいいから、
とにかくずっとカメラは構えて、ファインダーを覗き、
シャッターボタンを押せば写る、
という状態にしてみてください。
最初の30分、集中して
「カメラのファインダーを覗いたまま、
 シャッターチャンスを待つ」
という風に撮ってみたらどうでしょうか。

望遠でとらえるか、標準で寄るか。

「目立ちたくない」という気持ちで
望遠レンズや望遠ズームレンズを使って、
遠めの場所からあまり動かずに撮るひとがいますが、
これは逆。たしかに便利かもしれませんが、
ちょっと勇気を出して、近づいて撮ったほうがいい。
レンズの選び方は、写真の経験が少ないのであれば、
ワイドではなく、標準レンズ(35~50ミリ)で。
迷いが出るからズームはあまりすすめませんが、
標準ズームレンズであればいいですよ。

もし本気で練習してみたいって思うのなら、
50ミリ単焦点を使うことをすすめます。
それを基準にしておくと、
レンズの画角の感覚がつかめます。
「こういうときには50ミリじゃ狭いな」
「こんなシーンだと50ミリでも広すぎるな」
ということが理解できれば、
「じゃあ、ワイドレンズを使ってみよう」とか
「望遠レンズにしてみよう」という
判断ができるようになりますから。
それがわかると、一気に、
写真を撮るスピードが上がると思いますよ。

カメラの基本設定は?

 撮影したい人を追いかけて、
外を歩きながら、電車で移動中、
合間の風景、室内で座って‥‥など
シチュエーションがどんどん変わるとき、
カメラの設定が追いつかず焦ります。
ふとした瞬間を撮りたいのに、
逃すことが多々あります。

ホワイトバランス設定は、
この連載でもお話したように、
基本の設定を「太陽マーク」に。
薄暗くても曇りでも夜でも、
外なら「太陽マーク」です。
屋内だったら、オートホワイトバランス(AWB)に
変えてもいいのですが、
屋内は、光源そしてカメラによっても変化します。
とくに光源。電球、LED、蛍光灯などの種類で
色が変わってしまいますし、
蛍光灯のように、点滅を繰り返しているような光源は、
シャッターのタイミングによって
色ががらりと変わったりします。
連写をしても1枚ごとに色が違ったりすることもあります。
そんな時は、太陽マークとAWBの両方を試し撮りをして、
決めてください。
モードは「P」、プログラムオートで大丈夫。

ひとつやってほしいのは、露出補正です。
デジタルカメラは、すこしアンダー目の方がよさそうです。
マイナス3分の1から3分の2くらいで撮っておいたほうが
あとから処理するときにも、いい結果が出ます。
カメラの液晶モニタで見ると
ちょっと暗いと思うでしょうが、
いちど、よく使うカメラで練習してみてください。

ストロボは使ったほうがいい?

 取材場所が暗めの場所で、
ブレることがしばしばあります。
写真用の照明を使うべきでしょうか。
「ほぼ日」には2灯、用意があるのですが
使い方がわからなくて‥‥。

これは、ストロボではなくライトですね。
シャッターに合わせて点くのではなく、
つけっぱなしにしておくタイプ、
もちろん、ストロボを使う方法もありますが、
ぼくは、このようなライトを使った方が
自然だと思いますので、この方がいいと思います。
でも、気をつけたいのは「直接当てない」こと。
もちろんそれができればきれいですが、
それなりのライティングの知識と技術が必要になります。

まずは、カメラの背後、
壁と天井の境目あたりに向けてライトを当てて、
光をバウンスさせ、
やわらかく部屋ぜんたいに拡散させます。
撮影者にとっては、
「大きな光をひとつ、背中に背負う」ような感覚です。
自分が光るわけじゃないんですが、
これでずいぶん安心感がうまれます。
写される人も、直接だとまぶしすぎる光も、
そんなに気にならないはずです。

(次回につづきます)

2014-11-21-FRI