- 阿川
- 時事問題を話すつもりはないんですけど、
ちょっとだけね。
12月の選挙で自民党が圧勝しましたよね。
それで自民党は
「多くの国民の信頼を受けた」とか言ってるけど、
私は自民党が嫌いなわけじゃないけど、
「図に乗らないほうがいいんじゃないの」
って気持ちがあるんです。
- 糸井
- ん?
- 阿川
- なぜ国民が自民党に票を入れたかを考えると、
「だってほかにいないもん」とか
「まあ、しょうがないじゃん」
という意見が大多数だと思うんですよ。
ここ何年もの間、
やたらに統計と数値とアンケート調査ばかりとって
景気がいいとか悪いとか、
幸せだと思っているとか思っていないとか、
国民の気持ちを代弁しているかのように発表されるけど、
私、それはダメだろうと思うんです。 - 糸井
- そうですね。
あえて専門的な言葉を使えば、
定量的ではなく、
定性的な調査をしないとダメですね。 - 阿川
- アンケートの内容も、
「好きですか、嫌いですか?」という感じで、
「まあねえ」と答えた人のことは
「あ、この人は賛成ね」みたいな判断に
なったりするでしょう?
いや、そういうことを
言いたいんじゃないんだけどな、って。
アンケートの数だけで、
メディアが非常に簡単にまとめすぎているような‥‥。
世の中の物の判断の仕方が、
すべてデジタル化のようになって
いろんなものをサボりはじめている気がします。 - 糸井
- 実は心の話なんですよね。
- 阿川
- はい。
- 糸井
- グレーゾーンの中で、
どちらかわかんないけど、
いずれ時が決めていくんだろうな
というものだらけですよね。 - 阿川
- そうですね。
人間関係でも同じで、
人にはあらゆる感情があって、
美しくやさしい感情もあれば
「あいつは許せねえ」と思うような
負の感情も内在させているから、
ほどよくバランスが取れて
人間は成長していくと思うんです。
なのにいまは、
「あいつ許せねえから、足を引っかけてやろうか」
みたいな感情自体を
「人間として抱いてはいけない感情」として
封じ込めようとしているでしょう。
- 糸井
- そういう感情を結局、フィクションに
渡しちゃったんですよ。
全部を「小説で書けば?」に
なっちゃったんです。
本当は、小説じゃないところで
普通に語れないとダメですね。
自分の中にある薄暗いものも全部。 - 阿川
- そう。薄暗かったり、ずるかったり、悪だったり。
その封じ込められていたうっぷんを
ツイッターやインターネットの掲示板のような
匿名の空間で爆発させている気もするし。 - 糸井
- ものすごくわかります。
たとえば高倉健さんも、
健さんはただ「善人」であるだけではなかった。
亡くなってみんながすごく寂しかったのは、
「すばらしい人だったから」じゃなくて、
すっごくチャーミングだったから、なんですよね。 - 阿川
- たしかにカッコよくて、
亡くなったときは、まるで、
真の知的冒険者みたいに扱われていましたけれども‥‥。 - 糸井
- そこまで含めて彼は
自分という作品を作りあげた人で、
それはやっぱりすごいなあと思います。 - 阿川
- 勝新太郎さんともタイプが違いますね。
- 糸井
- 勝さんはまた違う。
勝さんの場合は、さっきの話で言うと、
サルが水バチャバチャと‥‥(笑)。
- 阿川
- はい、ボスとしての能力が。
- 糸井
- うちの奥さんが
勝さんと共演したことがあるんですけど、
本当におもしろそうに語るんです。 - 阿川
- 私も、はじめて勝さんに
インタビューにうかがったときのことが
すごく印象に残っています。
楽屋に招かれて挨拶に行ったら、
勝さんは、鏡に向かって浴衣着て
お化粧しているところでした。
「おお、阿川さん、阿川さんの席はどこ?
え、Cの21? 今日はそこを見て芝居をしよう」
なんておっしゃるわけです。
対談はお芝居のあとなので、
「じゃ、のちほど」と言って
おいとましようとすると、
「まあ、もう少しゆっくりいればいいじゃねえか、
おい! 玉緒!ビールをお出ししなさい!」って
お化粧をしながら雑談をなさるんです。
かと思うと、おもむろに立ち上がって、
「いや、今日はよく来てくれた」
なんて言いながら勢いよく浴衣を脱いで、
パンツ一丁になっちゃったの。
ギャッとびっくりして、思わず顔をそらしたら
そこに鏡があって、全部見えちゃった。
あ、これがアレを隠したパンツか、ってね。
もうね、わざと見せてるとしか
思えませんでしたよ(笑)。 - 糸井
- うん。いいですねえ。
ダイナミックに
木を揺らしてるんです。 - 阿川
- バッサバッサとね(笑)。
それで、お芝居が終わってから
対談のために楽屋に行ったら
ビール飲みながらスタッフを怒鳴りまくって
反省会をしていらっしゃるんですよ。
え、9時から対談なのに、
もう10時だぞ‥‥みたいな心境。
ワーッて散々怒るだけ怒って、
それから「待たせたな」とおっしゃって、
近くのホテルで対談をするために
車で移動することになったんですけど、
「俺が運転する。阿川さん、助手席に乗りなさい」
「え? さっきちょっと飲んでませんでした?」って(笑)。
時効ですけど。 - 糸井
- 嫌だ(笑)。
- 阿川
- 怖いよぉ~と思いながらニコニコと(笑)。
それでホテルの和食屋さんに着いて‥‥
すみませんね、こんな話。 - 糸井
- いや、おもしろいです。
- 阿川
- 対談がはじまってからも私の質問にはあまり答えず、
自分の話を延々なさるんです。
今日のこの台詞がダメだったとか、
芸話をずーっと‥‥。
それはそれで、ものすごくおもしろいんですけどね。
で聞いていたら、たまたま同席していたご子息が
ビールの瓶をひっくり返して
ガチャンと音をさせてしまった。そのとたん、
「なにやってんだー! 帰れ、おまえー!」
って勝さんが怒鳴りはじめたの。
私も帰りたいと思いました(笑)。
もうこの対談、どこに向かうんだろう‥‥って
こっちは泣きそうな気分。
でも勝さんは
「ふざけんなばかやろー」って怒鳴りながら、
すぐにパッと私を振り返って、
にっこりと低い声で「すまなかったな」って(笑)。 - 糸井
- やっぱり、ダイナミック(笑)。
- 阿川
- なにがなんだかわかんないですよ。
最後に記念写真を撮るときにも、
「じゃ、これがいいか」って、
私の背中からこうやって
マウンティングなさるんですよ。 - 糸井
- まさに、さっきのおサルだ(笑)。
- 阿川
- 担当者はおもしろがってたけど、
私はその日ずーっと目が点状態です。 - 糸井
- 勝さんが、少しお若いときの話ですよね?
- 阿川
- でも勝さん、その1年後に亡くなったんです。
「風邪が治んなくて、声がイガイガするんだよ」と
当時おっしゃっていたのが、いま思えば‥‥。 - 糸井
- じゃ、思い切り暴れたい時期だったんですね。
- 阿川
- どうなんでしょう。
まあでも、私がオタオタするのを見て
たのしんでらしたのかしらと。
いま思えば、貴重な場面に立ち会えたなぁと思いますね。 - 糸井
- 勝さんの話は、失敗も含めて、
ものすごく豊かです。 - 阿川
- だって捕まろうがなにしようが、
「よっしゃ」って感じじゃないですか。
- 糸井
- うん。だから、転覆しても、
「一緒に転覆したなあ」と言えるわけです。
多分、岡本太郎さんとかもそうだったんでしょうね。 - 阿川
- ああ、そうなんですか。
- 糸井
- 太郎さんが丸太に乗っかって
滑ってくるお祭りに参加して、
スタッフの人が
「死んでしまいます」と止めても止めても
乗ろうとしたという逸話があります。
怪我したら、それはそれでお手柄ということになるし、
いいんですよね。 - 阿川
- 怪我しても失敗しても
お手柄、あっぱれと言われる人が
いまは少なくなりましたよね。 - 糸井
- ええ。かつては
リスキーな人生を送った方たちという
シリーズのようなものがありましたし。 - 阿川
- いまの若い人たちはわかんないけど、
日本の男の人は任侠ものが好きですよね。
だって政治だってほとんど‥‥ - 糸井
- そう。結局、マウンティングして
水バシャバシャする人が
みんな好きなんです(笑)。
あれ、こういう結論で終わるわけにはいかないなぁ。 - 阿川
- (笑)
- 糸井
- 今日は特にテーマを決めずに
話してきましたけど、
グレーゾーンをこんなにしゃべれたというのは、
とってもおもしろいです。
男女の話もそうですけど、
みんな簡単に縦軸と横軸で処理しすぎだと思う。
もっとボヨボヨにしていたほうがおもしろい。
よくわからない、もやもやとした
「そこ、名付けられてない場所だよね」
みたいなものがいっぱいあるし、
そのことについて、いつか誰かと
しゃべってみたいなと思ったことがあったんです。
それがまさか今日になるとは思ってませんでしたが、
おもしろかったです。 - 阿川
- こちらこそ。
ボヨボヨだらけでスンマセン。
ありがとうございました。
(おわります)