第12回 生きのこった商品が教えてくれるもの
ほぼ日 長いあいだ
生きのこるデザインについて
具体的に教えていただけますか?

マネできないデザインとは、なんだろう

佐藤 「刷りこみ」と
よく言われますが、
たしかに、
刷りこまれたものは、
なかなか変わらないと思うんです。

はじめのまっさらなときに
ギュッと刷りこまれたものは、
いちばん奥まで
印象が刷りこまれてしまうから、
洗っても、なかなかとれません。

たとえば、ぼくの最近の仕事では、
「明治 いちごミルク」
「明治 やわらかラテ」などが、
コンビニエンスストアのなかに、
あたらしく参入していったものです。
(どちらも、2006年9月に新発売)

当然、
これらの商品には
競合他社があるわけです。
コンビニエンスストアのなかには、
すでに、かなり強い
チカラを持ったブランドが、
ならんでいるわけです。
後発で店舗に出た商品は、
コンビニの棚に
のこりつづけなければ
いけないのですが、
実際には、それこそが、
とてもたいへんなことなのです。


だから、
コンビニエンスストアに寄ったときに
ぼくの手がけた商品を、見かけたら、
「あ、まだ、棚にあるんだなぁ」
「元気でちゃんとやってるなぁ」と
あたたかい目でごらんいただきたいんです。

いま、パッと
コンビニの棚をながめたのですが、
「ボンタンアメ」のパッケージは
ほんとにすばらしいな、と思います。
生きのこりつづけているデザイン。
ぼくがちいさいころから、
ずうっと、あのまんまですからね。

これは
グラフィックデザイナーなんかが、
リニューアルとかしないほうがいいです。
余計なことは、しないほうがいい……。

デザイナーのかたが、もしも
リニューアルを依頼されたとしたら、
「これは
 このままがいいのではないでしょうか」
と、言うほうがいいと思います。

いま、あらためてボンタンアメを見ると、
微妙で、ヘタにも見えるかのようですが、
それが、また……なんとも、いいんです。
「アメ」の「ア」の字が、
ほとんど、「カ」に近いと言いますか。
ボンタンアメの
強力なブランド力によって、
誰の目にも「ア」と読めてしまうのも、
すばらしいデザインじゃないでしょうか。

文字の詰めかたも、
微妙に離れたところがあったり、
文字本体も、太すぎず、細すぎず、
なんともいえない、
ややだらしのないフォントです。
こういう
だらしのない長所、
だらしのない気持ちよさは、
やっぱり、ありますよね。
ゆるい気持ちのよさが、
このフォントにも
出ている気がします。
印刷も、あんまりよくすると
違和感があるから、
なんとも言えない、
強引に切り抜いたような
ボンタンアメの写真の感じも
いまやもう財産というか……


食べると、
あいかわらず歯にくっつきます。
改善なんて、ぜんぜんしていない。
それこそが、デザインなんですよね。
クチャクチャしたこの感触も
お菓子のデザインで、これがあるから
やめられないものになっているわけです。

きれいにしすぎるというのも、
いかがなものか、と、
こういう商品から
ぼくは学んだりするわけです。
デザインでやるべきものは
そのつど
変化するのではないでしょうか。
なにもかも、
きれいで、かっこよくて、
バランスがよければ
それでいいのかというと、
決して、そうではない……

そんなことを、
生きのこったボンタンアメは、
教えてくれているような気がします。

ボンタンアメは、
なにしろ、いまさら、マネができません。
セイカ食品株式会社という、
いわゆる大手ではない会社が
出しつづけているというのもすばらしい。

大手の会社たちが、
もしかしたら、マネして
似たような商品を
出したのかもしれないけど、あまり
売れなかったのではないでしょうか?

こんなにも定番として
売れのこりつづけているものに、
大手が
まるでなにも挑戦しないはずがない、
と想像するんです。
消費者の嗜好が向かう可能性があるなら、
いちおう、商品化をするのが大手ですので。

ただ、それでも、今、似ている商品が
世の中にまるでのこっていないという事実は、
「他社にはできなかった証拠」になるんです。

やはりそれだけ、
ボンタンアメというのは
はじめの早い段階で
画期的なものとして
流通して定着したのかもしれませんね。
ただし、海外で「日本のデザイン」が
はなばなしく紹介されるときには、
日本国内で長く生きのこりつづけた
こういうデザインは、
あんまり登場してこないんです……
「それは、なぜなんだろう?」
とは、よく思うのですけど。

いまの時代には不可能なデザイン

佐藤 黄色い箱の、
森永ミルクキャラメルも、すばらしいです。
よくぞ、このデザインを
のこしているなと思いますし、
ここまで、のこってしまうと、
もう、変えようがないですね。

これも、ぼくがものごころついたころには
もう、世の中にあったわけで、
この箱はキャラメルの代名詞というか……
「日本のキャラメルのアイコン」
のように思い浮かべるものではないですか。

表面に、天然の極細のロゴ。
いまなら
確実に作られないロゴですよね。
なぜ、
これでよかったのかが
不思議なぐらいのロゴが、
のこりつづけると
味わい深いものになる……

新製品で、これだけの
極細のロゴというのは、
いまの時代には不可能です。
「わからない」
「見えない」
「目立たない」
商品会議で、いろいろと
言われてしまいますからね。

ロゴをながめると、
当然のことながら、
「手で作っている文字だ」
ということもよくわかります。

いまは、なんでもかんでも、
簡単にフォントを使って
デザインをしますけど、
森永ミルクキャラメルは、確実に
手で書いて作られているロゴでしょう。
「ャ」の字なんて、
右下にかたむいちゃっている。
それもまた味がある……これからも
ぜひ、のこりつづけてほしいなと思います。

ただし、外側がほとんどおなじなのに、
内側が、ちょっと
あたらしくなっているのには驚きました。
たぶん、ちゃんと理由があって
製品をよりよく保持するために、
いまのかたちになっているんだろうけど、
内側が、あたらしくなっているというのは、
外側を、確信犯でのこしている証拠ですから、
やっぱり、すばらしいと思います。

森永ハイソフトも、昔からありますよね。
トリコロール(フランスの国旗の三色)が
何十年という単位で生きのこっています。
前にも、もうしあげましたけど、
ほとんどおおきな変更もないままで
のこるというのは、ほんとにすごいんです。
デザインは、あたらしくするのは簡単です。
ただ、そういうなかでこそ、
どこまで過去のデザインをのこせるのかが
とても重要になっていると思うんですけど。

これらの
生きのこったデザインというのは、
「デザインを財産として考えているいい例」
だと思います。

そもそも、
森永ミルクキャラメルと
森永ハイソフトは、
どちらもキャラメルですもんね。
おなじ種類の商品で、どちらも
ちゃんと定番としてのこっている……
だからたぶん、後発のハイソフトが、
定番のミルクキャラメルに対して
「あたらしい提案ができないだろうか」と
挑戦したのではないでしょうか。

だから
キャラメルのかたちもパッケージもちがう。
クラシカルなデザインに対して、
モダンなデザインでチャレンジしています。

明らかに、
差別化をはかっているとわかるし、
ふつうは、
そういうあたらしい提案の商品は、
なかなか、のこりにくいものなんだけど、
こうして、どちらものこっている……
これは、ふたつあわせてながめても
すごい商品なんだと思います。
当然、すこし味がちがいますし。


(次回に、つづきます)
  佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
10月21日に開催されはじめました。
これから3か月間、おこなわれてゆきます。

この3か月のあいだに、
みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-11-27-MON

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