その1 写真的な写真って、なんだろう。

 
▲ 桜のタイミングというのもなかなか難しくて、
この年も満開のタイミングは逸してしまいました。
桜の花は、ほぼ散ってしまっていたのですが、
そのおかげで、桜の樹の下の地面は一面桜色で、
遅咲きの椿の花と共に、春爛漫な光景がそこにありました。
個人的にも、実は桜の花は散ってからが好きだったりします。
[SIGMA DP2 S]

 
  シグマというのはレンズのメーカーとして
成長した会社です。
ニコンやキヤノンなど、他社のカメラマウントにあわせた
レンズを提供していたんですが、
以前は、ズームレンズばかりが売れたんですね。
というのも、単焦点のレンズは、
メーカー純正品に人気があったため、
必然的にシグマの活躍する場が、
ズームレンズとなっていたのです。
「便利で、安価なレンズをつくる」
それがシグマのイメージでした。

そのシグマが、フォビオン社を買い取り、
自社でデジタルカメラの生産を始めた。
2002年のことでした。
そして、たいへん話題を呼んだのが
レンズ一体型の「DP」シリーズで、
ここには一切ズームが付いていません。
ズームどころか、画角別に、
28ミリレンズ搭載の「DP1」
50ミリレンズ搭載の「DP2」
75ミリレンズ搭載の「DP3」
といった具合に、単焦点を3機種、世に出しました。
ズームレンズを1個付ければ、
もっと売れるかもしれないだろうというのが
一般的な考えだろうと思います。
ましてや、シグマはたくさんの
いいズームレンズを作ってきているのですから、
「開発できない」ということではなく、
「あえて、ズームではない道を選んだ」ということです。

すごいチャレンジだなと思いました。
今、世界的に見ても、それをやっている会社は、
他にはもちろんないし、実際、写してみると、
特に最近の「Merrillシリーズ」は、
写りも特別にいいのです。
その大きな理由のひとつとして、
シグマの場合は、センサーの方式が、
CCDCMOSといわれる、
フィルターを使って色を分解するものとちがい、
フイルムのような方式なんですね。
一般的なカラーフイルムっていうのは、
赤と緑と青の乳剤を3層に重ねているのですが、
簡単に言うと、それを完全にフルデジタル化しているのが、
シグマのフォビオンセンサーです。
その大きな特徴として、
色のセンサーが重なっていることで、
皆さんも一度ぐらいは聞いたことがあるかもしれませんが、
いわゆる“偽色”ということが起こりません。

 

【CCD】
もともとは、半導体に応用する目的で発明されたものが、後にビデオカメラに応用使用されて、今でも最も一般的な画像センサーとなりました。簡単に言うと、画像を電気信号に変換するシステム。今では、多くのデジタルカメラに搭載されています。最近ではCMOSセンサーに押されぎみですが、個人的にはその厚みのある描写は、嫌いではありません。

【CMOS】
基本的にはCCDと同様のセンサーですが、大量生産に適した構造であるため、安価であり素子が小さいことから、消費電力も少なく、いいところもたくさんあるのですが、CCDに比較すると低照度でのノイズが多いなどの欠点もありますが、最近ではその性能も向上し、写真的な描写をするものも増えてきているようです。

 
  だんだん難しい言い方になってきましたが、
つまり、カメラが大きく色を間違えることがない。
デジタルカメラって、たまに、
色がモヤモヤっと、変になる時がありますよね。
あれが偽色です。
カメラが「何の色だろう?」とわからなくなっちゃう。
それを解消するために、
ローパスフィルターというのを入れたりするんですが、
そのフィルターは、光の力が10あるとしたら、
状況によっては、
5、6くらいまでカットアウトしてしまう場合もあります。

 

【ローパスフィルター】
フィルターの一種で、CCDやCMOSセンサーの素子の前にセットすることで、人体にさえ悪影響を施すほどの波長の早い紫外線領域をカットすることが出来ます。そのことで、センサーの誤認識あるいは誤作動は防げるものの、どうしても光が整理された写真になってしまう傾向があるように思います。

 
  結果、パッと見はきれいなんだけれども、
あくまでも、それは処理をしているものだから、
僕らが見たものとはもう別のものになっています。
もちろん、もともと現実と画像は同じものではないけれど、
出来るだけ、少しでも感じたことが写って欲しいと思って、
ぼくたちは、シャッターを切るわけですから、
なんだか、とても大切なところが
カットされてしまうような気がして、
ちょっと残念な気持ちがつきまとうんですね。


 
▲ ある春の日、本州の最北端でもある津軽半島の
龍飛崎に行ってみると、
いつもと同じように強い風が吹いていました。
その強い風の中に揺られるかのように、
光がキラキラと光っていました。
かなり強い逆光だったので、うまく写るか心配しましたが、
大きなハレーションもなく、そこにあった光が写りました。
[SIGMA DP2 Merrill]

 
  シグマのフォビオンセンサーっていうのは、
今の段階では、専用のソフトを使わなきゃいけないとか、
動作が遅い、記録に時間がかかるなど、
いろんな便利じゃないところはいっぱいあるけれども、
大きな可能性の1つだと思うのです。
そのセンサーが「DP1 Merrill」、「DP2 Merrill」、
「DP3 Merrill」という
「DP」シリーズに搭載されています。
しかも、そのセンサーサイズは
「APS-C」サイズという、
通常の一眼レフに搭載されているような
大型のものになります。
まさにその写りは、感覚的には中判サイズ。
ぼくは、このカメラは、
外見はコンパクトカメラなのですが、
使い方としては、フイルムカメラに例えると、
ブローニサイズのカメラのように使っています。



 
▲ 青森県金木市にある、あの太宰治の生家でもある
“斜陽館”にて。
もともとは、とても大きなお屋敷で、
後に旅館として長い時間を過ごして、
今では記念館となっています。
その中には、とても造りのいい家具などが
たくさんあります。
そして窓辺からは、津軽の春らしいやわらかい光が。
ある部屋で、そんなゆったりとした時間を感じながら、
「きれいだなあ」と思いながら撮ってみたのですが、
その写し出された、質感とトーンがとても気に入りました。
[SIGMA DP2 Merrill]

 
  そして、28ミリ・50ミリ・75ミリという画角について、
前の「写真をもっと好きになる」の時にも書きましたが、
標準レンズっていうのは、一般的には50ミリです。
パッと見た時の、印象がそのまま写る。
ということで、標準レンズと呼ばれています。
距離感で言うと、こうやって実際に見ているよりも、
ちょっと広く写ります。
人間の目は、2つ横に付いてるから、
実際感じてるよりもちょっと広く写ったほうが、
その印象が写るわけですね。


 
▲ 津軽地方は雪国ですので、とても長い冬があります。
そんな津軽には、今でも薪ストーブが
たくさん使われています。
これは、そんな津軽地方の林檎畑の中で見つけた光景です。
雪が溶けて、春になって、剪定を繰り返した林檎畑では、
このように、細い枝から太い枝まで、
様々な枝木が残りますが、
それらをこのように、次の冬へ向けての薪となるのです。
そんな遠い冬を待つ薪を撮ってみると、
なんとなく、あたたかい感じで写ってくれたのが
うれしかったです。
[SIGMA DP3 Merrill]

 
  それに比べて、75ミリっていうのは、
カテゴリーとしては、中望遠レンズのグループ。
中でも、75ミリあたりは
ポートレイトレンズと呼ばれることも多く、
人物を写したりするのに適していると言われています。
ただ、実はこの画角には、
もうひとつ大きな特徴があります。
「あっ」っと思って、注目して見た時の印象が、
この75ミリという画角が、ちょうどいい画角なのです。
まさに、そのまま切り取ろうとした画角のようです。
75ミリから90ミリくらいまでは、
人ぞれぞれ、個体差が若干あるけれども、印象としての距離感が、ぴったりと合うはずです。


 
▲ 津軽地方では、桜の花が咲き終わる頃、
今度は、岩木山の麓を一周するかのようにたくさんある
林檎畑の林檎の花が一斉に花を咲かせます。
そのまっ白な花が咲き誇るすがたは、
桜の花とはまた別の、ある意味ではそれ以上に、
“春そのもの”を感じたりするものです。
そんな林檎畑から見上げた、
春の青空はとても高くて青い空でした。
[SIGMA DP1 Merrill]

 
  そして最後に、28ミリっていうのは、
まさに広角レンズの代表的な画角になります。
なぜ代表的かというと、
50ミリの時にもお話ししたように、
人間の目は、2つ横に付いていますから、
印象も、それに合わせて、
視野が広がっていく特徴があります。
フッと空を見上げた時、「わぁ、広いな」と思う、
その時って、人間は、視野が広がっているので、
標準レンズである50ミリで撮るよりも、
もっと広い印象を持っています。
その印象を写すには、28ミリって、すごくいい。
ほかにも、たとえば誰かとしゃべっている、
その状況をパッと撮るのにも、
28ミリなら、雰囲気が全部写ってきます。

このように、写真を撮る上で、最も大切な画角でもある、
28ミリ、50ミリ、75ミリという単焦点レンズを、
あえて、レンズ交換式ではなく、
しかも、同じセンサーを搭載した
「DP」シリーズというカメラは、
それだけで、もっとも写真的なカメラと
言えるのではないでしょうか。

それに、人間の目というのは、このように、
同じものを見ていても、気分次第でその印象は、
大きく変わります。
それを写す道具が、まさに「カメラ」なのです。
そして、その印象を表してくれるのが、
「レンズの画角」なのだと思います。
それらを、3台で伝えてくれるのですから、
こんなカメラ、今までなかったのではないでしょうか。


 
▲ 今年の桜は、なかなか暖かくならなかったこともあって、
開花がとても遅かったのですが、
めずらしく、開花とほぼ同じタイミングで
緑の葉が出てしまったり、
咲き方がまばらだったりしたものですから、
こうやって、ひっそりと開花を始めた桜の花が、
いつも以上に、しっとりと、
そしてとても艶やかに感じました。
デジカメであることを忘れるほどに、
そんなしっとりさが写ったような気がしました。
[SIGMA DP3 Merrill]

 
  この「DP1 Merrill」、「DP2 Merrill」、
「DP3 Merrill」を使って、
弘前で桜を撮って来たんですが、
満開の桜に圧倒されて「ワーッ」っと思って見ているから、
やっぱり75ミリの「DP3 Merrill」で
撮ってることが多かった。


 
▲ 毎日続けている「今日の空」の中より
20130713 18:53 Hirosaki,Aomori
[RICOH GR]

 
  桜にはほとんど使わなかった28ミリですが、
僕がずっと続けている「今日の空」は、
基本的には28ミリです。
こちらはほとんどリコーの「GR」で撮っていますが、
この「GR」には、28ミリ単焦点のレンズがついています。
こちらも最近モデルチェンジをして、
そのことで、圧倒的にその「写り」が向上しました。

次回は、「写りがいいとはどういうことだろう?」
というお話です。
2013-09-12-THU
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