「日常のデザイン」 Taku Satoh DESIGNS IN ORDINARY LIVES 佐藤卓展 第2会場

水戸にある「水戸芸術館」で、 10月21日(土)から1月14日(日)までの予定で、 デザイナー佐藤卓さんの個展がはじまります。 現代美術の展覧会をやる美術館で、 量産される商品のデザインが展示されるというのは、 とても画期的な、いままでなかなかなかったことです。  誰もが知っている「クールミントガム」や 「明治おいしい牛乳」のデザインが、 どうアートとして立ち上がってくるものなのか。 興味のつきない展覧会になりそうです。  デザインからの視点で、日常がどう見えるのか。 日常が見えてくることで、どうデザインができていくのか。 佐藤卓さんの静かな挑戦に、「ほぼ日」は注目しました。 photo


佐藤卓さんのプロフィール 「日常のデザイン」展について


第19回 偶然のデザイン
ほぼ日 「他人のためや、
 他社のために
 デザインをやること」
というのは、
「自分のために
 なにかをつくること」と
ずいぶん、ちがうのでしょうね。

主観だけでは、ものはできあがらない

佐藤 デザインは、
「自分のやりたいこと」
をやる仕事ではないですから、
それがいいのかもしれません。


たとえば、
本の装丁をさせていただくなら、
「作家のファンのかたにとっては
 どういう本であればうれしいのか」
「作家のかたが
 どういう本にしたい、
 と思っているのか」
「編集者のかたが
 どういう本だったら
 うれしいと思うか」
それが、いちいち、気になります。
満足していただけただろうか……と。
それぞれのイメージのために
すこしでも力になれたらうれしい
という気持ちで、
仕事をしているわけです。

大学に入学する前、
デッサンの勉強を
しているときに思いました。
昨日のつづきの
デッサンをするのですけど、
日によって、湿度がちがいますよね。
湿度がちがうと、
濃淡が変化するので、
昨日のつづきを、
同じように描くのはむずかしい。

もう、昨日のぶんは、
外に線をひいたとたんに
「すでに描かれてしまったもの」
になるのだなぁ、と。

描こうという気分は
主観ではあるけれども、
線として
描けてしまったものには、
もうすでに、
湿度なりなんなりの
偶然までもが作用してできた
思いがけないことが
起きているわけで……
主観を、超えてしまっています。

考えてみれば、
外になにかをあらわすというのは
不思議なものだなぁ、と思います。

主観だけにとどまらない余地が
デッサンに残されていたように、
デザインにも、当然、
受けとめる側が想像をすることで
世界が広がるようなところがあると
いいのではないかなと思うんです。

考えてみれば、誰でも、
アタマは持っているわけで
それなら
使ってもらうほうがいいですよね。
「人には、想像力の余地がある」
という前提が
考えられていないデザインだと
すべてを説明してしまうというか、
想像の余地のない
やりすぎのものになるのではないでしょうか。

大学で絵が描けなくなるのは、
自由奔放なところが
なかったからなのかもしれません。
大学生になりまして、
木版画にトライをしてみたり、
大学の隣の上野動物園に出かけて
動物のスケッチをしてみたりするけど、
正直なところ、
デザイン科に、はいったものの
いったい、何をすればいいのかというか、
何かをやりはじめても、
なかなか、つづかないんですよ。

絵を描いてみても、
ぜんぜん、よくなかった。
高校までは、自由奔放に描いていたんです。
技術なんてまるでないのに、
美術部とかで、勝手にデッサンをしていて。

ところが、
大学にはいると、なんかこう、
「うまく描こう」
という意識が高まってしまって、
ある意味、
自由でなくなってしまうというか、
「うまく描こう」
「きれいに見せよう」
なんていう意識が
邪魔していたんですね。

そんなこと
考えなくてもいいのにね。
アカデミックな訓練のこわさは
そういうところで
今、ふりかえると、絵が描けなくなったのは
はっきり、大学のころだなぁとわかるんです。

デザインの意識は高まっていったんですけど、
悩んでしまうんです。
トライするけど、なんか、描けない。
描いてもつまんない。
描いていて、
うまく描こうとするから
つまんなくなるのが、わかるんですよね。
それも、
ぜんぶを
意図でやろうとしていたから、

なのかもしれません。

日常生活とデザインのかかわり

ほぼ日 卓さんの発言を読んだかたがたから、
「日常生活」と
「デザイン」のつながりについて
たくさんのおたよりをいただきました。

偶然、予想もしていない要素が
はいりこむことがおもしろいという
卓さんの考えにならい、
ここで、いただいた
たくさんのおたよりの一部を
匿名で紹介することにしますね。
それぞれのかたの「日常のデザイン」が
おたよりから、見えてくるような気がしましたので。

●私は会社をやめ、
 保育園で働きながら
 心理学の勉強をして
 大学院に行こうとしている
 29歳のものですが、
 中心的な生業として
 小学生の家庭教師をしています。
 何を必要とされて
 家庭教師を求めているのか、
 ある程度は
 ご家族と営業さんとが
 かたちにしてから
 私に仕事がまわるわけですが、
 はじまったらすべて委託されます。
 求められているのは
 成績アップではあるのですが、
 その過程として、
 生徒との共感や
 勉強にたいする姿勢を見つめて
 分析すること、
 ほめるべきところと叱るところの
 使いわけ、ひいては
 ご家族がどのように支援しているか?
 子供と親子の関係はどうなっている?
 ……といったところまで、
 結局はよく見て話しあい、
 ベストな方法を探らなければ、
 勉強の成績はあがりません。
 こどもごとに、ひとりひとり、
 まったくちがうし、
 ご家族のかたちもたくさんあって、
 勉強になることばかりです。
 こどもの心に触れながら
 毎日、たのしく過ごしています。
 会社を辞めて
 アルバイトのつもりで
 はじめた仕事ではあるのですが、
 いざ請け負うと、
 算数の問題ひとつを
 できるようにするために、
 習慣をつける、そのために、
 たのしく勉強をする必要がある、
 そのために親子関係のフォローをしたり、
 仲介役をしたり……です。
 かたちにはならないのですが、
 教える仕事も
 デザインに似ているかもしれない、
 と思いました。

●私は、絵が好きです。
 うまくもないですし、
 美大の学歴すらなしの状態で
 しかも子持ち、と時間の制限もある中で
 現在も、ほそぼそと
 デザインの仕事をさせていただいています。
 本当にラッキーだと思っています。
 佐藤卓さんの記事を読んでいると、
 昔、お世話になった
 店舗設計の社長のデザイン論を思いだします。
 現在の自分の仕事の姿勢を、
 もういちど、正されるような思いです。
 若いころに分かっていたつもりの内容が
 今、30代中頃になって
 理解できはじめてきたような気がします。
 あのきびしくてやさしかった社長に
 デザイン論を話してもらうようなつもりで
 紹介されていた本を買ってみました。

●私は佐藤卓さんと
 近い業種を仕事としています。
 そういうこともあって、
 今回の連載を
 とてもたのしみにしていました。
 佐藤さんはデザイナーとして
 一流のかたですが、そういうかたが
 「感性の言葉は使わないようにしている」
 という言葉をうかがい、
 あらためて感心してしまいました。
 自分は、仕事をしていて
 「わかってないなぁ」という感情を
 お客さんに対して抱いてしまう時があります。
 しかし、一方では、そういうとらえかたは
 「逃げ」なのかもしれないのですよね。
 とかく自己主張を強く言いはるほうが
 注目を集めるように思えてしまいそうですが、
 佐藤さんの考えは、ほんとうの意味の
 「強い自己主張」
 というのを見せられているように感じました。
 本当の意味で「強い」から、
 まず相手の声に耳を傾けられるんじゃないかと。

●日常のデザイン展、いってきました。
 展示室それぞれをじっくり見ました。
 おもしろかったです
 プロダクトデザインって
 こういうふうに組みたてられていくのかと
 新鮮な驚きがあり、そして
 想像していた以上に緻密な作業なのですね。
 それ以外にも
 佐藤さんの仕事にむきあう姿勢が
 強く感じられる説明もじっくり読みました。
 その中でひとつ、とても印象に残ったのが
 「企業の担当者が短期間で替わると
  デザインの中にこめられた
  その企業の歴史をよく知る人がいなくなる」
 「多くの人がガヤガヤやって、
  結果的に責任者がいない、
  というようなプロジェクトで
  できあがったものにロクなものはない」
 というような意味のことでした。
 なんだかそこに佐藤さんの仕事への
 覚悟とか勇気とかを感じました
 どんな仕事でも、
 (家事でも育児でも)
 覚悟や勇気は必要なはずですが
 だれもが常に自覚しているかといえば疑問です。
 このごろとくに「その覚悟はあるか」と、
 自問することが多かったので
 そう感じたのかもしれません。
 東京の美術館だと、どこも人が多くて
 こんなにじっくり考えながら
 見ることができなかったろうと思います。
 水戸の芸術館っていいなあ、と思います。
 私は茨城県民ですが、
 いつ行っても人が少ないんだもん。
 (いいのか、悪いのか……)
 だけど力のこもった展覧会が多いです。
 ワークショップもおもしろいんですよ。

●この連載を読んで、
 佐藤卓さんのことが
 すこしだけわかってきました。
 とてもおだやかに見えて、
 真剣でまっすぐで強くて、
 なんと言ったらいいのか、
 人間として信頼できる人だなと思うのです。
 デザインの話をされているのに、
 へんな感想で、申しわけないのですけど。
 この連載を読んでいると、
 スーパーに買いものに出かけても
 パッケージが、気になるんですよね。
 いつも何気なく見ていた商品たちが、
 一斉に「どう?」と
 こっちを向いてきたかんじです。
 お買いものが
 またたのしくなってしまいました。
 こまっちゃいます。うふふ。
 このあいだは、レジで並んでいて、
 前の人がカードのお支払いで
 時間がかかって待たされたのですが、
 ちょうどレジ前に
 キシリトールガムがありまして、
 たのしく待つことができたんですよ。


たくさんのおたより、
どうもありがとうございました!
このおたよりをもとに、
また、卓さんに、つづきの話を
うかがうことがあるかもしれません。
   
佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
3か月間、おこなわれつづけています。

みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

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第1回 デザインとは、どういうものか? 2006-10-20-FRI
第2回 デザインのプレゼンテーション 2006-10-23-MON
第3回 十年間、持つデザインとは? 2006-10-27-FRI
第4回 デザイナーのやるべきことは? 2006-10-30-MON
第5回 反応の波紋が、デザインを開く 2006-11-03-FRI
第6回 個性は、考えなくてもいい? 2006-11-06-MON
第7回 仕事のリセットはどうするの? 2006-11-10-FRI
第8回 デザイナーが思う「いい会社」とは? 2006-11-13-MON
第9回 デザインは、企業の財産になる 2006-11-17-FRI
第10回 食べものが、体をデザインする 2006-11-20-MON
第11回 王道のデザイン、挑戦のデザイン 2006-11-24-FRI
第12回 生きのこった商品が教えてくれるもの 2006-11-27-MON
第13回 歴史は要るけど、常識は要らない 2006-12-01-FRI
第14回 個性をおさえるというデザイン 2006-12-04-MON
第15回 リニューアルとは、どういうものか? 2006-12-08-FRI
第16回 デザインは「他力」がつくるもの 2006-12-11-MON
第17回 デザインと商品開発の関係とは? 2006-12-15-FRI
第18回 商品の食感もデザインである 2006-12-18-MON



「クジラは潮を吹いていた。」 佐藤卓さんの最新刊が発売中

"T-1 World Cup" などでおなじみ
デザイナーの佐藤卓さんの『クジラは潮を吹いていた。』
(定価2520円/トランスアート)
という新刊が、好評発売中です。

「デザインは、付加価値をつけるのでなく、
 価値を伝えるということです」

「おいしそうなものを作ることは、
 おいしかった記憶をひきだすことなのです」

「演出の感じられないものに
 惹かれる気持ちはどこからくるのでしょうか」

などという内容の卓さんの初期の仕事からの
20数年のつまったデザイン論を、
352ページ、たっぷり読めますよ。

簡単にすすむ仕事はなくて、何度も何度も意見をかわしながら進む、
と述べている仕事論にもなっています!


2006-12-22-FRI

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