第18回 商品の食感もデザインである
ほぼ日 水戸で、
ふたつのおみやげの商品を
企画開発からはじめて
デザインすることには、
どんな新鮮さがありましたか?

川上から、仕事にたずさわるということ

佐藤 決定権を持ったかたと、
直接やりとりができる、

というのは、
おおきな会社との仕事では
あんまりないことです。

あたらしい提案をしたならば、
いろいろな部署に
判断をあおがなければならない。
それが一般的な企業との仕事では
ふつうにおこなわれていることです。

営業部隊にも、広告部隊にも、
そのほかのさまざまな部署にも、
それぞれの意見がありますし、
大企業の組織のなかでは
それぞれの
部署の意見が一致している、
ということが
なかなかありません。

つまり、ひとつのデザインの案が、
簡単にとおるということは
あまりないわけです。

今回、水戸の地域に根ざした
ふたつの会社のかたがたと
仕事をさせていただいたのは、
とてもいいスケールだなと思いました。

こちらの考えが、
それぞれの社長のかたがたに
すべて、直に、伝えられますし、
製作現場にも、
ストレートに
要望を伝えられますし、
商品開発やデザインに関わる
すべての過程が、
クリアな状態で進むんですね。

これは、
仕事がムダなくすすんでいきます。

気持ちのいい過程という意味では、
味の設計をどうすればいいのか、
おいしいのか、おいしくないのか、
おいしくないのなら、
どうすればいいのだろうか、
といった、むずかしい局面を
すべてたのしめたんですね。
「どうもおいしくないなぁ。
 だから、今まで、
 こういう商品は
 定着していなかったのか」
なんて気づいても、
チョコをホワイトチョコに変えたり、
クランチを入れてみたり、
しかも、クランチを入れたことは、
偶然、工場長のまちがいで生まれた
可能性だったり……
おもしろいやりとりのなかで
味の可能性が広がっていきました。
こういうふうに
苦しい局面を
たのしめるというのは、
これは、他の仕事では
あまりないことです。


むずかしい局面でも、
ミーティングはいつも笑顔で進む、
ということは、とても新鮮でした。

世の中の商品というのは、
多くの人が、関われば関わるほど、
複雑に複雑になっていくわけですけど、
今回の仕事は、
いい意味で、シンプルに、簡単に
関わる人たちとのコミュニケーションを
進めていくことができるのですね。

これは、
おおきなメーカーとの仕事では
できないことですし、逆に
こうしたシンプルな仕事のやりかたを
大企業が、もういちど
見なおすことに
つながればいいのかもしれない、
とも思いました。
ただ、見なおすことにつながるには
どうやって、この商品が生きのこるのかとも
関係するわけですから、
できるだけ、長く生きのこる商品に
なってほしいなと思っているんです。

もちろん、
最初の最初から
商品開発に関わることはできません。
「チョコ」と「納豆」という組みあわせも、
「ほしいも」というものはすでにありますし、
すべてを、初の段階で
発明することは不可能ですけれども、
それでも、かなり川上のほうから
ここでは仕事をさせていただけたのですね。

デザインは、商品の基本設計である

佐藤 ニッカウヰスキーで
自主プレゼンをした
ピュアモルトの仕事……
中味も、値段も、パッケージも、
すべてかかわったというものが、
ぼくの、はじめての自分の仕事と
呼べるものです。

かたちや色をつけるだけではなくて、
かなり川上の段階から、
開発の段階から商品に関わる、
そのことで、すでにあるよさを
お客さんにとどけることができて、
よろこんでいただけたという体験を
はじめにできました。
ですから、できるだけ、
ものづくりには、
はじめに近い段階から
関わっていきたいという思いがあります。

もちろん、世の中には
いろいろな条件がありますので、
常に、川上から
やらせていただけなければ
仕事をしない
というわけではありません。
そのつどの状況にあわせて
仕事は、いたしますけれども、

でも、できれば、
川上のほうから仕事ができると、
じつは、結果的にそのほうが
ムダがないということを、
ぼくは、はじめのピュアモルトの仕事で
体験してしまったんです。

「こうなれば理想的だよなぁ」
という仕事のやりかたを、今回、
展覧会の特別企画というかたちで
やらせていただけて、とても光栄ですし、
いい機会をいただいたと思っています。
ですから、これから
おみやげを販売する店頭で
どんなふうに見られるのか、
どんな反応を世の中からいただくのかの
様子を見ながら、
展開していくことになります。

店頭におかれる商品は、つねに
「どう見られるのか」が重要になります。
もともと、
想定している見られかたもあるのですが、
想定外の見られかたも、出てきますし、
ぼくの知らない店頭の様子が、おそらく、
水戸の地元にはあるんだと思うんですね。

ですから、
できるだけ水戸に見にいって、
店頭の展示のしかたもふくめて
商品に関わることが
できればいいなと思っています。

ふたつの商品は
「おみやげプロジェクト」
として、今回の展覧会で展示してあります。
今回のために
特別に展示をしてありまして、
長さ5メートルほどの展示の片面ずつで
ふたつの商品の製作過程を、
順を追って、見せて、解説をしています。
「この段階では、こんな検討をした」
と、そのつどの製作物も公開しています。

展示のためのデザインというのも、
「日常のデザイン」
で、お見せできる
デザインのうちのひとつです。
デザインの展覧会と名づけたからには、
すべてのものが
デザインになっていますから、
今回のために
オリジナルで製作をした展示物もふくめて、
ぜひ、展覧会場で見ていただきたいな、
と思っています。

最終的にできあがった商品は、
感触や味ということに関して、
それなりに追求した結果のものなので、
もちろん、味わっていただきたいですね。

今回の「日常のデザイン」の
展示のなかには
「デザインの解剖」
というプロジェクトを解説した
部屋が、4つあります。

ふだん、身のまわりにある商品が
どんなふうにできているのか、
デザインをされていくのかということを
外側から内側に向けて
解剖していくプロジェクトなのですが、
身のまわりの商品を解剖していくと、
これまで、デザインとは
言われていなかったものが
デザインなんじゃないか、
ということに、
どんどん気づかされました。


たとえば、ガムなら、
感触をつくっているかたがたが
ロッテの研究所に、いらっしゃいます。
素材のあわせぐあいで
どのぐらいやわらなくなるか、
どの時点で、いったん、かたくなるか、
というようなかみごたえを
グラフにして
研究しているかたがいるのです。
つまり、
かみごたえというのも、
ひとつのデザインなんです。
設計ができて、
調整ができるのですから。


今回のふたつのおみやげの商品にしても
クチのなかでどう溶けるのかというのは、
じつは、誤差を調整したり
設計していたりするものなので、
デザインのうちのひとつなのです。
「チョコ納豆には、
 スパイスを混ぜたほうが
 いいのではないだろうか」
「チョコ★(ほし)いもには、
 甘さをひきたたせるための塩を
 しかも、弱めの塩をいれたほうが
 いいのではないだろうか」
こんなふうに、話しあいをつづけました。

もちろん、設計を超えて人が感じることは
ものすごく多いのですが、
ただ、商品の基本設計というのは
人が計画しているものなのですし、
そのさまざまな角度の設計こそが
デザインではないか、
と思うことがよくあります。ですので、
このように商品開発をさせていただいたのは
とても貴重な体験でした。

(次回に、つづきます)
  佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
3か月間、おこなわれつづけています。

みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-12-18-MON

前へ 次へ

もどる