- 阿川
- 男同士の友情のなかで、
糸井さんのほうから不快になったり、
昔はすごく気が合ってたはずなのに、
もう全然合わないなと思うことはないんですか?
- 糸井
- ないかもしれない。
- 阿川
- ないのかぁ~。
- 糸井
- うん。だいたい最初から嫌ですね、
嫌だと思う人は。 - 阿川
- それは、見る目があるってことですよね。
- 糸井
- うーん、女性に対してはわかんないですけど、
男性同士だったら、
嫌だと思ってた人はやっぱり嫌です。
でも、こっち側の態度次第かもしれませんね。
こちらが嫌だと思う人からすれば、
むこうもきっと嫌でしょうし。
あと、嫌とまでは言わないけど、
付き合わないかも、という人もいます。
世界が違うというか。 - 阿川
- あ、なるほど、
「このジャンルは違う」みたいな。 - 糸井
- そうですね。
- 阿川
- 私の場合、
「このジャンルのわりにはいい人だな」
なんて思っちゃったりして、
あとで「やっぱり違った」ってなる。
私、本当にダメなんですよ。
ある意味、八方美人というか、
ワガママだし好き嫌いも激しいんですけど、
人と出会って話していると
「このタイプ、好きじゃないけどおもしろいな」
と思うことがすごく多くて。
いろんなタイプの人と会って仲良くなるんですけど、
しばらくすると、
「どこが好きだったんだろう」と。
そういうことが人生のなかで何回かあります。 - 糸井
- 何回か。
- 阿川
- はい。
逆のケースで、
学生時代にちっとも
仲良くなれそうにないと思っていた人が、
社会に出てから
「ああ、この人こんなに魅力的な人だったんだ」
と思うこともあります。
だから男同士の友情の話でよく聞く、
お互いにタイプが違うけれど仲良くなって、
若いときにすでに
「俺は決心した、60になってもこいつとは別れない」
と思えるような関係って、カッコいいなぁと。
- 糸井
- たぶん、動物っぽいんですよ。
たとえば僕には矢沢永吉という友人がいますが、
永ちゃんとの関係でいうと、
僕はずいぶん前に、子分でいようと決めたんです。
もし永ちゃんになにかを相談されて
僕が偉そうに答えたことがあっても、
それでも僕はずっと子分なんです。 - 阿川
- 口の利き方が
「はい、ご主人様」じゃなくても。 - 糸井
- そう。普通にしゃべってても、
心の中に大きいのと
ちっちゃいのみたいな違いがあるんです。
「たとえば僕が柴犬の大きさだとすると‥‥」みたいな。 - 阿川
- それはどうしてそうなるんでしょう?
- 糸井
- 動物として。
- 阿川
- 動物として?(笑)
- 糸井
- たとえば‥‥
先日、永ちゃんのステージを観たあとで、
チンパンジーのドキュメンタリー番組を観たんですが、
チンパンジーの群れには、
ボスのそばにいる女とか、
ボスにごまをする長老とか、
いろいろなキャラクターがいるでしょう。 - 阿川
- ああ、はいはい。
- 糸井
- で、ボス争いがあって、
ボスにごまをすりながら
ボスの座を狙うチンパンジーがいて、
それをメスが横から見てて、
「あいつはよくないよ」と言ってるみたいな、
シーンがあるんです。
だけど、ボス争いといっても、
殴り合いで勝ったり負けたりするわけではない。
餌をいっぱい取ってくるかどうかで
決めるわけでもないし、
クイズで一番正解した人でもない(笑)。
じゃあどうやってボスが決まるかといったら、
「俺はボスに立候補するぜ」というやつが
急に暴れだすんです。
ワーッて騒いだり、木にバーンと乗ったり、
ゆさゆさしたり。
- 阿川
- なにかのプレゼンテーションなんですかね。
- 糸井
- そうそう、プレゼンテーション。
とにかくうるさくするわけ。
ゆさゆさして蹴って次の木に行って、
また抱き着いてゆさゆさして、
森で十分にうるさくしたら
そのまま川辺に出てって、
今度は石を川に投げる。
で、バーッと水を叩いて
またパシャパシャやって、
それで、落ち着くと、
みんなが「おお」って認めているんです(笑)。 - 阿川
- 「おお、あの方こそ、ボスだ!」って。
- 糸井
- 今度は、みんながそいつについて行くんです。
で、ゾロゾロ連れて前のボスのところに行って、
「ここに座るか、よっこいしょ」ってやると、
直前まで女の子にブドウを食べさせてもらっていた
元ボスが、その場をどくんです。
つまり、完全にパフォーマンスで勝ち取るんです。
もう、うれしくなっちゃうくらい、
人間と同じじゃないですか。
で、永ちゃんのステージを観ていて、
永ちゃんがマイク振り回して歌って、
こっちからあっちへ行って叫んで‥‥というのは、
65になってもみんなにボスだっていうことを
示したいんだなと(笑)。 - 阿川
- それか!
- 糸井
-
武道館でみんなを熱狂させるような人たちが
木をゆさゆさじゃないけど
子分を従えてバーンとやってる、
あの苦労は計り知れないなと思います。で、チンパンジーの
ボス争いには余談があって、
追われたボスがどうなったかって
興味あるでしょう?
これがですね、
そのサル山が見える別の山で暮らしてるんです。 - 阿川
- ボスとして?
- 糸井
- ボスとして。
元ボスにも1~2匹は子分がついて来てるんで、
そいつと一緒にむこうから、
こっち側がどうなってるかを偵察してるわけ。 - 阿川
- ‥‥すごい。政治家にもいますね、そういう人。
- 糸井
- (笑)
次の台頭してくる勢力があったときに、
そこで俺があいだに入って‥‥
みたいなことを考える。 - 阿川
- 復権のチャンスをうかがってるんだ。
- 糸井
- そのドキュメンタリー番組を観てから
人生観がはっきりした気がします。
「これかあ!」 - 阿川
- 「俺たちのやってることは!」って(笑)?